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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十二章 王城

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男子部屋

 迎賓館の四人部屋で、冒険者三人が笑っている。


「ないない。絶対にない」

 ベルーフが分厚い手を振りながら、もう片方の手で目尻に浮かんだ涙を拭った。


「あいつはキラキラした王子様タイプが好きなんだ。俺たちなんかお呼びじゃないってさ」

 犬系獣人のダルグは「やれやれ」といったふうに、手のひらを上に向けた。


「ちょっと酒を飲みながら話そうか」

 魔法使いのオルドが、荷物から酒の瓶を出してきた。


「飲んでいいんですかね?」

 こんなきれいな部屋では、お行儀よく過ごさないといけない気がする。


「お前が面白い話をぶっ込んできたんだろうが。

 まあ、お疲れさまってことでささやかな宴をしてもいいだろ」

 ダルグが水差しの横にあるコップを四つ持ってきた。


「いきなり王城に拉致されなかったら、領主の屋敷で宴会だったはずだ」

 ベルーフは不満げだ。

「拉致」と大げさに言っているが、緊張して旅の疲れを取るどころではないのは確かだ。


「俺たちがメルティナの好みじゃないってのもあるが、俺たちも手を出そうとは思わない。付き合いが長すぎて、もう家族みたいなもんだ」

 ダルグはそう言いながら、みんなにコップを手渡していく。


「あいつは理想というか『こうすべき』ってのが多いからな。

 している最中に、『それは違う』と指導されて萎えそうだ」

 ベルーフが「おお怖」とふざけて、股間を手で押さえるふりをした。


「ああ、キッチリしていないと気がすまないタイプだな」

 ダルグが酒に口をつけた。

「私は生身の女より、魔法の探求を進めたいね。

 魔導具の機嫌が悪いなら徹底的に付き合うが、女の機嫌を取ってまで付き合いたいとは思わん」


「オルド、お前は枯れているだけだろう。がははは」


「失敬な。恋愛やモテることを人生の目標に掲げていないだけだ。

 メルティナも私を見習って、他人を当てにしないようにすれば気楽に生きられるものを……振り回されて不憫なことだ」

 オルドは鼻を近付けて酒の香りを嗅いだ。薬草を漬けた酒で、疲労回復にいいという。


「あいつもなぁ、面倒見はいいんだけど押しつけがましいんだ。小言ばっかりで、お袋かって」

 ベルーフが苦笑いする。


「お前、気軽に手を出すなよ?

 エルフは森に籠もっているから、価値観も骨董品並みだ。手を出したら、即結婚とか言われるぞ。結納品に大きな獣を仕留めてこいって言われたりしてな」

 ベルーフは俺に、忠告めいたことを言う。

 要は、責任を取る気がないなら手を出すなってことだろう。

 ……でも、この言い方じゃ、彼女を大切にしていることは伝わらないよな。逆に、嫌われる気がする。



「あいつは自分を『サバサバしている』って言っているが、デリカシーないだけだろ」


「え、あなたが言います?」

 ベルーフに思わず言い返してしまった。配慮に欠ける発言は、ベルーフの方が多いくらいだ。


「俺は和ませようとしゃべってやってるだけだろうが」


「それほど親しくないのに、プライベートに――しかも性的な部分に土足で入ってこられるの、俺は嫌ですよ」


「おお、今どきの若者だな。

 このじいさんは『一緒に連れションしたら親友』とか、そういう時代錯誤なお人だぞ」

 ダルグはそう言って、ベルーフの肩に手を置いた。

 ベルーフはその手をはたき落とす。


「はあ、そんな考え方があるんですか……。俺、そういう人とは親友になりたくないです」


「若いもんは潔癖だなぁ」

 オルドが非難するように言った。

 ええ~、この魔法使いもベルーフと同類なのか。


「ははは、言ってやれ。昔は当然だったことも、時代とともにマナーが変わってるって」


 ダルグが一番話が通じる。


「時代によってモラルが違うのはわかります。

 いいんじゃないですか。……俺はちょっと無理ですけどね」

 俺も、いつもより辛辣な言い方をしている。男だけの気安さかもしれない。


「ゴミを捨てるみたいにまとめるなって。

 そんで、お前はそこに近づかないから関係ないとか言うんだろう?」

 ベルーフが寂しがるように、目を潤ませる。


「当たり前じゃないですか。不愉快ですから。

 みなさん、そんなに不満を溜めていて、よくパーティーを組んでいられますね」

 若者をからかって遊んでいる――そんな気がしてきて、刺々しい発言になってしまった。


「いや、別にプライベートがどうであれ、仕事はできるだろ」

 ダルグは飄々としている。


「俺たちは護衛任務が多いしな。

 女っぽくないから依頼主と恋愛で揉めることもないし、女性と交渉するのは俺たちよりスムーズだ。

 あいつも客相手なら、ずけずけ自分の意見を言わん」

 ベルーフが優しい目をした。


「そのあたりはわきまえているからな。

 女として見ていないだけで、いい仲間だと思っているぞ」

 オルドが「うん、うん」と一人でうなずいている。


「ああ、はっきり言ってくれるのは楽でいいな。

 言わずに『察してくれ』とばかりにじとーっと見つめられても、わからない。読心術を使えれば、何かが違ったのかもしれんが」

 ダルグが何かを後悔するように、言った。


「長くパーティーを組んでいられるのは、そういう距離感がいいんですかね」

 なんだかんだ、仲がいいようだ。


「かもな。お前さんたちは組んでどのくらいなんだ?」

 ダルグがこちらに話を向けた。


「――まだ一年くらいですね」

 いろいろなことがあったから、もう長く一緒にいるような気になっていた。

 濃密な時間で、絆もそれなりに育っている。


「ああ、そりゃ、これから一波乱も二波乱もあるな。それを乗り越えて、仲間になっていくんだ」

 ダルグが楽しそうに、不吉な予言をした――


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