↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/48

第8話 ヒーローって個人事業主になれる?

『特殊な移動能力を使って人助けをしながら、合法的に収入を得る方法はありますか?』


そこまで入力して。俺は少し考えた。もう一行追加する。


『というか、ヒーローって個人事業主になれるんですか?』


送信。


「……何聞いてるんだ俺」


24歳、会社員。職業、ヒーロー希望。急に人生がおかしくなってきた。


AIの返事が出る。読む。


「ヒーローという職業名が重要なのではなく……」


実際に何をするのか。どこから収入が発生するのか。継続的な事業として行うのか。


そういうところを整理する必要があるらしい。


「夢がない回答だな」


もっと、


『ヒーロー業として開業できます』


みたいな答えを少し期待していた。職業欄。


『ヒーロー』


ちょっと書いてみたい。


「いや、恥ずかしいな」


やっぱりいい。そもそも、人助けで稼ぐってどうするんだ?


「助けたら1万円、とか?」


言ってから。


「……いや、これは嫌だな」


例えば事故。目の前で人が危ない。


『助けます。1万円です』


そんな確認をしている時間があったら先に助ける。助けた後で、


『では料金を』


も何か違う。


「払えない人どうするんだよ」


助けない?そんなわけにもいかない。しかも料金制にすると、


事故が多く、危険な人が多いほど俺は儲かる。


「……最悪じゃん」


俺は人が危険になるのを待ちたいわけじゃない。むしろ何も起きない方がいい。


「俺、人の不幸で稼ぎたいわけじゃないんだよな」


8,000万円は欲しい。めちゃくちゃ欲しい。仕事を辞められるくらい欲しい。


でも、その金の出どころが、


『助けてもらった人の財布』


なのは嫌だった。


「じゃあ、助けた本人以外から収入を得ればいいのか?」


広告、動画配信、ライブ配信、スポンサー、企業との契約、イベント、任意の支援。普通の副業候補を思い返すだけでも、いくつか出てくる。


「……あ」


そうか。別に、助けた人から直接金を取る必要はない。


「ヒーローで稼ぐんじゃなくて……」


考える。


「ヒーローやってる動画で稼ぐ?」


例えば、俺が空を飛び、ワープし、遠くへ行く。それを見る人がいて、いつか動画に広告がつくようになれば収入にもなる。その途中で誰かが困っていたら助ける。


助けた人には請求しない。救助された人の顔や個人情報を勝手に動画へ出すのも違う。


「これ、結構よくない?」


救助と金を直接つなげない。俺が助ける。見たい人が見る。


収益は別のところから入る。


「YouTubeか」


普通に副業を探していた時も候補としては知っていた。ただ。俺には今まで、


『他人がわざわざ見るもの』


がなかった。でも。


「ワープは見るだろ」


世界に何人いるのか知らない。もしかしたら他にもいるかもしれない。それでも少なくとも俺は、今まで見たことがない。


人が空中で消える。遠くに出る。また消える。


「俺なら見るな」


問題は。顔。


「……あ」


俺は部屋の隅を見る。水泳帽、ミラーゴーグル、マスク、無地の服。


「俺、もうYouTuberの衣装持ってるじゃん」


何一つYouTubeのために買っていない。水泳帽は手持ち。ゴーグルは目を隠すため。


マスクは普通のマスク。服もその辺で買えるもの。


「華がないなあ」


世界初かもしれない超能力者。衣装代、ほぼゼロ。


「まあ、FIRE目指してる人間が衣装に10万使ってもしょうがないしな」


本名も顔も住所も出さない。


勤務先は絶対に出さない。活動している能力者だけを表に出す。


「いけそうだな」


ただ。もう1つ問題がある。


「ヒーローって、何すればいいんだ?」


漫画なら簡単だ。悪者が出てきて、戦って、勝つ。


「俺、戦いたくないんだけど」


そもそも喧嘩が強いわけでもなく、ワープできるだけだ。俺はAIに聞いた。


『専門資格のない一般人が、ワープのような能力を持っていた場合、どういう人助けなら比較的安全にできますか?』


回答を読む。


「危険な場所から離す……」


「これ、他人も一緒にワープできたら、だよな」


まだ人では試していない。もしできるなら、車道に人が倒れている。車が来る。


安全な場所へ移す。落ちそうな人がいる。見えているなら移す。


事故現場のすぐ横に人がいる。安全な場所へ離す。


「この辺なら使えそう」


じゃあ火事。燃えている建物。


「中に入って探す?」


煙、熱、毒性のガス、視界不良。


「無理だな」


俺はワープできるだけで、煙を吸わなくなるわけではない。もし他人も一緒に移動できると確認できれば、外から見えている人を安全な場所へ移せるかもしれない。


そこまでならできそうだ。でも見えない人を探すために中へ突入するのは違う。次。


犯罪。


「犯人を捕まえる?」


警察、証拠、逮捕、捜査。


「分からん」


俺が勝手に誰かを犯人だと決めてワープさせたら、それはそれで問題になりそうだ。


「ヒーローなのに犯人捕まえないの?」


自分で言う。少し考える。


「まあ、俺ただの会社員だしな」


能力が生えただけだ。警察学校へ行ったわけでもない。消防の訓練を受けたわけでもない。


医学部を出たわけでもない。


「できるところだけやるか」


他人も運べると分かれば、目の前の危険から離す。あとは専門家へ渡す。それでいい。


ヒーローという言葉に引っ張られて、何でも俺が解決する必要はない。


「でも」


俺は空を飛んだ時の景色を思い出す。上からなら広く見える。


「空飛びながら事故探したら?」


パトロール。少しヒーローっぽい。俺が空から街を見る。


事故を発見。一瞬で近くへ移動。もし人も運べるなら救助。


「おお」


ちょっとそれっぽい。そこで止まった。


「……毎日事故起きるわけじゃないよな」


何時間も飛ぶ。何もない。終わり。


「空飛んでるだけの動画になるな」


いや。それでも普通の人は空を飛べないから、最初は見てもらえるかもしれない。でも毎回、


『本日の成果、事故ゼロ件でした』


では、そのうち飽きそうだ。


「というか事故ゼロなら良いことじゃん」


事故を探しているのに、事故があることを期待する。


「なんか嫌だな」


なら、人助けだけを目的にしなければいい。普段は普通に能力を見せる。


ワープ、空中移動、遠くへ行く、能力の実験。何か面白そうなことをする。そして、もしその途中で助けが必要なら。


「そっち優先」


これならいい。ヒーロー専門ではなく、能力者のYouTube。


必要な時だけ人を助ける。


「それなら続けられそう」


俺には本業もある。毎日ずっと空を飛んでいるわけにはいかない。FIREするまでは、今の生活を壊さない。


そこは変えない。


「で、動画か」


録画、編集、投稿。普通のYouTube。


「ワープしてるところ撮ればいいよな」


でも。俺は少し考えた。動画の中で、


ここにいる。消える。別の場所に出る。


「……編集って言われない?」


普通に言われそうだ。むしろ俺が視聴者なら最初に疑う。カット、合成、CG、AI。


「今の時代、何でも作れるもんな」


じゃあ生配信なら?リアルタイムで、空を飛ぶ。


ワープする。それなら録画よりは信じてもらいやすい。


「配信か……」


やったことはない。スマホでできるのか。カメラはどうする。


顔は映さない。コメントを見る方法。回線。


遅延。身バレ対策。


「また考えること増えたな」


俺はスマホで、YouTubeの配信方法や身バレ対策をざっと検索した。顔、声、背景、位置情報、反射物。気にすることは思ったより多い。


いくつか読んでいるうちに、ふと気づいた。


「名前」


本名は出さない。なら活動名が必要だ。


「ワープマン?」


ダサい。


「瞬間移動マン?」


もっとダサい。


「ヒーロー松さん」


数秒考える。


「絶対嫌だな」


俺はスマホを置いた。金を稼ぐ方法を探していただけなのに。いつの間にか。


顔を隠して。空を飛んで。YouTubeを始めようとしている。


「人生って分からんな」


とりあえず。次に決めることは1つ。


「名前、考えるか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。