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ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん
第7編ワープ影響編

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第71話 5億円でも、辞められないなら無理です

外国政府との面談当日。


俺は仕事を終えたあと、政府の施設へ向かった。今回の相手はアメリカ政府だ。世界中から問い合わせが来るようになったとは聞いていたけど、まさかアメリカと直接仕事の話をすることになるとは思わなかった。


「お疲れさまです!」


「お疲れさまです、松さん。今日はよろしくお願いします」


白石さんが出迎えてくれた。案内された会議室には、大きなモニターが設置され、日本政府側の担当者も集まっていた。通訳の方もいる。


「……なんか、本格的ですね」


「先方からは、事前に具体的な協力条件の提案書をいただいています。今日はその説明と、松さんのご意向を確認する面談になります」


「おお! もう資料があるんですね!」


「はい。日本政府側でも内容を確認しています。ただし、こちらが契約を承認したわけではありません」


「もちろんです!」


俺は席に座り、机に置かれた資料を開いた。英語の原文と、日本語に翻訳された資料が並んでいる。


業務内容、契約期間、報酬、活動条件。


「……結構しっかりしてるな」


「かなり具体的に検討されているようです」


「へえ……」


さすがアメリカ。というか、政府同士の話になるんだから、これくらい準備するのが普通なのかもしれない。


ただ、資料を全部読んでいたら、面談が終わってしまいそうだ。


「……まあ、説明聞いてから考えるか」


俺は資料を閉じた。予定時刻になった。


モニターにアメリカ政府の担当者たちが映る。簡単な挨拶を交わしたあと、先方の代表者が説明を始めた。


「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。私たちは、松様の能力について非常に高い関心を持っています」


通訳を通して説明を聞く。


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


「今回、私たちが提案するのは、アメリカ国内における大型設備の輸送と、緊急時の輸送支援に関する長期協力です」


「はい!」


画面に資料が表示された。最初に映ったのは、大型の変圧器だった。発電所や変電所で使用する設備らしい。


「現在、こうした大型設備の輸送には、専用車両や輸送経路の確認、道路の補強など、多くの費用と時間が必要になります」


続いて、別の写真が表示される。橋梁の部材、大型発電機、災害対応用のポンプ設備。


「松様のワープ能力を活用できれば、これらの設備を短時間で移動させ、インフラ整備や災害復旧の効率を大幅に改善できると考えています」


「なるほど!」


これは分かる。俺も豪雨災害で重機や資材を運んだ経験がある。実際、物を運ぶだけでもかなり役に立てた。


「ただし、俺が自由にどこへでも運べるわけじゃありませんよ?」


「承知しています。輸送先の安全確認、搬入経路、設備の受け入れ準備については、こちらの専門家が担当します」


「それなら助かります!」


俺が設備の設置方法まで考える必要はないらしい。仕事としては、これまでやってきたことに近い。


「それでは、具体的な協力条件をご説明します」


画面が切り替わった。


契約期間、5年間。


定期輸送業務は年間最大12回。


1回の活動時間は、原則として8時間以内。


日程は原則30日以上前に調整する。


「……おお」


思ったより具体的だ。毎月1回程度なら、航空会社の仕事と似ている。もちろん、8時間となると少し長いけど。


「なお、松様がアメリカ国内に居住する必要はありません。日本での生活や現在のお仕事を続けていただくことを前提としています」


「本当ですか!」


それはありがたい。わざわざ外国に引っ越す必要がない。俺の場合、ワープすれば移動時間も短くできる。


「定期業務の日程についても、既存のお仕事を考慮して調整します」


「それなら、結構いい条件ですね!」


正直、少し興味が出てきた。これで報酬が高ければ、普通に副業として成立しそうだ。


ただ、資料にはもう一つ項目があった。


緊急対応。


「……これは?」


「災害などが発生した場合に備え、年間4週間の緊急対応待機期間を設定したいと考えています」


「4週間?」


「はい。年間を通じて連続した待機を求めるものではありません。事前に日程を決め、その期間中のみ優先的な対応をお願いする形です」


なるほど。つまり、年間28日程度。その期間は、緊急の仕事が入る可能性があるということか。


「待機期間中に要請があった場合、原則2時間以内に回答し、活動を引き受けた場合は12時間以内の対応開始をお願いしたいと考えています」


「……ああ」


結構大変だな。しかも、アメリカとは時差がある。日本では夜中でも、向こうでは昼間だったりする。


「ちなみに、その4週間って、夜も対応するんですか?」


「はい。待機期間中は24時間の連絡体制を想定しています」


「……なるほど」


俺はメモを取った。


年間最大12回の定期輸送。


年間4週間の緊急待機。


緊急時には夜間対応もあり。


……これ、思ったより拘束されるな。


「続いて、報酬についてです」


画面に数字が表示された。


5年間で最大350万ドル。


参考円換算、約5億円相当。


「……え?」


俺は画面を見直した。


「ご、5億円!?」


思わず声が大きくなった。白石さんが少し笑う。


「松さん、落ち着いてください」


「いや、5億円ですよ!?」


相手国の担当者も笑顔になる。説明によれば、年間40万ドルの基本報酬を5年間支払い、さらに実際の輸送業務に応じた報酬が加算される。


基本報酬の合計は200万ドル。追加報酬を含めた5年間の上限が350万ドルという提案だった。


「……なるほど」


つまり、仕事が想定より少なければ5億円相当には届かない。それでも、基本報酬だけでかなりの金額だ。


しかもドル建て。為替相場によって円換算額は変わるけど、それを考えても大きい。


「……すごいですね」


正直、魅力的だ。5億円もあったら、かなり余裕のある生活ができる。もちろん、税金もあるし、全部が手元に残るわけじゃない。でも、今までの仕事とは桁が違う。


「……これ、本当に俺に払うんですか?」


「はい。松様の能力には、それだけの価値があると判断しています」


「……へえ」


なんだか、すごいことになっている。俺、普通の会社員なんだけどな。


「一つ確認したいんですけど」


俺は資料を見ながら質問した。


「契約期間が5年間ってことは、途中で辞めることもできるんですか?」


相手側の担当者がうなずく。


「はい。今回の提案では、180日前までに書面で通知することで、契約を終了できる条項を設けています」


「……半年?」


「はい。輸送計画や代替手段の準備に時間が必要となるためです。ただし、すでに支払われた未履行分の報酬については精算が必要になります。通常の中途終了そのものに対する違約金は設けていません」


「なるほど!」


ちゃんと決まってるんだな。半年待てば辞められる。別に、一生働かされるわけじゃない。


しかも、向こうにも設備計画がある。俺が突然辞めますと言ったら困るだろう。そのための半年ということか。


「……合理的ですね」


俺はうなずいた。


ただ。


「……でも、半年かあ」


半年後に辞められるとはいえ、その間は契約が続く。年間4週間の緊急待機もある。5年間という期間も、俺にとっては結構長い。


「……ちなみに、1年間だけっていう契約はできないんですか?」


相手側が答える。


「短期間の試験的な協力も検討できます。ただし、長期的な輸送能力の確保が今回の提案の目的ですので、報酬や業務範囲は改めて設定する必要があります」


「……ああ、なるほど」


そりゃそうか。向こうは1回だけ物を運んでほしいわけじゃない。これから何年も利用できる輸送手段として、俺の能力を確保したいんだ。だからこその高額報酬。


「……うーん」


よくできた提案だとは思う。でも、だからこそ悩ましい。


「もう一つ、確認してもいいですか?」


「もちろんです」


俺は資料の後半を開いた。そこには、災害対応に関する項目があった。アメリカの州兵や軍の工兵部隊が、災害対応に参加する場合もあるらしい。


「……あの、これって軍事利用にも関係するんですか?」


相手側の担当者が答える。


「今回の提案は、民間インフラの輸送と災害対応を主目的としています。武器、弾薬、戦闘部隊の輸送や、戦闘作戦への直接協力は契約対象に含めていません」


「……ああ、よかった」


そこはちゃんと区別しているらしい。


ただ、説明は続いた。


「一方で、災害救援に参加する軍の工兵部隊が使用する設備や、軍民共用のインフラ設備については、輸送対象になる場合があります」


「……なるほど」


例えば、災害現場に軍の車両が来て、人を助けている。その車両や資材を運ぶ。それなら、俺も別に嫌じゃない。


実際、日本でも災害が起きたら自衛隊が活動する。それと同じようなものだろう。


でも。


「……軍民共用って、どういうことですか?」


「例えば、軍施設と民間施設の双方に電力を供給する設備などです。輸送する設備の用途と利用主体については、事前に説明し、個別の業務ごとにご本人の同意を得ることを想定しています」


「……ああ」


つまり、契約内容ははっきりしている。何に使う物なのかも説明してくれる。俺が断れる仕組みもある。


ただ、それでも少し気になった。


「……でも、俺が運んだ物が、その後どう使われるかまでは分からないですよね?」


「すべての将来的な用途を保証することはできません。ただし、契約で定めた用途や対象を超える輸送については、改めて同意が必要になります」


「……なるほど」


俺はうなずいた。アメリカ側の説明は筋が通っていると思う。別に、俺を騙して軍事利用しようとしているわけでもなさそうだ。


それでも、外国の軍事や安全保障に関わる可能性があるというのは、少し怖い。俺はアメリカの軍事政策に詳しいわけじゃない。国際情勢だって、ニュースで見ている程度だ。


「……俺、あんまり軍事的なことには関わりたくないんですよね」


「その点は尊重したいと考えています」


「ありがとうございます」


俺は少し考えた。例えば、災害で困っている人がいたら助けたい。そのために軍隊が使っている車両を運ぶ必要があるなら、協力すると思う。


でも、いつか戦争に使われるかもしれない設備を運ぶとなったら?どこまでが人道支援で、どこからが軍事支援なのか。


「……難しいですね」


「そうですね」


白石さんが答えた。


「能力の利用範囲については、松さんだけで判断せず、日本政府側でも確認する必要があると思います」


「ですよね」


これ、俺一人で決めるような話じゃない。そもそも、外国政府と軍事に関係する契約をするなら、日本側との調整だって必要になるだろう。


「……うーん」


ますます考えることが増えてしまった。


「松様、現時点でのご意向はいかがでしょうか?」


相手側の代表者が尋ねた。俺は資料を見直した。


仕事内容は明確だ。報酬も高い。契約期間も決まっている。


途中終了の条件もある。軍事利用についても、一定の制限が設けられている。


無茶な提案ではないと思う。むしろ、俺の希望をかなり考慮してくれている。


「……そうですね」


少し考えてから答えた。


「まず、すごく魅力的な提案だと思います!」


相手側がうなずく。


「ありがとうございます」


「5億円なんて、普通に考えたらすごいですからね!」


本当にそうだ。こんな金額を提示されるなんて、人生で二度とないかもしれない。


「……でも、今回はお断りしたいです」


通訳が伝える。相手側の代表者が、少し意外そうな表情を見せた。


「差し支えなければ、理由を伺ってもよろしいでしょうか?」


「はい!」


俺は資料を見ながら答えた。


「俺、FIREしたいんですよ」


通訳の方が、FIREという言葉の意味を補足してくれる。


経済的自立。早期退職。働かなくても生活できる状態。


相手側の担当者がうなずいた。


「今回の報酬は、その目標を実現するうえでも大きな助けになると考えています」


「そうなんですよ! そこは本当にそう思います!」


俺も笑った。


「でも、俺が欲しいのって、お金だけじゃないんです」


少し考えてから、続けた。


「そのお金を使って、自由に生活できる時間が欲しいんですよ」


毎月決まった仕事をする。年間4週間は緊急対応に備える。


日本で生活できるとはいえ、その期間は夜中の連絡も気にしなきゃいけない。辞めたくなったら、半年先まで考える必要がある。


「契約条件としては、ちゃんとしてると思います。でも、その生活を5年間続けたいかと言われると……」


俺は首をかしげた。


「……正直、あんまりやりたくないんですよね」


「なるほど」


「今でも日本で稼ぐ方法はありますし、短時間で終わる仕事もあります。だから、これ以上仕事を増やす必要があるのかなって」


俺はまだFIREできていない。でも、そこへ向かう方法は見つかり始めている。


それなのに、5年間の新しい仕事を増やす。しかも外国政府との契約。


「……俺、仕事を辞めるために稼いでるんですよ」


少し笑った。


「なのに、5億円をもらうために5年間の仕事を増やしたら、何のためにFIREを目指してるのか分からなくなっちゃうんです」


相手側は黙って聞いていた。


「もちろん、半年で辞められる条件も理解しています。でも、俺はもっと気軽に予定を変えたり、休んだりできる生活にしたいんですよね」


旅行に行きたいと思ったら行く。家でゲームをしたいなら、ゲームをする。漫画を読んで、アニメを見て、YouTubeの動画を作る。仕事をしない日があってもいい。


そういう生活を目指している。


「……あと、やっぱり日本が好きなんですよ」


相手側が少し笑った。


「日本での居住は継続していただけますが、それでも負担になりますか?」


「そうですね!」


俺はうなずいた。


「移動時間は短くできますけど、現地での仕事は別ですから。言葉も通じませんし、食事や生活環境も違います」


もちろん、通訳も現地の支援も用意してくれる。でも、日本で仕事をするのとは違う。


慣れた環境で、好きなことをして過ごせる時間。それも俺にとっては大事だ。


「為替によっても金額の魅力は変わりますし、今の自由な時間を削ってまで引き受ける仕事なのかなって」


それから、もう一つ。


「軍事関係の話も、やっぱり気になってます」


俺は資料を見た。


「今回の条件が悪いと言ってるわけじゃありません。でも、今後もそういう判断をする機会が増えるなら、俺にはちょっと荷が重いです」


相手側の代表者がうなずいた。


「ご意向は理解しました。私たちとしては、必要な能力を長期間確保することに価値があると考えています。一方で、その条件が松様の希望する生活と一致しないことも理解しました」


「ありがとうございます!」


ちゃんと伝わったようだ。


「なお、今回の長期協力とは別に、個別の輸送案件についてご相談することは可能でしょうか?」


「はい! それなら大丈夫です!」


俺は即答した。


「仕事内容と日程、報酬を見て、その都度判断できるなら、ぜひお願いします!」


「承知しました。今回のご意見を踏まえ、提案内容を再検討いたします」


「ありがとうございます!」


こうして、アメリカ政府との初めての面談は終了した。通話が切れた。


「……ふう!」


俺は椅子にもたれた。


「いやあ、疲れたー!」


白石さんが笑う。


「お疲れさまでした」


「5億円、惜しかったかなあ!」


「かなり悩まれていましたね」


「そりゃ悩みますよ! 5億円ですよ!?」


本当に惜しい。でも、受け取るためには仕事をしなきゃいけない。しかも、その仕事に5年間も予定を合わせることになる。


「……まあ、契約する前に分かってよかったです」


「そうですね。先方も、松さんの希望を理解してくださったと思います」


「ですね!」


俺は立ち上がった。


「じゃあ、今日はありがとうございました!」


「こちらこそ。お気をつけてお帰りください」


「はい! また何かあったらお願いします!」


政府施設を出る前に、安全な移動先を確認する。そして、いつものようにワープした。


松が帰ったあと。


会議室には、白石凪と政府側の担当者たちが残っていた。


「……想定以上に、契約の自由度を重視されましたね」


担当者の一人が口を開いた。


「はい」


白石はうなずいた。


「以前から、その傾向はありました」


「最大5億円相当の提案でも、すぐには動かないとは」


責任者が資料に目を落とす。


「報酬に関心がないわけではないんですよね?」


「むしろ、非常に関心があります」


白石は答えた。


「ただ、松さんにとってお金は、自由な生活を実現するための手段なんです」


「なるほど」


「拘束の枠は示されていましたが、緊急要請がいつ入るかは読めず、5年間の生活を考えると負担が大きかったのだと思います」


別の担当者が発言する。


「外国側の事情も理解できます。大型輸送を国家の計画に組み込むなら、長期間の協力を保証してほしいという要求は合理的です」


「そうですね」


「ただし、それを松さん本人が望むかどうかは別問題です」


責任者がうなずいた。


「そして、軍事利用の問題もあります」


会議室の空気が少し引き締まる。


「今回の相手国が、直ちに軍事輸送を要求したわけではありません。しかし、今後同様の提案が増えれば、軍事と民生の境界が曖昧な案件も出てくるでしょう」


「はい」


白石も同意した。


「松さん自身、その点をかなり気にされていました」


「本人が理解しないまま、国家間の問題に巻き込まれることは避けなければなりませんね」


「そう思います」


責任者は資料を閉じた。


「それと、もう一つ」


「何でしょうか?」


「今回のように、外国政府が直接協力を求める機会が増えるのであれば、本人の安全確保も改めて検討する必要があります」


白石が姿勢を正した。


「現在の生活について、でしょうか?」


「そうです。外国政府からの関心が高まれば、接触を試みる組織や人物が出てくる可能性もあります」


「……確かに」


「もちろん、現時点で具体的な危険が確認されているわけではありません。ただ、今後の対応体制は整えておいた方がいいでしょう」


担当者がメモを取る。


「連絡窓口の一本化や、個人情報の保護については継続して確認します」


「それから、居住場所や移動先についても、必要に応じて選択肢を増やせないか検討してください」


「複数の滞在拠点ということでしょうか?」


「それも一案です。ただし、本人が望まない生活上の制約を増やしては意味がありません。まずは実現可能性を調べる段階にとどめましょう」


「承知しました」


白石は、先ほどの松の言葉を思い出していた。


『俺、FIREしたいんですよ』


最大5億円。


普通なら、その金額だけで大きな決断をする人もいるだろう。しかし、松さんは違った。


お金は欲しい。でも、自分の時間も欲しい。


人を助けたい。でも、戦争には関わりたくない。


仕事は面白そうだと思う。でも、いつまでも仕事に追われる生活は嫌だ。


白石は小さく笑った。


本当に、あの人らしい。


「では、今後の海外案件については、依頼内容と軍事利用の可能性、拘束条件を事前に整理したうえで、本人に提示する方針としましょう」


「承知しました」


会議は、そこで終了した。


自宅に戻った俺は、夕食を済ませてパソコンを開いた。


「……いやあ、5億円かあ」


まだ少し気になる。


5億円。


実際に手に入るわけじゃないし、契約を結んだわけでもない。それでも、すごい金額だった。


「……でも、5年間か」


最大5億円のために、定期的な仕事と緊急対応を続ける。しかも外国政府との契約。仕事内容によっては軍事利用の問題も出てくる。俺には、ちょっと荷が重い。


「……まあ、単発ならやってもいいんだけどな」


例えば、巨大な設備を1回運んで数百万円。そんな仕事なら、普通に魅力的だ。もちろん、安全確認や契約内容にもよるけど。


「……そっちの方が俺には合ってるよな」


俺はパソコンの画面を切り替えた。そこには、以前調べていた防犯活動の情報が残っていた。


「……ああ、そうだった」


犯罪を減らす方法。まだ何も決まっていない。


外国政府との話も大事だけど、俺が最初に考えていたのはこっちだ。


「……まずは、こっちを何とかしたいな」


画面をスクロールする。


防犯パトロール。


地域の見守り活動。


警察への通報。


いろいろある。でも、普通のパトロールをするだけなら、別にワープ能力は必要ない。


俺だからできること。何かないだろうか。


「……そういえば」


ふと思いついた。犯罪が起きる場所を予測するのは難しい。でも、犯罪をしようとしている人が、実際に目の前に現れたら?


「……例えば、俺が囮になったら?」


口にしてから、少し考えた。もちろん、危険なことをするつもりはない。そもそも、そんなことを勝手にやっていいのかも分からない。


でも、ワープなら危険な場所から離れることができる。もし相手が襲ってきたとしても、逃げること自体は普通の人より得意なはずだ。


「……いや、待てよ」


相手が本当に犯罪をするつもりなのか、どう判断するんだ?俺を襲おうとした人を、そのまま警察に引き渡せるのか?逆に、俺が犯罪を誘発したことにならないのか?


「……分からんな」


俺はAIの入力欄を開いた。


『犯罪を防ぐために、自分が囮になる方法はありますか? 違法にならないか、安全面も含めて教えてください』


入力してから、手を止めた。


「……まあ、まずは調べるだけだな」


勝手に行動して問題を起こしたら、白石さんにも迷惑がかかる。実際に何かするなら、警察や白石さんに相談してからだ。


それに、外国政府との交渉で疲れたばかりだ。今日はもう、難しいことをしたくない。


「……とりあえず、AIの回答だけ読んでおこう」


送信。


画面に文字が表示され始めた。俺は椅子にもたれながら、その回答を読み始めた。


……それにしても、犯罪を減らす方法って、思ったより難しいな。

次回、第72話「俺、日本に守られてるんだな」


次回更新:11月1日 12:10予定

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