第36話 航空会社から相談が来ました
旅客機を丸ごとワープさせた翌日。俺は普通に会社へ出勤していた。
「おはようございます」
「おはよう」
昨日。飛行機を一機、乗客ごと動かした。全国ニュースにも映った。
水泳帽まで映った。そして今日は、普通に仕事。
「松さん、これ昨日の続き」
「あ、はい」
途中になっていた資料を受け取る。世界で1人かもしれないワープ能力者でも。昨日途中にした仕事は、翌日まで残るらしい。
「ここ、確認します」
「お願い」
パソコンを開く。数字と資料。
メール。テレビでは朝から空中スイマーの話をしていたけど。ここでは関係ない。
少なくとも、表向きは。昼休み。
政府端末を見る。白石さんから連絡が入っていた。
『昨日お伝えした航空会社からの相談について、面談希望が来ています』
「早いな」
昨日の夜。緊急時ではなく。普通の旅客輸送にもワープを使えないか。
そういう相談だと聞いた。
『松さんの勤務予定を優先した上で、候補日時を送ります』
「お願いします」
少しして候補が届く。休日で行ける日を選んだ。
『ここでお願いします』
『承知しました』
送信。
「……航空会社と商談する会社員ってなんだ」
最近。自分の肩書きがよく分からなくなってきた。そして休日。
政府側が用意した会議室。俺はいつもの空中スイマー姿だった。水泳帽。
ミラーゴーグル、マスク、無地の服。
室内でも変えない。今日会うのは航空会社の人間。政府ではない。
俺の本名も、素顔も、勤務先も。
必要以上に教える理由はない。
「こんにちは」
「お疲れさまです」
白石さんが先にいた。いつもの落ち着いた服装だ。対する俺は。
水泳帽。
「……」
「どうしました?」
「いや」
会議室を見る。
「これから航空会社の人と商談する格好じゃないなと思って」
「空中スイマーとしての面談ですので」
「そうなんですけど」
机、資料、スーツ。
そこに。水泳帽。
「俺だけプール帰りみたいなんですよ」
「昨日全国放送された格好です」
「余計嫌だな」
少しして。航空会社側から数人入ってきた。運航関係。
安全関係、事業関係。全員きっちりした服を着ている。
その向かいには、水泳帽、ミラーゴーグル、マスク姿の俺。誰も突っ込まない。大人ってすごい。
「昨日は、本当にありがとうございました」
最初に頭を下げられた。
「いえ」
「乗員、乗客ともに大きな被害を避けることができました」
「みんな無事なら良かったです」
そこは。本当に良かった。
「改めて、御礼申し上げます」
「ありがとうございます」
少し間。俺は資料を見る。
「それで」
白石さんがこっちを見る。
「仕事の相談もあるって聞いたんですけど」
「空中スイマーさん」
「はい?」
「切り替えが早いですね」
「いや、お礼だけなら昨日でも」
航空会社の人が少し笑った。
「はい。本日は別件のご相談が本題です」
「お願いします」
資料が出る。旅客機。航路。
運航時間。燃料。料金。
「昨日、空中スイマーさんが行った機体移動について、社内で検討を始めました」
「もう?」
「当然、実用化できる段階ではありません」
「ですよね」
「ただ」
資料の1枚。
「もし同様の移動を、通常の旅客輸送でも安全に利用できるなら、大きな価値があると考えています」
「そこなんですけど」
「はい」
「俺、飛行機の航路とか全然分かりませんよ?」
「空中スイマーさんに操縦や航法を担当していただく想定ではありません」
「じゃあ、どうするんです?」
俺の能力は、地図を見て『ここ』と指定すれば飛ばせるわけではない。住所やGPS、画面の映像もワープ先にはならない。
実際の光が届いている場所を、この目で見る必要がある。
「まず」
航空会社の人が説明する。
「通常通り離陸します」
「はい」
「機長が安全な高度、速度、姿勢を確保します」
「普通に飛ぶんですね」
「はい」
「その後、管制等と連携し、周囲の安全が確認された状態でワープ区間へ入ります」
「俺は?」
「基本的には、航空側が安全を確認した進行方向へ機体を移動していただきます」
「前へ?」
「簡単に言えば」
なるほど。俺が航空図を読んで。航路を決めて。
雲を避けて。他の飛行機を確認して。そんなことをするわけではない。
すでに。飛行機が安全に飛んでいる。向いている方向も決まっている。
俺は。
「直線だけ?」
「まずは、それを想定しています。もちろん、ワープ先として見える範囲に限っての話です」
「それなら分かる」
「ただ、俺が飛行機の中にいても、機体ごと動かせるかはまだ分からないですよ」
「はい。まずはそこから試験で確認したいと考えています」
「ですよね」
1回。前へ。
ワープ。
そこで。機長。管制。
航空側。現在位置。向き。
高度。周辺。全部確認。
少しズレていたら。普通に飛行して修正。そして。
次。
「一発で目的地まで行かない?」
「はい」
「何回かに分ける」
「その方が安全性を確認しながら進められると考えています」
「誤差が出ても」
「次の移動前に修正できます」
「なるほど」
かなり安心した。俺が。何百キロ先まで。
『たぶんこっち』
で飛行機をぶん投げるわけではない。
「操縦は?」
「機長です」
「航路は?」
「航空側で管理します」
「天気は?」
「航空側で判断します」
「他の飛行機は?」
「管制等と連携します」
「俺は?」
「安全が確認された方向へワープ」
「……ワープ係?」
「非常に簡単に言えば」
白石さんが横から言った。
「かなり高価なワープ係になる可能性はあります」
「そこ大事ですね」
「まだ価格は決まっていません」
「はい」
もう1つ。
「昨日は速度ゼロにしましたよね」
「はい」
「普通の便でも毎回止めるんです?」
「いいえ」
即答。
「ですよね」
昨日は緊急事態。脚が出ない。だから。
速度を消して。置いた。でも。
普通に飛んでいる飛行機なら。わざわざ止める必要がない。
「通常運航では、安全な飛行状態を維持したまま移動できるかを検証したいと考えています」
「最初から飛んでる勢いを残す?」
「はい」
「向きも?」
「可能であれば」
「そこは試験ですね」
「お願いします」
ワープ後も。飛行機は普通に飛んでいる。最後。
目的地へ近づいたら。ワープ終了。普通の飛行。
進入。着陸。
「つまり」
俺は資料を見る。
「普通の飛行機の仕組みはそのままで」
「はい」
「巡航してる時間だけ、俺が短くする?」
「その理解が近いです」
「おお」
かなり分かりやすい。俺が航空会社を作る必要はない。パイロットにもならない。
空港も。管制も。整備も。
航空会社が持っているものを使う。途中だけ。
ワープ。
「俺が航空会社になる必要ないんですね」
「ありません」
「良かった」
白石さんが少し笑う。
「やりたかったんですか?」
「全然」
仕事を増やしたいわけではない。むしろ。減らしたい。
FIREしたい。
「でも」
俺は資料を見る。
「これ、航空会社側にそんなに得あるんです?」
「あります」
「燃料?」
「燃料もあります」
航空会社の人が1枚めくる。
「まず、非常に単純化した例を出します」
「お願いします」
「機種や重量、気象条件、燃料価格等で大きく変わります。その前提ですが」
数字。
「例えば中型旅客機が巡航中、1時間におよそ2.4トンのジェット燃料を使うと仮定します」
「2.4トン」
「1分で約40キログラム」
「はい」
「ジェット燃料の密度を1リットル約0.8キログラムとして」
「50リットルくらい?」
「その程度です」
「1分で?」
「概算です」
飛行機。怖い。
「説明用に、1リットル180円から200円程度として考えれば」
計算。
「1分で1万円弱?」
「おおむねそのくらいの規模です」
「1分飛ばなくて済んで、1万円」
「燃料だけを非常に単純化すれば」
「……」
俺は少し考える。
「思ったより安いですね」
正直に言った。飛行機。もっと。
1分で何十万円とか使っているのかと思っていた。
「はい」
航空会社の人は普通にうなずいた。
「え?」
「1分だけなら、です」
「……」
「我々が考えているのは」
資料が変わる。長距離。
「1分ではありません」
「何分?」
「数時間です」
「あ」
そうか。俺。1分で考えていた。
「例えば」
航空会社の人が言う。
「通常なら8時間程度必要な移動があるとします」
「はい」
「当然、離陸、上昇、降下、着陸などの時間は残ります」
「全部ワープじゃないから」
「はい」
「ですが、その間の長い巡航区間を大きく短縮できれば」
8時間。それが。1時間。
2時間。そうなる。
「燃料だけでも」
俺は計算する。1時間。数十万円。
数時間。
「……数百万円?」
「条件によっては、その規模になります」
「ああ」
急に。数字が変わった。
「でも」
相手が続ける。
「燃料費は、我々が考えている価値の一部に過ぎません」
「まだある?」
「あります」
次に出たのは。乗客。
「例えば乗客が200人」
「はい」
「移動時間を7時間短縮できれば」
「1人7時間」
「はい」
「200人だから」
掛ける。
「1,400時間?」
「乗客全体では」
「……」
1人なら。7時間。でも。
200人なら。1,400時間。
「仮に、1人あたりの時間価値を1時間3,000円相当と説明用に置くと」
「4,200,000円?」
「はい」
「でもそれ」
「当社の利益ではありません」
「ですよね」
「ただし」
資料に。料金。
「7時間早く着ける商品に、お客様がいくら払うか」
「あ」
そこで。ちょっと分かった。
「安くする話じゃない?」
「必ずしも」
「燃料減って」
「はい」
「運航時間も減って」
「はい」
「原価は下がる可能性がある」
「はい」
「なのに」
資料を見る。
「客には高く売れる?」
「時間短縮そのものに価値があれば」
「……強いな」
航空会社の人が少し笑った。
「我々もそう考えています」
原価。下がる。商品の価値。
上がる。利益。増える可能性。
「だから俺に金払っても成立する?」
「条件次第では」
「1回数百万円でも?」
「事業としてそれ以上の価値が生まれるのであれば」
「……」
なるほど。俺が何秒働いたか。ではない。
結果。どれだけ価値が増えたか。そっち。
でも。まだ何か。引っかかる。
「じゃあ」
「はい」
「長距離便じゃないと弱いですよね」
8時間。7時間。そういう便だから。
価値が大きい。
「いえ」
「え?」
航空会社の人が。今度は別の資料を出した。そこには。
昨日。乗客が撮った映像の静止画。窓の外。
空。次の瞬間。地面。
「こちらです」
「……昨日の?」
「はい」
「機内映像?」
「はい」
俺も見た。空。から。
一瞬で。地上。
「この映像」
「はい」
「非常に大きな反響があります」
「まあ」
そうだろう。俺が見ても変だった。
「現在、当社にも多数の問い合わせが入っています」
「事故について?」
「それもあります」
少し間。
「ですが」
「はい」
「実際にワープを体験してみたい、という声も少なくありません」
「……」
俺は止まった。
「そこ?」
「はい」
「時間短縮じゃなく?」
「もちろん、それもあります」
「でも」
「ワープそのものにも商品価値があると考えています」
「……」
確かに。俺。自分では。
もう何度もやっている。
ワープ。
日常。移動。魚。
救助。飛行機。でも。
普通の人は。一生に1回も。ワープしない。
「昨日」
航空会社の人が言う。
「乗客は、意図せず世界でも前例のない体験をしました」
「事故だったからですけどね」
「もちろん、安全な商品としてそのまま再現できるとは考えていません」
「はい」
「ですが」
資料に。仮。
『空中スイマー特別便』
「……」
「安全性を十分に確認した上で」
「はい」
「飛行中の旅客機が実際にワープする」
「はい」
「それを乗客自身が体験する」
「……」
「その体験だけでも、大きな価値がある可能性があります」
「俺」
少し考える。
「アトラクションになってません?」
「高付加価値サービスです」
「言い方」
白石さんが少し横を向いた。笑った気がする。
「じゃあ」
俺は資料を見る。
「最初から8時間を1時間にしなくても?」
「はい」
「短い路線で」
「はい」
「1回」
「あるいは数回」
「飛行機がワープするだけでも」
「商品として成立する可能性があります」
「……」
強い。思っていたより。ずっと。
強い。
「ワープに乗れる」
「はい」
「それだけで金払う人がいる?」
「十分に考えられます」
「……」
俺だったら。能力なかったら。ちょっと乗りたい。
いや。かなり乗りたいかもしれない。
「しかも」
航空会社側が続ける。
「空中スイマーさん本人が担当します」
「あ」
「ワープ能力を再現できる設備ではありません」
「俺しかできない」
「現時点では」
「……」
そこで。さらに。意味が変わる。
「これ」
「はい」
「普通の新サービスじゃないですね」
「はい」
「コラボ?」
「そうした側面もあります」
「空中スイマーとの?」
「はい」
「……」
俺。商品。
「俺、観光資源みたいになってない?」
「表現はともかく」
白石さん。
「市場価値はあります」
「言い切った」
航空会社の人も続ける。
「燃料費削減だけなら」
「はい」
「空中スイマーさんへ高額な報酬を支払う意味が薄いケースもあるでしょう」
「ですよね」
「ですが」
資料を見る。
「世界で初めて」
「はい」
「実際の旅客便で」
「はい」
「ワープを体験できる」
「はい」
「それを当社が最初に商品化できる」
「……」
あ。そこで。ようやく。
本当の意味が見えた。
「御社」
「はい」
「俺へのお礼が一番じゃないですよね?」
会議室が。
一瞬。
静かになる。白石さんは。何も言わない。
航空会社の人が。少し考える。
「昨日の件への感謝は、本物です」
「はい」
「空中スイマーさんにも利益がある形にしたいと考えています」
「はい」
「ですが」
続く。
「企業として」
「はい」
「この機会を事業として検討しない理由もありません」
「ですよね」
むしろ。その方が。すごく分かる。
恩返し。だけじゃない。商売。
ちゃんと。商売。
「他の航空会社も」
「はい」
「同じこと考えますよね」
「当然、可能性はあります」
「じゃあ」
もう1個。気づく。
「御社」
「はい」
「俺と最初に組みたい?」
「……」
少し間。
「否定はしません」
「やっぱり」
昨日。俺が助けた会社。世界で最初に。
自社の旅客機がワープした会社。事故だった。でも。
誰より早く。実物を見た。そして。
今日。もう俺と話している。
「先に押さえたいんですね」
「空中スイマーさんとの協力関係を、他社に先んじて構築できる価値はあると考えています」
「正直だ」
「隠しても意味がありませんので」
「それいいですね」
俺は。そっちの方が好きだった。
『助けてもらった恩返しです』
だけなら。逆に。怖い。
でも。
『儲かりそうなので組みたいです』
なら。理解できる。
「白石さん」
「はい」
「俺」
「はい」
「結構強い立場?」
「はい」
即答だった。
「世界で1人ですので」
「そうだった」
「ですので」
白石さんが続ける。
「安く受けないでください」
「……」
「空中スイマーさん」
「はい」
「今」
「はい」
「『1回ワープするだけだし』と思いましたね?」
「……ちょっと」
「やはり」
「だって」
1回。
ワープ。
数秒。それで。数百万円。
とか言われたら。感覚がおかしくなる。
「でも」
白石さんが言う。
「相手企業がそれ以上の価値を得るなら」
「はい」
「空中スイマーさんの作業時間が短いことは、価格を下げる理由にはなりません」
「……」
さっき。航空会社の人にも言われた。相手が。
何を得るか。
「向こうが儲かる」
「はい」
「俺も儲かる」
「はい」
「客は早く着く」
「はい」
「しかも」
資料を見る。
「ワープ体験できる」
「はい」
「普通の便も残る」
「はい」
「……みんな得してません?」
「安全に成立すれば」
「絶対そこつけますね」
「大事ですので」
航空会社側が話を戻す。
「そこで」
「はい」
「当社としては」
資料。
「まず月1回程度の特別便から検討できないかと考えています」
「月一?」
「空中スイマーさんが参加可能な日だけです」
「普通の定期便じゃなく?」
「通常便とは別の特別企画として」
「イベント便?」
「近いです」
「ワープ体験便?」
「それも候補になります」
「……」
面白そう。普通に。面白そう。
「長距離じゃなくても?」
「最初はむしろ、短い区間の方が安全検証を進めやすいでしょう」
「あ」
そうか。最初から。大陸横断。
何時間短縮。とか。しなくていい。
短い区間。1回。
ワープ。
それだけ。でも。客は。
世界初かもしれない体験。
「それで高く売れる?」
「需要次第ですが」
「……強いな」
本当に。強い。
「俺が今月無理ですって言ったら?」
「実施しません」
「翌月?」
「改めて調整します」
「普通の便は?」
「通常通り飛びます」
「理想」
これなら。俺が休んでも。誰も困らない。
「白石さん」
「はい」
「俺より俺の休み守ってません?」
「契約条件です」
「ありがたいです」
航空会社側も。すぐに言った。
「当社としても、空中スイマーさんがいなければ通常運航できない仕組みにはしない方針です」
「それ助かります」
「また」
白石さん。
「政府協力が優先される場合もあります」
「承知しています」
「本人が断ることもあります」
「はい」
「常時稼働前提にはしないでください」
「その前提です」
強い。俺。何も言わなくても。
条件が増えていく。
「料金についても」
航空会社側が続ける。
「まだ白紙です」
「客の?」
「はい」
「俺の報酬も?」
「はい」
「どういう払い方?」
「1便ごとの固定報酬」
「はい」
「特別便の売上等に応じた報酬」
「ロイヤリティ?」
「そうした形も」
「両方?」
「契約次第では」
「……」
8,000万円。頭に出る。俺の。
FIRE目標。少し前まで。給料。
投資。節約。何年。
そういう数字だった。今。1便。
数百万円になるかもしれない。しかも。燃料節約だけじゃない。
客が。乗りたい。そう思う。
商品そのもの。
「ちなみに」
「はい」
「俺と最初に組みたいってことは」
「はい」
「独占契約とか考えてます?」
また。
一瞬。
相手が止まった。
「そこについては」
白石さんが先に入った。
「今日決める話ではありません」
「ですよね」
「空中スイマーさん」
「はい」
「そこは特に、金額だけで決めないでください」
「分かってます」
「本当に?」
「たぶん」
「今の返事で不安になりました」
航空会社側が少し笑う。
「当社としても、まずは安全検証です」
「そうですね」
商売以前。安全。
「いきなり客乗せてワープはなし?」
「もちろんです」
「まず空の飛行機?」
「無人に近い条件から段階的に検証したいと考えています」
「それから?」
「必要なスタッフのみ」
「それから?」
「短い区間」
「それから?」
「段階的に距離や条件を広げます」
「なるほど」
空の機体。スタッフ。短距離。
複数回。問題なし。その先に。
一般客。
「じゃあ次」
「はい」
「飛行機で実験?」
「そうなります」
「……」
ちょっと。楽しみになってきた。面談終了。
航空会社の人たちを見送る。会議室。俺。
白石さん。2人。
「白石さん」
「はい」
「あれ」
「はい」
「結構儲かると思います?」
「まだ契約していません」
「夢ないなあ」
「現実です」
「でも」
俺はさっきの資料を見る。1分の燃料だけなら。思っていたより小さい。
でも。数時間を短くできて。その上。
ワープそのものに乗りたい人までいる。
「俺、時間短縮だけの商売だと思ってました」
「違いました?」
「思ったより、俺そのものも商品でした」
「表現はともかく」
「そこ否定して」
白石さんは答えなかった。
「まあ」
資料を閉じる。
「ちゃんと価値あるなら、安売りしないようにします」
「それでお願いします」
8,000万円。また頭に出る。
「月一で」
「はい」
「飛行機ワープして」
「はい」
「それで数百万円とかになったら」
「まだ金額は決まっていません」
「仮に」
「はい」
「8,000万円」
少し笑う。
「思ったより早く行けるかもしれないな」
「収入が確定してから考えてください」
「分かってますって」
会議室を出る。次は。旅客機を使った安全試験。
俺の副業が。とうとう。航空会社と一緒に。
世界初かもしれないワープ体験を。商品にしようとしていた。
次回、第37話「お客さん乗せる前に試します」
次回更新:10月14日 12:10予定




