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ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん


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第30話 YouTubeで稼いだら個人事業主なの?

翌日。仕事から帰った俺は、昨日の収益画面ではなくAIを開いた。初めての推定収益は嬉しかったけど、最後に浮かんだ疑問がまだ残っている。


「会社員のまま個人事業主って、そもそもできるのか?」


『会社員として働きながら、別に個人事業をすることはできますか?』


回答を読む。


「できるんだ」


会社員であることと、自分で事業をすることは両立できる。もちろん勤務先の就業規則や副業の手続きは確認する必要があるけど、


「会社員になったら、それ以外の仕事は絶対できません」


という仕組みではないらしい。


「じゃあ俺の場合」


アルタークで働いている時は会社員。それとは別に、空中スイマーとしてYouTubeをやる。


「昼は会社員で、休みの日は個人事業主?」


少し違う気もする。時間によって人間が切り替わるわけではない。同じ俺が、会社からは給料をもらって、会社の外では自分で活動して金を稼ぐ。


「2つ同時にできるってことか」


ここまでは分かった。でも。そこで1つ、昨日から引っかかっていた。


「……待てよ」


昨日の収益画面を思い出す。


「YouTubeで金が出た人って、全員個人事業主になるの?」


そんなわけない気がする。副業で動画を1本出した。たまたま伸びた。


広告収益が入った。それだけで突然、


『本日からあなたは個人事業主です』


になるのか。


「ならないよな?」


AIへ聞く。


『YouTubeで広告収益が発生したら、必ず個人事業主にならないといけませんか?』


回答。


「……やっぱり」


必ずではない。副業による継続的な収入でも、それが税務上すべて事業所得になるわけではなく、規模や活動の実態によっては雑所得として扱われる場合があるらしい。


「じゃあ、初収益が出たからって、すぐ個人事業主にならなきゃいけないわけじゃないのか」


AIの答えをさらに読む。事業なのか、事業とまではいえない副業なのか。単純に、


『年間何円以上なら事業』


と1本の金額だけで決まるわけでもないらしい。


「うわ」


こういうのだ。俺が苦手なやつ。


「何円からって決めてくれよ」


100万円なら100万円。300万円なら300万円。ここを超えたら事業です。


そう決まっていれば簡単なのに。実際には、継続しているか、営利目的なのか、活動の規模はどうか、帳簿をつけているかなども含めて判断される。


「社会通念上、事業と呼べるくらいか……」


分かったような、分からないような。俺は少し考えて、自分の言葉に直してみる。


「お小遣いみたいな副収入が1回あっただけなのか」


それとも。


「ちゃんと継続して、仕事として回してるのか」


たぶん。そういう違いを見られるということだ。


「なるほど」


会社員を続けられるかどうかと、収益が事業として扱われるかどうかは別の話だ。


「じゃあ、俺は?」


ここが問題だ。アルタークの給料はこれまで通り。でも空中スイマーとしては、YouTube配信を続けるし、政府との協力契約もある。活動用メールには企業からの連絡も来ていた。


将来はワープ自体を使う仕事もあるかもしれない。


「……YouTubeだけじゃないな」


そこで、やっと引っかかっていたものが取れた。


「そういうことか」


俺が個人事業主になるか考える理由。15万円。その金額だけじゃない。


YouTubeだけでもない。空中スイマーとしてやっている活動そのものが、少しずつ仕事になってきている。


「じゃあさ」


俺はAIへ入力する。


『YouTubeだけではなく、同じ「空中スイマー」という活動として、広告収益、企業からの仕事、政府からの有償協力などを今後継続して受ける場合、それらを1つの個人事業として整理することはできますか?』


回答を待つ。少し長い。


「簡単にして」


追加。


『細かい税法はあとで専門家に確認するとして、考え方だけ教えてください』


今度は分かりやすかった。同じ事業活動から生じる収入なら、1つの事業の中に複数の収入源が存在することはある。動画配信だけ。


企業案件だけではなく、例えば、


『空中スイマーとして行うコンテンツ制作・広告活動・能力を利用した役務提供』


みたいに事業そのものを広く考える。


「なるほど」


俺の場合、YouTubeはYouTube、政府は政府、企業は企業と、全部別々の仕事に見えていた。でも。


全部。


「空中スイマーとして俺がやってる仕事」


と考えれば。


1つにできる可能性がある。


「これ、分かりやすいな」


会社からの給料は別。それ以外。空中スイマーとして稼いだ金は、空中スイマーの事業。


「2本になるのか」


1つは会社員としての俺。もう1つは空中スイマーとしての俺。


「いや、俺は1人だけど」


でも、お金の流れとしてはかなり分かりやすい。アルタークからの給料は給与。空中スイマーのYouTube広告収益は事業側。


将来企業から仕事を受けたら、それも事業側。政府との有償協力も、契約の形や税務上の扱いが合うなら事業側へまとめられる可能性がある。


「……政府」


そこで止まる。政府からもらう金を、勝手に決めていいのか。


固定手当。案件ごとの報酬。


「これ、何扱いなんだ?」


俺の中ではずっと、政府からもらう金。だった。


それ以上考えていない。でも税金から見れば、


『政府のお金』


で終わるわけではないはずだ。何のために支払われた金なのか。どういう契約で受け取るのか。


そっちが重要になる。


「白石さんに聞くか」


政府端末を取る。メッセージ。


『1つ確認したいんですけど、政府からもらう固定手当と案件報酬って、俺はどういう立場で受け取ることになってますか?』


送信。少しして。


『ご質問の意図を確認してもよろしいでしょうか』


「そりゃそうか」


急に聞いたら分からない。


『個人事業のことを調べています。YouTubeや今後の企業案件と一緒に、空中スイマーとしての事業収入にまとめられるのかなと思って』


送る。今度は少し時間がかかった。たぶん、白石さん1人で即答できる質問ではない。


数分後。


『現在の政府との協力関係は、松さんを政府職員として雇用するものではありません』


「そこは分かる」


俺は公務員になった覚えはない。続き。


『本人の同意に基づいて個別の協力をお願いし、その協力に対して定められた手当・報酬等を支払う形です』


ここも今まで聞いていた内容。さらに。


『ただし、それを松さん側で個人事業の収入としてどのように整理するかについては、契約内容と税務上の確認が必要です。こちらから現時点で断定はできません』


「ちゃんとしてるな」


何でも、


『大丈夫です』


とは言わない。そこが白石さんらしい。


『じゃあ、政府だから絶対に事業収入にできない、というわけではない?』


返信。


『そのような意味ではありません』


「お」


『空中スイマーとして継続的に行う活動全体を事業として整理したいということであれば、政府側の支払についても、契約担当および税務の専門家を含めて確認することは可能です』


「できるんだ」


すぐに返信する。


『それお願いできますか?』


『承知しました』


早い。


『ただし、松さん側の確定申告その他の税務手続きを政府が代行するという意味ではありません』


「分かってます」


そこまでやってもらったら、さすがに政府が便利サービスになりすぎる。


『契約上の支払内容について必要な情報を提供し、必要であれば専門家へ確認できるよう調整します』


『ありがとうございます』


送信する。そして、ちょっと気になる。


『こういう相談も白石さんにしていいんですか?』


しばらくして。


『政府との協力契約に関係する内容であれば』


「そこはいいんだ」


『個人のYouTube収益そのものについての税務相談は、私の担当ではありません』


「線引きされた」


当然だった。


『じゃあYouTubeは自分で調べます』


『それが適切かと思います』


「はい」


政府端末を置く。少し整理できた。政府が俺の事業を作ってくれるわけではない。


政府が俺の税金を計算してくれるわけでもない。でも。政府との契約部分については、


「俺が事業として整理したい」


と言えば、それに必要な情報や契約上の確認には協力してもらえる。


「これならいけそうだな」


政府からの支払は契約担当と税務の専門家の確認待ち。YouTubeなどほかの収入も、結局は活動の実態次第だ。


「俺が『全部事業です』って言えば済む話じゃないんだな」


そこは保留にして、まずは自分で管理できる形を作ろう。


「空中スイマー事業か」


声に出す。ちょっと面白い。最初は。


水泳帽。ミラーゴーグル。マスク。


名前を決める時も、他に思いつかなかったから空中スイマーにした。それが今。政府と協力して。


120,000人が登録して。収益が出て。その名前で事業まで始めようとしている。


「もっとちゃんとした名前にすればよかったかな」


政府の公式発表に載った時にも思った。でも。もう遅い。


「空中スイマーでいいか」


慣れた。俺は次に、


『個人事業として整理すると決めた場合、最初に何をすればいいですか?』


と聞く。返ってきた内容を見る。何を事業として行うのか整理する。


開始時期を決める。収入と支出を記録する。必要な届出を確認する。


帳簿。口座。経費。


青色申告が使えるかの確認。


「待て」


急に増えた。


「さっきまで俺、個人事業主になるかどうかの話してたよな?」


なのに。決めようとした瞬間。帳簿。


口座。経費。申告。


「個人事業主、入口から事務作業多くない?」


ワープ能力。政府協力。YouTube登録者120,000人。


そこまで来て。結局やること。帳簿。


「地味だな」


でも。逃げてもなくならない。会社員として給料をもらっているだけの時は、会社がかなりの部分を処理してくれていた。


自分で稼ぐなら。自分で管理する部分も増える。


「まあ、そりゃそうか」


俺はメモを作る。


『空中スイマー事業』


その下。


『YouTube』


『政府協力』


『企業案件』


まだ企業案件はゼロ。でも将来入るかもしれない。さらに。


『その他ワープを使った仕事』


書いてから見る。


「結構ちゃんと事業っぽいな」


昨日は初収益を喜ぶだけだった。今日は、空中スイマーとして続ける仕事の形が見えた。


「こっちだな」


かなり納得した。まだ正式な税務上の扱いは確認する。政府の契約も確認する。


会社側の副業手続きも必要だろう。口座も。帳簿も。


経費も。知らないことは山ほどある。でも。


何のために個人事業にするのかは分かった。それなら進められる。


「よし」


メモの一番上を見る。空中スイマー事業。


「とりあえず、この形で整理していこう」


俺は明日も普通にアルタークへ出勤する。会社員を辞めるわけではない。会社では会社員。


その外で。空中スイマーとしての活動を、事業として整理していく。


「なんか急にちゃんとしてきたな」


世界で1人かもしれないワープ能力者。政府と協力中。登録者120,000人。


そして。個人事業を検討中。


「次は……」


画面を見る。口座。帳簿。


経費。


「仕事用の口座って、作った方がいいのか?」


また1つ。知らないことが増えた。

次回、第31話「昼飯を捕りに行く」


次回更新:10月11日 20:10予定

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