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ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん


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第13話 じゃあ渋谷でやるか

地図を眺める。候補は東京。人が多く、場所も分かりやすい。知らない人が勝手に撮れる。


「……どこだ」


新宿、池袋、東京駅、渋谷。候補はいくらでもある。


「人が多けりゃいいって話でもないんだよな」


駅の中。人が密集している場所。そういうところで突然ワープしても、邪魔になるだけだ。下手したら普通に怒られる。


「世界初かもしれない超能力公開して、最初のニュースが迷惑行為は嫌だな」


もう一度、地図を見る。有名で、人が多い。動画を見ただけでも場所が分かる。スマホを持って歩いている人も多い。


「……渋谷?」


前の配信でもコメントに言われた。


『渋谷でやれ』


あの時は、


「いきなり規模でかいな」


と思ったけど。条件だけ見ると。


「結構合ってるんだよな」


もちろん。スクランブル交差点の真ん中で消えるつもりはない。


「信号待ちでワープします、とか絶対ダメだろ」


道路は使わず、人の流れも止めない。それでいて周囲から見える場所。でも、少し余裕がある場所。


「細かい場所は、現地で人の流れを見て決めればいいか」


人の多さも時間で変わる。無理そうなら移動すればいいし、俺にはワープがある。


「じゃあ」


地図を閉じる。


「渋谷でやるか」


決まった。次は、どうやって


『今からワープします』


と周りへ伝えるか。ただ水泳帽をかぶって立っていても、誰も俺が超能力者だとは思わない。たぶん。


『変な人いる』


で終わる。


「看板?」


検索する。イベント用、手持ち、軽量。いろいろ出てくる。


「そんな立派なのはいらんな」


まだ収益は0円。今回だけのために高い物を買う気はない。簡単な表示物でいい。


『YouTube LIVE中』


『空中スイマー』


『空中スイマー本人 撮影OK』


「……」


文字だけ見る。


「大道芸人っぽいな」


ワープ能力者というより。駅前で芸を披露する人だ。


「まあいいか」


大事なのは、その場にいる人が、


『空中スイマー』


という名前を確認できること。自分のスマホで撮って。あとから俺の配信と見比べられること。今までみたいに、


『俺が本物ですと言っている動画』


だけではない。


「次」


メモを開く。


『公開実演』


一、近距離ワープ。


二、その場にいる人に移動先を指定してもらう。


三、空中ワープ。


少し考える。


「縄跳び」


入力して。消す。


「もういいだろ」


そして四、遠距離移動。前にAIに言われた。離れた二地点で、ここで俺を見た人と、遠くで俺を見る人。別々の人間が同じ俺を撮る。


「こっちの方が強そうだな」


近くで消えて10メートル先に出るだけなら、まだ何か仕掛けがあると言える。でも、東京で撮られた直後に全然違う場所へ出るなら話は変わる。


「じゃあ遠くまで行くか」


そこまで考えて、止まる。


「……行って、すぐ帰る?」


休みだ。1日ある。ワープできる。


「もったいないな」


せっかく遠くまで行くなら。別の場所、また別の場所へ移動して景色を見る。飯も食う。そのまま配信する。


「ワープ旅行?」


悪くない。むしろ、一か所で実演して終わるより、いろんな場所で知らない人に撮られた方が第三者の映像も増える。


「これでいいじゃん」


朝は渋谷で公開実演。そのまま移動して1日配信。


「……急にちゃんとした企画になってきたな」


最初は外で縄跳びしていただけなのに。その日の夜。俺は必要な物をまとめた。配信用スマホ。コメント確認用の古いスマホ。三脚、モバイルバッテリー、ケーブル、表示物、飲み物。


「サブ機」


手に取る。初配信では、充電しながら使ったせいで熱くなった。


「今回は頼むぞ」


買い替え。はしない。


「まだ1円も稼いでないしな」


世界初かもしれない公開ワープ実演。機材はスマホ2台、三脚、モバイルバッテリー。


「安いな」


でも。これで十分だ。表示物も確認する。


『YouTube LIVE中』


『空中スイマー』


『空中スイマー本人 撮影OK』


「……やっぱ大道芸人だな」


まあいい。荷物をまとめる。準備完了。次の休日。朝。俺は活動服へ着替えた。水泳帽、ミラーゴーグル、マスク、無地の服。


「よし」


荷物を確認する。スマホ2台、バッテリー、三脚、表示物。


「忘れ物なし」


家の近くから、そのままワープを始めることはしない。いつも通り、まず車で人目の少ない場所まで移動する。そこから見える場所をつないで何度かワープし、生活圏から十分離れる。俺は空を見上げた。


「……東京か」


スマホで地図を確認する。熊本から東京。天気と大まかな進行方向も確認する。途中で視界が悪くなったら、無理せず地上へ降りる。普段なら。気軽に行こうと思う距離じゃない。飛行機。新幹線。どっちにしても、


『ちょっと行ってくる』


で済む場所ではない。


「これ、普通に初の長距離移動だな」


今までは数100メートル、少し離れた場所、空中移動。見える場所をつなぐワープなら何度もやった。でも。県をいくつもまたいで、東京まで行く。そんな使い方は、まだ一度もしていない。


「……まあ」


やること自体は同じだ。見える場所へ行く。そこからまた。見える場所へ行く。


「行くか」


空を見る。


ワープ。


一気に地面が遠ざかる。


「おお」


高い。今までより、移動することそのものを意識して高度を取る。進みたい方向を見る。遠くの地面、街、山、その先。


「まずあそこ」


ワープ。


景色が変わった。すぐに次を見る。


ワープ。


また変わる。


「……」


もう一度。


ワープ。


「速いな」


分かっていた。ワープなんだから。速いに決まっている。でも。今までは、


『一瞬で数100メートル動ける』


くらいの感覚だった。今日は違う。進む。進む。見える先をつないで。本気で距離を稼いでいる。


ワープ。


ワープ。


ワープ。


途中で地上へ降りる。人のいない場所。スマホを見る。


「……もうここ?」


地図で現在地を確認する。もちろん。画面の地図へワープできるわけではない。これは方向確認だけ。


「思ってたより進むな」


また空へ。


ワープ。


高い位置から周囲を見る。進行方向。次に安全に出られそうな場所。目で確認。


ワープ。


景色が切り替わる。山が近かった景色から。街が増えて。また山。海。また陸。


「旅行の移動っていうか」


ワープ。


「早送りだな」


もう一度。


ワープ。


また。


ワープ。


「何回目だ?」


少し考える。


「……まあいいか」


数えるのをやめた。見える。行く。また見る。行く。それだけ。疲れも。今のところほとんどない。


「これ」


移動しながら。少し笑う。


「普通に飛行機いらないじゃん」


もちろん。俺に限っては。だけど。また地上へ降りる。現在地を確認。


「……マジか」


さっきまで熊本にいた。それが。確実に東京へ近づいている。


「能力が便利なのは知ってたけど」


自分で言う。


「こういう便利さか」


通勤。副業。配送。人助け。今まで。頭の中では色々考えていた。でも。熊本から東京へ。自分自身が移動してみて、


初めて分かる。


「距離の感覚、壊れるな」


また空へ。


ワープ。


ワープ。


ワープ。


遠くまで来るたびに。同じ日本なのに。見える景色が変わっていく。それが、妙に楽しい。


「……これ配信してもよかったな」


少し思って。


「いや」


今日はまだダメだ。今ここから配信したら。熊本側の出発地点から、生活圏を推測される可能性がある。


「まず東京まで行ってから」


今日の目的は。能力を自慢することではない。第三者に、本当に確認してもらうこと。


「よし」


さらに進む。


ワープ。


ワープ。


ワープ。


途中。何度か方向を確認する。また進む。そして。地上へ降りた。


「……」


スマホを見る。東京。


「来た」


思わず。もう一度見る。東京。


「熊本から東京まで」


飛行機。なし。新幹線。なし。高速道路。なし。俺だけ。


「……」


少しだけ笑う。


「俺、結構すごくない?」


返事はない。周囲に人はいない。


「これを見てもらうために来たんだけどな」


ここから先は。いきなり人混みへワープしない。渋谷周辺まで移動して。最後は普通に歩く。人。増える。さらに増える。


「……多いな」


分かっていたけど。本当に多い。さっきまで。1人で日本を横断していた。でも。今の方が緊張する。


「長距離ワープよりこっちの方が怖いな」


人の流れを見る。立ち止まっても邪魔になりにくそうな場所。周囲から見えるか。ワープ先に安全な空間があるか。


「ここは狭いな」


移動。


「ここは人通り多すぎる」


また移動。少し探して。


「……ここならいけるか」


完全に人がいないわけではない。でも。人の流れを塞ぐほどでもない。周囲からも見える。表示物を出す。


『YouTube LIVE中』


『空中スイマー』


『空中スイマー本人 撮影OK』


通りかかった人が、一瞬だけこちらを見る。


「……」


さっきまで。熊本から東京まで、ワープだけで来た。なのに今は。水泳帽とゴーグル姿で、看板を出して立っている。


「落差すごいな」


早く始めよう。三脚。配信用スマホ。サブ機。通信確認。バッテリー。問題なし。配信画面を開く。開始ボタン。


前までなら。押しても。見ているのは数人だった。今日は。画面の向こうだけじゃない。目の前にも、知らない人がいる。


「……よし」


押す。


『ライブ配信を開始しました』

次回、第14話「渋谷でワープしてみた」


次回更新:10月3日 20:10予定

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