第40話 飛行機1回でこんなにもらえるの?
政府端末の画面を見る。
『本日の特別便に関する報酬額が確定しました』
その下。数字。
「……」
もう1回見る。
「1,500円……」
いや。0が。
1つ。
2つ。
3つ。
「150万円?」
桁、合ってる。15万円ではない。150万円。
「……マジ?」
俺、今日何した?飛行機に乗った。
ワープ。
3回。終わり。もちろん、その前に試験もした。
契約の話もした。安全確認も何回もやった。でも、今日だけ見たら。
3回。
ワープ。
150万円。
「いやいやいや」
政府端末から白石さんへ連絡する。
『はい』
「これ、間違ってない?」
『何がですか?』
「報酬」
『確認しました』
「150万って出てるんですけど」
『はい』
「150万円?」
『そうです』
「俺」
『はい』
「ワープ3回しただけですよ?」
少し間。
『その考え方をやめる話を、つい最近したばかりでは』
「そうなんですけど」
分かってる。分かってるけど、感覚が追いつかない。
「内訳って?」
『契約書に記載されています』
「今見ます」
開く。文字と条件を確認する。
数字。
「基本協力料」
『はい』
「100万円」
『はい』
「それと」
下。
「旅客チケット売上の5%」
『はい』
「今回」
100席。1席10万円。単純な旅客チケット売上。
1,000万円。その5%。
「50万円」
『はい』
「合わせて」
『150万円です』
「……」
ちゃんと合ってる。
「基本だけで100万円?」
『そういう契約です』
「高くない?」
『松さん』
「はい」
『今日の便は、松さんがいなければ商品として成立していません』
「まあ」
それはそう。
「でも航空会社も色々払ってるでしょ?」
『もちろんです』
飛行機、乗務員、整備、空港、警備、予約システム、事前試験、安全確認。その他にも色々ある。
「じゃあ1,000万円売って」
『はい』
「そこから俺に150万」
『はい』
「で、航空会社にも残る?」
『利益がどれだけ残るかは、最終的な費用によります』
「ですよね」
『ただ、少なくとも事業として継続を検討できる見込みがあるから、次回の話が出ています』
「なるほど」
俺だけが得しているわけではない。航空会社も、客も、それぞれ価値があるから成立する。
「じゃあ」
『はい』
「俺が3回ワープして150万、じゃなくて」
『はい』
「この便を成立させる能力に150万?」
『その理解の方が近いです』
「……」
やっぱり、すごいな。価値。時間じゃない。
俺が何分働いたかではない。俺しかできないことを、どれだけの人が欲しいか。そこ。
「これ」
『はい』
「普通の仕事と感覚違いすぎますね」
『比較対象が普通ではありませんので』
「ワープだから?」
『はい』
納得。でも、まだ変な感じ。俺は電卓を開く。
8,000万円。割る。150万円。
「……53.3」
切り上げ。
「54回?」
『何を計算しています?』
「8,000万」
『……』
「単純計算で」
『松さん』
「はい」
『税金があります』
「はい」
『毎回同じ報酬になるとは限りません』
「はい」
『生活費もあります』
「はい」
『投資の値動きもあります』
「はい」
『1便目で退職届を書かないでください』
「そこまでしてない」
『今、少し考えましたね?』
「……」
考えた。ちょっとだけ。
「でも」
もう1回、電卓を見る。54。今まで、8,000万円は遠い数字だった。
何年かかるか分からない。給料。節約。
投資。少しずつ積む。そういう目標だった。
今は。54便。もちろん、本当に54便で終わるわけではない。
でも。
「回数で見える」
『はい?』
「8,000万」
俺は少し笑う。
「前より近く見える」
白石さんは少し黙った。
『それは』
「はい」
『良かったですね』
「お」
『何ですか?』
「普通に喜んでくれた」
『松さんが目標に近づくこと自体は、悪いことではありません』
「ですよね」
『ただし』
「来た」
『無理な便数を入れないでください』
「はい」
『本業を急に辞めない』
「はい」
『体調を崩さない』
「はい」
『契約をよく確認する』
「はい」
『税金も忘れない』
「はい」
「白石さん」
『何ですか?』
「俺の財布の管理までしてない?」
『していません』
「でも結構言う」
『松さんがしそうで怖いだけです』
「何を?」
『勢いで会社を辞めるとか』
「そこまでしないですよ」
『本当に?』
「たぶん」
『不安になる返事をしないでください』
「はい」
それに、今の仕事は嫌いではない。辞めたい理由は、働くのが嫌だからではない。自由が欲しい。
だからFIRE。焦って辞める必要もない。
「月1なら」
『はい』
「150万」
『毎回同額とは限りません』
「分かってますって」
でも仮に、同じ条件で月1回。1年。12回。
150万。掛ける12。
「1,800万」
『税引前です』
「はい」
会社の給料。YouTube。政府協力。
投資。そこに航空。
「……」
強い。本当に強い。
「これ」
『はい』
「俺、会社員のままでいいのかな」
『なぜですか?』
「副業の方がでかくなりそう」
『だからといって、今すぐ辞める理由にはなりません』
「ですよね」
『まだ1便です』
「はい」
『需要が続くかも分かりません』
「はい」
『契約条件も今後変わる可能性があります』
「はい」
『松さん自身の生活もあります』
「はい」
「やっぱり」
『何ですか?』
「白石さん、俺よりFIRE慎重派ですね」
『松さんが慎重でなさすぎるだけです』
「それはある」
翌日。航空会社から次回についての連絡。会議。
俺、白石さん、航空会社の担当者。
「初便については」
「はい」
「想定以上の反響がありました」
「数分で売り切れましたもんね」
「はい」
「次回も10万円?」
「そこを含めて検討中です」
「上げる?」
「可能性はあります」
「下げる?」
「それも」
「どっち?」
「需要を見ながらです」
そりゃそうか。
「あと」
資料。
「窓側席への希望がかなり集中しました」
「ああ」
初便の感想。
『窓側じゃないと損した気分』
あった。
「窓の外が変わるのが1番分かりやすいですもんね」
「はい」
「窓側だけ高くする?」
「1案です」
「飛行機でも普通にそういうのある?」
「座席指定やクラスによる価格差はあります」
「なるほど」
商売がどんどん普通の航空会社っぽくなる。
「販売方式についても」
「はい」
「先着ではなく、抽選方式を含めて検討します」
「その方がいいかも」
「アクセス集中もありましたので」
「ですよね」
初便。数分で完売。次がどうなるかはまだ分からない。
でも少なくとも、需要はある。
「毎週やるんです?」
「現時点では考えていません」
「月1?」
「その程度を基本に検討しています」
「希少性?」
「それもあります」
「俺の予定?」
「それもあります」
「安全?」
「当然です」
「全部ですね」
「はい」
良かった。毎週、毎日とか言われたら断る。絶対。
「今回」
航空会社の人が言う。
「もう1つご相談があります」
「はい」
資料。今度は少し違う。長い路線。
「次は」
「はい」
「ワープそのものを体験する短距離特別便ではなく」
「はい」
「実際に数時間の移動時間を短縮する、長距離便での検証を行いたいと考えています」
「……」
来た。
「そっちが本命?」
「将来的には」
航空会社の人が言う。
「両方です」
「両方?」
「ワープを体験したい方」
「はい」
「移動時間を大幅に短縮したい方」
「はい」
「需要は別だと考えています」
「ああ」
確かに。遊びと実用。別。
「長距離だと」
「はい」
「燃料ももっと減る?」
「可能性があります」
「時間も?」
「大きく短縮できます」
「客も高く払う?」
「その可能性があります」
「……」
また金が頭に出る。白石さんが俺を見る。
「まだ何も決まっていません」
「まだ何も言ってない」
「顔に出ています」
「ゴーグルしてるのに?」
「雰囲気で分かります」
「そんなに?」
「はい」
航空会社の人が少し笑った。
「まずは」
「はい」
「長距離で安全に同じ方式が使えるか」
「試験?」
「はい」
「また飛行機?」
「はい」
「……」
最近、副業で飛行機に乗る回数が増えた。でも。8,000万円。
遠かった数字が、少し近くなった。次はもっと、時間そのものを短くする仕事。俺のワープ。
まだちゃんと、金になりそうだった。
【FIRE STATUS UPDATE】
開始時金融資産:約550万円
航空ワープ特別便報酬:150万円(確定・税引前/入金前)
FIRE目標:8,000万円
公開FIREブログ:個別案件額は非公開
状態:8,000万円が初めて「回数で見える」距離になった
次回、第41話「白石さんって休みの日何してるんですか?」
次回更新:10月16日 12:10予定




