第11話 本物なのに信じてもらえない
初配信の翌日。俺は自分の配信を見返していた。
「……地味だな」
自分で言ってしまった。画面の中では、水泳帽をかぶった男が消える。
戻る。
空へ行く。
戻る。
縄跳びをする。
「いや、やってることはすごいんだけどな」
少なくとも俺はそう思う。実際にワープしているし、空も飛んでいる。世界で俺しかできない可能性すらある。なのに、配信結果の再生数は――
「……ちょっと増えてる」
ライブ中よりは見られていて、少し嬉しい。コメントもついていた。
『編集?』
『どういうトリック』
『AI動画?』
『空飛ぶところだけ事前に撮ってそう』
「生配信だったんだけどな」
俺はコメント欄を下へ送る。
『縄跳びうまい』
「まだ言われてる」
一番伝えたかった部分ではない。もう一度、配信を最初から見る。俺が消える。少し離れた場所に出る。
「……」
知っている俺からすればワープだ。でも、何も知らずにこれを見せられたら。
「編集って言うか」
画面だけなら。何でもできる。今どき映像なんて、いくらでも作れる。
「だったら」
もっと分かりやすくすればいい。前回は思いついたものを適当にやった。今度は最初から、
『本当にワープできる』
と分かる企画にする。
「よし」
次の休日。また活動服。水泳帽、ミラーゴーグル、マスク。
「……慣れてきたな」
慣れたくない格好ではある。前回と同じ手順で、生活圏から十分離れた別の場所まで移動する。同じ場所を使い続けるのも避けた。配信用スマホは新しい方。コメント確認用は古い方。
「今日は充電百パー」
モバイルバッテリーもある。
「熱くなったら終わるけど」
サブ機問題は解決していない。買い替えるほどでもないし、まだ収益は0円だ。配信タイトルは――
『本当にワープできます。生配信で検証します』
「前よりは分かりやすいだろ」
開始。
『ライブ配信を開始しました』
同接。ゼロ。
「……」
待つ。1人。
「来た」
もう少し待つ。2人。
「前回より早い」
前の配信を見た人かもしれない。
「どうも。空中スイマーです」
コメント。
『また水泳帽の人だ』
「覚え方そこなんだ」
『縄跳びする?』
「今日は縄跳びじゃないです」
完全に縄跳びの人になっている。
「今日は、前回『編集だろ』って言われたので」
三脚を置く。
「本当にワープしてるって分かるようにします」
『どうやって』
「まず固定カメラ」
三脚へスマホを固定。カメラには触らない。俺は少し離れる。
「今から、ここから」
右を見る。
「向こうまで行きます」
10メートルくらい先。
ワープ。
一瞬で移動する。そのまま手を振る。
戻る。
「どう?」
サブ機を見る。
『画面切り替えてる?』
「切り替えてない」
三脚を指さす。
「固定してるから」
『ライブ風の録画とか』
「ライブ風って何だよ」
コメント。
『今コメント読んでるから録画ではない?』
「そう!」
俺は画面へ近づいた。
「今リアルタイムです」
これは大きい。少なくとも。事前に全部録画して流しているわけではない。
「じゃあ」
もっと確実にする。
「今から、コメントで何するか決めてください」
少し待つ。
『右手上げて』
「右手」
上げる。
『3回ジャンプ』
「一、二、三」
跳ぶ。
『その場で1回転』
「こう?」
1回転。
『なんでもやるやん』
「証明したいからな」
またコメントが来る。
『左にワープ』
「左ね」
見る。
ワープ。
『戻って』
ワープ。
戻る。
『次上』
「上?」
空を見る。
「了解」
ワープ。
地面が離れる。下へスマホを向ける。
「今、空です」
もう一度。前へ。
ワープ。
少し進む。地上へ戻る。
「どう?」
コメント。
『リアルタイムなのは分かった』
「よし」
俺は少し嬉しくなる。ようやく1つ進んだ。
『でもワープかは分からん』
「なんでだよ」
思わず声が出た。
「今コメント通りにワープしただろ」
『仕掛けがあるかもしれない』
『カメラ側でなんかしてるとか』
『特殊な機材?』
「スマホなんだけど」
普通のスマホ、三脚、古いスマホ。世界唯一かもしれない能力者の撮影機材としては、むしろ安すぎる。
「じゃあ」
別の方法。
「物を動かします」
今日は少し大きめの物も用意してきた。折りたたみ椅子。
「これ」
カメラの前へ置く。俺は数メートル離れる。
「触りません」
椅子を見る。移動先を見る。
ワープ。
椅子が消える。別の場所へ出る。
「ほら」
サブ機。
『スタッフいる?』
「いない」
『糸?』
「椅子を?」
『画角の外になんかいるんじゃない』
「俺1人だって」
言ってから。少し止まる。
「……いや」
俺が、
『1人です』
と言っているだけだ。配信を見ている側には、本当に誰もいないのか分からない。
「じゃあカメラ回すか」
スマホを三脚から取る。周囲を映す。
「誰もいません」
ぐるっと一周。
「ほら」
『撮ってないところに隠れてそう』
「無敵だなその理論」
何をしても、
『何かあるかもしれない』
で終わる。でも、まだ2回目だ。
「まあいい」
今日は続ける。飛んで、ワープして、コメント通りに動き、物を移動させる。少し離れた場所へ行って、数秒後に戻る。同接は3人、5人、4人、6人。
「6人!」
前回より多い。
『増えて喜んでる』
「前回最高4人だったからな」
『登録した』
「マジ?」
確認すると、チャンネル登録者が1人増えている。
「おお」
初めての登録者。
「ありがとう」
『ワープ信じてないけど面白い』
「信じてないのかよ」
でも、登録は登録だ。
「まあいいか」
配信を続ける。別の日。また配信。
『今日も飛ぶ?』
「飛びます」
また別の日。
『水泳帽きた』
「俺の名前、空中スイマーだからな?」
『水泳帽の人』
「空中スイマーです」
少しずつ。見たことのある名前が増えてきた。毎回来る人。たまにコメントする人。登録者も。一桁。10人。少しずつ。
「伸びてはいるんだよな」
でも。俺が想像していたものとは、かなり違った。
『ワープ能力者』
ではない。
『変な格好で変な映像を配信している人』
に近い。ある日の配信。
「今日はもうちょっと遠く行きます」
見えている場所をつなぎながら移動。しばらく離れて。
戻る。
「どうだ」
『すごい』
「お」
『編集技術が』
「そっちじゃない」
『AIじゃないのこれ』
「俺、今コメント読んでるだろ」
『リアルタイム生成とか』
「そこまで疑う?」
技術が進みすぎている。昔なら超能力っぽい映像を見せれば、
『本物か?』
になったのかもしれない。今は先に、
『どう作った?』
になる。
「本物なんだけどな」
コメント。
『本物ならニュースになってるだろ』
「いや」
俺は少し考える。
「ニュースになってないから配信してるんだけど」
誰にも知られていない。だからニュースにならない。ニュースにならないから、本物だと思われない。
「……鶏と卵みたいになってない?」
『草』
同接。8人。
「8人いる」
過去最高。
「あと2人で二桁だぞ」
『そこ目標なんだ』
「今はな」
少しして。7人。
「あ」
『1人帰った』
「二桁遠いな」
また飛ぶ。
戻る。
コメント。
『編集でしょ』
「だから生配信だって」
『生配信でもトリックはできる』
「じゃあどうすればいいんだよ」
半分冗談で返した。すると。
1つコメントが流れた。
『人がいるところでやれば?』
「人がいるところ?」
少しして、もう1つ流れた。
『知らない人の前でやってみたら』
「知らない人……」
俺は少し黙った。今まで。全部俺が撮っている。俺が、
『これは生配信です』
と言って。俺が、
『スタッフはいません』
と言って。俺が、
『本物です』
と言っている。見ている側からすれば。
「全部、俺の自己申告か」
自分で言って、少し納得した。
でも。人がいる場所。普通の人の前。それはそれで問題がある。身元。騒ぎ。人が集まる。警察。迷惑。
「簡単にやっていいのかな」
『渋谷でやれ』
「いきなり規模でかいな」
『新宿』
「もっと人いるだろ」
『駅前』
「捕まりそう」
コメント欄は好き勝手言う。でも。
「知らない人の前、か」
そこは引っかかった。その日の配信を終える。
「じゃあ今日はこの辺で」
『おつ』
『またね』
「またやります」
終了。画面が切り替わる。
「……」
配信結果を見る。前回よりは見られた。登録者も増えた。コメントも増えた。企画も変えた。視聴者の指示にもリアルタイムで応えた。事前録画ではないことくらいは、たぶん伝わった。でも。
「ワープだとは信じてもらえてない」
企画。縄跳びだけの問題ではなかった。派手にすればいい。そう思っていた。
「……俺が何やっても」
俺が撮る。俺が説明する。俺が証明する。
「『仕掛けです』で終わるのか?」
スマホを見る。少し考える。こういう時。1人で考えていても、また変な企画を思いつくだけな気がする。
「……相談するか」
AIを開く。入力。
『本当にワープできる人間が、YouTubeで生配信しても偽物だと思われています。自分以外の人にも本物だと確認してもらうには、どうすればいいですか?』
送信。画面に、回答が表示され始めた。
次回、第12話「AIに配信相談してみた」
次回更新:10月2日 20:10予定




