第八十二話 「過信」
「駄目だね、全然駄目だね。……ほんと、困った物だよね。」
時は少し戻り……。後方で指揮を執りながら燕国軍のあまりもの動きの遅さに、酷く落胆する司馬晋の姿があった。
「これは、ちょっと酷過ぎるなぁ……。蛇国軍でも、もう少しマシな動きをしていたよ。君もそう思うよね?優駿。」
あまりにも酷い燕国軍の動きに、ますますやる気を失う司馬晋。
「……そ、そう?相手は弱い方が良いんじゃないかな?楽だし、それに味方の損害も減らせるしさ。」
「やる気の問題でーす。こうも弱いと、やる気が起きないよ。はぁ……。」
優駿には、司馬晋の言ってる意味が理解出来なかった。いやそれは普通の人間には、凡そ理解が出来ない事なのだろう……。
武に覚えがある人は皆そうなのかな?と、頭に疑問が過る優駿であった。
……しかし優駿には、一つ気になる点があった。それは、こちらの作戦が上手く行き過ぎている事である。
あまりもの燕国軍の弱さに、何かの罠である可能性を疑う優駿だが……。燕国軍には"天覇十傑"も居なければ、優れた軍師が居る訳でも無い。
作戦が上手く行っているのは、きっと作戦を立てた公孫翔や司馬晋が凄いだけなのだと、それ以上考える事を止める事にした。
──ドガッ!!
突如、戦場の空気が変わり優駿達の前に騎兵の一団が出現する。
「…………。」
驚く優駿。……いや、数はそんなに多くは無い。その数は精々、二百と言った所だろう……。しかし突然現れた騎兵部隊に何かを感じ、口をつぐむ司馬晋。
「え……?どうやって、この場所が分かったんだろ?たまたま偶然なのかな?」
本陣の守備隊の数は二千。それに対し、突撃を計ってきた騎馬の数は、二百程度と少ない兵力ではあるのだが……。優駿は部隊の先頭に立つ、二人の人物の事が気になっていた。
「あれは六万の燕国軍を率いている、将軍の二人……だよね?」
先陣を切る張翼将軍に目も暮れず、燕国軍の将軍が……。それも二人の将軍が、この本陣の場所に気が付き突撃を仕掛けてきたのだろうか?
しかし一体どうやって、この場所を嗅ぎ付けたのかが疑問に残る所ではある。燕国軍には優れた軍師など、一人も居ない筈なのだから……。
しかし、よく考えてみると少しおかしな話である。仮に本陣を発見したとしても、たった二百騎程度で突撃を駆けるとは考えにくい。
相手は六万もの大軍なのだ。燕国将が本当にこちらの手を読み本陣に奇襲をかけるのなら、もっと大軍で押し寄せて来ても良い筈なのである。
「妙だね……。」
燕国将率いる二百の部隊に、流石の司馬晋も口数が少なくなっていた。
しかし、この時……。武に覚えの無い優駿の頭には、もう一つの可能性がある事を知らなかった。
──それは、相手が"天覇十傑"級の武力を持つ猛者だった場合である。
──ドゴォ!!
先頭を走る将軍の矛が唸り、次々と本陣を守る守備兵達を斬り裂いていく。……どうやら相当、腕に覚えがある将軍の様である。
「不味いっ!?燕国軍に、あんなにも強い将軍が居るなんて……。」
次々と翔国兵を斬り倒す燕国将の恐ろしさに、恐怖し取り乱す優駿。燕国将は千を超える守備兵に臆する事無く突き進み、優駿の居る本陣に迫る勢いであった。
「不味いよ、晋!一旦本陣を下げて、すぐにでも張翼さんと合流しなきゃ……。ちょっと聞いてるの?晋!……晋?」
ここは危険だと判断し、急いで撤退を呼び掛ける優駿。しかし司馬晋は何故か、その場に立ち尽くしたまま全く動こうとすらしなかった。
「アハハハハハハ……!!」
「……晋?」
「なんだ、やれば出来るじゃないか……。駄目だとか言って悪かったね。……これなら少しは楽しめそうだ。」
この様な窮地に追い込まれながらも、突如笑い始める司馬晋。先程のつまらない表情とは裏腹に、司馬晋は酷く楽しそうに笑っていた。
「あの二人は、僕が貰うよ。良いよね?……優駿。」
そう言い残し、司馬晋は不敵な笑みを浮かべながら敵将の元へと駆け出して行った。
「無茶だよ、晋!それに、何だか様子が変だよ!何かの罠かも知れない!ここは一度下がった方が───!!」
「大丈夫だって!たとえ罠でも、あの二人を倒せば終わるでしょ?そっちは君に任せたからねー!!」
懸命に叫ぶ優駿だが、司馬晋は全く聞く耳を持たずに走り去ってしまった。
……何らかの罠の可能性もある。それに武に長けた刹那や士龍ならともかく、あの屈強な大男である燕国将に司馬晋が勝てるとは優駿には到底思えなかった。
この時、もっと強く止めるべきだったのだと……。そう後で後悔する事を───。優駿は、まだ知らなかった。
武将紹介
「優駿」
武力 47
知力 87
主人公 オーラがあまり無い。
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。
こんな治安の悪い、しかも圧政に苦しむ翔国に来た事を少し後悔している。
「刹那」
武力 89
知力 54
髪型 95 かなり気合い入れてる。
村の自警団の一員。
剣の腕は相当な物で、盗賊百人を平気で蹴散らす実力を持つ。この大陸でも屈指の実力を誇ると言えるだろう……。
でも頭の方は、お察し。
綺麗な長髪の黒髪が特徴。毎朝一体何時間掛けているんだ?って位に気合いが入っている。
「公孫翔」
武力 92
知力 99
髪型 98 美容院通ってるの!?
朧の団の若きリーダー。義賊。これでもかって程、髪型に気合いを入れている。え?毎日、美容院通ってる?ってレベルに気合いが入っている。後、仲の良い妹が一人居る。
「黄牙」
武力 96
知力 77
自称 最強剣士。
公孫翔の相棒。非常に腕の立つ剣士。最強を自負しているのだが、実際は……。
「劉士元」
武力 97
知力 67
暗殺 最強の一族
大陸最強の暗殺者一族、"剣竜"。
「張翼」
武力 94
知力 87
自分 大好き
翔国、臥龍配下の部隊長。その実力から、将来を有望視される人物。野心家で、自信過剰な所がある。
「士龍」
武力 88
知力 67
努力 家
志願兵の一人。刹那にその実力が認められ、一隊を任せられる。槍の使い手で、実力はそこそこ。割と勘が冴える所もある。
「司馬晋」
武力 91
知力 93
糸目 開眼しないタイプの糸目。
掴み所の無い、何考えて居るのか良く分からない糸目。……その糸目が、開眼する事は無い。
「周衛」
武力 92
知力 78
忠誠 100
今は亡き優国、最強の将。九年の時を経て再び優駿と再会を果たす。猫より犬派。




