第72話 俺、日本に守られてるんだな
「……本当に疲れた」
俺は会議室の椅子にもたれた。目の前のモニターには、ついさっきまで外国政府の担当者たちが映っていた。最後の挨拶を済ませ、通信が切れたところだ。
「お疲れさまでした、松さん」
白石さんが声をかけてくれた。
「もう当分、会議したくないです!」
「ふふ。今回は件数が多かったですからね」
「いやあ、外国の人と話すって、こんなに大変なんですね!」
アメリカ政府との面談から、しばらく経った。あれから他の国からも協力の問い合わせが相次ぎ、日本政府が内容を整理してくれた案件について、何度か面談に参加することになった。
大型産業設備を運んでほしいという国もあれば、交通の便が悪い地域への物資輸送を希望する国もあった。災害が発生した時だけ協力してほしいという話もある。同じワープ能力でも、使い道は国によって随分違うらしい。
「……世界中、困ってることが違うんですね」
「そうですね。地理的な条件も違いますし、必要としている設備や輸送手段も異なりますから」
「俺、今まで運ぶことばっかり考えてましたよ」
何を運ぶか。どこへ運ぶか。いくらもらえるか。そんなことは考えていたけど、国によって輸送そのものの事情が違うなんて、あまり意識したことがなかった。
もちろん、すべての国と直接話したわけじゃない。問い合わせだけで終わったものもあるし、そもそも俺の希望条件に合わず、面談する必要がなかったものもある。それでも、仕事が終わってから会議。また別の日も会議。休日に会議が入ることまであった。
「……あれ?」
俺は白石さんを見た。
「俺、仕事増やしてません?」
「……そうですね」
「ですよね!」
白石さんが笑った。いや、笑い事じゃない。
俺はFIREを目指しているんだ。仕事を減らして自由な時間を増やすはずなのに、世界中から仕事の相談が来て、会議に参加している。しかも、まだ新しい契約は一つも結んでいない。
「……これ、会議だけで何時間使ったんだろう」
「記録はありますので、確認しますか?」
「いや、やめときます! 悲しくなりそうなので!」
「ふふ」
もっとも、興味のある案件もあった。例えば、大型設備を一度だけ運んでほしいという話。輸送先の安全確認や必要な準備さえ整えば、短時間で終わるかもしれない。長期契約より、そういう仕事の方が俺には合っている。
「やっぱり、単発の仕事はいいですね!」
「松さんは、ご自身の予定を自由に決められることを重視されていますからね」
「そうなんですよ! せっかく稼げるようになったのに、また仕事で予定が埋まるのは嫌ですし!」
「その点は、今回の面談でも先方に伝わったと思います」
「ならよかったです!」
今後は日本政府側で依頼を整理し、条件が合いそうな案件について相談してくれることになっている。ありがたい話だ。
というか、最初からこうしてもらえばよかったんじゃないか?
……いや、今回の会議をしたから、俺の希望条件もはっきりしたんだった。
「そういえば、白石さん。今回の会議って、準備するの大変だったんじゃないですか?」
「そうですね。複数の部署が関わっていますので、調整することは多かったと思います」
「ですよねえ」
俺は机に置かれた資料を見た。外国政府からの提案書と、その日本語訳。仕事内容の要約に、安全面や契約条件についての確認事項まで整理されている。分厚い資料だ。
「……これ、全部準備してくれたんですよね?」
「先方からいただいた資料もありますが、日本側で確認したものもあります」
「すごいですね。俺だったら、英語の時点で諦めてますよ!」
「翻訳だけなら、AIも使えますよね?」
「そうなんですけど、翻訳が正しいかどうかも分かりませんし!」
契約書には、普段聞かないような言葉も多かった。途中で仕事を辞める場合の条件や、事故が起きた時の責任。外国で仕事をした時の税金なんて、俺にはほとんど知識がない。
AIに聞けば、ある程度は教えてくれると思う。でも、その回答が正しいのか確認する知識がない。何億円もの契約を、AIが大丈夫と言ったからという理由だけで結ぶのは怖すぎる。
「……俺一人じゃ、外国と仕事するの無理でしたね」
「そんなことはありませんよ。実際に輸送するのは松さんですし、私たちはその活動を支援しているだけですから」
「いやいや、その支援が重要なんですよ!」
俺は資料を指さした。
「これ、俺が全部調べてたら、何日かかるか分かりませんよ!」
「確かに、専門的な確認が必要な部分も多いですからね」
「ですよね!」
今回の会議には、通訳だけでなく、契約や法律、安全保障に詳しい人たちも関わっていたらしい。相手が外国政府となれば、日本との外交関係にも関係してくる。軍事利用の可能性がある仕事なら、なおさらだ。
俺としては、ただ物を運ぶだけのつもりだった。でも、外国の政府から見れば、俺の能力は国家の事業計画に組み込めるかもしれない特別な輸送手段らしい。
「……なんか、改めて考えると怖いですね」
「何がですか?」
「いや、俺が物を運ぶだけで、こんなにいろいろな人が動くんだなって」
「松さんの能力には、それだけ大きな可能性がありますから」
「……なるほど」
俺がワープできることは変わらない。でも、その使い方を考える人が増えれば、関係する仕事も増える。その中には、俺一人では判断できないこともある。
「……でも、よかったです」
「何がですか?」
「日本にいて」
白石さんが、少し不思議そうな顔をした。
「いや、今回の会議で思ったんですよ。もし俺が別の国に住んでいて、そこでワープ能力が使えるようになってたら、どうなってたんですかね?」
「それは、国によってかなり違うと思います」
「ですよね」
「法律や制度も違いますし、政府との関係も変わるでしょうね」
「……ああ」
俺は少し考えた。日本だって、最初から全部うまくいったわけじゃない。政府との協力が始まる時には、いろいろ話し合った。検査も受けたし、能力を使う条件についても確認した。
それでも、今の俺は仕事を断ることができている。アメリカからの5億円規模の提案だって断ったし、他の国からの長期契約も引き受けなかった。それなのに、白石さんたちは俺が断ったことを責めるどころか、今後は条件の合う案件だけを紹介できるようにすると言ってくれている。
「……俺、結構自由ですね」
「そうですね」
「政府から仕事を頼まれても、嫌だったら断っていいんですよね?」
「はい。これまでどおり、松さんご本人の意思を尊重します」
「……ありがたいですね」
もちろん、何をしても許されるわけじゃない。危険なことをすれば責任を問われるだろうし、法律を守らなければいけない。それはワープ能力があってもなくても同じだ。
でも、自分の能力を使って働くかどうかを、自分で決められる。これは俺にとって、かなり大事なことだ。
「……俺、日本に守られてるんですね」
白石さんは少し考えてから答えた。
「そういう面はあると思います。ただ、松さんだけが特別というわけではありません。日本で暮らす人の権利や自由を守る仕組みがあって、そのうえで今回の協力体制があるんです」
「……ああ、なるほど」
確かに。俺だけのために法律があるわけじゃない。
普段はあまり意識していないけど、仕事を選んだり、住む場所を決めたり、好きなことをして暮らしたりできるのは、そういう仕組みがあるからだ。
「でも、外国との仕事になると、日本の法律だけじゃ済まないんですよね?」
「そうですね。相手国の制度や、国際的な取り決めも関係してきます」
「……ですよねえ」
俺は、今回の交渉を思い出した。どこの国も、自分たちに必要なものを考えて依頼してきていた。別に、俺の自由を奪おうとしていたわけじゃない。
でも、向こうには向こうの事情があって、俺には俺の希望がある。それが一致しなければ、話はまとまらない。
「……じゃあ、日本の立場が弱かったらどうなるんですか?」
「日本の立場、ですか?」
「はい。外国と交渉する時に、日本の意見があんまり通らなかったら、俺も困るのかなって」
白石さんは、少し考えてから答えた。
「国の力だけで、松さんの権利が決まるわけではありません。ただ、日本が国際的な信用や交渉力を持っていることは、選択肢を確保するうえで重要だと思います」
「選択肢ですか?」
「例えば、ある国から協力を求められた時に、別の方法を提案したり、条件を調整したりすることですね。日本が信頼できる協力相手だと認識されていることも、交渉を進めるうえでは大切です」
「……なるほど」
俺がいくらワープできても、外国との約束を全部一人で決められるわけじゃない。まして、相手は政府だ。日本政府が間に入ってくれることで、俺は専門的な確認を任せたり、自分の希望を伝えたりできている。
「……じゃあ、日本がもっと強くなったら、俺も仕事しやすくなるかもしれないんですね」
「そうですね。ただ、何をもって強いとするかにもよりますが」
「……ああ、そうか」
強い国。
そう言われると、最初に軍事力が思い浮かぶ。でも、別に日本が戦争に強くなれば、俺の仕事が楽になるという話でもないだろう。そもそも、俺は軍事利用が気になってアメリカの仕事を断ったんだ。
「例えば、経済力とかですか?」
「そうですね。経済力や技術力、産業基盤なども重要な要素です」
「……産業基盤?」
「国内に企業や技術者がいて、必要な設備やサービスを作ったり、維持したりできることですね」
「ああ、なるほど!」
工場がある。技術者がいる。設備を作れて、壊れたら直せる。そんな感じだろうか。
「でも、外国から買えばいいんじゃないですか?」
「もちろん、海外との取引も重要です。すべてを国内で作る必要があるわけではありません」
「ですよね」
「ただ、特定の国や企業に依存しすぎると、何か問題が起きた時に、代わりの手段を確保するのが難しくなる場合があります」
「……ああ」
何となく分かる。例えば、パソコンが壊れた時。交換部品が普通に売っているなら、それを買えばいい。
でも、世界中で一つの会社しか作っていない部品だったら?その会社が販売をやめたら、困る。
「……つまり、選択肢が多い方がいいんですね」
「そうですね。国内で対応できる能力を持つことも、海外と協力することも、どちらも大切です」
「なるほどなあ」
そういえば、今回の外国政府からの依頼も、大型設備を運んでほしいというものが多かった。変圧器、発電機、建設機械。
そういう設備を運ぶには、相当な費用や時間がかかるらしい。でも、俺なら短時間で運べる可能性がある。
「……あれ?」
「どうしました?」
「例えばですよ。外国の設備を運ぶだけじゃなくて、日本の企業が作った設備を運んだら、どうなるんですかね?」
「日本の企業が作った設備、ですか?」
「はい! 俺が外国から輸送費をもらうだけじゃなくて、日本の企業が設備を売って、それを俺が運ぶんです」
白石さんが少し考えた。
「それは、事業の組み合わせとして考えられると思います」
「ですよね!」
俺は少し身を乗り出した。
「だって、日本の企業が大きな設備を作って、外国の企業がそれを買ってくれたら、俺はそれを運べばいいじゃないですか!」
「そうですね。ただ、実際には輸出入の手続きや、設備の規格なども確認する必要があります」
「ああ、そこはもちろん専門家の人に!」
白石さんが笑った。
「……俺、そういうの全然分からないので!」
「ふふ。輸送を担当する人が、設備の製造から販売まですべて詳しくなる必要はありませんからね」
「ですよね!」
例えば、日本の工場で大型設備を作る。外国の会社がそれを買う。俺が運ぶ。
普通なら輸送に何週間もかかる大型設備でも、輸送自体を短時間で済ませられるなら、日本の設備を選んでもらえる理由が一つ増えるかもしれない。
もちろん、品質や価格だって重要だ。輸送が早いからといって、何でも売れるわけじゃない。でも、日本の企業に仕事が増えれば、工場や技術者の仕事にもつながる可能性がある。
「……ああ、そうか」
俺は、今までワープで何を運ぶかばかり考えていた。
どこからどこまで運ぶのか。何時間かかるのか。いくらもらえるのか。でも、その物を誰が作っているのかまでは、あまり考えていなかった。
「……俺が輸送費を稼ぐだけじゃなくて、日本の会社にも仕事が増えるかもしれないんですね」
「そうですね。実際に成立するかは別として、そういう可能性はあると思います」
「……結構いいですね!」
自分が働けば、自分にお金が入る。それは当然だ。
でも、俺の能力を使ったことで、日本の企業にも仕事が増えるなら?日本に製造技術や仕事が残って、それが次の仕事につながるなら?
「……俺が稼いで終わりじゃなくて、日本に何か残せたらいいんですね」
口にしてから、少し不思議な気分になった。今まで、自分がFIREするために何をするかばかり考えていた。それなのに、いつの間にか日本の経済のことまで考えている。
「松さんは、そうした事業にも興味がありますか?」
「面白そうではありますね!」
俺はうなずいた。ただ、一つだけ言っておかなければならない。
「でも、俺が工場を経営するとかは嫌ですよ?」
白石さんが笑った。
「まだ、そこまではお話ししていませんよ」
「いやあ、なんか話が大きくなりそうだったので!」
危ない危ない。日本を強くするために工場を作って、従業員を雇って、毎日管理する。そんなことになったら、FIREどころじゃない。
「俺はワープするだけで、あとは専門家の人に任せたいですね!」
「それも役割分担ですね」
「そうです! 俺が全部やってたら、時間がいくらあっても足りませんし!」
そもそも、一人でできることには限界がある。俺が得意なのは、ワープすることだ。それ以外のことまで全部やろうとしたら、きっと効率が悪い。
「……それにしても、日本を強くするって、いろいろあるんですね」
「そうですね。経済や技術だけではなく、外交、教育、社会の制度など、さまざまな面があります」
「……全部考えるの、大変そうですね」
「簡単なことではありませんね」
「ですよねえ」
俺は椅子にもたれた。
国を強くする。言葉にすると簡単だけど、何をどうすればいいのか、全然分からない。
経済が良くなれば、それだけで国が強くなるのか?技術力が上がればいいのか?外交で発言力を持つには、何が必要なのか?考えることが多すぎる。
「……あ、でも」
「はい?」
「別に、日本が他の国より偉くなってほしいとか、そういう話じゃないですよ」
白石さんがうなずいた。
「はい」
「俺が安心して暮らせて、外国と仕事する時も困らなくて。日本の会社も元気になってくれたら、いいなって」
そういうことだ。日本が強くなったからといって、誰かの自由がなくなるようでは困る。俺が欲しいのは、安心して好きなことをして暮らせる環境だ。
そのために、日本が外国とも対等に話し合えて、必要なものを作ったり買ったりできる。できれば、その中に俺のワープも役立てられたら面白い。
「……まあ、結局は自分のFIREのためなんですけどね!」
白石さんが笑った。
「松さんにとっては、それが大きな目標ですからね」
「そうなんですよ!」
日本が強くなる。俺も自由に暮らせる。日本の企業にも仕事が増える。それなら、悪くない話だと思う。
ただし。
「……日本を強くするために、俺の仕事が増えすぎるのは嫌ですけど!」
「ふふ。そこは変わらないんですね」
「もちろんです!」
世界中から仕事が来た結果、俺は会議に追われるようになった。日本を強くしようとして、また会議が増えたら困る。
「……俺、普通にFIREしたいだけなんだけどなあ」
なんでこんなに話が大きくなるんだろう。白石さんと顔を見合わせて、二人で笑った。
しばらくして、俺は帰り支度を始めた。
「……あ、そうだ!」
「どうしました?」
「今回の話、配信ネタにできませんか?」
「配信、ですか?」
「はい! 世界中から仕事の依頼が来たって、結構面白いじゃないですか!」
そもそも、普通の会社員が外国政府と何度も会議するなんて、なかなかない経験だ。俺だって初めてだった。しかも、世界中から仕事の相談が来たのに、長期契約をほとんど断っている。我ながら変な話だと思う。
「……具体的には、どのようなお話をされる予定ですか?」
「そうですねえ。外国の人と会議するのが大変だった話とか、仕事が増えそうになって断った話とか!」
白石さんが少し笑った。
「確かに、松さんらしいお話になりそうですね」
「ですよね!」
「ただし、交渉内容には公開できない情報もあります。国名や具体的な契約条件、報酬などは、事前に確認する必要がありますね」
「ああ、もちろんです!」
俺だって、勝手に外国政府の契約書を公開するつもりはない。というか、そんなことをしたら、また面倒な会議が増えそうだ。それは絶対に嫌だ。
「じゃあ、どこまで話していいか確認してもらえます?」
「はい。今回の面談について、公開できる範囲を整理します」
「ありがとうございます!」
「相手国が特定できる情報だけでなく、話し合った内容にも注意が必要ですので、配信前に一度確認させてください」
「了解です!」
それなら、先に準備だけしておけばいいだろう。配信自体は、久しぶりにいつもの山からやりたい。
「……よし。久しぶりに生配信するか!」
「公開範囲が確認できましたら、ご連絡しますね」
「お願いします!」
俺は白石さんに礼を言い、会議室を後にした。今日も随分長い時間、世界のことを考えてしまった。
日本を強くする方法か。面白そうだけど、今すぐ何か思いつくわけでもない。
「……まあ、少しずつ考えるか」
まずは、家に帰って休もう。
帰宅後。
夕食を済ませた俺は、パソコンを開いた。
「……いやあ、疲れたなあ」
改めて予定表を確認すると、最近は外国政府との面談が随分増えていた。本業の仕事に、政府との打ち合わせ。航空会社の仕事もあるし、YouTubeだって続けたい。
「……これ、普通の会社員より忙しくなってない?」
最近は面談が増えて、FIREを目指しているのに働く時間まで増えている。ただ、今回の経験で、国によってワープに期待する使い道が違うことも分かった。
外国と仕事をするには、俺がワープできるだけでは足りない。
「……日本政府には、本当に助けられてるな」
契約の確認も通訳も、俺一人ではとてもできなかった。頼れる人がいるから、仕事を断る自由まで守れているんだろう。
「……日本が強くなる方法かあ」
俺はAIの画面を開いた。聞いてみようか。
日本の経済を強くする方法。外交で発言力を高める方法。技術力を伸ばす方法。
質問はいくらでも思いつく。でも、どれも大きすぎる話だ。
「……さすがに、今日考えるには重いな」
俺は入力するのをやめた。別に、明日すぐ日本を強くしなきゃいけないわけじゃない。そもそも、俺は政治家でも経営者でもない。
普通の会社員だ。
……まあ、世界中から仕事の依頼が来る普通の会社員というのも、随分変だけど。
「……あ、そうだ」
俺は動画配信の準備画面を開いた。久しぶりに、いつもの山から雑談配信をしようと思う。
家から配信してもいいけど、あの場所は結構気に入っている。人がいないことを確認しやすいし、景色もいい。それに、空中スイマーの姿で配信しても、家の中が映らない。
「……やっぱり便利だよな、あそこ」
まずはタイトルを考える。
『外国政府と会議しました』
……なんか、堅い。
『世界中から仕事が来ました』
……少し大げさか?
いや、実際にいろいろな国から問い合わせは来ている。間違ってはいない。
「……うーん」
しばらく考えてから、タイトルを入力した。
『【雑談】世界各国と仕事の話をしてきました!』
「……おお、いいじゃん!」
何を話す配信なのか分かりやすい。もちろん、まだ公開範囲の確認は終わっていない。タイトルも含めて、白石さんに確認してもらってから決めればいいだろう。
俺は配信設定を下書きとして保存した。
「……これ、結構面白い話になるんじゃないか?」
普通の会社員が、世界中から仕事の依頼を受ける。それなのに、仕事を増やしたくないから断る。
「……コメントで絶対突っ込まれるよな」
『仕事増やしてどうするんだよ』
そんなコメントが来そうだ。でも、俺としては本気だ。仕事を辞めるためにお金を貯めているのに、仕事を増やし続けたら意味がない。
「……まあ、そこも含めて話すか!」
それから、日本について考えた話。自分の能力がすごくても、それだけでは外国と仕事ができないこと。いろいろな人に支えられていること。日本がもっと強くなれば、自分の選択肢も増えるかもしれないこと。
「……いや、そこまで話すと長くなるかな?」
雑談配信だ。難しい説明をする必要もないだろう。公開できる範囲で、コメントを読みながら話せばいい。
「……よし!」
俺はパソコンを閉じた。白石さんから公開範囲の確認が来たら、配信の日程を決めよう。
久しぶりの生配信だ。世界中の政府と会議するより、視聴者と雑談している方が、ずっと気楽だと思う。
……たぶん。
それにしても。
「……日本が強くなって、俺の仕事が減る方法ってないのかなあ」
そんな都合のいいことを考えながら、俺は今日の作業を終えた。
次回、第73話「世界と交渉しました」
次回更新:11月1日 20:10予定




