↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん
第5編豪雨災害編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/86

第53話 会社員、通常営業に戻ります

災害対応が一段落して、俺はいつもどおりアルタークに出勤していた。


出勤といっても、災害対応中もずっと休んでいたわけではない。会社と調整しながら働いていたので、今日は久しぶりに予定どおり1日勤務するというだけだ。


「おはようございます」


「おはよう。松さん、ニュース見た?」


「大雨のやつですか?」


「そうそう。空中スイマー、すごかったな」


「そうですね。現場の人たちも大変だったと思います」


本人だと知らない同僚とニュースの話をする。俺は曖昧に笑って、自分の席に着いた。


机の上には、確認待ちの資料が置かれていた。


パソコンを起動すると、メールもたまっている。


「……うん、こっちも大変だな」


災害現場では、何十トンもある資材を一瞬で運んだ。


重機だって、条件が合えば運べる。


でも、会社のメールはワープしてくれない。


いや、メール自体はもう届いているんだから、ある意味ワープより速いのかもしれない。


問題は、その中身を俺が確認しないといけないことだ。


「松さん、これ今日中に確認お願いできます?」


「はい、分かりました」


普通の会社員に戻ってきた。


いや、別に会社員をやめていたわけじゃないんだけど。


午前中、同僚たちの間でも災害のニュースが話題になった。


「ニュースだと空中スイマーが全部やったみたいに見えたけど」


「現場の消防や専門家の人たちも、相当大変だったでしょうね」


「まあ、そりゃそうだよな」


俺は頷いた。堤防の工事をどう進めるかは専門家が決めたし、救助活動も消防や現地の人たちが中心だった。


俺1人で何もかも解決したわけじゃない。そう言いたくても、当事者として話すわけにはいかない。


少し妙な気分だった。


でも、会社の仕事が減るわけではない。そこは残念だった。


昼休み。


いつものように昼飯を食べながら、スマホを開いた。


確認したのは、自分の資産管理だ。


俺が目指しているFIREの目標額は、8,000万円。


会社員をやめても、投資の運用益や手元の資金で暮らしていけるようにする。


もちろん、8,000万円を持っていれば何も考えずに一生遊べる、という話ではない。


相場が下がることもあるし、物価も上がる。


それでも、俺1人が普通に暮らしていくなら、十分に現実的な目標だと思っていた。


いや、今もそう思っている。


ただ、最近ちょっと考えることが増えた。


「……8,000万円か」


スマホに表示された目標額を眺める。


今回の災害で見たものを思い出した。


家の中まで泥水が入って、家具も家電も使えなくなった家。


車が壊れて、通勤手段を失った人。


仕事に行きたくても、店や工場そのものが被害を受けている人。


ああいうことが、自分にも起きたらどうなるんだろう。


家を直す。場合によっては建て直す。


車を買い直す。


その間の生活費も必要になる。


保険や公的支援はあるだろうけど、被害が全部補償されるとは限らない。


それに、制度によっては所得や資産の条件もあるはずだ。


自分で十分なお金を持っているなら、受けられない支援もあるかもしれない。


もちろん、だから資産を持たない方がいい、なんて話ではない。


むしろ逆だ。


何かあった時に、支援だけに頼らなくても生活を立て直せるようにしたい。


「そう考えると、8,000万円じゃ足りないのかな……」


じゃあ、いくらあればいい?


1億円?


2億円?


いや、災害だけを考えるなら、住む場所や保険の入り方でも変わる。


どこまで備えるかによっては、もっと必要になるかもしれない。


そもそも、何が起きても絶対に大丈夫な金額なんて、あるのか?


「……ないよなあ」


資産を増やせば安心は増える。


でも、目標を上げれば上げるほど、FIREする日は遠くなる。


8,000万円を目指していたのに、途中で2億円に変更したら、いつまでたっても会社員をやめられない気がする。


それはそれで、本末転倒だ。


「まあ、今決める必要はないか」


まだ8,000万円に到達したわけでもない。


今の目標はそのままにして、必要な金額をもう少し考えてみよう。


俺は資産管理の画面を閉じた。


昼休みが終わるまで、あと少し。


ついでにYouTubeの管理画面も開いてみる。


以前の救助配信のアーカイブにも、今回の災害についてのコメントが増えていた。


感謝の言葉もあれば、現地の状況を心配する声もある。


中には、俺が助けた人たちのその後を知りたいというコメントもあった。


「……それは俺も知りたいんだよな」


上條さん一家には、生活再建の様子を取材させてもらえないかと提案している。


ただ、返事を急かすつもりはない。


家の片付けも、今後の生活をどうするかも、考えることは山ほどあるだろう。


動画のことなんて、後回しでいい。


俺としても、企画を始めるなら、出演する人にちゃんと報酬を払える仕組みを整えておきたい。


募金を集めるのではなく、動画を見てもらって得た収益を、取材に協力してくれた人へ還元する。


その考えは変わっていない。


でも、今はまだ準備中だ。


「さて、仕事に戻るか」


スマホをしまって席へ戻った。


午後も普通に仕事をした。


途中、政府側の連絡用端末に通知が届いていたけど、緊急の連絡ではなかったので、休憩時間に確認することにした。


次回の航空ワープ業務に向けた、日程調整の連絡だった。


「ああ、そういえばこっちもあるんだった」


災害対応の間、すっかり意識がそちらへ向いていた。


航空会社との仕事は、今後も月に一度程度のペースで続く予定だ。


飛行機をワープさせる。


文章にすると相変わらず意味が分からないけど、もう商業サービスとして動き始めている。


初めての体験便では150万円の報酬が確定している。


ただし、今後の定期的な仕事でいくらもらえるのかは、また別の話だ。


それに、報酬が入ったとしても、税金や必要経費を考えないといけない。


150万円の報酬が確定したからといって、資産がそのまま150万円増えるわけじゃない。


「……こういうの、会社員の給料より管理が面倒なんだよな」


もっとも、その面倒な仕事をしてでも、収入は増やしたい。


FIREしたいからだ。


俺は休憩時間に、日程の確認だけ返信しておいた。


詳しい調整は、勤務が終わってからにしよう。


夕方。


無事に仕事を終えて、会社を出た。


「お疲れさまでした」


「お疲れさま」


今日も一日、ちゃんと働いた。


災害対応の時とは違う疲れがある。


肉体的には、重い物を運んでいるわけじゃない。


でも、頭を使う仕事は頭を使う仕事で疲れる。


ワープ能力で疲労までどこかへ飛ばせたら便利なんだけどな。


そんなことを考えながら、政府の連絡用端末を確認した。


白石さんから、災害対応に関する事務連絡が届いていた。


俺が輸送した機材の記録について、確認したいことがあるらしい。


電話で済む内容だったので、こちらから連絡した。


『お疲れさまです、松さん』


「お疲れさまです。今、少し大丈夫ですか?」


『はい。お仕事は終わりました?』


「終わりました。今日は普通に1日働いてきましたよ」


『それはお疲れさまでした』


「白石さんはどうです? 災害対応でずっと忙しかったでしょう」


『まだ報告関係の仕事は残っていますけど、現地での対応が続いていた時よりは落ち着きました』


「ちゃんと休めてます?」


少し間があった。


『……松さんに言われるとは思いませんでした』


「え、なんでですか」


『災害対応をして、会社にも出勤して、YouTubeも続けているじゃないですか』


「いや、YouTubeは最近あんまりできてないですよ」


『そういう問題でしょうか』


「いや、俺の場合、現場への移動はワープでかなり短縮できますから。普通に移動してたら、もっと大変だったと思いますよ」


『それでも、休息は必要です』


「白石さんもですよ」


『はい。気をつけます』


少し笑ったような声が聞こえた。


こうして話していると、災害の前に一緒に魚を捕りに行った時のことを思い出す。


あの時も、仕事のような、遊びのような、よく分からない時間だった。


でも、楽しかった。


「また落ち着いたら、何か撮影でもしましょうか」


『撮影ですか?』


「いや、別に魚じゃなくてもいいんですけど。普通のYouTube企画とか」


『私も参加する前提なんですね』


「……あ、嫌なら別に」


『嫌とは言ってませんよ。ただ、内容によっては確認が必要ですけど』


「ああ、それはもちろん」


『でも、楽しみにしています』


「じゃあ、何か考えておきます」


……楽しみにしてるのか。


これは何か考えないといけないな。


その後、必要な事務確認を済ませて電話を切った。


帰宅して、夕飯を食べて、風呂に入る。


ようやく自由時間だ。


パソコンの前に座って、YouTubeの企画を考え始めた。


最近は災害関係の話題が多かった。


もちろん、それは大事なことだ。


上條さん一家の取材についても、返事が来たらちゃんと考えたい。


でも、俺のチャンネルは、もともとワープでいろいろやってみるチャンネルだ。


災害対応専門のチャンネルにするつもりはない。


「久しぶりに、普通の動画を撮るか」


そうつぶやいて、企画を考える。


ワープを使って何かする。


できれば安く。


準備も簡単で。


見ている人がちょっと面白いと思えるもの。


「……何がある?」


以前は魚を捕りに行った。


空を飛ぶように見せる配信もした。


飛行機まで運んでしまった。


ここまで来ると、逆に普通の企画が思いつかない。


「ワープを使って、何もしない動画とか?」


いや、何もしないならワープする必要がない。


「ワープで通勤時間ゼロを体験してみた?」


いや、普段の通勤は普通に移動している。動画のために会社までワープするのも、場所を特定されそうで嫌だな。


そもそも自宅と会社の位置関係が分かるような撮影は避けたい。


「……意外と難しいな」


世界で唯一の能力を持っているのに、YouTubeの企画一つ思いつかない。


贅沢な悩みだ。


俺はスマホを手に取った。


「AI、ワープ能力を使った、安くてしょうもないYouTube企画を考えて」


送信する。


少しして、候補が並び始めた。


その一番上を見て、俺は首をかしげた。


「……これ、ワープ使わなくてもできるだろ」


結局、いつもの企画会議が始まった。

次回、第54話「飛行機4機で375万円?」


次回更新:10月23日 12:10予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。