第29話 初めてYouTubeの収益が出ました
三連休ということで、10月11日(日)・12日(月・祝)は、いつもより多めに1日3話更新します!
更新時間は両日とも12:10・16:10・20:10です。
よろしければ、連休のお供にお楽しみください!
数日後。仕事から帰って夕飯を食べ、風呂まで済ませたところで、ようやく1日が終わった気分になった。ベッドに座り、何となくいつものスマホを開く。
「……そろそろ出てないかな」
開いたのはYouTube Studioだった。最近、この画面を見る回数が明らかに増えている。登録者数、再生数、視聴時間、コメント。以前は登録者が1人増えただけでも何度も見直していたけど、今は確認する数字そのものが増えた。そして今日は、今までとは違う項目を見る。
収益。
「どこだ?」
収益化される前は見ても仕方がなかった画面を開く。
「……」
数字が出ていた。一度閉じて、もう一度開く。
「出てる」
見間違いではない。推定収益は15万円を少し超えている。
「……15万?」
声に出してから、もう一度画面を確認する。やっぱり15万円。昨日まで、俺がYouTubeで稼いだ広告収益はゼロ円だった。というより、そもそも収益化されていなかったのだから、どれだけ配信を見られても広告収益は発生していなかった。
それが今は、画面にちゃんと金額が表示されている。
「俺、本当にYouTubeで金稼いだんだ」
少し笑ってしまう。最初の配信を思い出した。同接1人、3人、6人。
縄跳びをして、古いスマホの電池を気にして、モバイルバッテリーが熱くなって配信を終えた。あの頃は、
「10人来ないかな」
と本気で思っていた。今の登録者数を確認する。
「120,000人……」
政府との協力を発表した配信のあとも、ニュースや切り抜きから人が流れてきているらしく、さらに増えていた。120,000人。まだ慣れない。
ただ、今は登録者より15万円の方が気になる。
「これ、1回の配信で?」
頭の中で計算する。1回15万円。1か月30回なら――。
「450万?」
そこまで考えて、すぐ止まった。
「いやいやいや」
雑すぎる。毎日100,000人以上が見に来るわけじゃない。毎日政府との正式協力を発表できるわけでもないし、毎日救助が起きるわけでもない。
というか。
「毎日事故が起きる前提で収益計算すんな」
自分で言って、自分で少し嫌になる。そこは違う。前から決めている。
救助そのものは無料。助けた本人から金は取らない。YouTubeは、見たい人が見て、その結果として広告収益が発生する。
人が危険な目に遭うほど俺が儲かる、みたいな考え方にはしたくない。
「そこは分けないとな」
ただ、まだ分からないことがある。画面に表示されているのは、推定収益。
「推定?」
15万円入った。そう思ったけど、銀行口座に15万円が振り込まれたわけではない。
「これ、もう俺の金ってことでいいのか?」
こういう時は、いつものやつ。AIを開く。
『YouTube Studioに「推定収益」と表示されています。これは、もう自分のお金として確定したという意味ですか? できるだけ簡単に教えてください』
返事を読む。
「なるほど」
ざっくり言えば、YouTube Studioに表示されるのは、その時点での見込み額らしい。後から調整される可能性があり、表示された瞬間にそのまま銀行口座へ振り込まれるわけでもない。俺は自分なりに言い換えてみる。
「今15万円もらった、じゃなくて」
少し考える。
「今のところ、15万円くらい稼いだことになりそうです、って感じか」
たぶん、その理解が一番近い。推定収益。名前の通りだ。
「じゃあ、まだ15万円使う前提にはしない方がいいな」
そもそも振り込まれてすらいない。表示された金額を見て、
「15万円分何買おう」
となるのは早い。まあ、俺の場合。
「入ったら投資だろうけど」
結局そこへ行く。FIRE。そのためにYouTubeを始めた。
少し前まで、俺の収入源はほぼ会社の給料だけだった。そこから生活費を引いて、残りを貯めて、投資して、少しずつ資産を増やす。
目標は8,000万円。
かなり遠かった。そこへワープ能力が生えてきた。最初は配送でもやれば稼げるんじゃないかと思った。でも能力を隠したままだと、ワープの価値をほとんど収入へ変えられない。
だから公開してYouTubeを始めた。そして今。
「15万」
まだ推定。でも、ゼロとは違う。
「これ、でかいな」
単純に15万円だから、というだけではない。今まで、ワープはすごい、珍しい、人を助けられる、政府まで動いた。そこまでは分かった。
でも俺が最初に欲しかったものは、もっと普通だった。収入。FIRE資金。
そこへ初めて本当につながった。
「やっと最初の目的達成した感じするな」
もちろん、FIREまではまだ全然遠い。でも、ワープを使った活動で稼ぐ、という最初の一歩は成立した。
俺はしばらく収益画面を見る。再生数、広告、視聴者、いろいろな数字が並んでいる。
「……難しいな」
15万円。それだけなら簡単だ。でも、どの動画がどのくらい見られて、ライブがどれくらい伸びて、広告がどう表示されて、視聴者がどこから来たのか。
細かく見始めると、一気に仕事っぽくなる。
「YouTuberって動画出すだけじゃないんだな」
撮って、配信して、終わり。ではない。数字を見て、何が伸びたのかを考えて、次の企画も考える。収益も管理する。
「普通に事業っぽいな」
口にして、少し止まる。
「……事業?」
そこで、前にAIへ聞いたことを思い出した。
『ヒーローって個人事業主になれる?』
あの時の俺は、まだYouTubeすら始めていなかった。人助けをするなら、どうやって収入を得るのか。助けた人から金を取るのは嫌だ。
なら、YouTubeや広告収益で稼ぐのはどうか。そんな話だった。そして今。
YouTubeから本当に収益が発生した。
「……仮定じゃなくなったな」
一度スマホを置く。会社からは給料。YouTubeから広告収益。
政府との協力では、固定の協力手当と案件ごとの報酬。今後、企業から依頼が来る可能性もある。
「増えてるな」
収入源が少しずつ増えている。しかも全部、性質が違う。まず会社員。
YouTuber。政府協力。
「これ、一緒にしていいのか?」
銀行口座、記録、税金。
その辺りは、今までほとんど考えたことがない。会社員として働いているだけなら、給料が振り込まれて、給与明細を見る。もちろん税金や保険はいろいろ引かれているけど、かなりの部分を会社側が処理してくれている。
俺は、
「給料入った」
で生活できていた。でも、YouTubeはどうなんだ。
誰かが俺の代わりに全部整理してくれるのか。
「……しないよな」
嫌な予感がする。政府からの報酬も同じで、どう扱う?
「待て」
今日は、初めてYouTubeで収益が出たことを喜ぶ日だ。いきなり税金まで調べ始めたら、せっかくの15万円が全部嫌な数字に見えてくる。
「今日はやめよう」
スマホを置く。数秒後、また取る。
「でも気になる」
ダメだった。AIへ追加で聞く。
『会社員のまま、YouTubeや政府協力など、会社以外から継続的に収入が入るようになった場合、最初に何を整理した方がいいですか? 細かい税金の話ではなく、最初の考え方だけ知りたいです』
返事を読む。まず、どこから、何の目的で金が入ったのかを記録する。仕事のために使った金も記録する。
生活のお金と混ざりすぎないよう整理する。継続するなら、個人で事業として管理する形も検討する。
「個人事業主」
来た。やっぱり。
「本当にやるのか」
前に聞いた時は、完全に未来の話だった。ヒーローって個人事業主になれるのか。職業欄にヒーローって書くのか。
そんなことを面白半分で考えていた。今は違う。収益画面に15万円。
政府との協力契約。登録者120,000人。
「完全に俺の話になってるな」
でも、その前にもう1つ確認しておきたい。今回の15万円。これだけを見て、今後も同じくらい稼げると思っていいのか。
当然、そんなわけはない。今回の配信は、政府との正式協力発表。その直後に、本当に政府経由の救助要請。
さらに登録者100,000人突破。かなり特殊だった。
「普通に空飛びながら雑談した配信で、毎回100,000人来るわけないよな」
今回の数字を基準にしたら危ない。FIRE計画でも同じだ。一番良かった日の数字だけを使って、
「これが毎日続きます」
で計算すれば、何でも大金持ちになれる。
「投資と一緒だな」
1回大きく上がったからといって、毎年同じだけ上がるとは限らない。YouTubeも。1回伸びたからといって、毎回同じだけ稼げるとは限らない。
「じゃあ、何回か見ないと分からないな」
今後、普通の配信をした時にどのくらい入るのか。動画を出した場合はどうなるのか。まずは何回か実績を見る。
その方がいい。
「会社、まだ辞められないな」
元々辞めるつもりはないけど。FIREするまでは本業優先。政府にもそう言った。
15万円表示されたから、
「よし、退職!」
では、さすがにアホだ。
「危なかった」
別に辞めようとしてないけど。登録者数も確認する。
「12万4,000」
まだ増えている。政府発表、救助、ニュース。その影響が続いているらしい。
124,000人。
「すごいな」
ワープ能力を手に入れた時、最初に考えたのは、
「何に使う?」
だった。その次に、
「どうやって稼ぐ?」
だった。今。本当に稼げるところまで来た。
「よし」
今日は。ちゃんと喜ぼう。
「ワープで初収益」
口にすると、ちょっといい。ただ。正確には、ワープそのものを売ったわけではない。
ワープを使った活動を配信して、それを見た人がいて、広告が表示されて、その結果として収益が出た。
「まあ、細かいけど」
でも、その区別はたぶん大事だ。人を助けたから15万円もらった。ではない。
そこは、これからも間違えたくない。YouTube Studioを閉じる。数秒後。
もう一度開く。
「減ってないよな?」
15万円。ある。
「よし」
推定だけど。ある。普通に嬉しい。
かなり嬉しい。俺は記念にスクリーンショットを撮った。
「初収益」
保存。政府との正式な協力文書より。今はこっちの方が見返したい。
その日の最後、政府端末にも1件、白石さんから事務連絡が来ていた。次回の確認事項。活動予定。
それと、前回の救助案件について必要な事務処理。
「こっちも金が発生するんだよな」
政府との協力。YouTubeとは別。
「……」
また少し嫌な予感がする。いつものスマホを見る。YouTube。
政府端末を見る。政府。会社の給与。
投資。
「これ、本当に1回整理した方がいいな」
個人事業主。前に聞いた時は、未来の話だった。今度は違う。
俺自身の話だ。
「会社員のまま個人事業主って、そもそもできるのか?」
次に聞くことは、もう決まっていた。
次回、第30話「YouTubeで稼いだら個人事業主なの?」
次回更新:10月11日 20:10予定




