↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん
第7編ワープ影響編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/87

第84話 えっ、運ぶために分解してるんですか?

数日後。


政府の一時滞在施設で動画の編集をしていると、白石さんから連絡が届いた。


『先日お話ししていた製造設備について、国内メーカーの工場を見学できることになりました。ご都合はいかがでしょうか』


「おお、工場見学!」


そういえば、会議で大きな機械を運ぶ仕事の話をしたんだった。資料の写真は見たけど、実物を見たことはない。


予定を確認して返信すると、見学の日程が決まった。アルタークの勤務との調整も必要だったけど、今回は前もって予定を立てられたので助かった。


当日、俺は白石さんと杉浦さんに同行して、メーカーの工場を訪ねた。


受付で手続きを済ませ、案内された場所でヘルメットと保護具を身につける。


「ちなみに、今日はワープしないんですよね?」


「はい。まず設備や輸送上の事情を見ていただく機会です」


白石さんが答えた。


「それと、工場内での撮影は控えてくださいね」


「了解です! スマホも出しません!」


配信したら面白そうだけど、ここは観光施設じゃない。企業の仕事場だし、何でも公開していいわけじゃない。


工場の担当者に挨拶をして、中へ案内してもらう。


大きな建物の中には、普段見ることのない機械が並んでいた。天井近くには荷物を吊るための設備があり、床には通路と作業場所が色分けされている。


「……でっか!」


思わず声が出た。


目の前には、俺の身長よりずっと高い機械があった。頑丈そうなフレームが何本も組み合わさっていて、横幅もかなりある。


「これは、工場で使う大型の加工装置です」


担当者が説明してくれた。今日見せてもらうのは、実際に出荷する製品の一例らしい。


「これ、そのままトラックに乗るんですか?」


「いえ。この状態では運びにくいので、出荷する時は一部を取り外します」


「えっ、せっかく組み立てたのに?」


「はい。運んだ先で、また組み立てます」


……大変じゃない?


俺はもう一度、機械を見上げた。


これだけ大きい物なら、運ぶだけでも苦労するんだろうなとは思う。でも、完成した物をいったん分けて、また組み立てるとは考えていなかった。


「それって、何のために分けるんですか?」


「理由はいくつかあります。部品ごとに製造する必要もありますし、整備のしやすさも大切です。ただ、この部分は、輸送する車両や搬入経路に合わせるために取り外せるようにしています」


担当者が指したのは、装置の横に長く伸びた部分だった。


「このままだと、道路を通すのが難しいんですね」


「そうですね。道路だけでなく、工場の門や納入先の入口なども考えます」


「なるほど……」


なるほど、と言いながら、頭の中では別のことを考えていた。


運ぶために外す。


じゃあ、運ばなくてよかったら?


……いや、運ぶんだけど。


「あの、変なこと聞いていいですか?」


「どうぞ」


「もし最初からワープで運べるなら、ここって外さなくてもよくないですか?」


担当者が少しだけ目を丸くした。


「……なるほど。輸送制限がないという前提ですね」


「そうです! 俺なら一瞬で運べるかもしれないので!」


言ってから、ちょっと言いすぎたと思った。


飛行機をワープさせたことはある。でも、だからといって初めて見る機械をいきなり安全に運べるとは限らない。


「……あ、もちろん、本当に運べるかは確認が必要ですけど!」


「ええ。その点は大切ですね」


担当者は笑ってから、装置の横へ回った。


「実は、分けて作ることにも利点があります。組み立てやすかったり、壊れた部分だけ交換できたりしますから」


「ああ、修理!」


「はい。ですから、一つにつなげれば何でも良くなるわけではありません」


「そっか……」


ちょっと残念。


俺が思いつくくらいのことなら、当然、作っている人たちも考えているよな。


ところが、担当者は続けた。


「ただ、輸送するためだけに設けている接続部分が減るなら、別の設計も考えられますね」


「……おお?」


「例えば、工場では作れる大きさなのに、運べないから二つに分けている場合です。そこを分けずに済むなら、設計上の選択肢が増えるかもしれません」


「えっ、じゃあ俺、ちょっと役に立つこと言いました?」


「まだ分かりませんよ。設計を変えるには、強度や精度、製造方法も確認しなければなりませんから」


「ですよね!」


俺が笑うと、杉浦さんも少し笑った。


「でも、松さんの疑問は面白いですね。私たちは輸送時間を短くすることを考えがちですが、そもそも輸送の制約が変われば、製品側の設計も変わる可能性があります」


「……製品側?」


「はい。何をどう運ぶかだけでなく、最初からどういう物を作るか、という話です」


俺は目の前の機械を見た。


飛行機の仕事は分かりやすかった。航空会社が飛行機を用意して、俺がワープさせる。乗客は早く移動できる。


でも、この工場なら、話が違う。


今まで作れなかった形の機械を作れるようになるかもしれない。


いや、作れなかったというより、作れても運べなかった物、か。


「それなら、日本のメーカーさんが新しい機械を作れるってことですか?」


「可能性はあります。ただ、実際に作った方がよいかは別ですよ」


担当者はあっさり言った。


「大きくすると製造費が上がることもありますし、納入先に置けるとは限りません。運べるようになっただけでは、使える製品にはなりませんから」


「あっ、そうか。置き場所か!」


工場の入口をちらりと見る。


この機械は、ここにあるからこんなに大きく見える。でも、納入先の工場も同じ広さとは限らない。


「ワープで中に置けばいい、っていうのも駄目ですか?」


「そこに置いて安全なのか、搬入後の作業ができるのか、確認が必要ですね。床や基礎も重要です」


「……なるほど」


移動先は、自分の目で見えなければならない。


仮に見える場所があったとしても、その床に重い機械を置いて大丈夫なのか、俺には分からない。配管や電気をつなぐのも、俺の仕事じゃない。


「俺、運ぶところしか考えてなかったですね」


「それも重要な部分ですよ。ただ、その先にも工程があります」


「はい!」


担当者は別の設備の近くへ案内してくれた。


そこでは、作業員の人たちが工具を使って部品を調整していた。何をしているのか細かいところは分からないけど、何人もの人が役割を分けて動いている。


「これも、運んだ先でやるんですか?」


「製品によりますが、設置後にも調整や試運転が必要です。長く使う設備なら、点検や修理もあります」


「結構、仕事が続くんですね」


「はい。納入して終わり、というものばかりではありません」


俺がワープするのは、一瞬だ。


でも、この人たちは機械を設計して、作って、調整している。運んだ後も、何年も使えるように支える仕事がある。


この前の会議では、そんな話を資料で聞いた。


現場を見ると、ちょっと違う。


本当に人がいて、機械を作っているんだ。


「……なんか、すごいですね」


「機械がですか?」


「それもですけど、作ってる人たちがです!」


担当者は少し照れたように笑った。


「ありがとうございます。ただ、私たちからすると、松さんの能力の方が想像しにくいですよ」


「俺はもう慣れちゃってますからね!」


「そこが一番不思議です」


「ですよね!」


そのあとも、見学できる範囲でいくつかの設備を見せてもらった。


小さく分けた方が作りやすいものもあれば、輸送の都合で工夫しているものもある。見た目が似ていても、理由は一つじゃないらしい。


俺は気になることをいくつか聞いたけど、全部をその場で理解するのは無理だった。


それでも、一つだけ覚えて帰ろうと思った。


ワープで運べるようになると、今までの運び方が変わる。


それだけじゃない。


作る人が、最初から違う形の物を考えられるかもしれない。


見学を終え、保護具を返して工場の外へ出た。


「どうでしたか、松さん?」


白石さんに聞かれて、俺は少し考えた。


「面白かったです! でも、俺が思ってたより難しいですね」


「どの辺りがですか?」


「運ぶだけなら簡単そうに見えるんですけど、機械って運んだ後も使うじゃないですか」


「そうですね」


「それに、最初からワープで運ぶつもりで作ったら、違う機械ができるかもしれないって」


杉浦さんがうなずいた。


「考え方としてはあります。ただ、実際に有利になるかどうかは、メーカー側で検討していただく必要があります」


「ですよね。俺、機械の設計はできないですし!」


ここで俺が勝手に「じゃあ作ってください!」なんて言っても困るだろう。


本当に運べるかも、いくらかかるかも、まだ何も分かっていない。


ただ、来る前と今とでは、考えていることが少し変わった。


俺がワープして終わりじゃない。


俺がワープするからこそ、ほかの人に新しい仕事ができるかもしれない。


「……これ、ちょっと楽しいですね」


「ふふ。よかったです」


白石さんが笑った。


帰りの車に乗る前に、俺はスマホのメモを開いた。


『運ぶために分けているものは、分けなくて済むかもしれない』


一行だけ書いて、保存する。


まだ何かができたわけじゃない。


でも、次に工場の機械を見る時は、きっと前とは違うところが気になると思う。


「……俺、なんか工場見るの好きになりそうです!」


「今日はまだ一か所目ですよ」


杉浦さんにそう言われた。


「そうでした!」


二人が笑う。


……いや、でも本当に。


こういう発見があるなら、見に来てよかったな。

次回、第85話「えっ、会社にまで来たんですか!?」


次回更新:11月7日 20:10予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。