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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十章 変わるもの

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デリケートな部分を土足で踏みにじる

 俺は薄切りのパンに具が載ったブルスケッタをガリッとかじった。

 少し落ち着こう。

 ノッグは女性の気持ちがわからないだけで、悪い人間じゃない。俺はルナの気持ちを知っているから怒りが湧いてくるけれど、そういう見方をしてしまうのも理解できる。


「ビキニアーマーで見られるのは、ルナも承知している。

 冒険者として名が売れたときに、『あの孤児の』と言われるより『ビキニアーマーの』と言われた方がいいと師匠が言っているそうだ」

 いわゆるキャラを立てるとか、そういう作戦らしい。最終的には「最強軍団の」と言われたいとか――。


「そう言う目で見られたくないなら、他の装備にしてくれっていう気持ちもわかる」

 俺も一度、目のやり場に困るって言ったことあるし。


「だろう?」

 ノッグがぐいっと身を寄せてきた。


 完全に同意したわけじゃない。話を聞けって。

「だからルナも仕方ないと諦めているところがある。

 彼女があの日傷ついたのは……あんたらが、彼女が師匠に独り立ちの証にもらった装備を『量産品』って言ったことに対してだ」


 ノッグがきょとんとした顔をした。傷つけている自覚はなかったんだろう。


「確かに言ったけど、付与の重ね掛けがすごいって褒めたんだ!」

 唾を飛ばしながら、反論してくる。

 それは俺も聞いていた。だから、悪気がなかったのはわかるんだけど――。


「それなら、『流行遅れの量産品』なんて言う必要ないだろ」

 俺は大きなため息を吐いた。ルナの顔がさっと変わった瞬間を、今でも思い出せる。


 ベルーフも「そんなことを言ったのか」と、ちょっと呆れ顔だ。


「誰しもコンプレックスってあるだろう?

 孤児を引き取って冒険者に育てているビキニアーマーの師匠は、この街では有名らしいじゃないか。そんな環境で『貧乏』とか『金がない』ってことで、悔しくて傷ついてきたんだと思う。

 嫌がる言葉を避けるのも、思いやりなんじゃないか」


「そんな、事実だし……過去の話だろ」

 ノッグが言い訳をしながら、傷つく方がおかしいと持論を展開する。


「コンプレックスを持っていない人には何でもないことが、聞き流せないからコンプレックスって言うんだろうが」

 俺は少し乱暴にジョッキをテーブルに置いた。


「ドワーフは種族的に身長が低いよな。それをコンプレックスに思う人も、思わない人もいるんじゃないか? 気に病むドワーフに『事実だし、受け入れろ』って正論を吐いて、解決したことはあるか」

 ノッグの目をじっと見る。


 ノッグは目を泳がせた後、ふてくされたようにぼそっと言った。

「そんなこと言われたら、何も話せなくなるじゃないかよ」


 ……そう来たか。その捨て台詞もよく聞くよな。


「だからさ、人によって感じ方が違うって話をしてるんだよ。

 目の前にいる人は言われても大丈夫な人か、嫌がる人なのか、よく見ろって話だ。

『嫌がるのがおかしい』って否定されて、自分の主張を押しつけられたら、やられた人は反感を持つし、心を閉ざすのは当然だろ」


 ノッグは黙り込んだ。


「もちろん、主張するのは自由だよ。どんな主張を持っているかもな。それなら、言われた側が、押しつけてくる奴を嫌うのも自由だろ」

 嫌われる行動をしている間の相手の様子には無関心で、結果として嫌われたら気にし始めるのがおかしい。最初から気にするか、最後まで嫌われても気にしないか、どちらかに統一すればいいんだ。

 俺、間違ったこと言ってるか?


 ノッグは、頭の中で処理し切れてなさそうだ。飲みながらする話じゃないよなぁ。


「もし、仲良くなりたいなら『この人はこれを言われたら嫌だと感じるんだ』と認識すればいい。『コンプレックスをなくしてやりたい』なんて、傲慢なことを考えるな。

 それは、心の傷を軽く見すぎだ。

『傷ついている方がおかしい』なんて言ったら、確実に嫌われる。それは、男も女も関係ないだろ」



「え、難しい。どうすればいいんだ?」

 ノッグは頭を抱えだした。

 でも、ここで怒り出さないのは好感が持てる。ちゃんと考えようとしているんだ。


「『相手を否定しない』、それだけだ。

 俺だって失言するよ。言った後に、相手の反応で『やばい』と気付いたら謝る。

 相手の主張に共感できなくても、『この人はこう感じるんだな』でお終い。理解しようとか自分の考えを理解させようとか、俺はしない。

 お互いに歩み寄れる点を探すだけだ」


「え、理解し合うべきなんじゃ……」

 ノッグが驚いている。


「理解し合えないという前提で、相手を尊重する。それが俺の対人関係の基準なんだ。

 俺がモテているように見えるなら、その距離感がちょうどいいからだろ」

 自嘲気味に酒を飲んだ。


 俺の根底には、家族とすらうまくやれなかったんだから――という諦めがあるのだ。

 だから「家族は分かりあえるはず」と押しつけられたときは、心を閉ざすことに決めている。そう信じられる環境で育ったんだなと羨ましくなるし……少しだけ惨めになるからさ。


 それは俺が自分を守るためのルールで、俺の自由だと思う。


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