第21話 政府関係者からメール来たんだけど
「……これ、本物?」
活動用のメールに届いた一通。差出人には、政府機関らしい名前が書かれている。文章もちゃんとしていた。公開されている配信や映像について確認したい。能力の安全面について話したい。今後の連絡方法について相談したい。
そして、任意で面談をお願いしたい。
「……」
ちゃんとしている。ちゃんとしているからこそ、逆に困る。俺はメールをもう一度読んだ。
署名、部署名、電話番号、リンク。
「押さない」
前にAIと整理した時、自分で決めていた。政府関係者を名乗る連絡が来ても、メールに書かれた連絡先をそのまま信用しない。本物なら、こっちから公式の窓口を探して確認する。
「よし」
機関名を検索して、公式サイトを開く。代表番号。
「……電話か」
少し嫌だ。メールなら考えてから返せるけど、電話はその場で喋らないといけない。
「まあいい」
電話する。呼び出し音が2回ほど鳴った。
『はい、○○です』
「あ、すみません。ちょっと変な確認なんですけど」
『はい』
「空中スイマーって分かります?」
数秒の間。
『……空中スイマー、ですか?』
「ですよね」
代表窓口にいきなり聞く内容じゃなかった。
「YouTubeで、ワープしてる人です」
『ああ』
知ってた。
『少々お待ちいただけますか』
「はい」
保留音が流れる。
「……」
政府機関の代表窓口に電話して、普通に保留されている。もっとこう、秘密の番号とか特殊な音声認証とかあるのかと思っていた。ない。
普通に保留だ。
『お待たせしました』
「はい」
『確認のため、もう一度ご用件をお願いできますか』
「空中スイマー宛てに、そちらからメールって送ってますか?」
『メールですか』
「はい」
『差し支えなければ、件名を教えていただけますか』
「『空中スイマー様への面談のお願い』です」
また少し待つ。
『担当部署へ確認いたします』
「お願いします」
再び保留。長い。でも、よく考えたらこれくらい確認する方が安心する。
数分後。
『お待たせしました。担当部署から送信したものと確認できました』
「……本物なんですね」
『はい』
「そうですか」
思ったより普通に確定した。
『担当へおつなぎすることも可能ですが、いかがなさいますか』
「お願いします」
また保留。
「……政府関係者と電話してるんだよな、これ」
まだ実感がない。
『お待たせしました。担当の――と申します』
「あ、どうも」
『空中スイマー様ご本人でよろしいでしょうか』
「はい」
『念のため、活動用の連絡先へ確認用のメールをお送りします。記載された番号をお願いします』
「分かりました」
スマホを見る。すぐに届いた。
「○○○○です」
『確認できました』
答えてから、1つ気になった。
「あの、本人確認ってこれだけで大丈夫なんですか?」
電話の向こうが一瞬止まる。
『現時点では、活動用の連絡先を管理されている方であることまで確認できれば結構です』
「ああ」
『本名や住所等を、この電話でお答えいただく必要はありません』
「それ聞こうと思ってました」
少し安心する。
『今回ご連絡したのは、公開されている映像や生配信について、いくつか確認をお願いしたいためです』
「能力について?」
『はい。ただし現時点で、能力の利用をお願いする契約や、何らかの強制的な要請を行うものではありません』
「じゃあ、逮捕とか出頭しろとかではない?」
『ありません』
「よかった」
普通に言ってしまった。
『ご心配されるのは当然かと思います』
「まあ……」
一応、能力を公開する前からそういう可能性は考えていた。
『まずは任意の面談という形で、公開されている能力についての事実確認と、安全面についてお話を伺えればと考えています』
「なるほど」
俺はスマホを持ち直した。前にAIと整理した時、政府関係者を名乗る相手から連絡が来たら確認しておくことをいくつか自分で決めていた。
「先に質問してもいいですか?」
『もちろんです』
「面談って、何を聞く予定ですか?」
『公開されている能力の性質、これまでご本人が確認されている安全上の制約、今後活動を続ける予定があるか、といった内容が中心です』
「誰が参加します?」
『初回は少人数を予定しています。詳細な所属と氏名については、面談前にお伝えします』
「記録って残ります?」
『面談内容については、必要な範囲で記録を作成する予定です。その点も事前にご説明します』
「俺の個人情報は?」
『取得する場合は、目的と取扱いについて説明した上で確認をお願いする形になります』
「なるほど」
全部まともだ。逆に少し怖い。
「あと、その場で何か能力を使ってくださいって言われたりします?」
『初回面談では、こちらから能力の実演を必須とする予定はありません』
「じゃあ話だけ?」
『はい。まずはお話を伺うことが目的です』
だったら、そこまで拒否する理由もない。政府関係者を最初から敵扱いしたいわけでもない。
「じゃあ、話を聞くくらいなら」
『ありがとうございます』
「ただ、その場で長期的な協力とか、そういうのを決めるつもりはないです」
『承知しています。初回の面談で、そのような判断を求める予定もありません』
「なら大丈夫です」
少し肩の力が抜ける。
『面談場所についてですが、こちらとしては東京都内の公的施設をご提案できます』
「東京?」
『はい。もちろん、移動のご負担もありますので、別の場所をご希望であれば――』
「東京で大丈夫です」
即答した。
『……よろしいですか?』
「移動は大丈夫なんで」
数秒の間。
『……そうでしたね』
「そこは一番大丈夫です」
初めて、向こうが少し人っぽくなった気がした。むしろ東京の方が都合がいい。生活圏の近くへ政府関係者に来られるより、自分から全然関係ない場所へ行った方がいい。
「ただ、場所は先に教えてください」
『もちろんです。施設名と入館方法について、活動用の連絡先へ正式にお送りします』
「見える場所なら行けるので」
『……承知しました』
また少し間があった。たぶん向こうも、ワープ能力者との面談は初めてなんだろう。俺も初めてだけど。
『なお、施設付近へ直接移動される場合も、安全上、人の少ない場所をご案内できるよう調整します』
「それ助かります」
いきなり建物の中へ出るつもりはない。見えている安全な場所まで行って、そこから普通に入ればいい。
『本日のところは、面談の意思確認までで結構です』
「分かりました」
『詳細は活動用の連絡先へお送りします。その際も、不審に思われた場合は今回と同じように公式窓口からご確認ください』
「それ言ってくれるんですね」
『必要なことですので』
「了解です」
電話を切った。
「……」
スマホを見る。
「政府関係者と電話した」
普通に喋った。怒られなかったし、能力を使えとも言われなかった。少し前まで、AIと「政府関係者を名乗る相手から連絡が来た場合」なんて仮定の話をしていたのに。
今、本当に来た。
「……」
俺はAIを開いた。
『政府関係者を名乗るメールが届いたので、公式の代表窓口から確認しました。本物でした。担当者と電話して、任意の面談だけ受けることにしました。能力利用の約束はしていません。本名や住所も電話では伝えていません。面談場所は東京の公的施設になる予定です。次に確認しておいた方がいいことはありますか?』
送信。回答が表示される。
『対応としては概ね慎重です。次は、面談前に確認する事項を整理するとよいでしょう』
「やっぱり」
『主に、面談の目的、参加者、記録方法、個人情報の取扱い、能力についてどこまで説明するか、今後の連絡窓口、継続的な協力を求められた場合の判断保留などです』
「増えたな」
メモする。目的、参加者、記録、個人情報、能力、連絡窓口、協力。
「……面倒」
でも必要だ。スマホを置く。少し前のパトロールを思い出した。
事故の場所がちゃんと分かれば、助けに行ける。誰かが情報を整理して教えてくれたら楽だ。そんな話をした、その日の最後に政府関係者からメールが来た。
「……」
コメントも思い出す。
『司令室いるじゃん』
『オペレーター必要』
『政府関係者にやってもらえ』
「いやいや」
偶然だろう。まだ面談するだけで、能力を使う話ですらない。
それでも、少しだけ妙な予感がする。
「まさか」
俺はスマホを見る。
「ほんとに情報係になったりしないよな」
次回、第22話「政府と面談することになりました」
次回更新:10月7日 20:10予定




