第82話 俺のワープ、日本の何に使うのが一番いい?
「……俺に合う仕事を探す会議、か」
政府の一時滞在施設で、予定表を眺めていた。
この前、白石さんと熊本と東京の住宅を見に行った。中継用の家も見せてもらって、その後は二人で定食を食べた。
あの時に頼んだ話が、もう実現するらしい。
俺のワープを日本の何に使うと、一番役に立つのか。
……正直、俺一人で考えても分かりません!
物流、製造業、災害、研究。
どれも便利そうだ。でも、仕事にするなら自分の自由な時間だって大事だ。
『日本に役立つこと』『安全にできること』『俺が休んでいる間も成果が残ること』
メモに三つ並べた。
「……うん。欲張りですかね?」
いや、このくらい聞いてもいいだろう。
◇
会議当日。
「おはようございます、松さん」
「おはようございます! 白石さん!」
白石さんに案内されて会議室に入ると、三人の方が待っていた。
産業政策を担当する森下さん。
製造業と物流に詳しい杉浦さん。
研究開発を担当する柏木さん。
「……専門家が三人!」
「まずは候補を整理する場です。今日は何かの契約を決めるわけではありませんよ」
白石さんが笑った。
「よかった! 俺、いきなり就職面接になったら困るので!」
挨拶が終わり、森下さんが資料を出した。
「松さんの能力には、様々な使い道が考えられます。今日はどの分野を優先して調べるか、意見を聞かせてください」
「はい! お願いします!」
まずは製造業だった。
杉浦さんが大きな加工装置の写真を見せてくれる。
「大型の設備を海外へ納入する場合、輸送に制約があります。松さんの能力が使えれば、新しい方法を検討できるかもしれません」
「おお! 日本のメーカーさんが機械を売りやすくなるんですね!」
「可能性はあります。ただ、どこへでも安全に置けるわけではありません。搬入先の準備や、設置後の作業も必要です」
「そうか。俺が運んでも、そこで電源をつないだり、調整したりする人がいるんですね」
「はい。保守も含めて、納入後に仕事が続く場合があります」
それは、いいな。
もし俺のワープで安全に運べるなら、そのあともメーカーの人たちの仕事が続くかもしれない。
でも、森下さんが別の資料を出した。
「では、外国メーカーも同じ輸送方法を使うとしたら?」
「……あれ? 外国の機械も運びやすくなりますね」
「そうです。日本企業だけが得をするとは限りません。どこで製造し、納入後の仕事を誰が担うかも考える必要があります」
「なるほど……」
日本のためになる。
簡単に言ったけど、なかなか難しい。
「でも、日本の会社がそのあとも機械を作ったり直したりするなら、そこに仕事が残りますよね?」
「ええ。そのような観点も重要です」
俺はメモした。
『製造業――運んだ後の仕事まで考える』
次は災害対応だ。
道路が使えなくなった場所へ、復旧用の設備を運ぶ例が示された。
「それはやりたいです! 困ってる人がいるなら協力したいですから!」
以前、豪雨の時にワープで手伝ったこともある。
森下さんが尋ねた。
「では、午前三時に出動の依頼があったら?」
「……三時?」
眠いですよ、その時間!
「行ける時なら行きます。でも、毎回必ずっていう約束は無理です。寝てることもありますし!」
「その場合、松さんがいないと復旧できない仕組みにはできませんね」
「そうですよね。俺が休んでても、ほかの人が助けられる方がいいです!」
白石さんもうなずいた。
「現在の救助や復旧の仕組みを基本にして、松さんが協力できる条件を別に考えられます」
「じゃあ、災害は俺の転職先を決める話とは別枠にしません?」
森下さんが資料に印を付けた。
「そうしましょう」
「おお! 一つ片づいた!」
次は研究開発。
柏木さんが、観測装置や研究設備の例を説明した。
「装置を設置できても、実際に使うには電源、通信、保守が必要です。うまく運用できれば、その後も研究が続きます」
「つまり、俺が運んだあとが本番なんですね!」
「その通りです」
研究設備の資料には、ひとつ気になる文字があった。
『宇宙』
「……宇宙も候補なんですか?」
「将来的な可能性はあります。ただし、現在の能力の条件で宇宙に安全に荷物を送れるかは、まだ確認できていません」
「宇宙で何ができるのかは、まだ試したことないですからね」
「はい。能力を使える条件と、荷物を安全に受け取れる場所については、今後の検証が必要です」
「……宇宙って、工場みたいに置き場所があるわけじゃないですしね!」
分からないことだらけだ。
でも、少しわくわくする。
「今すぐ仕事にするのは難しそうですけど、調べる価値はあるんですね?」
「ええ。そこは研究の対象です」
俺は『宇宙――要検証』と書いた。
三つの分野を比べて、少し考える。
製造業は、すでにある仕事を変えられそう。
災害では、人を助けたい。
研究は、うまくいけば今までできなかったことができるかもしれない。
「……あの、一位って決めなきゃダメですか?」
森下さんが顔を上げた。
「どういうことでしょう?」
「だって、同じ種類の仕事じゃないですよね。災害は儲かるからやるって話じゃないし、研究は今すぐ儲かるとは限らないし」
「ええ」
「だったら、製造業で安全に運べそうなものを調べつつ、研究や宇宙は別に実現できるか調べたらどうですかね?」
少し間があった。
森下さんがうなずく。
「現段階では、その整理がよいと思います。災害協力は別の条件で検討しましょう」
「おお! それなら俺も覚えられます!」
杉浦さんが資料を確認した。
「では製造業については、実際に使われている設備を見た方が分かりやすいかもしれませんね。国内メーカーへ見学が可能か相談してみます」
「工場見学ですか! 行ってみたいです!」
「まず先方のご都合と、安全上の条件を確認してからですね」
「了解です!」
これで、次に何をするかが一つ決まった。
でも、まだ忘れてはいけないことがある。
「そういえば。俺が運んだあと、日本に何が残るかも大事ですよね?」
森下さんがうなずいた。
「ええ。製品を作る仕事や、研究を進める人材が日本に残ることも大切です」
俺は最後の一行を書き足した。
『運んだあと、日本に何が残るか』
……よし。
仕事を選ぶ時の目印が、ようやくできた。
◇
会議室を出ると、白石さんが声をかけてくれた。
「お疲れさまでした、松さん」
「お疲れさまです! いやー、面白かったですね!」
「皆さんも、松さんのご意見を参考にできたと思います」
「それならよかったです!」
白石さんはいつものように次の予定を確認している。
ふと思った。
「あの、白石さん。俺のことで、仕事増えすぎてません?」
「……私ですか?」
「家のことも外国の会社のことも、今の会議も。結構大変じゃないですか?」
「ありがとうございます。でも、私一人で全部やっているわけではありません。専門の部署と分担していますから」
「……それならよかったです!」
政府の人も、俺みたいに休みは欲しいだろうし。
「俺にできることがあったら言ってください!」
「ふふ。先ほどは、働く時間を増やしたくないとおっしゃっていましたけど?」
「白石さんが困ってるなら別ですよ!」
白石さんは少し驚いて、それから笑った。
「ありがとうございます。では、お互い無理のないようにしましょう」
「はい!」
これで今日は終わり。
そう思ったところで、白石さんが言った。
「松さん。もしお休みが合えば、今度は私からお食事にお誘いしてもいいですか?」
「……おお!」
思わず顔を見た。
「仕事の打ち合わせじゃなくて、普通にご飯ってことですか?」
「はい。よかったら、ですが」
「もちろんです! 行きましょう!」
即答だった。
白石さんは、ちょっと嬉しそうに笑った。
「ふふ。では、お店を探しておきますね」
「ありがとうございます! 楽しみにしてます!」
その場で予定を相談し、後日、二人で会うことになった。
今日は日本の産業をどうするかなんて話をしていた。
でも、今楽しみにしているのは、白石さんと普通にご飯を食べることだった。
……なんか、最近予定が充実してきましたね!
もちろん、帰ったら動画編集もしないと。
やりたいことは、まだまだある。
第82話 俺のワープ、日本の何に使うのが一番いい?




