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ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん


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第37話 お客さん乗せる前に試します

航空会社との話から、しばらくして。今度は商談ではなく、実験の日が来た。


「でかいな」


目の前には旅客機。この前助けた時にも見た。でも今日は事故じゃない。


消防車が緊急待機しているわけでもない。俺が来ることも最初から決まっている。なのに。


ちょっと緊張する。


「本日は、まず地上での確認から行います」


「お願いします」


航空会社の担当者から説明を受ける。今日の目的。俺が飛行機の中にいる状態で。


俺自身も含めて。飛行機を丸ごとワープできるか。


「これ」


俺は旅客機を見る。


「考えてみれば、まだやってないんですよね」


「はい」


この前は、外から飛んでくる旅客機と安全区域の両方を見て、飛行機を動かした。


でも、商業便で毎回俺だけ外へ出る。


というわけにはいかない。そもそも。飛行機が高いところを飛んでいる時に、俺が外を泳いでいるのは嫌だ。


寒いし、風もある。普通に怖い。


「じゃあ中からできないと話にならない?」


「実用化を考えるなら、大きな確認項目です」


「ですよね」


近くには白石さんもいる。今日は政府側との連絡調整と、俺の安全確認。


「もし失敗したら」


「はい」


「俺だけワープしたりしません?」


「その可能性が分からないので、最初から飛行中には試しません」


「ですよね」


まずは地上、停止中。


乗るのは必要最低限の人だけ。機長と副操縦士。


技術関係の人と俺。最初はそれだけ。


「白石さんは?」


「私は地上にいます」


「乗らないんです?」


「私が乗る必要はありません」


「ワープ体験ですよ」


「実験です」


「ちょっと乗りたくない?」


「業務です」


「否定しない」


「空中スイマーさん」


「はい」


「遊びではありません」


「はい」


怒られた。でも。ほんの少しだけ。


乗りたそうな気はした。気のせいかもしれない。そのまま旅客機へ入る。


「おお」


普通に客として乗る時とは違う。今日はほぼ誰もいない。ずらっと並んだ座席。


空席が並んでいる。


「これ全部空いてるの、変な感じですね」


「試験ですので」


前へ進む。今回。俺が一番重要になる場所。


操縦席の近く。通常の旅客便で俺をどう配置するかはまだ決まっていない。今日は試験なので。


安全に外が見える位置を用意してもらっている。透明な窓越しに。前方。


地面。空。見える。


「ここなら」


俺は前を見る。


「ワープ先は見えます」


「機体そのものはどうですか?」


「それなんですよね」


今。俺は飛行機の中にいる。外からなら。


飛行機一機。そのまま見える。でも。


中。見えているのは。床。


壁。座席。窓の外に少しだけ翼。


飛行機全部が見えているわけではない。


「やってみないと分からないです」


正直に言う。俺の能力。対象を1つとして認識できるか。


それが結構大きい。石入りの袋。袋を1個と思えば。


中の石まで一緒に動いた。旅客機も。この前。


飛行機一機。そう考えて。人も荷物もまとめて動いた。


なら。中にいても。


「この飛行機」


と認識できれば。いける。かもしれない。


「まずは数メートルです」


「はい」


地上側と連絡。飛行機の前方。誰もいない。


車両もない。障害物もない。試験用に空けられた場所。


そこを見る。


「……」


次に。機内。床。


窓。翼。座席。


そして。俺自身。


「この飛行機」


1個。


俺も中。乗員も中。全部。


ひとまとまり。


「いきます」


『準備完了しています』


地上との通信。


「ワープ」


一瞬。


何もない。衝撃もない。音も。


ほとんど変わらない。


「……」


俺は窓の外を見る。


「動いた?」


機長が計器を確認。地上側からも連絡。


『移動を確認しました』


「おお」


外を見る。さっきより。地上の目印が少し後ろにある。


本当に。飛行機ごと。動いている。


「俺も中にいる」


「はい」


「良かった」


思わず言った。当たり前だけど。良かった。


「俺だけ元の場所に残るとか」


「それは困ります」


「ですよね」


地上にいる白石さんの声。


『逆に、飛行機だけ移動して空中スイマーさんが残る可能性も確認対象でした』


「それもっと嫌ですね」


『ですので地上から始めています』


「ありがとうございます」


まず。


1個。


クリア。機内からでも。飛行機。


乗員。俺。まとめて動かせる。


「次は?」


「低速で移動している状態を確認します」


「動きながら?」


「はい」


機体を所定の位置へ戻す。今度は。地上をゆっくり進む。


俺は前方を見る。


「昨日みたいに止めるんじゃなくて」


「はい」


「この動きを残す」


「お願いします」


速度。向き。そのまま。


ワープ。


一瞬。


景色が飛ぶ。でも。機体の動きは続いている。


「……おお」


普通に。進んでる。地上側。


機体側。確認。問題なし。


「いけますね」


俺が言うと、隣で記録を確認していた航空会社のスタッフが答えた。


「現時点では、問題なさそうです」


「その言い方、白石さんみたいになってきましたね」


すると、地上とつながった通信から声が返ってきた。


『慎重で結構です』


「聞こえてた」


どうやら白石さんも、ずっとこちらのやり取りを聞いているらしい。何度か。距離。


速度。条件を変える。


1個ずつ。


確認。俺としては。


ワープ。


するだけ。でも。周りは。


計器。位置。姿勢。


機体。記録。いろんな数字を見ている。


「俺より周りの仕事多くないです?」


「試験ですので」


「俺、本当にボタンみたいだな」


誰も否定しなかった。そして。地上試験終了。


「次」


担当者が言う。


「条件が整えば、飛行試験へ進みます」


「今日やるんですよね?」


「はい」


「おお」


少し。ワクワクしてきた。休憩。


確認。また確認。そして。


試験飛行。一般客。ゼロ。


必要最低限の乗員とスタッフだけ。俺も乗る。地上では白石さん。


「じゃあ行ってきます」


「はい」


「本当に乗らない?」


「乗りません」


「次は?」


「必要があれば」


「ちょっと乗りたいんじゃん」


「空中スイマーさん」


「行ってきます」


逃げる。機内へ。扉が閉まる。


座る。離陸。


「……」


普通に。飛行機だ。当たり前だけど。


普通に飛ぶ。滑走路。加速。


浮く。上がる。街が小さくなる。


空。雲。ここまでは。


ただの飛行機。俺がいること以外。しばらくして。


試験を行える状態になった。俺も。所定の位置へ移動。


前方。見える。空。


青。遠く。そして。


機体の一部。この飛行機。中に。


人。俺。


「準備できました」


「こちらも準備できています」


機長から確認。地上側。航空側。


安全確認。周囲。問題なし。


最初の距離。短い。数キロ程度。


いきなり何100キロなんてやらない。


「進行方向、このまま?」


「はい」


「速度も残す?」


「その条件でお願いします」


「分かりました」


飛行機は。前へ進んでいる。この速度。


この向き。そのまま。見えている先へ。


「いきます」


少し緊張。


「ワープ」


景色が。飛んだ。


「……」


体。何もない。揺れない。


押されない。引っ張られない。飛行機も。


そのまま。エンジンの音。変わらない。


ただ。窓の外。さっきとは違う。


「移動確認」


機長。計器。スタッフ。


地上。次々に確認。


「予定地点との差を確認します」


「どれくらいです?」


少し待つ。


「わずかにずれています」


「あ」


やっぱり。完全一致。ではない。


「問題あります?」


「通常飛行で修正可能です」


「本当に直せるんだ」


機体の向きが。少し変わる。高度。


位置。調整。普通の飛行機として。


戻していく。


「……これ」


「はい」


「思ったより気が楽ですね」


「なぜですか?」


「一発で完璧な場所に置かなくていいから」


この前の救助は。止める。置く。


一発。今回は違う。多少ずれる。


なら。飛ぶ。直す。


また。


ワープ。


「俺が全部やらなくていい」


それが。かなり大きい。俺。


能力者。でも。航空の専門家ではない。


専門家に。任せるところは任せる。


「次の区間、準備します」


「はい」


今度は。少し長く。進行方向。


安全確認。俺が見る。


「いきます」


ワープ。


また。景色。飛ぶ。


「おお」


今度。ちょっと分かった。外を見る。


さっきまで。下に見えていた景色。ない。


別の場所。


「……これ」


「何か異常がありますか?」


「いや」


異常ではない。むしろ。


「普通に面白いな」


「……」


スタッフが。少しこっちを見る。


「すみません」


でも。本当に。面白い。


俺は今まで。自分でワープしてきた。一瞬で。


場所が変わる。それはもう。慣れた。


でも。飛行機の中。座席。


壁。エンジン音。全部変わらない。


なのに。窓の外だけ。一瞬で。


世界が飛ぶ。


「これか」


思わず言う。


「何がでしょう」


「ワープ体験」


航空会社の人が言っていた。時間短縮。だけじゃない。


実際にワープする。それそのもの。商品。


「自分でやるのと違うな」


俺は窓を見る。


「中に乗ってる方が、ワープした感あるかも」


また次。位置調整。安全確認。


ワープ。


「うわ」


また。景色が変わる。


「これ」


ちょっと笑う。


「金払って乗りたい人、いるわ」


俺だったら。能力がなかったら。乗りたい。


1回くらい。絶対。体験してみたい。


「昨日」


助けた旅客機。中の人たち。怖かっただろう。


事故。緊急事態。それどころではなかった。


でも。安全。最初からワープすると分かっている。


イベント。そうなれば。話は。


全然違う。


「商品になるって意味」


やっと。実感した。その後も。


数回。距離を変えて。確認。


ワープ。


修正。また。


ワープ。


俺がやるのは。飛行機一機を。指定された安全な方向へ。


動かす。航空側が。その後を直す。


次。また動かす。最初に話した通り。


本当に。それだけ。


「これなら」


俺は思う。俺が。飛行機を操縦できなくても。


成立する。少なくとも。今日の試験では。


そして。ワープ区間終了。


「ここからは通常飛行です」


「もう俺やることない?」


「はい」


「終わった」


急に暇になった。座席へ戻る。


「……」


普通に飛ぶ。さっきまで。何回も瞬間移動していたのに。


今は。普通。


「遅く感じるな」


贅沢になった。しばらくして。降下。


進入。着陸。ここは。


完全に。パイロットの仕事。俺。


何もしない。タイヤが地面につく。機体が減速。


「おお」


普通の着陸。ちょっと安心する。飛行機を降りる。


地上。白石さんが待っていた。


「お疲れさまでした」


「ただいま」


「体調は?」


「問題なし」


「頭痛、めまい、吐き気は」


「ないです」


「疲労感」


「ないです」


「分かりました」


完全に。医療体制が定着してきた。


「白石さん」


「はい」


「どうでした?」


聞こうと思ったら。先に聞かれた。


「どうでした?」


「売れると思います」


「安全面の話を聞いています」


「そっち?」


「そっちです」


「問題なかったですよ」


「位置誤差は?」


「少し。でも普通に直せました」


「機体や乗員への異常は?」


「今のところ聞いてないです」


航空会社側のスタッフも降りてくる。記録。確認。


機体検査。これから。まだ見るものは多い。


「でも」


俺は白石さんに言う。


「ワープ体験」


「はい」


「ちょっと分かりました」


「何がです?」


「自分でワープするより」


飛行機を見る。


「中に乗って景色が飛ぶ方が、すごい感じする」


「空中スイマーさんは普段からワープしすぎなのでは」


「それはある」


航空会社の担当者が近づいてくる。


「本日の試験結果については、これから詳細に確認します」


「はい」


「現時点では、予定していた試験項目を実施できました」


「良かった」


「次の段階ですが」


「はい」


「機体、能力使用者、乗員、設備への影響を十分に確認した上で」


「はい」


「搭乗する人数を少し増やした試験を検討したいと考えています」


「スタッフ?」


「まずは関係者を中心に」


「なるほど」


いきなり。客。ではない。


ちゃんと。一段ずつ。


「それが問題なかったら?」


聞く。航空会社の人が。少し間を置く。


「安全面、制度面、契約面の確認が整えば」


「はい」


「一般のお客様を乗せた特別便を検討します」


「……」


来た。


「売るんですね」


「そこまで進めば」


「ワープ体験」


「はい」


「本当に」


俺は旅客機を見る。


「商品になるんだ」


この前まで。俺は。魚を捕って昼飯にしていた。


政府と健康の話をしていた。会社では。普通に数字を見ていた。


今。俺の能力を使って。旅客機に人を乗せ。


ワープそのものを。売ろうとしている。


「……」


なんか。すごいところまで来たな。でも。


まだ。試験。次。


人数を増やす。その次。ようやく。


客。


「白石さん」


「はい」


「一般客乗せる時」


「はい」


「乗ります?」


「なぜ私が」


「ワープ体験」


「業務上必要があれば」


「やっぱ乗りたいんじゃん」


「空中スイマーさん」


「はい」


「体調確認に行きます」


「逃げます」


「逃がしません」


その日の最後。結局。ワープ使いなのに。


健康確認からは逃げられなかった。

次回、第38話「ワープ体験便、売ります」


次回更新:10月14日 20:10予定

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