第四話 ○○がパーティーから外れました その3
クロウの敵紹介になります。
「何であいつこんなところに?」
陵介は首をひねった。
クロウがまず向かったのが都近郊のスラムだったからだ。
都は観光名所が多い。お店も多い。
観光でもウィンドショッピングでもなく、スラムにきた二人。
デートにはとても不似合いな場所だ。
陵介でなくとも疑問に思うだろう。
「静かにお願いします」
皆鶴姫は陵介に注意する。
変装しているとはいえ、気配を完璧に隠せるわけでもない。
騒ぐと勘のいいクロウに気づかれる。
クロウはそこでスラムの子供達に何かを指示していた。
やがてクロウと静の前に大きな鍋がいくつか並べられる。
そこにクロウと静は持ってきた荷物を解き、その中身を投げ入れている。
皆鶴姫と陵介が目を凝らしてみると干飯や干物、野菜だった。
そこにスラムの子供たちが組んできた水を入れる。
静が連れている雷獣が鍋の下に魔法で火をつけた。
鍋が煮える。
旨味成分をふんだんに含んだ美味そうな匂いが一帯を覆う。
時間の経過とともに雑炊が完成した。
「うまそ」
のぞき見していた陵介はだらしなく涎をたらす。
「はしたない」
皆鶴姫がナメクジでも見るかのような視線を陵介に飛ばす。
スラムの子供達が出来上がった雑炊を我先にと食べていた。
クロウは普段、見せない柔和な顔で、その光景を眺めていたが、食べ終わると同時に静を促して移動を始めた。
皆鶴姫が後を追うため立ち上がったとき、周囲の声が聞こえた。
「くっそー。子供達だけ飯にありつきやがって。羨ましいー」
「よせよ。それで子供達を押しのけて飯を横取りしようとしたら、あの目つきの悪い小僧と魔法を使う小娘に抵抗する間もなく叩き伏せられたのを忘れたのか?」
「覚えてるよ。『大人が子供の飯を奪ってるんじゃねぇ。子供を守るのが大人の仕事だろうが。大人の仕事をしやがれ!』とマジ切れしてたもんな」
「今だって、子供達を飯食い終わるまで周囲を睨め付けてたよな」
「前に吾作の一味が飯食いたさに襲撃したけど、簡単に返り討ちにされたらしいぜ」
今の話を総合するとクロウと静はスラムの子供達用の炊き出しをしているらしい。
そして炊き出しのご飯が大人たちに奪われないよう睨みを利かせているらしい。
(ふーん)
皆鶴姫は都暮らしは長いが、スラムの子供たちを気にかけたことは無かった。
悪気の有無ではない。意識の外にあった。
皆鶴姫はクロウに対しさらに興味を持った。
「いいなぁ。俺も喰いてぇよ」
陵介がとなりで不平を言っている。
皆鶴姫は陵介に対し静かな呆れを持った。
クロウ達はやがて街に出た。
「しかし、これは……」
皆鶴姫は当惑した。
この場所は街は街でも貴族街。
帝や貴族。そして覇王の一族である平家が通る場所だ。
「極端すぎないか」
陵介が困った顔をした。
確かにスラムのあと貴族街というコースは極端だ。
「大丈夫なのか? あいつ」
陵介がクロウの心配をする。
ここはクロウの父親を倒した平家が通る。
源氏の子であるクロウにとって居心地が良い場所ではない。
それに何らかのトラブルが発生する可能性がある。
そのトラブルになりそうなものがやってきた。
平家の車が来た。
車と行っても自動車ではない。
牛車だ。
この車の主は身分が高いらしい。
車列を組み。
歩兵・騎兵を従えている。
まるでパレードだ。
周囲の人は慌てて道路の隅に移動し平伏する。
皆鶴姫と陵介も周りに倣って平伏する。
悪目立ちはまずい。
クロウと静の姿が見えなくなった。おそらくどこかに隠れたか。平伏する群衆に紛れたのであろうか。
周囲の状況や人々の話から牛車の主がわかった。
平宗盛。
覇王の子だ。
(そら、大事になるよな)
陵介は平伏しながら思った。
覇王の子の車列だ。
護衛も錚々たるメンバーだ。
オールスターと言っていい。
弓の名手で「弩砲」の異名を持ち、水精の軍勢を操る「菊王丸」
魔剣「癡」を持つ魔剣士「悪七兵衛景清」
神仏をも燃やすと畏怖される火炎魔法の使い手「火炎将軍重衡」
蟲を操り戦場を雲霞の蟲で塗りつぶす蟲使い「斎藤別当実盛」
といった高名武将。
剣を取れば武士、声を発すれば歌人、武士でありながら都人の洗練を失わず。THE平家と評される「平敦盛」
戦術・戦略の両面に通じ実質的に陰で平家を動かしていると言われる「平知盛」
といった知将
彼らは平という姓のため平家あるいは平氏と呼ばれていた。
その彼らがこのパレードを彩っていた。
クロウの親の仇の子や部下達であり
クロウの覇王になる道に立ちふさがることになるであろうメンバーだ。
(クロウはどう思っている?)
陵介はクロウの心情を思った。
彼らを倒すことを夢想しているのだろうか?
それとも確実に勝つ算段をしているのであろうか?
クロウの不敵な顔を思い浮かべる。
あいつがこの軍勢を見てネガティブなことを考えている姿はどうやっても想像しにくかった。
俺はどうだ?
(ダメだこりゃ)
と本能が訴えている。
俺もクロウの望みは知っている。
俺も男だ。
立身出世や英雄には興味がある。
いずれクロウは己の夢のため軍勢を率いて立ち上がり、この平家軍団と戦うだろう。
あわよくば、俺もそのクロウの夢に乗っかり、俺も英雄になろうと息巻いていたけどな……
この平家軍団。
次元が違った。
俺が100人いても勝てないと本能レベルで悟ってしまった。
俺が軽く実力差による絶望感に吞まれているときに事件は起こった。
【モデル紹介】
■平清盛
本作の覇王のモデル
保元の乱で崇徳上皇を破り、平治の乱で源義朝を倒し、平家の天下をつくる
その後、源平合戦の最中に病死
■平宗盛
平清盛の子 清盛亡き後の平家の総大将
壇ノ浦で捕虜になる
他人の名馬を欲しがってトラブルをおこすなど平家物語では暗愚な人物になっている。
■平教経
本作の菊王丸のモデル
源氏を何度も撃退する平氏最強の武士
ちなみに菊王丸は平教経の小姓の名前です。
■平景清
本作 悪七兵衛景清のモデル
この名前を見て、昔のアーケードゲームを思い出した人はかなりのゲーマーです。
史実よりも物語・伝承で有名な人
■平重衡
本作の火炎将軍重衡のモデル
奈良の大仏様を焼いたことで有名な人
義円・神宮十郎を墨俣川で破る
■斎藤別当実盛
木曽義仲が幼い時、殺される危険があったので救出した義将。
その後、紆余曲折を経て平家の将になる。
平家の武将として、木曽義仲と戦い、その部下に討たれた。
■平敦盛
信長の「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」で有名な人
笛の名手 一の谷の戦で熊谷直実に倒される。
■平知盛
平家の軍事の中心人物
兄の平宗盛を補佐して各地を転戦
最後は壇ノ浦で入水し、平家と運命をともにした。
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