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ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん
第6編ワープ旅行編

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第65話 稼いだのに、税金が高すぎる!

11月下旬。


俺はパソコンで、YouTube Studioを開いていた。


「……おお、結構伸びてるな!」


先日配信した、オキガルスカイダイビング。ワープで空へ移動して、ただ落ちる。それだけの企画だったけど、思ったより反応が良かった。特に、海面すれすれで急停止する場面だ。


『ゲームのバグみたい』


『人間の止まり方じゃない』


『どうやってあんなに急停止したんだよw』


「……まあ、俺も変な映像だと思う」


実際に落ちている時は結構怖かったけど、岸の固定カメラから見ると、突然空から人が落ちてきて、海面すれすれでピタッと止まったように見える。


「これ、切り抜きにしたらもう少し伸びるかな?」


そんなことを考えながら、ほかの動画も確認する。北海道での魚捕り、旅行後の雑談、航空関係の動画。企画によって差はあるものの、過去のアーカイブも結構見られていた。


「……そういえば、今月いくらになってる?」


収益画面を開く。


11月の推定収益。


「……30万円?」


まだ月末ではないし、確定額でもない。それでも、表示されている金額は30万円に近かった。


「えっ、普通にすごくない?」


以前、政府との正式協力を発表した時は、特別な注目が集まって一度に15万円を超える推定収益が出た。でも、今はそんな大事件が起きているわけじゃない。


雑談して、魚を捕って、空から落ちているだけだ。


「……いや、最後は普通じゃないか」


自分で言って笑ってしまった。それでも、休日にやりたいことをして、これだけ稼げるなら嬉しい。


月30万円。この調子で1年間続けば、360万円。


「……YouTubeだけで年収360万円か!」


会社の給料と同じくらい稼げる可能性がある。


「結構すごいな、これ!」


もっとも、YouTubeを始めたのは10月に入ってからだ。今年の収益は、まだそこまで大きくならない。


「……じゃあ、今年はいくらになりそうなんだ?」


気になってきた。俺は以前作った『空中スイマー事業』の管理表を開き、AIに相談することにした。


『今年の収入を整理して、2027年3月の確定申告までに必要なお金を試算してください』


まず、会社の給料。アルタークからの額面年収は、賞与を含めて約350万円になる見込みだ。


次に副業。初めてのワープ体験便が150万円。政府からの旅客機緊急救助と豪雨災害対応の案件報酬が、合わせて200万円。


「この350万円は、もう振り込まれてるな」


あの日は驚いた。副業で350万円も入ってきたのに、俺が真剣に悩んで買ったのは1万円ちょっとの包丁と砥石だった。


「……あれはいい買い物だったな」


今でも満足している。


そして、航空会社の4機リレー。羽田から新千歳、新千歳から福岡、福岡から那覇、最後に那覇から羽田。約1時間で飛行機4機をワープさせた仕事だ。


「報酬375万円。まだ最終精算待ち、と」


ここまでの航空・政府案件は合計725万円。


十分すごい。


……ん?


「……そういえば、飛行機の仕事って月1回だよな?」


以前、航空会社と決めた条件を見返す。月1回程度、約1時間、飛行機4区間。予定外の5便目は追加しない。


俺としては、なかなかいい働き方だと思っている。休日を全部潰す必要もないし、約1時間ならほかのこともできる。


「……で、これが毎月375万円だったら?」


電卓を開く。375万円、掛ける12。


「……4,500万円?」


もう一度確認する。


「4,500万円!?」


思わず声が大きくなった。


「えっ、航空会社の仕事だけで年4,500万円!?」


もちろん、毎月同じ金額で仕事ができると決まったわけじゃない。今回の4機リレーは実証運航だったし、航空会社も需要や採算を確認している。路線や販売価格が変われば、報酬も変わるかもしれない。


それでも。


「……月1回、約1時間で?」


年間12時間程度の仕事で、4,500万円になる可能性。


「労働時間と給料って、全然比例しないんだな……」


俺が特別に長時間働いたから、高い報酬が出たわけじゃない。航空会社が商品を企画して、安全確認や運航計画を作り、お客さんを集める。


俺は、その中のワープを担当する。普通の仕事と同じように、いろんな人が関わって成立している。ただ、ワープを担当できるのは俺しかいない。


「……世界で1人しかできないって、こういうことか」


少し不思議な気分だった。


「……これ、FIREめちゃくちゃ早まるんじゃない?」


俺の目標は8,000万円。ワープを手に入れる前の金融資産は、貯金とNISAを合わせて約550万円だった。まだまだ遠いと思っていたけど、今は少し違う。


「……とりあえず、今年の計算をしてみるか!」


AIに、年末までの収益予測を作ってもらった。10月は、初回航空便150万円とYouTube15万円で165万円。


11月は、4機リレー375万円、政府の旅客機救助・豪雨対応の2案件合計200万円、YouTube30万円で605万円。


12月も同条件で新たに航空業務が1回成立し、YouTubeが30万円なら405万円。


「……合計は?」


画面を見る。


『2026年10〜12月の副業売上見込み:1,175万円』


「1,175万円!?」


3か月で、この金額。さらに経費を50万円と仮定すると、副業利益は1,125万円。


「……会社の年収の3倍以上?」


もちろん、12月の仕事はまだ確定していないし、YouTubeの収益も予測だ。それに、4機リレーの375万円は精算確認待ち。予測した金額が、全部銀行口座にあるわけじゃない。


「……でも、この可能性があるんだよな」


画面を眺めていると、なんだか楽しくなってきた。


「これなら8,000万円、結構早く達成できるんじゃない?」


そう思ったところで、重要なことを忘れていた。


「……あ」


税金。


「……税金、いくらになるんだ?」


俺はAIに計算をお願いした。


『会社の給与から天引きされている税金を二重に数えず、副業によって追加で必要になる税金を概算してください』


少しして、回答が表示された。


所得税。住民税。個人事業税。いろいろ説明が並んでいる。


「……難しいな」


経費や控除、報酬の区分によって変わるらしい。まあ、細かい確認は後でいい。


ただし、青色申告の申請期限だけは先に確認しておこう。期限を過ぎてから気づいても困るしな。まずは合計を見よう。


『追加税負担の暫定見込み:約425万円』


「……」


もう一度見る。


「……425万円?」


本業の年収は350万円。


「……税金だけで会社の年収超えてるんだけど!?」


いやいや、待て。


会社ではもう税金が引かれている。


「これ、二重に計算してないよね!?」


説明を読み直す。給与からの源泉徴収は確定申告で精算する。副業で増える税負担は、そこを考慮した試算らしい。


「……考慮してるのか」


じゃあ。


「本当に追加で425万円くらい?」


もちろん、まだ概算だ。青色申告が使えるかどうか、個人事業税の対象になるか、実際の経費はいくらか。確認することは残っている。


それでも。


「……えぐいな!」


思わず椅子にもたれた。さっきまで副業売上1,175万円で喜んでいたのに、急に現実へ引き戻された気分だ。


「いや、稼いだから税金が増えるのは分かるけどさ!」


それにしたって、大きい。


「……これ全部、来年3月に払うの?」


慌てて確認する。所得税は確定申告で追加納付する。住民税は翌年度に増える。個人事業税も、対象になれば別の時期に納める。


「……ああ、一度に払うわけじゃないのか!」


少し安心した。


……いや。


「払う日が違うだけじゃん!」


結局、必要なお金は変わらない。


「……まあ、事前に分かってるだけマシか」


俺は管理表に、新しく『納税準備金』を追加した。試算は約425万円。


でも、収益も経費も確定していないし、税理士に確認すれば数字が変わるかもしれない。


「じゃあ、とりあえず475万円を目標にしておくか」


50万円ほど余裕を持たせる。ただし、今すぐ475万円を移すわけではない。


入金済みの航空・政府報酬は350万円。そこから買い物や事業関係の支出もしている。残りの報酬は、まだ銀行口座にない。


「……予測と現金は別だな」


今あるお金から生活費を残し、納税用の資金を優先して確保する。今後の報酬が入ったら、追加で取り置く。これなら、あとで慌てて投資信託を売らずに済む。


「……よし。次はNISA!」


税金の次は投資だ。俺はこれまで、全世界株式のインデックスファンドを毎月3万円ずつ積み立ててきた。今まではそれで十分だった。


でも、副業収入がここまで増えるなら、投資額も変えていいと思う。


「年間360万円まで使えるんだよな」


新NISAには、つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円がある。合わせて、年間360万円。


今年も毎月3万円ずつ積み立てている。12月分まで続ければ、年間36万円。ほかに買い増ししていなければ、年末時点で残り324万円だ。実際の残り枠も確認する。


「……今年は満額を目指すか!」


もちろん、税金用のお金には手を付けない。生活費や予備資金も必要だ。その上で、NISAをできるだけ満額に近づけたい。


「で、NISAに入りきらなかった分は……特定口座だな」


こちらは投資の利益に税金がかかる。でも、NISAの枠を使い切ったからといって、投資をやめる必要はない。


「FIREしたいんだし、余裕があればこっちにも入れよう!」


ただし、全部を投資するつもりはなかった。


「……現金も残しておきたいよな」


航空会社の仕事が毎月あるとは限らない。政府からの依頼も、不定期だ。YouTubeだって、来月の収益がどうなるか分からない。投資信託も、必要な時に値下がりしている可能性がある。


「いくらワープできても、お金の心配がなくなるわけじゃないか」


俺は管理表を整理した。


『納税準備金』


『NISA』


『特定口座』


『生活防衛資金』


「……よし、これで一旦分けておこう!」


実際のお金を全部移動させたわけじゃない。でも、今後どこへお金を回すかは決まった。


「……そういえば、来年は?」


2027年。


1月から3月まで、航空会社の仕事が同じ条件で続いたとしたら。航空報酬は1,125万円。YouTubeが月30万円なら、3か月で90万円。


合計1,215万円。経費を45万円と仮定すれば、利益は1,170万円。


「……3か月で1,170万円?」


さらに2026年10月からの副業売上を合計すると、2027年3月末までの予測は約2,390万円。


「……いや、何これ」


もちろん、将来の仕事が予定どおり成立した場合の数字だ。しかも2027年に稼ぐ分には、別に2027年分の税金がかかる。


2026年分の確定申告に、翌年の収益まで混ぜるわけじゃない。


「……毎年、税金用のお金を分ける必要があるのか」


なんだか仕事が増えた気がする。YouTubeの管理、航空会社との契約、政府からの仕事、確定申告、投資。


「……俺、仕事辞めたいんだけどなあ」


自由な時間が欲しくてFIREを目指しているのに、気づけば仕事を増やしている。まあ、今のところ楽しいからいいけど。


「……稼げるからって、休みまで全部仕事にしたら意味ないよな」


月1回の航空業務。無理のない範囲でYouTube。


政府の仕事も、必要な時に協力する。会社は、今のところ続ける。


「……よし、これくらいでいいか」


管理表を保存した。まだ実際の金融資産を計算し直す段階ではない。未入金の報酬や将来の予測まで、手持ち資産として足すわけにはいかないからだ。


「……でも、FIREには確実に近づいてるな!」


なんだか嬉しくなった。


「さて、今日はここまで!」


パソコンを閉じようとしたところで、YouTubeのコメントをまだ確認していないことを思い出した。スカイダイビングの配信には、相変わらず妙なコメントが並んでいた。


『次は宇宙から落ちてください』


「無茶言うな!」


『宇宙ならどこまで行けるんですか?』


「俺が知りたい!」


『今度は本当に海に入ってみて』


「それは別の危険があるだろ!」


本当に好き勝手言ってくれる。何件か返信してから、過去の動画も見てみた。


魚捕り、雑談、ワープ体験。そして、以前のパトロール配信。


「ああ、これ懐かしいな」


初めてヒーローっぽいことをしてみた日だ。空から街を見回っていた時、車道側に倒れている人を見つけた。車が近づいていたので、安全な歩道へ移動させたんだった。


「……あの時は焦ったなあ」


コメント欄を開くと、最近付いたものが目に入った。


『あの時、車道から助けた人って、その後どうなったんですか?』


「……ああ、あの人か」


そういえば、その後どうなったんだろう。意識はあったし、周囲の人に119番通報をお願いした。でも、倒れていた理由までは分からなかった。


怪我だったのか、体調が悪かったのか。ちゃんと回復したのか。


「……知らないな」


名前も連絡先も聞いていない。助けたからといって、勝手に個人情報を調べるわけにもいかない。


以前、豪雨で助けた人たちの生活を取材した時は、本人の同意をもらった。あの時、救助が終わっても、生活の問題は残るのだと知った。


「……今回の人も、何かあったのかな」


もちろん、元気に暮らしているかもしれない。むしろ、そうであってほしい。


俺はコメントに返信した。


『救急対応を引き継いだ後のことは、私も分かりません。無事でいてくれたら嬉しいですね』


送信。


これ以上、俺にできることは今のところない。でも、少し気になった。


「……助けたら、それで終わりってわけでもないのか」


かといって、相手の人生すべてに責任を持てるわけでもない。


「……難しいな」


俺はパソコンを閉じた。明日も会社だ。今日も結局、税金の計算で結構な時間を使ってしまった。


「……はあ。早くFIREしたいなあ」


そう言って、ベッドへ向かった。ただ、さっきのコメントだけは、少し気になっていた。

次回、第66話「200万再生。寄付はいくら?」


次回更新:10月29日 12:10予定

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