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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十章 変わるもの

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ギルドマスターの部屋で

 貴賓室からギルドマスターの部屋に移動した。


 ルナがギルドマスターに詰め寄る。

「ギルドマスター、あんな話聞いてないけど?」


 ギルドマスターが頭をかく。

「領主様から急にそういう話が出てきたんだよ。事前に伝えられなくて、すまなかったな」


 ギルドマスターも内心、面倒くさいと思ってそうだな。

 俺はまだ参加したことがないけれど、騎士と冒険者が共闘する大規模討伐では、もめ事がよく起きるという。それを処理するのは大変だという愚痴も聞いたことがある。


「まあ、あれだ。今回はお前たちは見習いのつもりで、気軽に参加しとけ。

 護衛のやり方を学んで、騎士や貴族との関係性を観察するいい機会だ。護衛ができりゃ、仕事の幅を広げられる。

 大規模討伐で人間関係のトラブルを回避できるようになれば、生存率が上がるぞ」


「ワイバーン討伐でも、パーティー同士の喧嘩や騎士が横暴な態度を取ったりしてたけど……」

 ルナが顔をしかめた。

 俺と知り合う前に、彼女たちはCランクとして討伐に参加してたんだよな。


「戦い方はそれぞれだから、ぶつかり合うのは仕方ないだろ。

 それで無駄に傷つけ合うか、手を組めるかで、成功率が変わってくるのは想像できるか?

 騎士は頭が硬くて柔軟性に欠ける。だが、質が揃っていて作戦が立てやすい。貴族の資金力で装備や補給支援の心配がない。味方につけたら、心強いだろ?」


 確かに冒険者は一人一人の得意分野や技量が違いすぎる。前のパーティーと今のパーティーを比べてみても、同じ戦い方はできない。


「あのAランクパーティーは、騎士とうまくやれる人たちなのですか?」

 フォンが尋ねた。


「いや、護衛が得意なパーティーだな。騎士が同行するって決まる前に依頼を出したんだ。だから、護衛のコツなんかを教わるといいぞ。

 貴族とのやりとりは、あの雪豹の傭兵を見習うといい」

「雪豹の獣人なのねん」

 サァラが頬を染めた。

「なんだサァラ。鼠は毛嫌いしてたのに、豹はいいのか?」

 ギルドマスターがからかうと、サァラはシャーと威嚇を返した。


「あ、鼠と言えば、ミナスは行方をくらましたぞ」

「へえ? 興味ないけど」

 サァラは半眼になった。

 フォンがサァラの頭をなで、ルナが続きを促す。


「ダンジョンの三層から怪我人を連れて出た後、彼女は街に戻ってきていない。救助したパーティーとはダンジョンの入り口で分かれたそうだ」


「レスタール王国に行ったのかもしれないですね」

 あのダンジョンは両国の国境沿いにあったから、その気になればすぐに行けるだろう。


「お前たちの悪口をずいぶん言ってたらしいぞ」

 ギルドマスターが苦笑いした。

「な……ふざけてるにゃ!」

 まだ内容も聞いていないのに、サァラは激怒する。


「ああ、そいつらも聞き流したってよ。

『困っている人を見捨てるなんて、冒険者の風上にも置けない』ってミナスが言ったらしい。だから、心得を説教してやったんだと」


 曰く、

『冒険者は自分を優先するのが当然で、余力があるときに他人を助ける。

 助けるだけの実力がないのに手を差し伸べて、その手を掴まれたときに踏みこたえられず一緒に落ちるなんて最悪だ。

 援助されるのを当てにしてダンジョンに潜るなら、冒険者を名乗る資格はない』

 と。


「当たり前の心得を言っただけなのに、ミナスは顔を真っ赤にして口を利かなくなったらしいぞ」


 そうなんだよ。

 冒険者になって、その割り切りを身につけるのに、少し苦労した。厨房で働いていたときは、料理の進行に合わせて助け合うのが当然だったから。



 貴賓室の片付けを終えて戻ってきた職員が、残念そうに言った。

「もう少しまともな人だったら、戦力として取り込みたかったのですが。人格に問題がありそうなので諦めます」

 職員は持っていた書類を机の上でトントンと揃えながら、ため息を吐いた。

「犯罪歴はついていませんが、もめ事を起こして解決せずに別の街に行く――常習犯らしいんですよね。

 この街で所属したパーティーが休止中とはいえ、脱退手続きもしないままです」


「お前、もう少し人を見る目を養えよ。

 トラブルメーカーでも、トーマみたいに有用ならいいけどさ」

「ええ? 失礼なこと、言わないでくださいよ!」

 ここは反論しておかないと。誰がトラブルメーカーだ。


 ギルドマスターは俺の抗議を無視して、ルナに話しかけた。

「ダンジョンに潜るときに渡した共鳴石は返してもらうぞ」

「ああ、そうだった。帰還石も使わなかった。はい、これ」

 ルナは小物入れから石を取り出す。

 何気に俺がトラブルメーカーだと言われたことは否定してくれなかった。


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