第十六話 クエストを受けますか?:義円の選択 その3
「おお、これが戦だな」
義円は震えた。本人はこの震えは武者震いだと思っている。
目の前には平家の軍勢がいた。
(予想外だ、覇王がこれだけの軍勢をこの尾張三河に送ってくるとは……なぜだ)
神宮十郎は内心、舌打ちしていた。
彼は全国を回って以仁王の令旨をとどけた。
そして覇王が「以仁王の令旨を受け取ったら滅ぼす」と宣言していることを知っている。
このことから覇王は各地の挙兵の対応に追われ戦力を分散させる必要に追われる。
そのため尾張三河に兵を集める余力はない。
そう神宮十郎は読んでいた。
その読みは外れた。
義円と遅れてきた神宮十郎はこの尾張三河で兵を募った。
今までの根回し工作と以仁王の令旨。そして本当に覇王と天下を戦った男の遺児である義円がきたことの効果は目に見えて現れた。
兵が集まる。集まる。
(これは目立ちすぎる)
と神宮十郎が危険視するほどだ。
都に近いというのも兵が集まった理由だ。
尾張三河の人々は都で覇王が何をしたかを知っている。
特に彼らの危機感を煽ったのが領地没収だ。
法皇や以仁王の領地ですら没収されたのだ。
いつ自分たちの領地が脅かされるかわからない。
その恐怖が後押しした。
いつだって人を動かすのは恐怖だ。
神宮十郎が引くほどの勢力となった。
地縁がないにもかかわらずここまでの軍勢を集めることができたというのは様々な要因が重なったという理由もあるが、まるで魔法のようだ。
義円は純粋だ。
「俺のためにここまで集まってくれたのか」
と感激し、あらためて自分の価値を知った。
どうなるか就職活動中のような先行きの不安があったが、その不安は解消された。
神宮十郎は予想外の集まりに目立つことを警戒したが
「逆にこの人数なら覇王も容易に手は出せないだろう」
と自分を納得させた。
ところがその読みは外れた。
覇王の軍団 平家の軍勢が攻めてきた。
大将は火炎将軍重衡
覇王がラスボスなら、火炎将軍重衡は中ボス級
源頼朝や木曽義仲と違い、義円と神宮十郎は初陣でボスクラスと戦うことになった。
神宮十郎は考えた。
勝ち目があるかだ。
こういうとき義円は相談相手には不向きだ。
彼は勇んで戦うことしか頭にない。
だからこそ、№2になりやすく、組みやすい。そのために神宮十郎は早くから源頼朝や木曽義仲ではなく義円に目を付け、いろいろ動いてきた。
しかし、このような場面では裏目に出た。
相談相手にならないのだから神宮が勝利の方程式を描くしかない。
(このまま逃げるのは無しだな)
神宮十郎は考える。
火炎将軍重衡相手では勝ち目が薄いと神宮十郎はその冷徹な頭脳から結果を導き出していた。
しかし逃げることはできない。
ここで逃げたら、誰も神宮十郎の言葉に耳を傾けない。
「あの、平家との合戦の時、逃げた奴だろう? そんな奴の言うことなんぞ信用できるか」となる。
信用を失う。
再起は不可能だ。
勝てる手を考えなければいけない。
神宮十郎は味方を冷静に観察した。
(人数だけだ。烏合の衆だ。勝ち目があればいいが拮抗したら崩れる……勝ち目をつくらないといけない)
神宮十郎は策を考えた。
夜襲だ。夜襲で混乱したところを人数で押す。
このためには敵をとどめる必要がある。
神宮十郎はその役目を天然の要害に任せることにした。
それは墨俣川だ。
この辺りは複数の川が流れる天然の要害だ。
後年、美濃攻略のため織田信長もこの近くに一夜城を築いた。
この場所は戦術的に非常に重要なのだ。
神宮十郎はこの川にタンクの役目を任せることにした。
墨俣川で火炎将軍重衡の軍を足止めし、夜、背後をつく。
そして混乱したときを狙って人数で押し切る。
神宮十郎は策を決めた後、義円に相談した。
「よし、それなら俺が夜襲部隊を率いる」
義円は言った。
戦うために今まで三井寺で戦闘訓練してきたのだ。
前線に立たなければ意味がない。
神宮十郎はボサボサ頭を掻いた。思案しているときの彼の癖だ。
やがて考えがまとまったのか口をひらいた
「それならば俺は本陣ですな」
それだけを言った。
彼がどういう思案をしたかは誰もわからない。
神宮十郎の策は順調だ。
火炎将軍重衡率いる平家軍団は攻めてきたはいいが川で身動きがとれない。
ここで足止めをくらった。
この場所は守りによく、攻めにくいのだ。
平家は軍団の威力を発揮できずにいた。
「くそ、卑怯な」
平家軍団の中で悪態をついた将校がいた。
小松維盛という。
将来有望視される若手将校の一人だ。
今回、勉強のため火炎将軍重衡についてきた。
若い彼からすると正々堂々、戦わない相手は”卑怯”だ。
「焦るな。どうせ敵は攻めてくる」
火炎将軍重衡はそう断言した。
「それよりも大将が動じるな。兵が浮足立つ」
ついでに若い維盛を注意した。
維盛は多少、ふて腐れつつも頷く。
「いつ攻めてくるのでしょう」
この維盛の質問にぎろりと睨む。
維盛はビビッて後ろに下がった。
「敵の気持ちになればわかる」
この言葉に維盛は考える。
(川で足止めしてから攻めるとなると……奇襲? 背後を狙う? でも背後を狙うために移動するところを見られたら意味がない。とすると夜?)
維盛は答えようと火炎将軍重衡の方を向く
それを察したのか
「大将が心の内を軽々しく明かすな。どこから漏れるかわからんぞ。たった一言が生死をわける場合もある」
といい維盛を窘めた。
夜襲するには川を渡らなければならない。
ここが課題だ。
川を渡る途中で襲われたら奇襲作戦は失敗だ。
その心配があったが問題なく渡河作戦は成功した。
(よし、勝った)
奇襲作戦部隊を率いていた義円は思った。
敵が見えるところまできたが、平家の軍勢は静まりかえっている。
「いくぞ! 法皇を幽閉し、領地を奪う平家を倒せ!」
「「「「おう!」」」」
義円の兵が地響きにも聞こえる大音声とともに敵に突撃した。
義円は自分が物語の名将になったかのような高揚を覚えた。
(これで天下に俺の名を轟かせる!)
一瞬、三井寺の浄妙の顔が何故かよぎった。
(浄妙殿は確かに個人の武勇は強いが、今の俺の様なことはできないだろう。僧兵連中と俺は違うのだ)
彼はそう思った。
夜襲を行ったが、意外と敵の抵抗が激しい。
これでは普通の合戦と変わらない。
とはいえ夜襲の経験のない義円だ。案外、夜襲とはこんなものかとも思い気にしないでいた。
やがて、敵側からこんな声が聞こえた。
「予想通りだ。敵は川を渡っているから濡れている。濡れている奴を斬れ」
そういう号令が敵から聞こえた。
(なに? この夜襲、読まれていたか)
ここで初めて義円は焦った。
夜襲は奇襲。
少人数で行う。
読まれていては人数差ですりつぶされる。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン -火焔光背-」
敵が魔法を唱えた。
戦場が炎の海と化した。フィールド魔法。あるいは範囲魔法と言われている魔法だ。
戦場が明るくなった。
義円の兵たちが丸見えだ。
「くそぉ」
義円は歯ぎしりした。
この炎の海で夜を照らされては夜襲の意味がまったくない。
魔法の炎に照らされて昼のように明るいのだ。
そして味方の兵が炎の海に飲まれていく。
「あの魔法の使い手が火炎将軍重衡か」
義円はせめて敵将を倒し、この戦況を逆転させようと考えた。
炎の海の中央にいる人物が火炎将軍重衡だ。
そう考え義円は魔法を唱えた。
「南無八幡台菩薩!」
彼の魔法は鍛冶と戦の神 八幡神の加護を得る魔法
彼はその魔法で武具を強化し、守備力をあげ炎耐性をあげた。
これならば炎の海のなかでも動けるはずだ。
「青海波」
この言葉と同時に義円は吹き飛んだ。
背中に強い衝撃を受けたのだ。
(後ろから攻撃とは卑怯な)
振り向くと一人の敵兵がいた。
姿からすると将校クラスだ。
「僕の名は維盛。君は義円だろう? その首をもらうよ」
そういうとマジックミサイルを連発してきた。
(重いっ!)
そのマジックミサイル。
一撃一撃が重かった。
義円は浄妙の一撃を思い出していた。
魔法で防御力をあげていなければ倒されていた。
「粘るね。でも、いつまでも付き合えないんだ。敵の本陣も蹴散らさないといけないからね。行くよー千本桜ー」
維盛が魔法を唱える。
戦で倒れた戦士達の遺体から何かが抜き出る。
それはまるで魂だ。
薄ピンク色のその魂が細かい花びらの刃の形になった。
それが無数に浮かんでいる。
それは夜に映え、異様で儚い幻想的な美しさを作り出していた。
義円にはその風景に驚いている暇は無かった。
その薄ピンク色の無数の刃にが襲い掛かってきたのだ。
「ぬおおおおおっ」
その刃を打ち払うために武器を振り回していた義円だったが、やがて、切り刻まれただの肉塊になった。
結果、奇襲部隊は崩壊。
その後、神宮十郎のいた本陣も総崩れとなった。
源頼朝、木曽義仲は初陣に成功した
しかし義円は失敗した。
【モデル紹介】
■平維盛
本作の小松維盛のモデル
平清盛の孫。聖人君主の平重盛の嫡男。
富士川や倶利伽羅峠など有名な戦いの平家側の総大将。
■織田信長
言わずと知れた第六天魔王 戦国時代の覇者
本能寺で死す
【お知らせ】
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■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
留意事項:源頼朝、木曽義仲と義円の対比。平家の本気を主題に書きたかったので時系列を変えてます。モデルとした墨俣川の戦は富士川の戦の後になります。
義円は三井寺の所属なのに、同じ三井寺の筒井浄妙となぜ一緒に戦わなかったのか、不思議に思っている筆者です。
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