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ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん


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第10話 世界初のワープ配信、同接1桁

『ライブ配信を開始しました』


画面が切り替わる。


「……始まった?」


配信用のスマホは問題なさそうだ。次に、手元の古いスマホを見る。こっちはコメントと同接確認用で、表示された同時視聴者数は――


ゼロ人。


「……まあ、始めたばっかだしな」


当然だ。チャンネル登録者もゼロ。告知もしていない。


誰かが偶然見つけるまで、待つしかない。とはいえ。無言で立っているのも変だ。


俺はカメラへ向き直った。


「どうも。空中スイマーです」


返事はない。


「ワープできます」


返事はない。


「……」


水泳帽、ミラーゴーグル、マスク。人の少ない場所で、1人でスマホに向かって喋っている。


「視聴者ゼロだと急に恥ずかしいな」


能力を見せる以前の問題だった。とりあえず予定通りやるか。そう思った時。


サブ機の数字が変わった。


『1』


「おっ」


見る。見間違いじゃない。


「1人いる!」


誰か来た。世界のどこかで、今俺を見ている人が1人いる。


「どうも!」


さっきより少し声が大きくなる。コメントが1つ流れた。


『なにこれ』


「ワープです」


『ワープ?』


「そうです。見せます」


会話できた。


「おお……配信っぽい」


視聴者、1人だけど。三脚に配信用スマホを置く。少し離れる。


画角を確認。


「今ここにいます」


手を上げる。数メートル先を見る。


ワープ。


景色が切り替わる。すぐにカメラの方を見る。もう一度。


ワープ。


元の位置へ戻る。


「どうだ」


サブ機を見る。


『画面飛んだ?』


「飛んでない。俺が飛んだ」


『仕掛け?』


「いや本物なんだけど」


生配信なら簡単に信じてもらえると思っていた。でも、考えてみれば。


今の映像は、変な格好の男が一瞬消えて、別の場所から出てきただけだ。俺は実際にワープしたから分かる。


視聴者には分からない。


「じゃあ、もっと分かりやすいやつ」


配信用スマホを三脚から外す。サブ機はポケットへ。空を見る。


「飛びます」


『飛ぶ?』


「飛びます」


ワープ。


一気に地面が遠くなる。


「おお」


風が当たる。もう一度。前方の空中へ。


ワープ。


さらに前。


ワープ。


「やっぱこれ楽しいな」


スマホを下へ向ける。道路、建物、小さく見える車。


「今、普通に空にいます」


『ドローン?』


「俺が飛んでます」


『カメラ切り替えてる?』


「切り替えてない」


少し落ちる。またワープ。落下を止める。


「というか、落ちて戻ってるだけなんだけど」


自分で言って少し笑う。数回移動してから地上へ戻る。サブ機を見る。


同接。


『3』


「3人!」


増えてる。


「おお、来た来た」


コメントも少し増えていた。


『事前に撮ったやつ?』


『どうやってんの』


『景色きれい』


「景色か」


いや。景色もいいけど。


「俺、今飛んでたんだけど」


これでもダメか。生配信で空中をワープしているんだから、かなり分かりやすいと思う。


でも。映像だけなら何とでも言えるらしい。


「じゃあ」


まだある。昨日考えたやつ。


「分かりやすいのやります」


バッグから縄跳びを出した。


『縄跳び?』


「そうです」


持ち手を握る。


「普通に跳びます」


1回、2回、3回。普通。


「次」


縄を回す。跳ぶ。足元を通る直前。


少し上へワープ。さらに位置をずらす。縄が通る。


またワープ。


「おっ」


できた。もう一度。今度はもっと多く。


「三重……いや、これ何重扱いになるんだ?」


普通の縄跳びとは違う。俺が空中で位置を変えているだけだ。でも見た目だけなら、かなりおかしいはず。


「もう1回」


縄。跳ぶ。


ワープ。


ワープ。


ワープ。


着地。


「どうだ」


俺はサブ機を見る。同接。


『4』


「お、4人!」


今日最高。コメント。


『縄跳びうまいですね』


「そこ?」


『すごい』


「ワープの方?」


『縄跳び』


「そっちかよ」


別のコメント。


『水泳帽で縄跳びしてる人』


「情報だけ見るとすごい地味だな」


改めて自分を見る。水泳帽、ゴーグル、マスク、縄跳び。


「……確かに」


世界唯一かもしれない能力を使っているのに。画面だけ見れば、変な格好の男が外で縄跳びしている。


「企画ミスったか?」


でも。せっかくなので続ける。次は小物。


地面へ置いたペットボトル。


「これを」


少し離れる。ペットボトルを見る。


ワープ。


手元へ。


「ほら」


サブ機。同接。


『2』


「減った」


さっき4人いたのに。


「ペットボトルで2人帰った?」


『地味』


「やっぱ地味?」


次。少し離れた場所までワープ。戻る。


次。空中へ。戻る。


次。縄跳び。戻る。


同接は。


1、3、2、4、2、1。


「1桁から出ないな」


俺はサブ機を見た。


「俺今、世界で一番珍しいことやってる可能性あるんだけどな」


『草』


「笑われた」


でもコメントがあるだけ、少し楽しい。救助のコメントは来ない。まあ当然だ。


俺の存在を知っている人がほとんどいない。誰かが困っていたとしても、


『空中スイマーに頼もう』


とはならない。


「ヒーロー以前に知名度がないな」


『ヒーローなの?』


「いや、ヒーローってほどじゃないです。困ってる人がいたら助けたいくらいで」


『頑張って』


「ありがとう」


視聴者。2人。


「2人に応援された」


ちょっと嬉しい。能力を持っている。人の役に立てるかもしれない。


それだけで誰かが俺を知るわけではない。


「まあ、今日は初日だし」


まだ失敗と決めるには早い。次は何をやる。もっと高く飛ぶ。


もっと遠くへ行く。大きい物をワープさせる。考えていると。


サブ機の画面上部が目に入った。


「ん?」


バッテリー。21パーセント。


「もう?」


家を出る前に充電してきた。でも古い。画面はずっと点灯。


通信もしている。コメントも更新している。


「古いスマホってこんな減るの早かったっけ」


19パーセント。


「早い早い」


バッグからモバイルバッテリーを出す。ケーブル。接続。


「これでよし」


そのまま配信を続ける。少し飛ぶ。戻る。


コメントを見る。数分。また見る。


「……」


サブ機を持ち直した。


「熱くない?」


ケース越しでも分かる。充電しながら画面をつけっぱなしにして、通信もしっぱなし。当然かもしれない。手のひらに乗せる。


「……熱っ」


「コメント見てるスマホが熱い」


『草』


「俺じゃなくてスマホが先に限界きてる」


残量。23パーセント。


「全然増えてないし」


配信を続けること自体はできる。メイン機はまだ余裕がある。俺も別に疲れていない。


ワープも問題ない。でも。


「世界で1人かもしれないワープ能力者の初配信が、古いスマホの電池で終わるのか」


『買い替えろ』


「まだ1円も稼いでないんだよ」


モバイルバッテリーにつながった熱いサブ機を見る。


「……まあ初配信だし」


もう一度触る。やっぱり熱い。


「今日はこの辺かな」


カメラへ向く。


「じゃあ、今日は終わります」


少し手を振る。


「見てくれた人、ありがとうございました」


今いるのは。2人。


「2人ともありがとう」


『おつ』


『またね』


「お」


俺も手を振る。


「またやります」


配信終了。画面が切り替わる。


「ふう」


水泳帽を少し持ち上げる。暑い。ゴーグルも外す。


そして配信結果を見る。


「……」


世界初かもしれないワープ生配信。空を飛び、消え、物を飛ばし、縄跳びもした。それでピークは1桁。


「……世界初かもしれないワープ配信したんだよな?」


数字を見る。変わらない。


「なんでこんな少ないんだ?」


少し考える。まあ。1回目だ。


チャンネルを作ったばかり。告知もない。企画も。


「縄跳びだったしな」


もっと分かりやすいことをすればいい。もっと見た瞬間に、


『これはおかしい』


と思うようなもの。


「企画が悪かったか?」


俺は熱くなったサブ機からケーブルを抜いた。次は。もう少し考えてからやろう。


本物なんだから。そのうち分かってもらえる。この時は、まだそう思っていた。

初日分はここまでです。


次回、第11話「本物なのに信じてもらえない」


明日からは原則、12:10/20:10の1日2話更新予定です。

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