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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十章 変わるもの

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下心はいい、せめて隠せ

「まあ、でも、見ちゃうよな。谷間とか」

 少々酔いが回って、ついぺろっと白状してしまった。男同士の気安さだな。


「男の性だな。胸派か尻派かはさておき、芸術品は鑑賞するものだ」

 ベルーフがうまいこと抜け道を見つけた。「芸術」この一言で、裸体鑑賞も許される。

 さすが年の功……どれくらい年上なんだろう。種族が違うとわからないよな。


「なら、なんでお前だけいいわけ? パーティーに加えてもらえてさ。淡泊なのか。枯れてんのか」

 ノッグが絡んできた。


「違うよ。お前たちみたいに下心ギラギラさせてないから、安心できんだろ」

 はは、と俺は空笑いをした。


 俺も山猫亭で働いていた頃、年上のお姉様がたに狙われて怖かった。

 女性といえど相手は冒険者だ。力尽くで来られたら、少年時代の俺は敵わなかった。隙を見せないように働くのは、ストレスだったよ。


「……男なら下心あるだろうよ」

 ノッグがぶすっとした顔で、酒を舐めた。


 俺も下心があるのは否定しない。なんなら、スケベ心もちゃんとある。だが……。


「なら、想像してみな。

 職人の作ったいい物を、安く買えたら誰だって嬉しいよな。

 交渉する中で、職人自ら値引きを言い出すのはいいけど、客が最初から『値引きさせてやる』って下心隠さないできたらどうよ?」

 ノッグにも伝わりそうな、たとえ話を考えながらしゃべる。


「嫌な気になるし、そんな客は追い返したくなるな」

 ノッグはちゃんと話を聞く気になったようだ。


「品物自体を見てくれる客と、どうやって値切ろうか下心満載でくる客って、見分けつかないか?

 下心をうまく隠してくれたらいいけど、隠そうともしない客はまともに相手したくなくなるだろ」

 不思議と雰囲気でわかるよな、そういうの。


「それは……なるよ。こっちを軽く見てるってことだし」

 何か思い出したようで、ノッグは顔をしかめた。


「女性だって、それと同じなんじゃないか」

 肉を口に入れたら、ハーブの香りが鼻に広がった。


「わからん」

 ノッグは鼻に皺を寄せた。


 伝わりそうで、伝わらないか。

 肉を咀嚼しながら、言い方を考える。


「『あわよくば、やりたい』って下心を、隠す気があるかないかは大きいと思う。

 良い関係になって値引きしてもらえたら嬉しいって人と、強引にでも値引きさせてやるって鼻息荒い人は、同列に扱えないだろ?」

 ノッグがうなずくのを見て、俺は話を続ける。


「やれるかどうかだけを見てる男と、人として興味を持ってくれる男のどっちがいいかって話。

 人として仲良くなって、結果的により親しくなるために自主的に体を開くのはいいけど、強引に一方的に好き勝手にやられるなんて言語道断だ。

 そういう雰囲気を嗅ぎ取って、態度を変えてるんだよ。危機回避のために」


「ええ~、そうかぁ? そうなのか。ただ、イケメンならすべて許されるって話じゃねぇか?」


 まあな。そういう傾向はある。

 だが「顔だけイケメン」がゲスな素顔が見せたら、ギャップで評価はガタ落ちになる。注目を集める分、気を抜けないかもしれないぞ。


 ただ、イケメンは傷つく回数が少なくて、素直に育つ確率が高い。ガツガツする必要がなくて、素直に要望を口にできる。

「希望」を上手く表現できず、拗らせると「下心」になるのかもな、とは思う。



 ほら。やっぱり、ノッグは素直に話を聞かない。

「でも」、「だって」、「俺なんか」と反論ばかりで、面倒くさい。


「まあ、自分の意見を曲げないのも、男らしくていいんじゃないっすか。

 自ら女性を遠ざけて、一生を仕事に捧げるのも美学だと思いますよ」

 雑にまとめてみた。初対面でいきなり人生相談されても、うざったいだけだ。



「ああ、本当に変わりたいなら、あのモテない仲間に相談するのはやめた方がいいですよ。

 モテない者同士で愚痴を言い合ってると、女性に嫌われる行動を『理解しないあいつらが悪い』っていう結論になるだけですから。

 俺の考え方は、『軟弱』とか『女に媚びて』とか『そこまでしてモテたいのか』とか、悪口言われそうでしょう?」


 なんとなく敬語でアドバイスをしてしまった。

 ノッグが気まずそうな顔をしている。図星なんだろうな。もしかして、今、まさにそう思ってたりして?


「変わりたいと努力してもいいし、変わらないで今まで通りのやり方でいってもいいんです。お好きにどうぞ。

 まあ、変わらないなら、俺は親しくなりたいと思わないですけど」

 ほんと、それだけなんだよ。


 山猫亭で働いているときに、モテない人たちが寄り集まって「女性」に対して愚痴を言っていた。ガキだった俺でも「だからモテないんだよ」と思ってしまう内容で……。

 誰かが反省して意見を変えようとすると、「男らしくない」「ガツンと教えてやらなきゃ」と「仲間」であり続けるように足を引っ張っていた。


 だから、変わるのが大変なのもわかるんだ。今まで気持ちよく愚痴を言い合っていた人たちと、心の距離ができるわけだし。



「いや、真面目に何が悪かったのか、教えてほしくて。次は失敗しないようにしないと……」

 ノッグが真剣な顔で俺を見る。


 ベルーフが、「そろそろ嫁さんほしいもんな」とからかった。


 本気で変わる気があるんだったら……。

 俺はジョッキを置いて、ちゃんと考えた。


「接する機会が少ないから、緊張するってのもあると思う。

 街の清掃ボランティアとかに、参加したらどうかな。やらなきゃいけないことが目の前にあるから、色恋を一旦脇に置いて、協力しあうだろう?

 その中でいい感じの距離感が掴めるんじゃないか?」


「ああ、働き者が見つかるかもしれんしな」

 ベルーフも後押しをした。


「ああ、そうか。やってみるよ」

 ノッグが笑った。いい笑顔だ。



「お前を誘って良かったよ」

 ベルーフは満足そうに酒を飲んだ。


「もうベルーフさんの誘いに、無条件でうなずくことはないですよ。だまし討ちみたいにされて。

 それも俺の自由ですよね」

 なんで親しくもない奴の相談に乗らなきゃいけないんだ。飲みながら頭を使うとか、全然リラックスできないじゃないか。


「Aランクの実力者に誘われて、どきどきしたのにさ」

 酒で思考力が落ちて、ちょっと文句を言ってしまう。


「お、おう。すまんな」

 ベルーフは戸惑ったように、謝った。



「文句を言われてるんだが、可愛いな、こいつ。こういうところが、モテるのか」

 ベルーフが苦笑いし、ノッグも同意する。


 いや、可愛いとか言われても嬉しくないぞ。


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