第16話 同接68,000人
「……ニュース?」
サブ機を見る。同接は3,000だったはずなのに、更新すると4,000。
「え?」
もう一度。5,000。
「ちょっと待って」
『ネットニュースから来た』
『Xから』
『渋谷の動画見た』
『長野の人も載ってる』
「もう記事になったの?」
コメントが流れる速度が速い。さっきまでなら1個、2個と読めた。今は、もう追いきれない。
「今のもう1回書いて」
『無理』
「無理って何だよ」
また流れる。5,600、6,000、7,000。
「……増え方おかしくない?」
『記事回ってる』
『検証まとめ伸びてる』
『本物説出てる』
「本物なんだけど」
『自称』
「まだ自称なの?」
まあ、ニュース側からしたらそうなるか。
『渋谷の別角度動画使われてる』
『長野の人のポストも載ってる』
『2人目の人も』
「俺の配信より」
少し考える。
「みんなの動画の方が使われてない?」
『そっちの方が証拠として強い』
「ああ」
そういうことか。俺が。
『ワープできます』
と言っている映像より。全然知らない人が。
『本当に来た』
と言っている映像の方が。ニュースには使いやすいらしい。
「なるほど」
サブ機を見る。8,000。
「……」
9,000。
「これ」
1万。
「1万?」
『祝1万』
『同接10,000』
『ついに』
「人?」
『人』
「10,000人が今見てるの?」
『そう』
「何で?」
『ニュース』
「ネットニュース強いな」
少し前まで、俺がワープしても3人、4人。縄跳びして6人だった。
「……」
配信用スマホを見る。映っているのは、水泳帽、ミラーゴーグル、マスクという、いつもと同じ俺だ。特に何も変わっていない。違うのは、見ている人数だけ。
「じゃあ」
コメントを見る。
「次どこ行く?」
一気に流れた。
『北海道』
『大阪』
『福岡』
『東京戻って』
『京都』
『こっち来て』
『顔出しOK』
『撮影OK』
『投稿できます』
『駅前いる』
「待って」
読めない。
「早い」
流れる。
「今の顔出しOKの人」
消える。
「もう1回書いて」
さらに流れる。
「……これ無理だな」
『諦めるな』
「お前らが速いんだよ」
サブ機。1万二千。
「まだ増えてるし」
それでも。
1つ。
目に入った。
『顔出しOK 撮影投稿OK ○○にいます』
「あ」
消えた。
「今の人」
コメント。
『俺?』
「たぶん」
『どこ?』
「俺が聞きたい」
『草』
「もう1回書いて」
しばらくして。同じ内容。
「これだ」
場所を確認する。人がいて、安全で、自宅ではない。
「そっち行くけど大丈夫ですか?」
『大丈夫』
「じゃあ」
空を見る。
「行きます」
ワープ。景色が飛ぶ。またワープ。空、街、遠く。コメントは移動している間も止まらない。
『配信切れてない』
『また移動してる』
『地面遠すぎ』
『空中スイマーってそういう意味なのか』
「そういう意味」
『後付け?』
「そこは最初から」
サブ機は1万五千。見るたびに増えている。
「……」
もう細かく確認するのをやめた。目的地へ近づく。安全な場所へ降りる。
「着いた」
『早』
『何分?』
『誰か測ってる』
「お願いします」
俺は最後の少しを歩く。待ち合わせ場所には何人かいて、そのうち1人が俺を見る。
「あ」
向こうから。
「空中スイマーですよね?」
止まる。
「……そうです」
今までと。逆だった。俺が。
『空中スイマーです』
と名乗る前に。向こうが知っていた。
「ネットニュース見ました」
「もう?」
「さっき」
「早いな」
「本当に来た……」
「呼ばれたんで」
相手がスマホを構える。
「撮りますね」
「お願いします」
俺も少し離れる。安全確認。
「1回ワープします?」
「お願いします」
ワープ。
「うわ!」
戻る。
「いや、え?」
相手が。自分のスマホと。俺を交互に見る。
「記事で見るよりやばい」
「記事は映像じゃないからね」
「本物なんですか?」
「最初から本物って言ってる」
「いや」
少し笑う。
「信じられないでしょ」
「まあ」
それも。もう何回目か分からない。相手が。その場で投稿する。
「上げました」
「ありがとうございます」
俺は。いつものように。
「チャンネル登録もお願いします」
「もうしてます」
「早い」
「記事見てから」
「ありがとうございます」
サブ機。登録者数。
「……」
見る。
「1万?」
『登録者1万超えた』
「登録者?」
『そう』
「昨日まで」
昨日は何人だった。10人、そのくらい。
「これ表示合ってる?」
『合ってる』
「1万って」
もう一度。
「10,000人?」
『そう』
「……」
よく分からない。同接は1万を超え、登録者も1万に届いている。
「急すぎない?」
相手が笑う。
「ネットであれだけ回ったら、そうなるんじゃないですか?」
「そうなの?」
「俺に聞かれても」
「だよね」
少し話す。すると、近くにいた別の人がこちらを見ている。
「すみません」
「はい」
「空中スイマー?」
「そうです」
「あのネットで出てる?」
「たぶん」
「写真いいですか?」
「顔はこれだけど」
「大丈夫です」
「どうぞ」
撮られる。また1人。
「あ、俺もいいですか?」
「どうぞ」
気づけば、待ち合わせした1人だけではなく、俺を知っている人が。その場にいる。
「……」
『有名人じゃん』
「これが?」
『これが』
「まだ今日だぞ」
スマホを見る。同接。2万。
「……2万?」
待ち合わせした相手が。
「今20,000人見てるんですか?」
「俺も今知った」
「えぐ」
「えぐいね」
さすがに俺もそう思う。コメントはほとんど読めない。
『本物?』
『記事から』
『ワープして』
『どこ行く』
『仕込み』
『別角度見た』
『長野から来ました』
『さっきの人の投稿見た』
『昔の配信あるぞ』
『縄跳び』
「また縄跳び掘られてる」
『初回同接1桁』
「やめろって」
『歴史的映像』
「ただの縄跳びだぞ」
その中に。
『仕込みだろ』
まだある。
「まだいるな」
でも。今度は。俺が答える前に。
『じゃあ渋谷の人全部仕込み?』
『長野の人も?』
『今日会ったやつ全員?』
『もう9時間くらいライブつながってるの、どう説明するんだよ』
『スタッフ全国配置説』
『金かかりすぎ』
「……」
少し。笑う。
「もう俺が説明しなくてもいいな」
『諦めた?』
「違う」
コメントを見る。
「勝手に検証してくれてるから」
俺が「証明しよう」「信じてください」と言わなくても、知らない人たちが。知らない人たちの映像を。勝手に比べている。渋谷、長野、その次、その次。全部つながっている。
「……これ」
少し。変な感じだ。ずっと。本物なのに信じてもらえない。そう思っていた。今は俺より、周りの方が。証明しようとしている。夕方。時間を見る。
「……もう9時間近いのか」
『そんなやってた?』
「俺も今気づいた」
コメント。
『テレビつけろ』
「テレビ?」
『夕方ニュース出てる』
『渋谷の映像出た』
『長野も出てる』
『各地の投稿並べてる』
「え?」
さっきまではネットニュースだった。今は。
『テレビでもやってる』
コメントが増える。
「マジ?」
『マジ』
『家族に呼ばれて来た』
『テレビから来ました』
『ニュース見て検索した』
同接。2万八千。
「……」
3万一千。3万七千。
「テレビ強くない?」
『全国に流れてる』
「そりゃ増えるわ」
テレビが何を言っているか。俺には分からない。今。配信しているから。でも。コメントを見る限り。渋谷。遠方。別々の撮影者。
切れずに続いている俺のライブ。それを。並べているらしい。同じような内容が何度も流れている。拾えたものだけでも。
『ワープ断定はしてない』
『謎の配信者って言われてる』
『専門家が映像だけでは断定できないって』
「そりゃそうだろ」
俺だって。テレビ局に。能力を確認してもらったわけではない。
「まあ」
カメラを見る。
「こっちはまだやるけど」
『まだやるの?』
「せっかく休み1日使ってるし」
『社畜』
「会社員」
言ってから、まあ、そのくらいならいいかと思う。会社名まで言う気はない。
違う。いや。あんまり違わないか。
「次」
コメントを見る。無理。
「……」
速い。仕方ない。少し待つ。目についたものを拾う。
「この人」
条件。顔出し。会話。撮影。投稿。場所。確認。
「大丈夫?」
『大丈夫』
「じゃあ行きます」
ワープ。
また。別の場所。また。知らない人。
「空中スイマー!」
「知ってる?」
「ニュース見た!」
「本当にテレビ強いな」
撮影。投稿。話す。登録。次。
ワープ。
景色。次。
ワープ。
人。次。
ワープ。
だんだん。同じことをしているのに。周囲の反応だけが変わっていく。最初は。
「何してるんですか?」
だった。今は。
「空中スイマーだ!」
になっている。俺が着いた場所で。誰かが名前を知っている。
「……すごいな」
『何が』
「名前」
『自分の?』
「そう」
『有名人』
「まだ今日だぞ」
サブ機。登録者。3万。
「……」
しばらくして。5万。
「これ」
画面を確認する。
「壊れてない?」
『まだ言ってる』
「だって」
昨日。10人くらい。今。50,000人。
「桁が違いすぎるだろ」
『ワープしてる人が言う?』
「それとこれは別」
空の色が。少しずつ変わっていく。朝から。ずっと配信している。途中。飯を食って。人に会って。移動して。また人に会って。
気づけば。10時間を超えていた。
「……長いな」
『まだ終わらないで』
「いや」
サブ機を見る。コメント。もはや。文字の川。
「俺、もうほとんど読めてないぞ」
『見えてる?』
「見えてない」
『草』
「名前も場所も流れていく」
同接。5万二千。
「……5万」
少し後。5万九千。
「まだ増えるの?」
63,000。
「……」
もう。何回も数字を見るのも。変な感じになってきた。コメントを見る。
『6万』
『ニュース追加きた』
『テレビでもまたやってる』
『海外にも転載されてる』
「海外?」
『英語の投稿ある』
「そこまで行った?」
世界。という言葉が。少しだけ。現実味を持つ。でも。俺がやっていることは。朝からずっと同じだ。呼ばれた。行く。
話す。撮ってもらう。また呼ばれる。
「……」
サブ機。数字。68,000。さらに。変わる。68,500。68,542。
「……68,000?」
もう一度見る。
「68,542」
『ピーク更新』
『68000人』
『やば』
「人?」
『人』
「68,000人が」
配信用スマホを見る。
「今これ見てるの?」
『そう』
「……何で?」
『ニュースだって』
「ニュース強すぎだろ」
少し笑う。もう。驚きすぎて。逆に。変な感じだ。
「68,000人か」
その数字を。もう一度見る。68,542。綺麗な数字でもない。だから。余計に。本当に人がいる感じがする。
「……すご」
それしか出なかった。日が落ちる。時間を見る。
「19時か」
朝から。約11時間。さすがに。俺も疲れてきた。
「今日は」
少し考える。
「もう終わろうかな」
『えー』
『まだやれ』
『24時間』
「無理」
『ワープできるのに』
「ワープと体力は別」
「11時間やってるからね」
『そんなやってたの』
「俺も今思った」
サブ機は。充電しながら使っている。熱い。
「こいつも頑張ったな」
『サブ機?』
「そう」
『初回も電池で終わってたよな』
「そこまで見たの?」
『過去配信全部掘られてる』
「怖いな」
まあ。公開したのは俺だけど。
「じゃあ」
カメラを見る。
「今日はありがとうございました」
コメント。速い。
「全然読めなかった人、ごめん」
『またやって』
『次いつ』
『会いに来て』
『登録した』
『おつ』
「またやります」
少し考えて。
「あ」
忘れない。
「チャンネル登録お願いします」
『まだ言うの草』
「大事だから」
登録者。7万八千。
「……」
見る。
「7万八千?」
『78000』
「昨日まで何人だったっけ」
『1桁じゃない』
「登録者はもう少しいた」
『誤差』
「ひどいな」
でも。笑える。
「じゃあ」
配信終了のボタン。
「お疲れさまでした」
押す。
『ライブ配信を終了しました』
静か。
「……」
急に。静かになった。さっきまで。60,000人以上が。画面の向こうにいた。今は。俺1人。
「疲れた」
まず。帰る。生活圏へ直接入らないように。いつものように。いくつか場所を挟む。最後は普通に移動して。帰宅。水泳帽。ゴーグル。
マスク。外す。
「……はあ」
座る。11時間。さすがに長い。でも。悪くなかった。いや。かなり面白かった。
「7万八千か」
スマホを見る。まだ。通知が増えている。動画。SNS。ニュース。知らないところで。俺の名前が流れている。
「……」
でも。一番気になること。そこじゃない。
「で」
YouTube Studioを開く。
「これ」
今日。11時間配信。ピーク。68,542人。登録者。約7万八千。
「いくら入るんだ?」
収益欄を確認する。
「……」
収益化。まだ。されていない。
「え?」
当然だった。俺は。まだYouTubeの収益化審査すら受けていない。
「……申請?」
画面を見る。条件。登録者。視聴時間。今日の分が全部すぐ反映されているわけではない。でも。この伸びなら。申請条件を満たすのは時間の問題に見える。
「これ」
条件を確認する。
「申請できるようになったら、そこから審査?」
自動で。今日の配信に。あとから広告収益が付くわけでもない。
「……」
今日。世界初かもしれないワープ配信。11時間。ピーク。68,542。登録者。7万八千。
「今日の分」
画面を見る。
「広告収益、ゼロ?」
少し。止まる。
「……まあいい」
どうせ。始めたばかりだ。
「条件反映されたら申請しよう」
スマホを置く。明日。普通に仕事だ。
「寝よ」
次回、第17話「翌日なので普通に出勤します」
次回更新:10月5日 12:10予定




