第18話 有名になったけど、これ大丈夫?
画面に。回答が表示され始めた。
『まず、すでに行っている対策と、現在の規模になったことで追加した方がよい対策を分けて考えます』
「お」
そこは大事だ。俺は何も考えずに。いきなりYouTubeを始めたわけではない。能力を公開する前に、AIと結構考えた。
『すでに行っている対策として――』
本名は公開せず、顔も隠す。住所や勤務先も公開せず、生活圏の近くから配信を始めない。
「そうそう」
俺は画面を見ながら頷く。
「じゃあ結構できてるじゃん」
ちょっと安心した。今までの準備が全部無駄だったわけではない。
『現在の対策そのものは、方向性として有効です』
「よし」
でも、続き。
『ただし、視聴者や注目する人の数が増えると、単体では弱い情報でも、複数の情報を組み合わせることで生活パターンが推測される可能性が高くなります』
「組み合わせる?」
読む。例えば、毎週同じ曜日だけ配信しない。毎回似た時間から配信を始める。過去動画で。
『今日は仕事終わり』
とか。
『明日早いから』
とか言う。活動開始地点も毎回、似た方向。
「……」
そこへ背景、服、持ち物、生活時間、天気、過去の発言。そういうものを少しずつ合わせる。
「探偵みたいになってない?」
AIの回答。
『1人の人物がすべてを特定する必要はありません』
「え?」
『多数の人が、それぞれ1つずつ情報を発見し、それがSNS等で共有される場合があります』
「……ああ」
昨日、もう見た。誰かが俺の移動時間をまとめている。別の誰かが過去配信をまとめ、別の誰かが服を見る。また別の誰かが発言を見て、最後に誰かが全部つなげる。
「1人の名探偵じゃなくて」
80,000人。
「全員でちょっとずつ探すのか」
そっちの方が怖いな。
「なるほど」
だから、顔を隠せば終わりではない。
「じゃあ」
俺は入力する。
『今まで通り、家の近くから配信しなければかなり防げますか?』
回答。
『有効です。ただし、現在地をリアルタイムで公開すること自体が、今のあなたにとって大きな弱点になるとは限りません』
「そうなの?」
読む。
『一般的な配信者は、現在地が分かると視聴者がその場所へ集まり、長時間つきまとわれる可能性があります』
「うん」
『一方で、あなたは短時間で遠くへ移動できます』
「あ」
昨日は渋谷、長野、その次、その次。普通に移動したら何十分、下手したら何時間もかかる。俺はその前にもういない。
「来られたところで」
少し考える。
「俺、もう別の場所いるな」
『その可能性が高いです』
「じゃあリアルタイムでいいじゃん」
ただ、何もないわけではない。同じ場所に長時間いる。そこへ人が集まり、囲まれ、触られ、至近距離で撮影される。悪ノリした誰かが、ゴーグルやマスクに手を伸ばす。
「それは嫌だな」
でも、その場合も。
「ワープすればいいか」
『周囲の安全を確認できる状況なら、それが最も簡単です』
「強いな、ワープ」
だったら、配信にわざわざ遅延を入れる必要はあまりない。むしろ、視聴者に。
「どこ行く?」
と聞いて、すぐ返事をもらう。そっちの方がこの企画には合っているし、巡回ならなおさらだ。救助を求めるコメントを数分遅れで見る意味はない。
「遅延」
少し考える。
「使う場所なくない?」
生活圏、映したくない場所、政府関係者との連絡や面談。そういうところは。
「そもそも配信しなきゃいいし」
答えは簡単だった。
『現在の活動内容では、常時遅延を標準にする必要性は低いでしょう』
「じゃあ」
メモ。
『基本リアルタイム』
追加。
『長居して人が増えたら移動』
追加。
『生活圏や非公開場所は最初から配信しない』
「これでいいか」
次は生活圏。
『公開活動場所から、自宅などの生活拠点へ直接移動することは避けた方がよいです』
「これはやってる」
昨日も帰りはいくつか場所を挟み、最後は普通に帰った。
『今後も継続してください』
「了解」
次は、出勤、退勤、仕事時間。
「これも具体的には言わない」
制服、名札、社員証、社内書類。
「映すわけない」
でも、俺は少し止まる。今は活動用の服と普段の服を分けている。だから大丈夫だと思う。
「思うじゃダメか」
もう1つ。
『過去の配信や投稿も一度確認し、背景・反射・持ち物・発言等に特定につながる情報が残っていないか見直すとよいでしょう』
「過去配信全部?」
嫌というほど、まだ多くはない。でも。
「……」
縄跳び。思い出した。
「また見るのあれ」
昨日、散々掘られた。世界初かもしれない能力者がやった、ワープ縄跳びまで。
「まあいい」
あとで見る。メモ。
『過去動画確認』
それから。
「政府関係者」
入力する。
『政府関係者を名乗る相手から連絡が来た場合は?』
回答。前に似た話は聞いている。政府関係者だから全部言う、全部従う、ではない。逆に、政府関係者だから逃げる、でもない。
『まず、連絡してきた相手が実際に政府関係者であるか確認してください』
「本人確認」
続いて。
『面談や連絡の目的を確認してください』
「目的確認」
『重要な話は記録を残し、その場で継続的な協力や能力利用を約束しない方が安全です』
「即決しない」
次。本名、住所、勤務先、家族。そういう情報を。どう扱うのか。確認。必要なら。専門家。
「……」
読んで。ちょっと。拍子抜け。
「普通の会社との打ち合わせみたいだな」
もっと。特殊能力者専用。みたいな。何かが出てくるかと思った。でも。結局。誰が。何のために。何を頼んでいるのか。
確認して。大事なことは。その場で決めない。
「前に考えた時と結局同じか」
だったら。少し安心。
「政府関係者だからって」
急に。全部。変わるわけじゃない。こっちは。普通に。話を聞けばいい。そこで。AIの回答に。もう1つ。
出てきた。
『今後、企業・報道機関・政府関係者などから連絡を受ける可能性があるため、私生活用とは別の活動専用連絡先を用意すると管理しやすくなります』
「連絡先」
そういえば。ない。
「問い合わせ先いるのか」
YouTube。コメント。X。それだけ。政府関係者が。もし。俺へ連絡したい。となったら。
「コメント欄?」
想像。
『政府関係者です。連絡ください』
「怪しすぎる」
絶対。偽物。大量に来る。
「専用のメールとか?」
そういうものを。作ればいい。空中スイマー用。普段使うものとは。完全に別。そこへ。企業。取材。政府関係者からの連絡。
依頼。全部。まとめる。
「……」
少し考える。
「絶対めちゃくちゃ来るだろ」
登録者。80,000人。全国ニュース。問い合わせ先。公開。
「地獄にならない?」
でも。ないよりは。いい。私生活用に。来られる方が。困る。
「作るか」
メモ。
『活動専用連絡先』
そこから。もう1回。全体を。整理する。本名。出さない。顔。出さない。住所。
出さない。勤務先。出さない。これは。今まで通り。
「生活圏から配信しない」
これも。今まで通り。
「公開場所から直接家に帰らない」
継続。
「過去配信を見る」
追加。
「配信は基本リアルタイム」
追加。
「人が増えたら長居せず移動」
追加。
「生活圏や非公開場所は配信しない」
追加。
「活動用の連絡先」
追加。
「政府関係者を名乗る相手から連絡が来たら」
相手を確認。目的確認。話を聞く。記録。その場で。重要なことは。決めない。
「……」
メモ。長い。
「結構増えたな」
最初。欲しかったもの。8,000万円。FIRE。そのために。副業。
ワープ。
YouTube。そして。今。俺は。政府関係者を名乗る相手から連絡が来た時の。対応方法を。メモしている。
「俺」
画面を見る。
「ただYouTubeで稼ぎたかっただけなんだけど」
どうして。こうなった。
「……」
でも。昨日。楽しかった。人に呼ばれて。会いに行く。いろんな場所。いろんな人。登録者も。一気に増えた。
収益化も。審査中。ここで。やめる理由はない。
「まあいい」
メモを保存。
「次の配信で試すか」
リアルタイム。大量のコメント。視聴者訪問。
「……ちゃんと選べるかな」
それは。やってみれば。分かる。
次回、第19話「有名人の配信、難しくない?」
次回更新:10月6日 12:10予定




