第十四話 クエストを受けますか?:源頼朝の選択 その5
決行の日。
三島神社の境内は祭りの熱気に包まれていた。
参道には露店が連なりジャンクな匂いと酒の香りが漂う。酔客の笑い声があちらこちらで聞こえ、拝殿からは太鼓や笛の音が流れていた。
堤は年に1回のこの日だけは自分の役割を恨んでいた。
彼はここの代官のボディーガードだ。
代官を守ることが役割だ。
それは今日のような祭りの日も例外ではない。例え彼が無類の酒好きであっても祭りに参加して酒を飲むことはボディーガードとしてNG行為だ。
今日のような酔漢の笑い声が聞こえる日など拷問に等しい。
無論、彼も人だ。
24時間365日ボディーガードはやれない。
しかし、今日のお祭りのような外部から怪しい人間が流れてくる可能性のある日は、仕事を休むわけにはいかないのだ。
彼が守るべき代官は屋敷にいた。
祭りに合わせてこの地を訪れた四方の有力者たちが挨拶に訪れており、彼はその応対をしていた。
そして堤はその屋敷の入り口付近で不心得者が襲撃してきても対応できるようにしていた。
酒を我慢しながらだ。
「あれ堤様じゃないですか?」
その声にふと注意をむけると知り合い連中があるいてきた。
手には酒や肴らしき包みがあった。
祭りの帰りだろうとあたりをつけた。
「ふん。白々しい。自慢しに来たのか。美味そうなもの食いやがって」
鬼の形相で知り合いを睨んだ。
食べ物の恨みは恐ろしいのだ。
「そういわないでくださいよ。可哀そうだと思って手土産を持ってきたのに」
そう言って知り合いの男は持ってきた酒と肴を堤に見せた。
ちょうど体が欲していた現物だ。堤の喉が鳴る。
「お、おお。済まない。少し気が立っていたようだ」
堤は頭を掻く。
「まあ、仕方ないですよね。こんな日に仕事じゃあねぇ」
知り合いは憐みの目を向けた。
「しかたないだろ、仕事だ」
「まあ、そうですけどね。少しぐらいサボったっていいでしょう」
知り合いはそう言って笑った。
「うーん。しかしだな」
理性と欲望の間で揺れる堤。
そこに知り合いの男が近づいた。そして小声で
「ちょっと話もしたいんですよ。少しくらいいいでしょう?」
「話? なんだ込み入った話か?」
「ええ、変な噂が流れてるんです」
「噂?」
「ええ、ほら都では覇王が羽振りを聞かせているでしょう? 様々な人事にも口出ししてるって言うじゃないですか」
「ああ」
「それで代官様も変わるって話が聞こえてきましてね。ちょっとそのことで話を聞きたくて」
「なんだ、それは。そんな話聞いてないぞ。詳しく教えろ」
「いいですけど……この場所だとちょっと……それに……酒を飲みながらにしませんか?」
彼は酒を堤に見せた。
(うーん。かなり気になる話だな。事実だとしたらどうなるか気になるところだ)
堤は酒をちらりと見る。
(少しだけだったらいいだろう)
堤は知り合いの提案にのることにした。
そして、堤の命運はそこで尽きた。
その知り合いは北条の手の者だった。
堤が話を聞こうと酒に口をつけたとき、後ろから体を貫かれた。怪力も魔法も発揮することはなかった。
北条の策は成功した。
「さすがです!」
堤が倒された一報がもたらされると源頼朝は喜んだ。
今のところ、最初に描いた計画通りに物事が進んでいる。
それはつまり、危険が遠のいたということだ。
源頼朝はそれを素直に喜んだ。
「では、俺は出る。土肥。頼朝殿を頼んだ」
北条時政は代官襲撃部隊を率いて出撃した。
すでに代官の最強のガードマンはいない。
北条時政の実力であれば問題ない。
源頼朝は出ない。
”(自分の)命を大事に”が基本方針だ。危険な場所へは行かない。
ただ、源頼朝だけ一人残ると万が一のことがあったときに不安が残る。
そのため、もっとも源頼朝が信頼している中堅武将を残した。
それが土肥実平。
北条時政のように戦術眼に優れているわけではないが、とにかく実直だ。
源頼朝の味方している理由も利害ではなく、坂東平野の代表として覇王と戦った勇士の遺児が一人でいるのは筋に反する。一人ぐらい筋に殉じてもいいだろう。というのが理由だ。
ある意味、源頼朝の「本当の味方」だ。
そして、万が一がおきた。
北条時政が代官を攻めたのは確認できている。
しかし、勝報がこない。
もちろん敗報もこない。
膠着しているのだ。
源頼朝も北条時政も一つ読みを外していた。
”代官”の質だ。中身と言ってもいい。
源頼朝は情報収集のため都の官僚から情報を得ていた。
その官僚はいわゆる文官だ。事務方だ。
”代官”も同じ事務方だと決めつけていた。
しかし。
源頼朝がいるのは坂東平野。
粗野で命よりも名誉を優先する荒ぶる猛者達の棲み処だ。
当然”代官”も荒ぶる猛者の一人だ。
文弱の徒ではない。
「ここで賊に首をとられるなんぞ、不名誉なことができるか! 逆に踏みつぶしてやる!」と決死の反撃をしたのだ。
北条時政はこれに苦戦した。
源頼朝は焦る。
時間は味方ではない。
敵だ。
時間が経てば援軍が来る。そうなれば人生が終わる。
早期に決着し、伊豆国は源頼朝の国になった。簡単には手出しできないという状況にしなければならない。
ロスタイムは負けと同じなのだ。
源頼朝は考えた。
どうすれば現状打破できるか?
どうしたら命の危険がないか?
ここで彼は突拍子もない行動に出た。
戦場に向かったのだ。
「若!」
慌てて追う土肥実平。
戦場に向かうということは通常、命の危険が伴う。
彼の方針とは反する。
それでも源頼朝は戦場に走った。
彼の中では矛盾した行為ではなかった。
これが一番、命が助かる選択だ。
源頼朝は戦場となっている代官の屋敷が見下ろせる場所までくると剣を抜き、代官屋敷に切っ先を向け、魔法を唱えた。
「南無八幡大菩薩-霧-」
源頼朝の剣から無数のレーザーが発射された。
その魔法のレーザーが代官屋敷に降り注ぎ、敵勢を貫く。
屋根を穿ち、壁を穿ち、敵兵を穿つ。
篝火が倒れ屋敷に燃え広がる。
敵は混乱した。
この好機を逃す北条時政ではない。
襲撃部隊を率い混乱に乗じ突撃した。
やがて勝鬨の声が戦場から聞こえた。
勝敗は決した。
源頼朝は初陣を勝利で飾った。
しかし、その顔は勝利の笑みとは程遠い
(助かった。だが、今後はこういった命を天秤にかけることが連続でおきるのか)
源頼朝は重圧で吐きそうになった。
もちろん、それは表情には出さない。
彼は勝利者のペルソナをかぶった。
【モデル紹介】
■土肥実平
戦に負けた源頼朝が自害しようとしたとき、励まし自害を思いとどまらせた
源平合戦では源義経、源範頼の軍に従軍。
戦国時代、毛利家で活躍した小早川家のご先祖様。
【お知らせ】
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■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
これにて一旦、源頼朝の出番は終了~
佐々木四兄弟の出番が・・・
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