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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十二章 王城

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グレタ婆さん

 グレタ婆さんは視線を落として、呟くように言った。

「『オークの島』ですか。もう、元の名前よりもそちらで通るようになったのですね」


 俺は横を向いて、グレタ婆さんの顔を見た。

 何があったのか、どこにある島なのか――知らないことだらけだ。


「我が生まれる前、祖父の時代の出来事だ。当時の資料は読んだが、どうしてオークが支配する島になったのか、理解できない。

 オークは他種族のメスを奪って繁殖するものであろう? 集落を作っても争って奪い合い、自滅するのが定説だ。当事者の口から経緯を聞いてみたい」


 国王に促されて、グレタ婆さんは話し始めた。


「始まりは『優しい』と評判の娘でした。

 傷ついた動物を保護して森に返しておりました。……その中にオークの子どもがいたのです。

 その優しく美しい娘は、貴族の目に留まりました。貴族が家を訪ねてきたときに、オークはその貴族を襲い、娘を守りました」

 グレタ婆さんの声は暗かった。


「その貴族は見目麗しい女性を見境なく襲う、評判の悪い男でした。大怪我をした後、後継者から外されて、屋敷の外に出てこなくなったと聞いています。

 娘はオークに攫われました。誰もが殺されたか、生殖に使われてすぐに死ぬだろうと考えていました。

 たまに起きる悲劇ですから、助けに行こうと有志が集まることもありませんでした。助けたところで、また貴族とトラブルになるかもしれないのです。

 彼女をちやほやしていた男たちは、彼女などいなかったかのように――蔑ろにしていた女性たちの元に戻っていきました」


 グレタ婆さんは、蔑ろにされた女性の一人だったのか、声にほんの少し苛立ちが混じった。


「村娘の家には、冒険者ギルドに依頼する金などありません」

 ひどい内容を淡々と語っていく。

 贅をこらした王宮と、人の死が軽く扱われる島での暮らし。その差が際立って、目眩がしそうだ。


「その後も、村から女性が攫われることはありましたが、とりたてて被害者が多くなることも少なくなることもなく……誰も気に留めずに生活を続けていました。

 犠牲者が自分の身近な人でないことを祈るしかありません」


 それは、俺が育った村でも同じだった。

 オークに攫われるわけではないが、モンスターに襲われる恐怖。誰かが犠牲になり、他の人は生き残れたことに安堵と後ろめたさを感じる。

 どうしてただ生きることが、こんなに困難なのだろう。



 グレタ婆さんは、一度大きく息を吐いた。

「数年後、生死不明だった娘がオークに抱きかかえられて現れました。

 美しくても労働で髪や手が荒れていた娘は、かしずかれて女王のようになっていました。

 彼女を殺さずに大事にすることで、オークたちは女性が何度も出産できることを初めて知ったのです」


 それは、悍ましい告白だった。

「壊さずに使う」ことで、安定して増やせる。

「現在」だけに生きていたモンスターが、「未来」への模索を始めたということだろうか。



「彼女の子どもたちは人の言葉を理解していました。思考力は幼児程度ですが、体力はモンスターのまま。彼女の言うことをよく聞く召使いのようでした。

 彼女は、自分が島の女王になると宣言したのです」


 グレタ婆さんは、話を切り上げた。

「私は、恋人と島から逃げ出しました」



 謁見の間は沈黙に支配された。

 俺は、物語のような話を受け止めきれなかった。その島が現在「オークの島」と呼ばれているということは、つまり……。


 王の後ろに立つおじさんが咳払いをした。

「ぬいぐるみは、その島の特産品でしたね。島の住人なら作ることはできるのでしょうか?」


「いい小遣い稼ぎになるので、作れる人はそれなりにいました」

 グレタ婆さんはもったいつけず、正直に答える。


「あの、レスタール王国の貴族もぬいぐるみを持っていましたよ」

 手を挙げて、追加情報を提供した。

「ええ。島から逃げ延びた人は、各地に散っているでしょう」

 グレタ婆さんがそう付け加える。


 それなら――ぬいぐるみはもっと早く流行していても、おかしくないよな。


「あ! レスタールは移民に市民権を与えないんだ。だから、どこかの貴族に囲われているとか?」

 御前だということを忘れて、推測を口にしてしまった。


 前列にいたエリオットが、振り返って俺を見た。

 あれ、なんかやっちまったのか?


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