第25話 専属チームができるらしい
本日12:10に予定していた更新ですが、予約時刻の設定ミスにより遅れてしまいました。申し訳ありません。
夜20:10の更新は予定どおり行いますので、引き続きよろしくお願いします!
次の休み。
「また東京か」
言ってから。
「またって言うほど大変じゃないんだけどな」
普通に東京まで移動するのと比べれば、かなり早い。政府から指定された時間に合わせて、前回と同じように人の少ない場所へ移動する。そこから普通に歩いて施設へ。
受付。
「本日、面談で来ました」
「お名前をお願いします」
「空中スイマーです」
ここまでは前回と同じ。でも。
「白石さんとの面談です」
自分で言って、少し変な感じがした。前は政府関係者としか思っていなかったのに、今は名前を知っている。
「確認いたします」
少し待つ。
「お待たせしました。白石様がお迎えに参ります」
「はい」
政府の施設で白石さんを待つ。
「なんか普通になってきたな」
少しして、白石さんが来た。
「お待たせしました」
「あ、どうも」
今日も普通に落ち着いている。
「こちらです」
「今日も3人ですか?」
「はい。前回と同じ3名です」
「よかった」
「人数が増えるのがそんなに嫌ですか?」
「知らない政府関係者が10人くらい並んでたら嫌じゃないですか」
「それは……」
少し間。
「私も嫌ですね」
「でしょ」
会議室へ入る。前回と同じ担当者、安全面の担当、白石さん。3人。
「本日はありがとうございます」
「いえ」
着席。机の上には、前回より少し厚い資料が置かれていた。
「今日は本格的ですね」
「前回までの内容を踏まえ、政府側の協力条件案と、今後の体制案をまとめています」
「体制案」
昨日から気になっていた。
「俺専用のチームってやつですか?」
「はい」
資料を1枚めくる。
「……」
文字、表、役割。そして。
「空中スイマー対応チーム」
「俺の名前ついた部署あるんですけど」
「仮称です」
「仮でもあるんだ……」
正式名称はまだ決まっていないらしい。
「大規模な組織を新設するという話ではありません」
「何人くらいですか?」
「当初は数名程度を想定しています」
「数名」
少ない。いや、俺1人のためなら多い。
「主な役割は、連絡、情報整理、安全面の調整、関係機関との連携です」
説明される。政府側で全体を判断する責任者、安全面を見る担当、必要に応じて法務や専門機関との調整をする人。そして。
「松さんとの主な連絡、情報提供、日程調整は、引き続き白石が担当します」
俺は白石さんを見る。
「正式になるんです?」
「はい」
「今までは?」
「暫定です」
「暫定だったんだ」
初めて知った。
「じゃあ、これからは正式な政府の人ですね」
「元から政府側です」
「あ」
そりゃそうだ。担当者が続ける。
「松さんへ複数の部署から個別に連絡が入ると、情報が錯綜する可能性があります。そのため、原則として窓口を1本化します」
「それ助かります」
「そんなに?」
白石さん。
「政府関係者5人から別々に電話来たら嫌でしょ」
「それは、まあ」
「全部『緊急です』とか言われたら、どれが本当に緊急か分からなくなるし」
「その点も含めて、1本化します」
「お願いします」
これはかなりありがたい。次は協力条件。
「前回いただいた希望について、政府側でも整理しました」
「はい」
資料を見る。本業優先、本人同意、個人情報保護。能力の詳細開示を協力の前提にせず、必要な監視・位置共有は原則として説明する。
俺がいないと維持できない制度を作らない。
「ここは前に聞いたやつですね」
「はい。大きな変更はありません」
その下を見る。
「非戦闘」
「はい」
政府側の担当者が説明する。
「災害、人命救助、避難、研究、技術検証などについては、本人の同意を前提として協力をお願いする可能性があります」
「はい」
「一方で、戦闘、迎撃、攻撃を目的とした任務への参加はお願いしません」
「直接攻撃でなくても、戦況や継戦能力を大きく左右する支援も同様です」
そこはかなり大事だ。
「それなら大丈夫です」
「なお、警察等との協力でも、松さん自身が犯罪者を判断して拘束することを求めるものではありません」
「あ、それも助かります」
前から決めていた。俺は警察ではない。見ただけで誰が悪いかなんて分からない。
「基本的には、松さんにしかできない移動や退避等が必要な場合に、専門機関側から状況を整理した上で協力をお願いする形を想定しています」
「それ」
来た。
「情報係ですね」
白石さんが少しだけこちらを見る。
「正式名称は違います」
「でも近いですよね?」
「一部は」
「ほら」
担当者が一瞬止まる。
「何かありましたか?」
「いえ」
白石さんが説明する。
「以前の配信で、視聴者から『情報係が必要』『政府にやってもらえばいい』というコメントがあったそうです」
「ああ」
「結果的には、似た機能になりますね」
「視聴者すごいな」
コメント欄の冗談が、政府の仕組みに近いところまで来た。もちろん、本当にコメントだけで作られたわけじゃない。でも面白い。
「今後、事故や災害などで、警察、消防、防災機関等から確認済みの情報が入った場合、必要に応じて白石から松さんへ伝えることがあります」
白石さんが言う。
「場所、状況、専門機関側の判断を確認した上で連絡します」
「じゃあ」
前にパトロール配信をした時。コメント欄に遠くの事故らしい情報が流れてきた。でも場所も正確じゃない。
本当に起きているのかも分からない。結局、動けなかった。あれが。
「ちゃんと分かるんですね」
「確認できる範囲では」
「助かるな」
ワープより情報の方が遅かった。そこが少し埋まる。
「ただし、連絡した場合でも出動義務はありません」
「それも」
ちゃんと残っている。
「こちらから状況を伝えます。最終的に協力するかは松さんが判断してください」
「はい」
かなりいい。俺1人でネットを探すより早い。でも政府の言うことを全部聞く義務はない。
続いて、報酬について。
来た。俺の姿勢が少しだけ良くなる。
「……」
白石さんを見る。
「何ですか?」
「いや」
資料。
「固定協力手当については、こちらの金額を想定しています」
1枚めくる。
「……」
見る。
「……」
もう一度見る。
「何か問題がありますか?」
「いや」
ある。というか。
「1回黙っていいですか?」
「はい」
計算。月、年、投資、FIRE。
「……」
「松さん?」
白石さん。
「顔に出そうなんで」
「もう出ています」
「マスクしてるのに?」
「目元以外でも分かります」
「マジか」
危ない。具体的な数字は、1回置こう。
「金額については、協力内容や今後の実績に応じて見直す可能性があります」
「はい」
「また、個別の実験、研究協力、危険を伴う案件等は別途報酬を設定します」
「はい」
返事が早くなる。
「報酬の話だけ反応がいいですね」
白石さん。
「FIREかかってるんで」
「知っています」
「もう覚えられてる」
「何度も聞いていますので」
政府との面談で、俺、FIREの話しすぎでは?まあいい。説明は続く。
秘密保持。事故時の連絡。協力を終了したい場合の手続き。
政府側から条件を変更したい時は、その都度相談。思ったより普通に契約っぽい。
「世界で1人かもしれないワープ能力でも、契約するんですね」
「能力が特殊でも、合意内容を曖昧にしておく理由にはなりません」
「それはそうか」
むしろ特殊だから決めた方がいい。一通り終わる。
「では」
担当者が資料を閉じる。
「現在の案について、大きな異論がなければ、今後はこの体制を基本として調整を進めます」
「俺も持ち帰ってAIに確認していいですか?」
「もちろんです」
「今日決めなくていい?」
「はい」
「助かります」
その場で決めない。これは最初から決めていた。
「もう一点」
「はい」
白石さんが、小さな箱を机に置く。
「こちらを」
「何ですか?」
箱を開ける。
「スマホ?」
「政府との連絡用端末です」
「……」
また増えた。
「今後、緊急性の高い連絡や、通常の活動用メールでは扱いにくい情報については、こちらを使用する予定です」
手に取る。見た目は普通のスマホだ。
「これ、俺の?」
「貸与です」
「貸与」
「政府所有です」
「返すやつか」
「はい。正式な協力前なので、当面の連絡用としての貸与です。受領確認だけお願いします」
返却、紛失時の扱い、端末管理について書かれた書面を見る。問題ない。受領欄に署名した。
「無料ではない」
「購入費用を松さんが負担する必要はありません」
「実質無料」
「貸与です」
「厳しい」
でも専用端末。少し格好いい。
「それと、この端末について先に説明があります」
「はい」
「政府管理端末のため、端末管理機能が設定されています」
「端末管理?」
「紛失時の遠隔ロック、データ消去、セキュリティ更新などです。それから、この端末自体の位置情報を政府側で確認できる設定になっています」
「GPS?」
「はい」
「入ってるんですね」
「入っています」
「まあ、政府端末ならそうですよね」
「ただし、先ほど確認した監視条件との関係がありますので、黙って設定するのではなく事前に説明しています」
「なるほど」
資料にも項目がある。専用端末の位置情報、その利用目的、確認できる担当、保存期間、紛失・緊急時・安全確認など。
「じゃあ政府は、このスマホを持ってれば俺の位置が分かる?」
「端末の位置は確認できます。ただし、それを常時職員が画面で追跡し続ける運用ではありません」
「必要な時に見る?」
「基本的にはそうです。緊急時、紛失時、本人と連絡が取れない場合、安全確認が必要な場合などです」
「ログは?」
「一定期間保存されます。保存範囲と取扱いも書面に記載しています」
ちゃんとしてる。
「嫌なら?」
「位置情報機能を含め、条件について再協議できます。ただし、その場合は端末の運用方法自体を見直す必要があります」
「いや」
少し考える。政府専用端末には事故や災害の情報が入る。
紛失したら困る。俺自身の安全確認にも使う。
「説明されてるなら、別にいいです」
「ありがとうございます」
「勝手に俺の普段のスマホへ入れられるのは嫌ですけど」
「それは行いません」
「なら大丈夫です」
普段使っているスマホは俺のもの。配信する時も、そのスマホをそのまま使っている。政府が管理するのは、今渡された政府端末だけ。
そこが分かれているなら問題ない。
「これ、普段持ち歩くんですか?」
「原則として、可能な範囲で携帯をお願いします。ただし勤務中等の扱いについては別途調整します」
「これでスマホ3台か」
「3台ですか?」
「今使ってるやつと、昔使ってた古いサブ機と、これ」
「なるほど」
「YouTube始めた時に古いやつ引っ張り出して、今度は政府から1台増えた」
「増え方が特殊ですね」
「俺もそう思います」
端末の操作方法、連絡先、緊急時の表示。
位置情報の設定。一通り確認する。
「最初から白石さん入ってる」
「主窓口ですので」
「消していいですか?」
「困ります」
「冗談です」
一瞬。
白石さんがこっちを見る。
「冗談言うんですね」
「言いますよ」
「そうなんですね」
「どういう人だと思ってたんですか」
「FIREの話をよくする方」
「そこ?」
政府から見た俺。ワープ能力者ではなく、FIREの人になりつつある。面談終了。
まだ最終署名ではない。今日の資料を持ち帰って確認する。ただ、ほぼ形は見えた。
政府との協力、専属チーム、白石さん、専用端末。施設を出る。人の少ない場所まで歩く。
空を見る。
ワープ。
何度か景色をつなぐ。帰宅。
「……」
机の上。普段使いのスマホ。配信する時も使っている、いつもの1台。
昔使っていた古いサブ機。そして、今日増えた政府端末。
「3台か」
最初から3台持っていたわけじゃない。1台だった。配信を始める時に古いスマホを引っ張り出して2台。
今度は政府から1台増えて3台。
「増えたな」
その時。政府端末が鳴った。
「え」
早い。何?事故?
災害?何か起きた?画面を見る。
白石凪。開く。
『通信確認です。正常に受信できていますか?』
「……」
力が抜ける。
『びっくりした』
送信。すぐ返信。
『正常に受信できていますね』
『最初くらいテストって書いてください』
少しして。
『次回からそうします』
「次回もあるんだ」
政府専用端末。最初の通知。通信確認。
「平和だな」
それでいい。むしろ、その方がいい。
次回、第26話「政府と契約する前にAIに見せます」
次回更新:10月9日 20:10予定




