↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/48

第41話 白石さんって休みの日何してるんですか?

初めてのワープ体験便が終わってから数日後。俺はまた、航空会社の人たちと話をしていた。とはいっても、今日は新しい飛行機に乗るわけではない。


初便の結果確認。それだけ。


「まず、機体・乗員・お客様について、現時点でワープによる大きな問題は確認されていません」


「良かった」


そこは素直に安心する。初めて一般の客を乗せた便だった。楽しかったし、売れた。150万円もらった。でも、その前に何も起きなかった。それが一番大事だ。


「お客様からのアンケートについても集計を進めています」


「どうでした?」


「全体としては好意的な回答が多いです」


「10万円でも?」


「価格については意見が分かれています」


「ですよね」


そりゃそうだ。10万円は普通に高い。


「『初回だから払った』『一生に1回なら払える』というご意見がある一方で」


「はい」


「『次回も同じ金額なら迷う』という回答もあります」


「分かる」


俺もそう思う。


「また、窓側のお客様からは満足度の高い回答が多く」


「ああ」


「窓側席への希望が、想定以上に集中しました」


「景色が飛ぶの見えますもんね」


「はい」


次回、窓側をどう扱うのか。価格を変えるのか、座席指定をどうするのか。そこも検討するらしい。


「販売方法についても、先着方式は見直す予定です」


「アクセス重かったですもんね」


「はい。抽選方式などを検討しています」


「その方が平和そう」


数分で完売し、買えなかった人も多かった。俺は売る側ではないけど。


毎回あれをやるのも大変そうだ。


「そして、次の試験についてですが」


「はい」


来た。前に聞いた長距離の話だ。


今度はワープを体験するだけではなく、本当に移動時間を減らす。


「準備期間を取り、約1か月後を予定しています」


「1か月後?」


「はい」


「来週じゃないんですね」


隣にいた白石さんが俺を見る。


「空中スイマーさん」


「はい」


「月1回程度の案件という話でしたよね」


「あ」


そうだった。


「150万円を見て、急に毎週飛ぶ気になってません?」


「ちょっとだけ」


「ダメです」


「早い」


「本業があります」


「はい」


「配信もあります」


「はい」


「政府側の案件もあります」


「はい」


「体調管理もあります」


「はい」


「そして、毎週飛ばなければならない契約でもありません」


「はい」


完全に。正論。


「分かりました」


「本当に?」


「たぶん」


「空中スイマーさん」


「分かりました」


航空会社の人が少し笑っている。恥ずかしい。


「次回は、これまでより長い区間での運用を想定しています。ただし、安全確認の方法や運航手順を整理した上で実施します」


「じゃあ」


「はい」


「俺は1か月くらい普通に生活してればいい?」


「基本的には」


「良かった」


最近は飛行機、飛行機、飛行機だった。普通の生活も大事だ。打ち合わせは昼前に終わった。建物を出る。


「終わった」


「お疲れさまでした」


「白石さん、このあと?」


「次の予定まで少し時間があります」


「どれくらい?」


「1時間半ほどです」


「じゃあ昼飯行きません?」


「……昼食ですか」


「はい」


白石さんが少し考える。


「どこへ?」


「そこは決めてないです」


「松さんから誘ったんですよね?」


「今誘ったので」


「そうですか」


「150万円入ったんで、おごりますよ」


「その理由で使うんですか?」


「昼飯くらい許して」


「私は別に止めていません」


「さっきから金使うと怒られそうな雰囲気出すじゃん」


「使い方の話です」


結局。入ったのは普通の定食屋だった。150万円。


初めての航空案件。世界で唯一かもしれないワープ体験便。その後の昼飯。


普通。


「150万円もらった人の昼食には見えませんね」


白石さんが言った。


「白石さんが言うんだ」


「松さんが言いそうでしたので」


「FIRE目指してるんで」


「そこは徹底してるんですね」


「150万円入ったからって、毎回高い飯食べてたら意味ないじゃないですか」


「それはそうですね」


俺は定食を見る。十分うまそう。


「むしろ」


「はい」


「こういうのでいい」


「白石さんは?」


「私も普通でいいです」


「普通だ」


「何だと思ってるんですか」


「いや」


ちょっと気になった。今まで俺が知っている白石さんは、政府との連絡、契約、安全、健康確認と、ほぼずっと仕事中の姿だった。


「そういえば」


「はい」


「白石さんって」


「はい」


「休みの日、何してるんですか?」


白石さんの箸が止まった。


「急ですね」


「今まで聞いたことなかったなって」


「そうですね」


「休みある?」


「あります」


「良かった」


「ありますよ」


「休みの日も誰か監視してるのかと」


「しません」


「即答」


「普通に、洗濯したり、買い物に行ったり、家で過ごしたりしますよ」


「普通だ」


白石さんが少し眉を寄せる。


「何を期待していたんですか?」


「もっと」


「もっと?」


「休みの日も訓練とか」


「しません」


「政府の秘密施設とか」


「行きません」


「尾行の練習とか」


「しません」


「普通だ」


「だから普通だと言っています」


なんか変な感じだ。当たり前なのに、白石さんにも仕事じゃない時間がある。洗濯して、買い物して、家にいる。俺とそんなに変わらない。


「趣味とかないんです?」


「趣味」


「はい」


「特別なものは」


「YouTubeとか見ない?」


「見ますよ」


「へえ」


「何ですか、その反応」


「政府の人もYouTube見るんだ」


「松さんもYouTubeで活動している人ですよね」


「あ」


そうだった。


「ちなみに」


「はい」


「俺のも見てる?」


「見ています」


「最近の?」


「担当になってから必要なものは確認しています」


「まあ、それはそうか」


「過去の配信も一通り」


「……」


止まる。


「過去?」


「はい」


「どこまで?」


「初期から」


「……」


嫌な予感。


「縄跳びも?」


「見ました」


「うわ」


「何ですか?」


「あれ見たの?」


「はい」


「同接ほとんどいなかったやつ」


「見ました」


「俺の黒歴史が国の業務になってる」


「黒歴史なんですか?」


「いや」


黒歴史ではない。でも今思えば、世界で1人かもしれないワープ能力者が水泳帽をかぶって縄跳びして、それでも全然伸びない。


「恥ずかしくない?」


「別に」


「本当に?」


「はい」


「地味でしょ」


「地味でしたね」


「そこは否定して」


白石さんが少し笑う。


「でも」


「はい」


「私は、嫌いではなかったですよ」


「え?」


「何をしたら伝わるか分からなくて、色々試している感じ」


「……」


「縄跳びも」


「そこ具体的に言わなくていい」


「コメントに合わせて動いたり」


「それも」


「スマホの充電がなくなりそうになったり」


「全部見てるじゃん」


「業務です」


「便利だな、その言葉」


でも、ちょっと嬉しい。能力がすごいとか、飛行機とか、政府とか、そういうところではない。何をしたらいいか分からず、視聴者が1人、2人だった頃の俺も見ていた。


「褒めてます?」


「一応」


「一応か」


「かなり試行錯誤していたので」


「それはそう」


「今もですが」


「それもそう」


今だって全部分かっているわけではない。飛行機で150万円、FIRE、政府、配信。何をどうすればいいのか、まだ考えている途中だ。


「じゃあ白石さん」


「はい」


「俺が初配信から今までで1番変わったところは?」


「急ですね」


「担当者評価」


「評価する立場ではありません」


「じゃあ感想」


少し考える。


「……」


「長い」


「考えています」


「はい」


「前より」


「はい」


「人に頼るようになったと思います」


「……」


意外。


「能力?」


「全部です」


「前は?」


「自分で調べて、自分で試して、自分で配信して」


「はい」


「今は、航空会社には航空の判断を任せていますし」


「はい」


「医療のことは医療側に聞く」


「はい」


「契約は専門家に確認する」


「はい」


「政府にも、嫌なことは嫌だと言う」


「最後それ頼ってる?」


「任せるところを決めるという意味です」


「ああ」


なるほど。


「俺、成長してる?」


「少しは」


「少しか」


「まだ150万円を54回掛けようとしていましたけど」


「そこ残ってた」


「残っています」


昼飯。食べる。普通に。


うまい。白石さんも。普通に食べている。


政府担当。ではなく。ただ昼飯を食べている人。


そう見える。今まで。あまり考えたことなかった。


「白石さん」


「はい」


「今度」


「はい」


「また昼飯くらい行きましょう」


白石さんがこっちを見る。


「打ち合わせのあとですか?」


「いや」


言ってから。ちょっとだけ。迷う。


「別に」


「……」


「仕事なくても」


白石さん。少し止まる。


「予定が合えば」


「お」


「何ですか?」


「業務じゃなくても?」


「……」


「白石さん?」


「予定が合えば、です」


「おお」


「何ですか、その反応」


「いや」


なんか。進んだ。気がする。


何が。とは言わないけど。白石さんが時計を見る。


「あ」


「そろそろ?」


「はい」


「次の仕事?」


「そうです」


「じゃあ行きますか」


「はい」


店を出る。


「白石さん」


「はい」


「今度休みの日」


「はい」


「ワープでどっか連れていきましょうか?」


「……」


「?」


「それ」


「はい」


「普通の人に言ったら、かなり強い誘い文句ですよ」


「そうなの?」


「そうです」


「じゃあ無し?」


「そうは言ってません」


「お」


「松さん」


「はい」


「次の予定があります」


「はい」


白石さんは先に歩いていく。俺も後ろからついていく。飛行機の次の試験は、約1か月後。


それまでは。少し。普通に過ごせそうだった。


たぶん。

次回、第42話「150万円もらっても、今日も出勤です」


次回更新:10月16日 20:10予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。