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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第二章 覇王包囲網
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第十六話 クエストを受けますか?:義円の選択 その1

「えい! 応!」

三井寺に修行僧達の掛け声が響く。


全員が揃って武芸に励む姿は、まるで一つのマスゲームだ。

男たちの汗が日に照らされ光っていた。


他の寺もそうだが、この三井寺は信仰施設ではあるものの修行僧のための学校と修行の場。そして要塞の側面もあった。山賊対策などの自衛の必要があるからだ。功夫映画をイメージすると分かりやすいかもしれない。


ここに一人の修行僧がいる。

義円という男だ。魏延ではない。魏延だと別な物語になってしまう。


彼も覇王と天下を争った男の遺児だ。

兄弟の順番で言えば源頼朝の弟。クロウの兄だ。


しかし大貴族の常で、義円は源頼朝にもクロウにもあったことがない。

源頼朝は遺児の中でももっとも年長のため代表として名前は知っていたが、クロウのことはまったく知らなかった。


ただ、自分は覇王と天下を争った男の遺児であるということを自分のよりどころにしていた。

要はプライドが高い男だ。


プライドは高いが将来にむけてやることはやる。

このような生まれだ。将来、覇王の一族と戦うこともあるだろう。

そのため、本来、貴族の子弟だけのAクラスに所属している義円は戦闘訓練の履修は不要なのだが、積極的に参加していた。


この戦闘訓練に参加しているのは僧兵を目指すCクラスの連中だ。

貴族出身者で構成されているAクラスの仲間と比べて荒っぽい。要は柄が悪い。


気軽に肩を叩きあったりする。義円からすると名乗りも用件も言わず礼儀というものをどこかに放り投げてボティタッチしてくる野蛮な連中だ。

(話しかけるのにも礼儀があるだろうに)

と密かに憤慨。または呆れている。

一方のCクラスの仲間は義円のことを貴族だと思っていない。

過去には貴族だったかもしれないが、今は覇王に逆らった反逆者の遺児だ。ここにも半ば幽閉されているようなものだ。幽閉されている罪人は貴族とは言えないだろう。


しかしながら義円の内心は別として、義円はCクラスの仲間からの評判はよい。

それはこの三井寺が覇王嫌いの方針だからだ。理由はシンプルで覇王が延暦寺を贔屓するからだ。その割を食っているのが三井寺だ。そのため三井寺はアンチ覇王だ。

当然、その子弟も覇王嫌いだ。


自然に覇王とバトルした男の遺児の人気は高くなる。

結果として義円の人気は高いのだ。

そして親愛の情として気安く、背中をバンバン叩いてくるのだが、義円はそれを礼儀ではないと嫌がっていた。


中々、面倒な関係だった。


また、義円がAクラスにも関わらず、Cクラスの泥臭い戦闘訓練に参加する志を好意的に見ている僧兵も多い。


浄妙もその一人だ。先輩として義円の技術向上のために鍛えてやろうと思い、スパーリングの相手をした。


「おらっ。どうしたぁ! そんなもんかぁ!」

浄妙の容赦ない攻撃が義円を襲う。

一つ一つの攻撃が重い。

「くっ」

攻撃を防いでいるだけでダメージを受ける。汗が噴き出る。武器を支える腕に乳酸がたまる。

足が、腰が 攻撃の衝撃に耐えきれず悲鳴をあげる。


浄妙はこの寺で最強と言われている僧兵だ。

最強たる所以は、この寺ではもはや浄妙に1対1で勝てる相手がいないからだ。

最低でも3人相手でなければ勝負にならないのだ。


その化け物相手に義円はスパーリングとはいえタイマン勝負をしていた。

勝てるわけはなかった。

もちろん、これは訓練だ。

勝つ必要はない。

しかし練習でも負けるのは悔しいものだ。


「おおおおっ!」

義円はプライドが高い。負けず嫌いだ。

力で対抗しようとした。


鍔迫り合いになっている武器を押し込む。

僅かながら、浄妙に押し勝った。

(俺の力は浄妙にも通じるぞ)

手ごたえを感じた義円はさらに力をこめる。


その時、腹に衝撃が走った。

何がおこったか分からない。


義円は文字通り空中に吹き飛ばされた。

口から胃液が、皮膚からは大量の汗が噴き出る。


空中から下を見ると、浄妙の足が前に出ているのが見えた。

(前蹴りで吹き飛ばされたのか)


辛うじて今の状況がわかった。

その後、地面に体が叩きつけられた。


(くそっ。武器での稽古のはずだぞ。卑怯な)

義円は心の中で悪態をついたが、口から言葉は出なかった。出るのは胃液だけだ。


「さすが義円。力ではすでに俺と互角だな」

浄妙が嬉しそうに言う。

義円は言葉が出ない。出るのはぴゅーぴゅーという呼吸音だけだ。

地面に横たわり、浄妙を目で見上げることしかできなかった


「しかし、戦い方が素直すぎる。敵は命を奪うために何でもやってくるぞ。敵は礼儀作法なんざ守ってくれぬ。今の戦いでも背後に回るなど、いろいろ工夫できたはずだ。お前には魔法もあるだろう。手数を増やせ。何をやってくるか相手がわからないようにしろ。見ろ、あいつを」

浄妙はそういって、別なところで行われている模擬戦を顎で示した。

その戦は義円とは真逆だった。

ある僧兵が身軽に敵の頭に手を乗せ、軽く跳びあがり敵の背後をとった。

「はい、ゴメンよ」

そして敵の首に武器をあてた。試合終了だ。

鮮やかな勝利だ。


「見たかあの戦いを」

浄妙が言う。

義円が頷く。

「正攻法以外の戦も覚えろ、そうすればお前は一段強くなる」

浄妙が言った。

【モデル紹介】

■筒井浄妙

 本作の浄妙のモデル

 三井寺の僧兵。平家の軍勢をあいてに橋桁の上で大立ち回りした逸話が有名。

 ちなみに大立ち回りのとき味方の一来法師に頭上を超えられ先をこされた。

 橋桁の上で戦う筒井浄妙といい、その上を飛ぶ一来法師といい僧兵は超人が多い。


■魏延

 三国志時代の蜀漢の将

 諸葛亮孔明に子午谷奇襲策を提言。

 反乱の疑いで討たれる



【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

ここから義円の挙兵の話になります。富士川の戦いの時系列の前後を変更してます。ご承知おきください。

こんな作品ですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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