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ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん


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第45話 飛行機代って燃料だけじゃないんだ

長距離試験を終えて帰宅した夜。


俺はパソコンを開いた。


「飛行機代って、何に金かかってるんだ?」


検索。


航空会社。


費用。


内訳。


出てくる。


燃料。


人件費。


整備。


機体。


空港。


保険。


その他。


「多いな」


当たり前だけど。


飛行機は燃料だけで飛んでいるわけじゃない。


機体そのものがある。


操縦する人がいる。


整備する人がいる。


空港を使う。


予約を受ける。


荷物を運ぶ。


「じゃあ」


俺が飛行時間を短くしたら。


「どれが減るんだ?」


燃料は分かる。


飛んでいる時間が短ければ、使う量も減るはず。


でも。


操縦士はいなくならない。


客室乗務員も必要。


空港も使う。


離陸も着陸もする。


飛行機そのものも必要。


「思ったより全部は消えないな」


少し調べる。


ただ。


検索して出てくるのは一般的な話ばかりだった。


どの費用がどれくらい。


どういう条件で変わる。


会社ごとに違う。


まして。


途中をワープする旅客機。


そんな事例。


普通に検索して出てくるわけがない。


「これは聞いた方が早いか」


そこで検索を閉じた。


分からないところまで、自分で分かった気になる必要はない。


数日後。


航空会社との打ち合わせ。


俺。


白石さん。


航空会社の担当者。


前回の長距離試験について、正式な評価の途中経過を聞く。


「機体側の記録について、現時点で大きな問題は確認されていません」


「よかった」


「位置や飛行状態についても、想定した範囲で確認できています」


「じゃあ実用化いけそう?」


「まだ検証は必要です」


「ですよね」


もう慣れた。


航空の人は簡単に、


『じゃあ明日からやりましょう』


とは言わない。


資料が進む。


飛行時間。


燃料。


運航記録。


そこで。


「あの」


「はい」


「この前、家でちょっと調べたんですけど」


担当者がこっちを見る。


「飛行機って、燃料以外にもめちゃくちゃ金かかるんですよね?」


「もちろんです」


「じゃあ俺がワープしても」


少し考える。


「飛行機代、全部安くなるわけじゃない?」


「なりません」


即答。


「ですよね」


白石さんが少しだけこっちを見る。


「何ですか?」


「いえ」


「今、当たり前だと思ったでしょ」


「言っていません」


「顔に出てました」


「空中スイマーさんに言われたくありません」


それは前にも言われた気がする。


担当者が資料を少し戻す。


「分かりやすいところでは、燃料の使用量は減らせる可能性があります」


「はい」


「一方で、機体そのものが不要になるわけではありません」


「はい」


「乗務員も必要です。整備も必要です。空港も利用します。地上での業務や予約なども残ります」


「結構残るな」


「残ります」


俺の能力で消えるのは。


飛行機そのものではない。


飛んでいる途中の。


長い時間。


「じゃあ、思ったより無敵じゃないですね」


「何をもって無敵とするかによります」


「燃料代ほぼ消えて、めちゃくちゃ安く飛べるのかなって」


「それだけではありません」


「ですよね」


先に調べておいてよかった。


いきなりここで聞いていたら、


燃料だけで飛行機代が決まっているみたいな話になるところだった。


でも。


航空会社がこの話を続けている。


ということは。


「それでもやる価値はある?」


「あります」


「時間ですよね」


担当者が少し止まる。


「はい」


「そこは前にも聞きました」


俺はうなずく。


何時間もかかる移動を短くできる。


時間そのものに価値がある。


それはもう分かっている。


「気になってるのは、そこじゃなくて」


「はい」


「誰が乗るんです?」


「誰が、とは?」


俺は少し考えて、白石さんを見る。


「白石さん」


「はい」


「富裕層向けって言ったら、自家用機でよくないですか?」


「富裕層だから全員が自家用機を所有しているわけではありません」


「あ、まあ」


「必要な時だけチャーターを使う人もいますし、共同で利用する形もあります」


「なるほど」


でも。


まだ引っかかる。


「でも自家用機とかチャーターって、好きな時間に出られるのが強いんじゃないですか?」


今度は航空会社の担当者を見る。


「その通りです」


「じゃあ月1のワープ便、かなり使いにくくない?」


少し間。


「使いやすい商品ではありません」


「認めるんだ」


「少なくとも、通常のプライベート航空の代わりにはなりません」


「ですよね」


自分の予定に飛行機を合わせる。


それができる人に。


『この日のこの時間に、この空港から出ます』


と言う。


「むしろ不便じゃん」


「その面では、はい」


ちゃんとしてる。


都合の悪いところも普通に言う。


「じゃあ、なんで売れると思うんです?」


担当者が答える。


「全員に売れるとは考えていません」


「あ」


「便の日時と区間が合う方の中で、通常より大幅に早く到着することへ高い価値を感じる方がいるか。そこを調べます」


「富裕層なら買う、ではない?」


「ありません」


白石さんも続ける。


「資産が多いから、価格を気にしないとも限りません」


「ですよね。金持ちって、むしろ無駄金使わないイメージもある」


「それも一括りにはできません」


「はい」


また怒られた。


いや、怒ってないけど。


「価格を優先する人もいれば」


白石さんが言う。


「時間、予定の自由、快適さ、プライバシーを優先する人もいます」


「人による」


「人によります」


結局そこだった。


「じゃあ」


俺は担当者を見る。


「月1でも、たまたま予定が合って、何時間も短くなるなら乗りたい人がいるかもしれない」


「はい」


「でも、それが何人いるかは分からない」


「はい」


「だから需要調査」


「そうです」


前回のワープ体験便は、ワープそのものを体験したい人が乗った。


今回は早く着くための便。


決まった日時と区間で、実際にお金を払う人がいるか。


「前の体験便、10万円で100人乗ったからって、今回も売れるとは限らない?」


「はい。目的の違う商品ですから」


「でも、旅行客にも需要ありません?」


「旅行客ですか?」


「俺、あんまり旅行しないんで分かんないですけど。飛行機って長く乗ってると疲れるじゃないですか」


「移動時間が負担になる方はいますね」


「ワープで短くなったら、疲れも減るかもしれないし。昼間に着ける便なら、そこから観光もできる」


「到着時刻と行程によりますが、現地で過ごせる時間が増える可能性はあります」


「ですよね」


俺は少し考えた。


「それに、旅行って思い出作りでもあるじゃないですか」


「はい」


「月1回の特別なワープ便で北海道に行った、とか。帰ってから友達に話したくなりません?」


白石さんが少し笑った。


「それは話題になりそうですね」


「でしょ? 旅行の始まりから、もう思い出が一個できてる」


早く着く。


移動で疲れにくいかもしれない。


しかも、ワープ便に乗ったこと自体が特別な体験になる。


「これ、最高の思い出の一つになりません?」


「そう感じる方もいると思います。ただ、月1回だと旅行の日程を合わせにくい方もいます」


「そこは弱いか」


「それに、追加料金をいくらまで払っていただけるかは、別の問題です」


「確かに。旅費を使い切ったら現地で遊べないし」


担当者がうなずく。


「旅行会社との販売方法も含めて、需要を調べる価値はあります」


「あ、そうだ。窓側の席って前の体験便で人気だったんですよね?」


「はい。窓側への希望が集中しました」


「でも、早く着く便だと、景色を見る時間は短くなる」


「そうですね。体験を重視する方と、移動時間を重視する方では、座席の希望も変わるかもしれません」


「じゃあ、そこも調べるんだ」


「はい」


富裕層だけじゃない。


旅行の時間を増やしたい人。


移動の負担を減らしたい人。


ワープ便そのものを思い出にしたい人。


ただし、全員が高い料金を払うわけじゃない。


誰が、どんな条件なら乗るのか。


そこを調べる必要がある。


俺は椅子にもたれる。


「商売だなあ」


「商業利用ですから」


「そうなんですけど」


能力を使えば、それだけで売れるわけじゃない。


どんな人に、何を価値として売るのか。


そこまで考えるのが商売なんだろう。


「そこを調べてから決める?」


「はい」


「価格も?」


「はい」


「路線も?」


「候補を比較します」


「なるほど」


やっと。


俺が気になっていたところまで来た。


「じゃあ整理すると」


指を一本立てる。


「燃料は減る可能性がある。でも、飛行機や人にかかる金は残る」


「はい」


二本。


「その代わり、早く着けることや、特別な体験にお金を払う人がいるかもしれない」


「概ね、その理解で問題ありません」


「概ねいただきました」


白石さんが少し笑った。


「何ですか?」


「いえ」


「今笑いましたよね」


「少し」


「認めた」


珍しい。


俺はもう一度資料を見る。


「これ、強くない?」


白石さんを見る。


「何がですか?」


「客が時間も思い出も買ってくれて」


「はい」


「そこから俺にも金が入る」


「途中をかなり省略しています」


「でも方向は合ってる?」


今度は航空会社の担当者を見る。


少し間。


「概ね」


「ほら」


「また概ねです」


「概ね2個もらった」


白石さんがため息をつく。


「空中スイマーさん」


「はい」


「まだ価格も需要も運航条件も決まっていません」


「はい」


「報酬もです」


「そこ大事」


「そこだけ反応しないでください」


「FIREあるんで」


「知っています」


航空会社の担当者が少し笑っている。


俺のFIRE。


どこまで共有されてるんだろう。


まあ。


空中スイマーとして普通に言ってるからいいけど。


「でも」


俺は先に言う。


「毎日はやらないですよ」


担当者が資料から顔を上げる。


「はい」


「俺、本業あるし」


「承知しています」


「YouTubeもやりたいし」


「はい」


「普通に休みたいし」


「もちろんです」


「良かった」


毎日。


朝から晩まで。


飛行機。


飛行機。


飛行機。


それは嫌だ。


稼げるとしても。


俺がやりたいのは。


ワープ航空会社への転職ではない。


FIREだ。


「空中スイマーさんが対応できない日でも、通常の運航ができることを前提に考えています」


「それならいいです」


「ワープ便については、通常便とは別の特別な商品として検討しています」


「俺がいないと全部止まる感じじゃない?」


「しません」


「それ大事」


俺1人が風邪をひいて。


日本の交通が止まる。


そんなのは困る。


俺も困る。


「今後についてですが」


担当者が資料を一枚めくる。


「はい」


「安全面の確認と需要調査を進めた上で、実際の運航頻度についても相談したいと考えています」


「頻度」


「はい」


来た。


週1。


月1。


それとも。


俺は資料を見る。


まだ数字は書いていない。


「そこ」


「はい」


「俺の希望も言っていいんですよね?」


「もちろんです」


「分かりました」


白石さんも何も言わない。


止めもしない。


代わりに決めもしない。


俺の能力。


俺の仕事。


俺の時間。


そこは俺が決める。


報酬が高くても。


全部受ける必要はない。


FIREしたいのは。


働く時間を増やすためじゃない。


自由な時間を増やすためだ。


「じゃあ」


俺は資料を閉じる。


「次、それ決めましょう」


航空会社の担当者がうなずく。


「お願いします」


帰り。


白石さんと同じ廊下を歩く。


「俺、最近」


「はい」


「航空会社の経営みたいな話ばっかしてません?」


「していません」


即答。


「してない?」


「空中スイマーさんは経営していません」


「まあ」


「航空会社が考えた事業に、能力提供者として参加しているだけです」


「言い方が急に正確」


「仕事ですので」


「はい」


今日も仕事の白石さんだった。


まあ、俺も今日は仕事だ。


飛行機の話。


金の話。


俺の時間の話。


そして。


次に決めることも分かった。


何回ならやるのか。


いくらならやるのか。


どこまで拘束されるのか。


断れるのか。


それを決めないと。


高い報酬だけ見ていたら。


FIREするための副業で。


休日が全部消える。


「それは違うな」


「何がですか?」


「こっちの話です」


「そうですか」


俺は政府端末を見る。


次の航空会社との打ち合わせ。


議題。


『今後の運航頻度・契約条件について』


「月何回くらいがいいかな」


小さく言う。


白石さんは聞こえていたはずだけど。


何も言わなかった。


そこは。


俺が決めることだった。

次回、第46話「月1の仕事、1時間で終わらせたい」


次回更新:10月18日 20:10予定

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