第16話 セルビアとの初めての喧嘩②
結局、この日は学院内を探してもアクセサリーを見つけることはできなかった。
魔導員や事務員にも確認したが落とし物は届いている様子はなかった。思い当たる所はすべて探したが目視だと限度がある。見落としている可能性も否定できないが、すでに日が暮れて視界は真っ暗である。
雑草のかき分けていたから爪の中まで泥だらけである。ズボンの裾や靴も汚れている。家へ帰ったらまずお風呂に入らないと。そのあと念のため自分の部屋も探してみよう。望みは薄いが管理人や隣人に確認してみよう。それでも見つからなかったら明日は別のところも探して……。
そんな前向きな思考とは裏腹に、セルビアの言葉が今もまだ耳奥に残っている。帰路につく足が重たい。疲労とは違うストレスが足枷を生み出している。
ダメだ今は捜索に集中しよう。そんな難しく考えなくても良い。アクセサリーが見つかったら部屋に保管すればいいだけの話だから。でも、万が一それが魔法国家公務員にバレたらどうする。何かの拍子で鉱石から故郷の情報が漏れて存在が公になったらどうする。だけど妹が作ってくれたお守りを破壊するのか。そんな自問自答が私を追い詰める。
「遅い」
俯きながら歩いていると、寮の玄関でセルビアが座っていた。彼女は余計なことを喋らず、「手を出して」と無理やり手首を掴む。
「――っ! セルビア、これ私の」
セルビアが渡してきたのは正真正銘、私が探していたサファイア色の鉱石が嵌めこまれたアクセサリーである。
「『これを一体どこで』、と思っているでしょう。そのアクセサリーは魔法を無効化するけれど、あなたが今日行動してきた軌跡は魔法の痕跡を追えることができる。それを辿りながら帰り道に歩いてたら偶然見つけたのよ。どうせアナタのことだから考えなしに闇雲に探していたんでしょう。こんなの少し頭を使えばすぐに見つかるわよ」
少し怒った様子で腕を組みながらふてぶてしく言い放つが、私と同じように爪の間に泥が入っている。紺色のズボンや白いスニーカーも私以上に汚れがついている。それに頬には泥のついた手で汗を拭った跡がある。それを偶然と言うセルビアが愛おしくて、同時にセルビアに対して酷い態度をとった罪悪感に、私は感情のままにセルビアへ飛びついた。
「え、な、ちょっと!?」
いきなり抱きつかれて驚いた声を上げる。セルビアの首に手をまわして全体重を彼女に預けた。セルビアは勢いで倒れそうなところをぎりぎり耐えるが、私はお構いなしに力を強めて抱きしめる。
「傷つけるようなことを言ってごめん」
セルビアに抱きついた瞬間、自然と言葉にしてた。涙が滲んでくるのは嬉しさによるものだった。
「それなのに遅くまで探してくれてありがとう。本当にありがとうセルビア。大切なものだったんだ。ヴェネツィアに上京して毎日寂しくて、でも、このお守りに支えられてここまで頑張ってこれた。見つからなかったらどうしようってずっと不安だった」
「まったく現金な子ね。でも謝らないといけないのは私のほう。大切なお守りにひどい物言いをしてごめんなさい。もう無くしちゃダメよ」
「うん……」
私はセルビアから離れてお守りに唇を当てる。それは妹への感謝と謝罪。
「ねえセルビア、この鉱石を粉々に壊して海に放ったとしても怒られないよね」
「そんなことしなくても大丈夫よ。それほど大事にしているなら肌身離さず大切にしているのは分かるし、たとえもう一度無くしたとしても私が必ず見つけてあげるから」
「いいや、覚悟はもう決まっているから」
あのときセルビアの言ってくれたことは正しい。万が一でもこの鉱石が誰かの手に渡って悪用されたら、それこそ私は私を許さないと思う。そう思った時点で答えは決まっていた。それを吞み込むまで少し時間がかかっただけ。
「本当にいいの?」
「セルビアに会ったらどうでもよくなっちゃった。私の為に大事な人が汚れてしまうのを見たくない。セルビアの事だから悪い奴の手に渡ったら殺してでも奪い返しそうだからね」
「私を野蛮人みたいに言わないで。これでも準貴族のお嬢様なのだから。だけど返してもらうまで地獄の果てまで追いかけるかもしれないわね。ふふっ」
喧嘩をする友人も、こうして仲直りをする友人も彼女が初めてだった。上京して心細いときこのお守りに支えてもらっていた。
今はセルビアが側に居てくれるから大丈夫。私はもう大丈夫だよエルゼ。




