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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第四章 新たな呪い
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4─19

 よくよく考えてみたけど、祈るだけじゃダメだよな。


「それが上手く行くなんて保証はないし、神様は俺を嫌っているわけだし……」


「俊ちゃん、声に出てるよ」


「あ、悪い。聞かれてなさそう?」


「うん、とりあえずは」


 改めて到着したプール。前回は流美たんが腰かけていた室内で、ボーッとしながら考えていた。

 ん? ボーッとしてたら考えてるわけないか。今のなし。

 丸いテーブルを挟んでミコトも休憩中なのだが、うっかり口に出していたらしい。普通に危ない。


「と言っても、他の客とかは別に俺らの会話なんて聞かないよな。なぁミコト」


「ん? なーに?」


「フルサワの案として、トオノミノ神に助けてくれって願って来たんだけど、実際どうなると思う? ミコトの知識を借りたいんだけど」


「あ、そうなんだ……」


 飲んでいたオレンジジュースを置いて、直ぐに真剣モードな雰囲気になるミコト。

 かつて神様だったミコトの意見が、一番信憑性あるよな。この相談は間違いじゃないはずだ。


「えっと、フルサワ先生がそう言ったなら、信じていいと思う。絶対にとはさすがに言いきれないんだけど」


「あ、マジ? ミコトが言うなら大丈夫そうだな。トオノミノ神も、悪神ってわけではないってことか」


「……そうだね。神様は基本的には、差別的な行動は取らないから」


 申し訳なさそうに、ミコトは呟く。

 差別的な行動……か。多分ミコトは、自分の感情を優先して昇を救ったことで、その「基本的」というものから外れてしまったから、思うことがあるんだろうな。

 結果的に、神様としての地位を失ったわけでもあるしな。


「てか、そうか。トオノミノ神は俺のことが嫌いっていう差別的な部分もあるから、絶対とは言い切れないのか」


「うん、そういうこと。でも多分……大丈夫」


「まぁ、一旦信じるよ。いや一旦といっても、今回がラストチャンスでもあるような気がするんだが」


「そうだね、失敗したらもう……きっとりりちゃんは助からない」


「……だよな」


 また矢吹達の命を犠牲にしてループという手も、できれば取りたくないわけだしな。

 できればずっと策を考えていたいが、変に思われるわけにもいかないしそろそろ移動するか。


「ミコト、スライダー行くか? 向こうにあるぞ」


 ミコトの手を取って、前回散々李々華と楽しんだウォータースライダーへと向かって行く。

 やりたかったって割には、ミコトはずっとセフィ達と遊んでた気がするし。


「え、でも俊ちゃんぐったりするくらいやってなかった?」


「よく見てたな。正直吐きそうになってたぞ」


「じゃあ大丈夫だよ? 無理しないで?」


「いいのいいの。いいってばよ。せっかくだし俺とも思い出作ろうぜ」


「……うんっ」


 分かりやすく嬉しそうな反応してくれると、こっちも嬉しくなるね。いいこいいこ。

 最近本当に撫で過ぎてるから自重しないとなぁ。でもついねー、撫でたくなる子だよねこの子ね。


「あれ、スライダーやりに行くの? 私も一緒にやりたい」


「お、李々華。行くか?」


「2人きりじゃなくていいの?」


「それはミコト次第だな。どっちがいい?」


「俊ちゃん、()()()()()()()()


 ミコトにぺちんっと、ひじょーに優しく頭を叩かれた。なになにどゆこと?


「りりちゃんも一緒に行こ! うぉーたーすらいだー、好きでしょ?」


「教えたことあったっけ……? でも、お言葉に甘えて。お願いします」


「うんっ! ほら行こ行こ!」


「瀬川さん走ると危ないから、ゆっくり行こ」


 2人のやり取りを見て感じたけど、ミコトってしっかり気を遣ってるんだなぁ。危なっかしいところはあるけど。

 腕を引かれるがままについて行き、3人でウォータースライダーを楽しむ。相変わらず何度も滑るから同じくグロッキー。

 みんな元気ね。


「あんたは何で学習しないの?」


「せっかく楽しんでくれてるし、付き合ってやりたいじゃん?」


「ほんっとバカね」


 前回同様、昇に介抱されている。

 ……あれ? 前に介抱された時は別の理由でだっけ。もう覚えてないや。

 相変わらずスタイルよくて眼福ですありがとう。


「今更かもしれないけど、ほんと貧弱だよねシュンって」


「唐突にディスられるんだけど最近」


「運動神経はそこそこいいのにね。少食だったり酔いやすかったり」


「まー、そう言われるとそうかもなぁ」


 三半規管がふにゃふにゃなのかもな。乗り物酔いが1番酷いし。

 でも運動神経はいいと思ってくれてるんだね。嬉しいね。何ならそこしか取り柄ないけど。

 身近に流美たんという神レベルの身体能力を持つ子がいるから、凄く霞むんですけどね。


「……あれ? 割と流美たんも三半規管終わってね?」


「似た者同士だよね。どっちも運動神経はいいから」


「『は』ってのやめてくれん?」


「あんたに至っては『だけは』になるけどね」


「やめてよたった今自分でも再確認したところなんだからそれ」


 俺が沈まないようになのかもしれないけど、軽口叩いてくれる友達って心から救われるとこあるよな。昇は事情も知ってるのに。


「……それで、もう直ぐ前回と同じくらいの時間になるけど、どうするの」


 そして神妙な空気にすると一気に引き締まるのが昇のいいところ。マジで頼りになる。

 前回と同じくらいの時間、といってもきっとそこは関係ない。


「多分だけど、俺との会話の内容がキーだった気がするんだよな。李々華の心に隙を作ったから、支配されたとか」


「……身に覚えがあるから、全然有り得るね」


「……そうだな。だから次李々華が近づいて来た時が勝負だと思う」


「私もそばにいようか?」


「いや、多分2人切りで話したい感じだと思うんだ。何とかするよ」


「任せるよ。頑張って」


 もちろん。としっかり目を見て頷く。

 李々華が近寄って来やすいようにか、昇は去って行った。

 さぁ、いつでも来い李々華。俺は今度こそ、選択を間違え……間違え…………んぉ? おや?


「あれ、李々華どこ行った……?」


 気の抜けた声を出してしまったが、脳が整理され途端に焦る。

 待て油断したぞ。フルサワから、目を離すなと言われているのに。


「李々華……! 李々華どこに……!?」


 なるべく小声で、走らないくらいの早足で探し回る。少なくともプール内には見当たらない。

 嘘だろ。さっきまでミコト達とそこにいたはずなのに。


「花菱君、李々華ちゃんは……?」


「矢吹! 俺も見失ってて……どこに……!」


「2人とも、こっち。来て」


 焦り倒していたところに、矢吹と流美たんが合流。その様子を見ていたらしい昇とミコトも更に合流。

 流美たんに誘われるままに、その後をついて行く。

 ここは……女子更衣しt


「流美たん!? 俺をこんなところに連れて来ちゃダメでしょうよ!?」


「静かにして。中、見て」


「中……?」


 正直他のお客さんの目が気になって仕方ないが、流美たんの言う通りこそこそと中を覗いてみる。

 あ、ここ更衣室って書いてあるけど倉庫みたいなとこっぽいな。なんでやねん。


「……ん? 何でこんなところに、李々華とフルサワが?」


 流美たん曰く、フルサワが李々華を連れて行ったのを見たらしい。

 いやまぁ連れて行くくらいはいいけど、なぜここに?

 よく分からないまま、2人の会話に耳を澄ませる。


「先生? 足首はもう大丈夫そうなんですけど……」


「花菱。お前は今、兄や矢吹達に守られていることを知らないだろう」


「守られている……?」


「理由など知らなくていいが、あまり邪険にしてやるな。そして、自分のやりたいように行動しろ」


「……どういう意味ですか」


 俺も何を言いたいのか分からん。守られているってのは、きっと今の状況のことを言ってるんだろうけど。

 てかこんなこそこそする必要ってあるのかな。一応、全員黙ってるけど。

 ──何だかそわそわしていたが、フルサワの手が李々華の首元に伸びたところで、息をするのも忘れた。



「──お前が夜空の下で死ぬ必要はない」



 手が翳された瞬間、李々華の首に下げられていたあの呪いのネックレスが、砕けて落ちた。


 「え……?」


 李々華と俺の声が重なる。今、何をした……?

 どうしようもないと思われていたあのネックレスが、いとも簡単に……。


 「お前はお前の幸せを願ってくれる人間を、大切にしろ。いいな」


 「はい……? え、今何かしました……か?」


 李々華、何も分かっていないのか? もしかして、ネックレスをしていたという意識すら、本来はなかったのかもしれない。

 いや、そんなことより──。


 「なぁ……みんな今のって」


 「先生が、呪いを解いた……よね?」


 昇とだけ、目が合った。他の3人はただ、神妙な面持ちでその場面を見つめているだけ。

 矢吹達は、何かを知っているってことか……?


 「矢吹、ミコト、流美たん。今のって──」


 「うわ、何してんのバカ兄」


 「ぬほぉっ!?」


 いつの間にか扉が開いていて、李々華が正面に立っていた。すんげぇビビって変な声出た。

 これ普通に盗み聞きしてたってバレるじゃん。


 「えっと、偶然李々華とフルサワが話してるの見かけたんだけど、何か真剣な空気だったから声かけ難かったというか〜」


 「まぁ、別にいいんだけど。一応盗み聞きってよく思われないから気をつけなよ?」


 「し、失礼致しました。以後気をつけ申し上げまする」


 てか何で当たり前のように俺だけ注意されるの? 他は? 同じく耳を澄ましていたのだけどお咎めなし?

 ちょっとしたビックリに困惑していたが、李々華から手を引かれて我に戻る。


 「まだまだ時間あるし、遊ぼ。バカ兄」


 どこかスッキリしたような雰囲気の李々華を見て、のしかかっていた緊張が解けた気がした。一気に体が軽くなった。

 本当に、呪いが解けたということでいいのだろうか。


 「……俺に神頼みを勧めて、さらには呪いを解いた」


 振り返ると、フルサワの姿は既になかった。

 まだ頭は整理できていないが、俺の考えが勘違いなんかじゃないのなら。

 いやまさかとは、正直思うんだが……。


 ♠


 「凄ぇ、ナイトプールやんけ……」


 「何その喋り方」


 夜仕様となった、ネオンに包まれるプール。何か、エロいね。

 なんて思いながら、時間を確認して胸がなんかむにゃむにゃしている。むにゃむにゃってなに?


 「8時だ……」


 李々華は未だプールで遊んでいる。セフィ、ミコトと共にパシャパシャしている。何してんのあれ。

 隣で俺の手を握ってくれているのは、ここまでずっと俺を支えてくれていた、矢吹だ。

 俺達は室内で休憩中。


 「頑張ったね、花菱君」


 「矢吹もありがとうな。めちゃくちゃ救われてたよ、もう何日耐えたのか分からないけど」


 「こちらこそだよ。李々華ちゃん救えてよかった」


 「救えたっていうか……」


 ここまでの間聞けていなかったが、矢吹にはどうしても確認したかったことがある。ミコトや流美たんにもだが。


 「なぁ矢吹。フルサワ先生って、何者なんだ?」


 矢吹の呪いを知っていて、神様への知識もズバ抜けていて、いつからあの学園にいるのかも謎で──何より李々華の呪いを解除までした。

 ようやく。今更とも言えるが、長い付き合いらしい矢吹にこの疑問を投げかける。

 ……いや。もう正直な話、察してはいるのだが。


 「そうだね……花菱君にもちゃんと、話しておかないといけないよね」


 そう言ってはくれるけど、明らさまに話したくなさそうな表情をされた。それもそうか、とは思う。

 しかし矢吹は、ネオンに照らされ煌めく瞳を、しっかりと俺に向けてくれた。


 「僕は、君に恋をして……()()()()()()()()()


 苦しみを吐き出すように紡がれる、かつて聞いた物語の答え合わせ。

 恐れか、もしくは別の感情なのか自分でもよく理解できないが、少なくとも胸の鼓動は冷静じゃなくなっている。


 「君への想いを苦痛へと変えるために、僕の幸せを願わないために、恋を実らせないために……()()()呪いをかけた」


 夜までに好きな人と会えなければ死ぬ。そして午前5時に戻されるという、そんな呪い。


 「()()()()()()()()()。彼女は僕が自分のものにならない限り、この呪いを解くつもりはない」


 鼓動が激しくなるのを痛いほど感じながら、矢吹の語りに聞き入る。

 ずっと気づかなかったけど、よく考えれば分かったのかもしれないよな。

 矢吹との関係性にしろ、ミコトとのやり取りにしろ。


 ずっと、近くで監視していたわけだ。俺と矢吹のことを。

 決して、ハッピーエンドに向かわせないために。


 「そして十字仙山の神様は、トオノミノ神は──教師として僕の目の前に現れた。それが、古沢先生だよ」

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