第四話 ○○がパーティーから外れました その4
「おい、そこの娘」
パレードに参加していた騎士の一人「平敦盛」が陵介の横にいた皆鶴姫に声をかける。
「町娘にしておくにはもったいない美人ですな。いかがです。遊びにきませんか?」
(おいおい、こんな場面でナンパかよ)
陵介は焦った。
それ以上に焦ったのは皆鶴姫だ。
こんなストレートに容姿を褒められたことは彼女の人生で一度もない。
顔を赤面させ硬直した。
「おやおや、今どき珍しい初心な娘だね。こちらへおいで」
敦盛が近づいてくる。
(どうしよう)
皆鶴姫は困った。
好意を受けるのは当惑するものの嬉しい反面。
この誘いには困った。
誘いにのって王城までのこのこついていったら
どんな運命がまっているか明らかだ。
なにせ敦盛は皆鶴姫の美しさを見初めて誘っているのだ。
王城の後宮にのぼり女官や妃を目指すという価値観であれば喜んで敦盛の誘いにのったであろうが、皆鶴姫は剣に生きる女だ。そのような価値観はなく、ただただ受けたくない。この場から去るにはどうしたらよいかということをまとまらない頭で考えていた。
更に彼女にとって困ったために町娘に変装したため剣を所持していなかった。
これでは得意の剣による強行突破も難しい。
その皆鶴姫の様子をみた陵介が立った。
「すいません。彼女は俺の妻なのでご勘弁願いませんか?」
腰低く訴える。
陵介もまた町人に変装していた。
そのため町人として違和感のないように下手に出た。
「おい、俺達は平家だぞ」
平家の騎士の一人「火炎将軍重衡」が陵介の前に立った。
「図が高いわっ!」
重衡は剣を抜くと陵介を攻撃した。
(問答無用かよ。驕れる平家ってかっ!)
「オン・ケンダヤ・ソワカ」
陵介は魔法を唱える。
体に炎をまとわせ身体能力をあげる。
その上がりきった身体能力に身を任せ重衡の剣を躱す。
「ぬ。面白い。平民のくせに魔法を使うか。しかも火魔法かよ」
重衡は笑みを浮かべる。
「おい。そこのお前。俺と魔法比べと洒落込もうじゃないか。俺に勝ったら無礼は許してやる」
(冗談じゃない)
陵介は焦ったが、ここで逃げだしたら皆鶴姫がどうなるかわからない。
重衡の申し出を受けるしかない。
「重衡殿。街中ですぞ」
パレードの中央から注意の声が飛ぶ。知将「平知盛」だ。
「ふん。固いこと言うな。余興だよ。余興。源氏が俺達に敗れてから骨のある相手がいなくて困ってたんだ。たまに体を動かさねぇと鈍っちまう」
重衡殿のうきうき声を聞いた知盛は肩を竦めた。
注意はするが積極的に止める気はないらしい。
「おら、いくぞ」
重衡が魔力を練りこむ。
それだけで周囲の空気が振動を起こす。
陵介の周りの群衆が慌てて避難する。
その中には敦盛に「ささ、ここにいては危ないですよ」と腕を引かれる皆鶴姫の姿もあった。
(なっ、ちょ、ちょっと待てよ)
このままでは皆鶴姫が敦盛に攫われてしまう。
陵介は焦った。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン -羂索-」
重衡が魔法を唱える。
炎の鞭が現れ陵介を襲う。
「オン・ケンダヤ・ソワカ」
陵介も魔法で対抗
火の弾を発射し炎の鞭を相殺しようとするが、一方的に陵介の放った火の弾だけが打ち払われた。
「え! 何だよそれ」
陵介は慌てて炎の鞭を回避する。
「面白い。お前の武器はその足か。ならこれはどうだ?」
重衡が魔法を唱えた。
重衡の背後に炎が噴き出し、その後、一帯を炎の海と化した。フィールド魔法。あるいは範囲魔法と言われている魔法だ。
「うわっちち」
陵介は慌てて跳ねる。
炎を逃れるには空中へ跳ぶしかなかった。
「ふん、しょせんは平民だな」
重衡が炎の鞭を一閃させる。
陵介は炎の鞭に叩きつけられた。
陵介の体が炎の海に落ちる。
(しまった)
と陵介は思ったが後悔は遅かった。
陵介の視線には敦盛に連れ去られようとしている皆鶴姫の姿が見えた。
しかし、今、皆鶴姫の救出はおろか、我が身まで危うい陵介にはどうしようもできなかった。
その現実が陵介に悔しい。
仲間一人守れないという残酷な現実が。
「くっそーっ!」
陵介が吠える。
陵介の目元から、堪えきれないものが落ちた。
「どうした? どうした? 偉丈夫たるもの大事なものを守らんでいいのか?」
にやにやしながら重衡が問う。
(動けっ。動け。動けっ)
陵介は体を燃やされながら己を叱咤するが、体が動かない。
動くのは込み上げるものだけだ。
「その通りだ」
重衡その問いに答えた者があった。
同時に緑のレーザーが重衡の体を貫く。
「あ゙!?」
重衡の体がどうっと倒れる。
同時に炎の海が消える。
突然のことで驚く平家と群衆。
更に天から幾筋もの轟雷が落ちる。
周囲はパニックだ。
「落ち着くのです。雷がこの場所だけに連続して落ちるのは自然の理に反しています。これは何者かの魔法による攻撃です」
知盛が動揺する平家の家人に注意を促す。
その注意は少し遅かった。
突然、巨大な僧兵-弁慶―が騒動の中心に出現、暴れまわる。
「狼藉者! お主が騒ぎの元凶か!」
菊王丸、景清、斎藤別当が弁慶を取り囲む。
流石に平家を代表する武人達だ。
この騒ぎでも動揺することなく戦闘態勢をとる。
「ああっ」
ここで場に似合わない声。
一斉にそちらを見ると、敦盛が喚いていた。
喚いている原因は明快だ。
一人の若者が皆鶴姫を救出していた。
その若者は……
クロウだ。
「人の恋路を邪魔するなぁ」
敦盛は先ほどまでの余裕のある典雅な態度を一変。
剣を抜き、クロウに斬りかかる。
クロウはふわりと躱した後、顔面に蹴りを入れる。
カウンター気味に入ったらしい。
敦盛は昏倒した。
クロウは皆鶴姫を背負い、陵介の下に走る。
「何やってんだ。いくぞ」
クロウは言い捨てて走る。
直後に再び轟雷が何筋も一帯を襲う。
平家一党が動揺した隙に弁慶も戦線を離脱
「うわっ」
陵介を肩に背負い駆けた。
陵介は弁慶の肩で揺れながら
皆鶴姫が無事救出されたことを安堵した。
同時に自分が救出できなかったことが悔しかった。
そして。
(やっぱクロウはスゲェな)
と羨ましく思った。
(ああいう奴が覇王になるんだろうな)
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