第57話 1時間の取材を20分にしてください
「……20分って、こんなに短かったっけ?」
俺はパソコンの画面を見ながら、思わずつぶやいた。
先日、上條さんに協力してもらったインタビューは約1時間。ほかにも、被災した街の様子を撮影した映像がある。
これを編集して、20分程度のYouTube動画にする予定だった。
最初は簡単だと思っていた。
無言のところを切って、同じような話をまとめて、街の映像を挟めばいい。
ところが、実際に編集を始めてみると、全然進まない。
「……いや、これ削っていいのか?」
画面には、上條さんのインタビュー映像が映っている。
家の話、車の話、仕事の話。
どれも重要そうに聞こえる。
話している途中で少し考え込んだり、言葉を探したりする時間もある。
普段のYouTube動画なら、そういう間は遠慮なく切っていた。
テンポが悪くなるからだ。
でも、今回は少し違う。
「これ、間を削ったら意味変わらないか?」
例えば、俺が「一番困ったことは何ですか?」と質問した場面。
上條さんは少し考えてから、一つには決められないと答えた。
その後、車がないと仕事に行くのが大変で、仕事ができないと生活費が不安になる、でも家のことも放っておけないと話してくれた。
この部分を短くしてしまえば、確かに動画は見やすくなる。
だけど、一つに決められないという答え自体が大事なんじゃないか?
「うーん……」
俺は編集した部分を、もう一度再生した。
……ダメだな。
短くしすぎると、上條さんが何に困っているのか、よく分からなくなる。
元の映像へ戻す。
「これ、20分に収まるのか?」
一度、必要そうな部分だけをつないでみた。
再生時間、42分。
「倍以上あるじゃん!」
思わず笑ってしまった。
1時間のインタビューを20分にするつもりが、街の映像まで足したら42分。
そりゃそうか。
インタビュー以外にも説明しないといけないことがあるんだから。
俺は椅子にもたれた。
ワープだったら、42分どころか1時間でも一瞬で飛ばせる。
「編集もワープできればいいのになあ」
もちろん、そんな能力はない。
仕方ないので、もう一度構成から考えることにした。
今回の動画で伝えたいことは何だろう。
俺が豪雨の時に何をしたのか。
救助された人が、その後どうなったのか。
そして、被災した街が今どうなっているのか。
この3つだ。
「……俺の話、そんなに長くいらなくない?」
考えてみれば、俺の活動はニュースでも何度も取り上げられている。
それに、今回の主役は俺じゃない。
救助された人たちの、その後の生活だ。
「よし。俺の説明は短くしよう」
俺がどんな資材を運んだのか、どういう救助に協力したのか。
公開して問題ない範囲で簡単に説明する。
そして、今の街の映像につなげる。
それだけでも、何を伝えたい動画なのかは分かるはずだ。
実際、当時の俺が全部を撮影していたわけでもないし、政府側の記録を勝手に使うこともできない。
無理に再現映像を作る必要もないだろう。
「これなら、だいぶ短くなるな」
編集を再開した。
まず冒頭。
最初は、街を撮影した映像から入ることにした。
車が走り、営業を再開した店がある。
そこだけ見れば、普通の街だ。
でも、道路脇には片付けられた家具が残っている。
泥の跡がついた建物もある。
「これだけで結構伝わるな」
俺の説明を少し入れ、その後に上條さんのインタビューをつなぐ。
ただ、映像を確認しているうちに、別の問題が出てきた。
「……あ、この車のナンバー映ってる」
拡大して確認する。
車のナンバーだけじゃない。
遠くに店の名前が映っている場面もある。
建物の特徴から、撮影場所を推測できそうな部分もあった。
「顔だけ隠せばいいって話じゃないんだな」
映像の一部にぼかしを入れる。
でも、ぼかす範囲が広すぎると何を撮影したのか分からなくなる。
結局、使う映像そのものを変えた方が早いところもあった。
「こういうの、慣れてる人ならもっと早いんだろうな」
普段の俺の動画なんて、自分がワープしているところが中心だ。
本人の顔を隠すことには慣れているけど、他人の生活を守るための編集となると、考えることが全然違う。
しかも今回は、上條さんの家族が関係している。
子どもの顔は最初から撮っていない。
でも、学校の話や住んでいる場所の話を組み合わせれば、知っている人には分かってしまう可能性もある。
「……ここも確認してもらおう」
俺は気になる部分に印をつけた。
次に、インタビューの最後の方を再生する。
『災害があったことを、すぐ忘れないでほしいですかね』
上條さんの声が流れた。
『ニュースが減ったからって、みんなの生活が元に戻ったわけじゃないので』
「……ここは残したいな」
たぶん、今回の動画で一番伝えたいことだ。
一方で、子どもが少しずつ元気になってきたという話も残したかった。
大変なことばかりじゃない。
復興が進んでいる部分もある。
「暗い話だけにするのも違うよな」
俺は編集を続けた。
途中で少し休憩して、もう一度最初から見直す。
それを何度か繰り返した。
そして、ようやく。
「……20分12秒!」
画面に表示された動画の長さを見て、思わず声が出た。
ほぼ予定どおりだ。
ただ、時間に収まったから完成というわけでもない。
俺はスマホに動画を移して、最初から再生してみた。
パソコンの大きな画面では気にならなかった字幕が、少し読みにくい。
音声の大きさも、場所によって違っていた。
「……まだあるのか」
まあ、仕方ない。
最後までやろう。
字幕を調整し、音量をそろえる。
もう一度再生する。
今度は問題なさそうだ。
「よし。あとは上條さんに見てもらうか」
俺は動画を本人だけが確認できる形で共有する準備を始めた。
ただ、その前に取材条件の資料も見直しておこう。
公開前確認については、最初から約束している。
ほかにも決めていたことがあったはずだ。
「えっと……協力費は最低1万円。追加は収益から15%、上限10万円……」
税金用に確保する金額を除いた残りから計算する。
これは前に話したとおりだ。
でも、読み返していて一つ気になった。
「……いつまでの収益を計算するんだ?」
YouTube動画は、公開した日だけ再生されるわけじゃない。
1週間後に再生されるかもしれないし、半年後や1年後に突然伸びることだってある。
そのたびに追加の協力費を計算するのか?
「それはさすがに管理が大変だな」
そもそも、動画ごとの収益だって、公開した瞬間に確定するわけじゃない。
俺はYouTubeの収益画面を開いて、集計の仕組みを確認した。
やっぱり、表示されている推定収益と、後で確定する金額は同じとは限らない。
「じゃあ、期間を決めよう」
今回の企画では、公開から1か月間に発生した動画収益を集計対象にする。
その期間の収益が後から確定したら、約束した方法で配分額を計算する。
上條さんへの協力費は最低1万円、上限10万円。
すでに支払った1万円も、その最低保証分に含める。
追加分があれば差額を支払う。
そして、税金用の留保額と取材協力費を差し引いた残りは、市の公式災害義援金へ送る。
「これなら、いつまで計算するのかも分かるな」
ただし、これは俺が今考えた条件だ。
上條さんには、まだ集計期間を明確に説明していない。
「……勝手に決めちゃダメだよな」
すでに撮影は終わっている。
今から条件を追加するなら、改めて説明して同意をもらう必要がある。
俺は公開前確認の連絡に、収益集計期間についての説明も加えた。
公開から1か月分を対象とすること。
公開後すぐには正確な収益が分からないこと。
追加協力費は対象期間の収益が確定してから精算すること。
そして、条件に納得できなければ公開前に相談してほしいこと。
「……うん。これで送ろう」
動画の確認用リンクと一緒に送信した。
さて。
返事をもらうまでは、公開できない。
その間にサムネイルでも作ろうか。
最初に思いついたのは、豪雨の街を背景に、大きな文字を入れる構成だった。
『ワープで救った家族の現在!』
「……いや、なんか違うな」
間違っているわけじゃない。
俺が救助に関わったのは事実だ。
でも、これだと俺が活躍した動画みたいに見える。
今回見てほしいのは、救助された後の生活なのに。
「こっちかな」
画面に文字を入れる。
『命は助かった。でも、生活はまだ戻っていない。』
うん。
こっちの方が、内容には合っている気がする。
少し重たいけど、実際にそういう話だ。
俺はサムネイルを保存した。
翌日。
上條さんから連絡が来た。
『動画、家族で確認しました』
「おお!」
続けて、感想と修正してほしい箇所が書かれていた。
大筋では問題ないらしい。
ただ、子どもの学校について話している部分は、もう少し短くしてほしいとのことだった。
「なるほど……」
学校の名前は出していない。
場所も直接は分からない。
でも、本人たちが気になるなら、無理に残す必要はない。
俺は該当箇所を確認した。
少し切っても、話の意味は変わらなさそうだ。
「これなら大丈夫かな」
修正して、もう一度見直す。
そのほかにも、街の映像で気になる場所がないか、改めて確認した。
すると、もう一通メッセージが届いた。
収益の集計期間についてだ。
『公開から1か月分ということで、家族でも確認しました。その条件でお願いします』
「良かった!」
ひとまず了承してもらえた。
追加の協力費は、動画が公開されてから1か月分の収益が確定した後に精算する。
ただ、義援金までその時期を待つべきかは、別の話だ。
災害の復旧には、今もお金が必要だろう。
「……そこは、先に出してもいいかもな」
もちろん、まだ動画が何回再生されるかは分からない。
収益が出るとも限らない。
でも、俺の手元にはある程度のお金がある。
今回の動画で利益を取るつもりもない。
必要なら、自分のお金から先に義援金を送って、あとで実際の収益と照らし合わせればいい。
ただし、どこへ、いくら送るかは、きちんと確認してからだ。
「まあ、それは公開の時に考えよう」
今は動画を完成させるのが先だ。
俺は最後の修正を終えた動画を、もう一度上條さんに送った。
しばらくして、返信が届く。
『修正ありがとうございました。こちらの内容で公開していただいて大丈夫です』
「……よし!」
思わず両手を上げた。
やっと完成だ。
改めて動画を書き出す。
再生時間は、ほぼ20分。
最初に考えていたより、ずいぶん手間がかかった。
飛行機4機をワープさせた仕事より、こっちの方が時間を使っている気がする。
もちろん、報酬は比べものにならない。
航空会社の仕事なら、うまくいけば375万円。
今回の動画は、収益が出ても自分の利益にはしないつもりだ。
「……FIREしたい人間の行動じゃないよな」
自分でもそう思う。
でも、まあいいか。
毎回こんなことをしていたら大変だけど、今回は自分からやりたいと思ったことだ。
それに、動画を見てもらうだけで復興支援につながるなら、悪くない仕組みだと思う。
俺はYouTubeの投稿画面を開いた。
タイトルを入力する。
説明欄には、今回の企画の趣旨と、収益の集計期間、協力費と義援金の扱いを書く。
募金を無理にお願いするのではなく、動画を見てもらうことを中心にする。
それから、公開日時を設定した。
「……これで終わり!」
いや。
まだ終わりじゃない。
動画を公開して、見てもらって、収益がどうなるか確認する。
義援金を送る準備もしないといけない。
「……仕事、減らないなあ」
俺は画面に表示された公開予約の内容を確認した。
20分の動画を1本作るだけでも、こんなに大変なんだ。
でも。
これで、救助された後のことを少しは知ってもらえるかもしれない。
ニュースで見た人たちも、今どうしているのかまでは知らないだろう。
「さて、何人くらい見てくれるかな」
できれば、たくさんの人に見てほしい。
今回は、動画を見てもらって収益が増えれば、復興支援に回せるお金も増える。
普段の動画とは、ちょっと違う緊張感がある。
「……頼むから伸びてくれよ」
俺はそうつぶやいて、パソコンを閉じた。
公開は、もうすぐだ。
次回、第58話「動画公開。でも、まだ終わりじゃない」
次回更新:10月25日 12:10予定




