第15話 ワープ1日旅行
ワープ。
地面が遠ざかる。渋谷の街が、一気に下へ小さくなった。
『ほんとに行った』
『空飛んでる』
『長野行くの?』
「行けるところまで行く」
配信用スマホを持ったまま。進みたい方向の遠くを見る。ワープ。景色が変わる。また見て、ワープ。
『背景変わりすぎ』
『今どこ』
「俺も確認しながら行ってる」
一度。人のいない場所へ降りる。サブ機で地図を見る。
「……こっちで合ってるな」
『地図にワープするの?』
「できない」
画面を見せる。
「方向確認だけ」
『不便』
「十分便利だろ」
また空を見る。ワープ、ワープ、ワープ。さっきまで。知らない人が何人も俺を撮っていた。今は。その人たちが撮った動画を残したまま、俺自身が東京から離れている。
「そういえば」
サブ機を見る。
「長野って言ってた人、まだいる?」
『いる』
「あ、いた」
『マジで来る?』
「行く」
でも。その前に。
「一応、確認していい?」
『なに』
「今日は俺が本当に遠くまで移動したって確認してもらいたいんで」
少し考える。
「顔出し、大丈夫?」
『OK』
「配信で話すのも?」
『OK』
「自分のスマホで撮影して」
『うん』
「できればXとかにも上げてもらえる?」
『できる』
「よし」
もう1つ。
「長野の方に行くけど、それで大丈夫ですか?」
『大丈夫』
「待ち合わせは家じゃなくて」
『駅前いる』
「人がいるところね」
『了解』
「じゃあ行きます」
『ほんとに来るのかよ』
「呼んだのそっちだろ」
また空へワープ。景色が切り替わる。山、街、また山。
『速』
『これ配信切れてないよな?』
『ずっとついてる』
「切ったら意味ないからね」
今までなら。俺がどこかへ消えて。別の場所で配信を始めても。
『最初からそこにいただろ』
で終わる。今日は違う。渋谷から。ずっとつながっている。
「……これ」
移動しながら思う。
「証明として結構強くない?」
『まだ仕込み』
「強いな」
『長野にもスタッフ配置済み』
「俺どんだけ準備してるんだよ」
ワープ。
またワープ。途中で現在地を確認。
「もう少し」
『マジで来てる』
『長野の人逃げるなよ』
『逃げない』
「逃げるなって何だよ」
目的の地域へ近づく。人が多そうな場所へ、いきなり出るのは避ける。少し離れた。人のいない場所へ降りた。
「着いた」
『は?』
『早』
『長野の人いる?』
『いる』
「じゃあ」
サブ機を見る。
「今からそっち行く」
最後は普通に歩く。水泳帽、ミラーゴーグル、マスク、スマホ2台。
「……」
改めて考える。
「待ち合わせする格好じゃないな」
『今更』
「まあいい」
駅前の待ち合わせ場所へ近づくにつれて、人が増える。
『見えた』
「え?」
コメントを見る。
『そっち見えてる』
「どれ?」
周囲を見ると、1人がこっちへ手を振っている。
「あ」
近づく。
「空中スイマーです」
「本当に来た……」
「呼んだのそっちでしょ」
「いや、そうなんですけど」
相手が笑う。
「配信、映って大丈夫?」
「大丈夫です」
「さっきまで渋谷ですよね?」
「そう」
「何分ですか?」
「数えてない」
「そこは数えといてくださいよ」
「配信残ってるから誰か調べるでしょ」
『他人任せ』
「得意な人に任せた方がいい」
相手がスマホを出す。
「これ撮っていいんですよね?」
「お願いします」
カメラが向く。
「じゃ」
俺は少し離れる。
「1回ワープしとく?」
「お願いします」
安全な場所を見る。
ワープ。
「うわ!」
戻る。
「えっ」
相手が画面を見る。
「マジだ」
「マジです」
「いや、目の前で見ると全然違う」
「みんなそれ言うな」
相手は自分のスマホを操作する。
「これ上げます」
「お願いします」
「何て書けばいいですか?」
「好きに書いていいですよ」
「じゃあ」
少し入力して。
「『本当に来た』で」
「十分」
投稿。
「上げました」
「ありがとうございます」
『見つけた』
『早』
『長野側きた』
『アカウント普通じゃん』
『仕込み用アカウントでは?』
「まだ言う?」
相手もコメントを見る。
「俺スタッフらしいですよ」
「今日から?」
「給料ください」
「まだ俺が1円も稼いでない」
「じゃあ無理ですね」
「無理です」
そうだ。
「あと」
俺は相手を見る。
「できれば、このチャンネルも広めてもらえると嬉しいです」
「宣伝?」
「そう」
カメラを見る。
「チャンネル登録もお願いします」
『急にYouTuber』
『そこちゃんと言うんだ』
「これ収益化したくて始めたから」
「ワープできるのに?」
「ワープできても金は勝手に増えない」
相手が笑う。
「登録しました」
「ありがとうございます」
サブ機を見る。登録者は少し増えている。
「お」
『1人増えた?』
「大事だからな」
相手と少し話す。
「そもそも何で配信見てたんですか?」
「Xで動画流れてきて」
「もう?」
「渋谷のやつ」
「早いな」
「最初、マジックだと思いました」
「今は?」
相手が俺を見る。スマホを見る。
「……分からなくなりました」
「まだワープにはならない?」
「だってワープですよ?」
「まあそうだよな」
俺だって、能力を手に入れる前ならそう思う。
「じゃあ」
少し話したし。次。
「誰か他に呼んでくれる人いる?」
コメントを見る。一気に流れる。
『こっち来て』
『顔出しOK』
『撮影OK』
『投稿できる』
『○○いる』
『こっち!』
「……増えたな」
さっきまでは「長野来て」くらいだったのに、今は条件まで書いてある。
「応募みたいになってる」
コメントを追う。
「今日は証明もしたいから」
もう一度。
「顔出し大丈夫で」
「話せて」
「自分でも撮影して」
「投稿できる人でお願いします」
『全部OK』
「じゃあ」
1つ拾う。
今いる場所とは。また別の地域。
「この人」
コメントを読む。
「そっちの方に行くけど、大丈夫ですか?」
『大丈夫』
「人がいて安全な場所?」
『駅の近く』
「家じゃない?」
『家じゃないw』
「よし」
最初に会った人へ。
「じゃ、行きます」
「もう行くんですか?」
「次呼ばれたんで」
「すごい企画だな」
「俺も今そう思ってる」
「また配信見ます」
「登録解除しないでね」
「しませんよ」
「よし」
空を見る。ワープ。また景色が飛ぶ。ワープ、ワープ。配信は続く。
『長野の人の投稿伸びてる』
『渋谷動画と比較されてる』
『同1人物だよな』
『服も同じ』
「服はこれしかないからね」
『スタッフ説まだある』
「まだいるのか」
でも。さっきとは少し違う。
『でも長野の人のアカウント昔からあるぞ』
『渋谷の撮影者とも関係なさそう』
『これ全員仕込みなら大掛かりすぎる』
「そうそう」
思わず頷く。
「俺にそんな予算ないから」
次の場所へ。また。人の少ないところへ降りて。最後は歩く。待っている人。
「空中スイマー?」
「そうです」
「うわ、本当に来た!」
また撮影、また短いワープ、また悲鳴、また投稿。
「チャンネルも」
「もう登録しました」
「早い」
「さっき見て登録した」
「ありがとうございます」
サブ機を見る。同接。二百を超えている。
「……二百?」
『増えてるぞ』
『Xから来た』
『2人目も別人じゃん』
『全国スタッフ説』
「もう全国になったの?」
相手が笑う。
「スタッフ何人いるんですか?」
「ゼロ」
「じゃあ俺2人目?」
「勝手にスタッフにしないで」
少し話す。そして。
「この辺初めてですか?」
「初めて」
「じゃあ、ちょっと向こう行ったら景色いいですよ」
「近い?」
「歩いても行けます」
「……」
少し考える。次の人へすぐ行ってもいい。でも。せっかく来た。
「行ってみるか」
『観光始まった』
「観光じゃない」
歩く。少し移動。言われた場所から景色を見る。
「おお」
普通に。いい。
「これいいな」
『旅行じゃん』
「違う」
『もう旅行だろ』
「証明しに来てる」
次のコメント。
『こっち来たら○○あるよ』
『うちの県も景色いいぞ』
『名物食べて』
「名物」
そこで。腹が減っていることに気づいた。
「そういえば昼まだだな」
『名物チャンス』
『食え』
『旅行しろ』
「待って」
荷物を見る。
「持ってきてる」
『え』
簡単な昼飯を出す。
「これでいい」
配信用スマホを、昼飯と景色が映る向きに置く。俺自身は画角の外へ座る。マスクを外すのは、そのあとだ。
『そこまで行ってそれ食うの?』
『旅行感ゼロ』
『名物食えよ』
「金かかるじゃん」
『交通費ゼロだろ』
「交通費ゼロだからって」
一口。
「食費まで増やす必要なくない?」
『節約家』
「褒め言葉として受け取る」
食べながらサブ機を見る。同接は三百、四百。
「……」
更新。五百。
「ワープしてる時より」
もう一口。
「飯食ってる時の方が人増えてない?」
『検証勢が来てる』
『渋谷の動画から来ました』
『長野の投稿から』
『2人目の人もポストしたぞ』
「なるほど」
俺は飯を食べている。その間に。知らない人たちが。勝手に俺のことを調べているらしい。
『過去配信見つけた』
「え?」
『前からやってるじゃん』
『縄跳びしてて草』
「そこ掘らなくていいから」
『初回同接一桁?』
「やめろ」
『世界初の超能力者、同接一桁』
「今増えてるだろ!」
八百。
「……ほんとに増えてる」
昼飯を片付ける。マスクを戻して、画角に入る。
「じゃ」
立ち上がる。
「次どこ行く?」
コメント。一気に流れる。
『こっち!』
『顔出しOK!』
『撮影投稿OK!』
『○○いる!』
『来て!』
『北海道!』
『九州!』
『海!』
『山!』
「待って」
流れる。流れる。もう一度。
「誰か――」
言いかけて。止まる。
「……もう俺から聞かなくても呼ばれてるな」
『草』
『選べ』
『早い者勝ち』
「見えないんだよ」
コメントを追う。
1つ。
「今のどこ?」
消える。
「ちょっと待って」
また流れる。
「もう1回書いて」
さらに流れる。
「これ」
サブ機を見る。千。超えた。
「人数増えたら」
コメントを見る。
「ここから選ぶの無理じゃない?」
『今更』
『まだ増えるぞ』
「これ以上?」
それでも。見えたコメントを1つ拾う。条件確認。場所確認。
「じゃあ次」
ワープ。
また。別の場所。また。知らない人。
「本当に来た!」
「呼ばれたんで」
撮影、投稿、登録。少し話して、近くを案内される。次へワープ。また次へワープ。気づけば。朝にいた場所とは。全然違う場所にいる。
「……」
ふと。思う。
「これ」
景色を見る。今日会った人は1人、2人、3人、その先。いくつも場所を移動した。
「……旅行になってない?」
『今気づいたの?』
『朝から全国回ってるぞ』
『ワープ旅行』
『タイトル決まったな』
「公開実演しに来ただけなんだけどな」
まあ、悪くない。むしろ、ちょっと楽しい。
「ワープ1日旅行か」
口にしてみる。
「いいかもな」
サブ機。二千。
「……」
また見る。三千。
「増え方おかしくない?」
『おすすめ乗った?』
『Xで回ってる』
『検証まとめ出てる』
『これニュースになるだろ』
「ニュース?」
まだ。ネットで騒がれているだけだろう。そう思って。次のコメントを見る。
『ニュース出てる』
「何が?」
『お前』
「俺?」
『空中スイマー』
『ニュースになってる』
「……ニュース?」
サブ機を見る。同接の数字がまた跳ねた。
「え?」
次回、第16話「同接68,000人」
次回更新:10月4日 20:10予定




