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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十一章 王都へ

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四日目 領を越える

 午後の馬車では、早くしたり遅くしたり速度を変えることになった。四台の馬車全てに通信の魔法がかけてあるからできる、荒技だ。

 御者は馬車の扱いが上手い商業ギルドの職員と兵士が担当する。


 馬よりも早く走れる獣人たちがいる。その人たちが、順番に斥候に出て奇襲の気配を探った。

 後ろから追いかけてきた場合は魔道具を放り投げることになり、俺がその任務を任された。


 投げる前に、最後尾を守る味方の騎馬には俺たちの馬車より前に退避してもらう。

 敵が鎧を着ていたら、金属を溶かす魔道具。

 盗賊なら古い釘を詰めた爆弾。

 獣人でブーツを履いていないならトゲトゲの木の実(付与魔法で強化済み)。


 俺はどんな敵が来るのか、ワクワクしながら後方を見つめた。


 ――で、そういう時に限って、襲撃がない。

 怪しい動きは少しあったらしいが、斥候が姿を見せたら逃げ出したり、こちらの様子をうかがうだけで動かなかったりしたとのこと。


 不謹慎だが、正直、がっかりした。

 たとえば俺が攻撃用の魔道具を投げ、敵に命中。ばったばったと倒れる敵。苦し紛れに「卑怯者―!」と罵られる。

 ――そんな光景は実現しなかった。



 無事に、獣人の領を出る門に着いた。


 ところが、門番がいやにゆっくりと動き、難癖を付けてくる。しっかりと荷を改め、身体検査も全員やるというのだ。

 いざとなれば国王名義の書面を出すこともできるが、普通に考えてトゥルメル領主の馬車に対して失礼である。


「それは、こちらの領主が我が主を疑い、敵対する意思があるということか?」

 騎士のトゥランが堂々と問いかける。


「いえいえ、そんな大ごとにするつもりはないんですがね。俺たちは治安を守るための門番なんでさぁ」

 訓練された兵士とは思えない、どこか荒んだ雰囲気を漂わせた。もしかしたら、賄賂を渡せばすんなりと通すのかもしれない。


 だが領主の看板を掲げている状態で、程度の低い脅しに簡単に屈するのはよろしくない。

 かといって強行突破をして、禍根を残すのは得策ではない。今後も王都との行き来でこの領を通らなければならないのだ。


「おい、何を揉めているんだ?」

 後ろの方で報酬を受け取っていた、今日だけ雇った冒険者が先頭の馬車まで歩いてきた。

「門を無事に出るまでが俺たちの仕事だ」と言って、門番の前に出る。


「おい。仕事に熱心なのはいいが、この『改め』は本当に職務か? お前の趣味と小遣い稼ぎじゃねぇだろうな。

 俺たちが護衛を引き受けたお客さんだぜ」

 門番の顔の横に手をつき、背の高い冒険者は門番の顔を見下ろした。


 門番はしどろもどろになり、通常の通行手形を確認するのも忘れる始末――


「通ってよし」と言われたあとに、エリオットが「君たち、名前は?」と門番に尋ねた。

「え、なぜですか?」

 門番の声が震えた。


「午前中に襲撃に遭ったから、ここの領主にその報告をしなければならない。それと一緒に、門で理不尽な対応をされたと伝えておこう。

 今後、我が領の商業ギルドが頻繁にこの道を使うことになる。治安を守るのではなく、追い剥ぎされるようなら、正式に苦情を申し立てないといけないと思ってね」


 エリオットは貴族の、仮面のような笑みを作る。

「それとも、強気に出られる後ろ盾がいるのかな?」


 震えて答えられない門番を残して馬車の方に向かい、今日だけの護衛に声をかけた。

「君たちのおかげで、無事に通り抜けることができた。そして、最後にいい仕事をしてくれてありがとう。

 ……もし、黒幕がいたら、トゥランの冒険者ギルドのギルドマスターに言付けてくれ。情報料は弾むよ」


「領主ご一行様の護衛を務められて、光栄です。また、いつでもお声がけください」

 獣人の冒険者はそう言って、軽く頭を下げた。


「私は領主の孫だけれどね」


 こうして四台の馬車を一台も欠くことなく、門を無事に抜けることができたのだった。


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