第十四話 クエストを受けますか?:源頼朝の選択 その1
伊豆に源頼朝という有名な青年がいる。
なぜ彼が有名かと言えば、覇王と天下を賭けて戦った男の遺児だからだ。
覇王は敗者の遺児をなぜか生かした。
禍根になるのにだ。
それは覇王が子供好きということもあった。
また、覇王がスリルを楽しむためにハードモードをプレイしたいという考えからでもあった。
が余人にはその覇王の心情は理解できない。
頼朝が生き延びたのは七不思議のように世間からは思われた。
“覇王の気まぐれで生き延びた敗者の子”として有名であった。
ちなみに源頼朝よりも下の子も生き延びている。
クロウのようにだ。
しかし、源頼朝が生き残った遺児の中でもっとも年長だったため代表のように世間から思われていた。
ともかく源頼朝は敗者の子でありながら生き延びることが出来た。
そして世間からは
「いずれ打倒覇王にむけて立ち上がろうだろう」
と当然のように思われていた。
源頼朝はそういう世間の声を聞くと
「ほっとけ。俺は命が惜しいんだ」
と怒鳴りつけたくなる衝動にかられるが、面の皮を厚くして
「やだなー。そんな訳ないじゃないですか」
と苦笑しながら答えていた。
彼は自分の立場をわかっていた。
ただの運で生き延びているということを
何かの気まぐれで殺されるかもしれないことを
常に死の危険があるのだ。毎日、首元にナイフがあるような生活なのだ。
だから本音は言えない。
自然に彼は常にペルソナをかぶって生きる術を身に着けた。
彼は死にたくないのだ。
誰だってそうだ。
そのことについて誰も彼を責めることは出来ない。
放っておいてくれ。
これが彼の本音だ。
しかしながら、彼は有名人だ。
周りが放っておかない。
そんな彼の元に神宮十郎が以仁王の令旨をもって訪ねてきた。
中身は過激だ。
『覇王は天下をほしいままにし、帝継承の道理を乱した。全国の戦士は先祖の忠節を思い起こし、国のために立ち上がれ!』
「やめてくれーっ。ほっといてくれー」
源頼朝は心の中で叫んだが、もちろん口には出さない。
何しろ令旨だ。
令旨とは帝の一族の意思を伝えるものだ。
無視はできない。
無視したら帝を蔑ろにしたも同然だ。
笑みを浮かべて堂々と神宮十郎を出迎えた。
内心、舌打ちをしながら。もちろん顔には出さない。
源頼朝は神宮十郎を見た。
以仁王の使いということから雅やかな公家風の男を源頼朝は勝手に想像していたが違った。
どちらかと言うと山伏に近い。髪は無造作ヘア。細身の筋肉質で、少なくとも源頼朝よりは健康そうだ。
「令旨拝見しました。正直、驚いています。私はこの地にて幽閉中の身でして……。事情がわからなく……よろしければ事情をご教授いただけませんでしょうか?」
と源頼朝は言った。
ちなみに嘘だ。
源頼朝は生き残るために情報を欲した。
クロウが打倒覇王のため情報を欲し、商人である吉次と手を組んだことと同じだ。
源頼朝は生き残るために情報を欲し、都の官僚の一人を密かに仲間に引き入れた。そしてその官僚から都の情報を月に3度情報を送らせた。もし源頼朝が電子メールを知ってたら日に3度情報を送らせるだろう。実際、電子メールの様な魔法がないか研究したほどだ。
"(自分の)命を大事に"というのが方針の源頼朝は情報を重視していた。
つまり源頼朝は事情を知っていた。
もし、生きる場所が違ったら有能な新聞記者になっていた男だ。
事情を知らないというのは嘘だ。
それでも慎重な彼は別角度からの情報を欲しがった。
”知らない何か”がでてくる可能性があるからだ。
「そうですね。覇王が法皇を幽閉したのは御存じでしょうか?」
新宮十郎がぼさぼさ頭を掻きながら言った。
(おい、おい。勘弁してくれ。フケやノミが出てくるんじゃないよな?)
源頼朝は生理的嫌悪感をこの男にもった。
そうじゃなくとも(自分の)命に敏感な青年だ。
健康にもめちゃくちゃ気をつかう。
彼の健康にとって神宮十郎は敵であるようだ。
もちろん、そんなことは一言もいわない。
表向きは畏まって大人の言葉を聞く青年を演じていた。
「ごめんなさい。私は幽閉中の身なのでそのような話は全然聞いてなくて……」
この源頼朝の言葉に神宮十郎がぎろりと目をむけた。
まるで心の奥底まで覗こうかとしているような眼だ。
やがて神宮十郎は口を開く。
「覇王は自分の権力を高めるために法皇を幽閉。そして自分の孫を帝にしました」
「本当ですか!」
源頼朝は驚いて見せた。もちろんポーズだ。
そんなことはすでに知っている。
「ええ、本当です。そして悪影響はすでに出ています。所領や財産の没収など。以仁王も所領を没収されました」
「それはひどい」
「既に半数以上の国や領地が覇王の一族の手に渡っています」
「半数……」
源頼朝は考える。
神宮十郎の役目は源頼朝を挙兵させることだ。
当然、話を「盛っている」はずだ。
しかし、半数はオーバートークだとしても、多数の領地を接収しているのは間違いないだろう。
(ま、俺には関係ないけどな)
源頼朝は内心、そう思っている。
なんといったって幽閉の身だ。
領地など最初からもっていない。
少し気になったのは覇王が戦もせずに国を我が物とできたことだ
坂東武者の感覚では領土は戦で切り取るものだ。
しかし覇王は帝を抑え、朝廷を抑え”人事移動”で領土を増やした。
(ほーん。こういうやり方もあるのか。勉強になる)
源頼朝は神宮十郎の言葉には乗らず、ただ覇王の手法に感心していた。
「このままでは覇王の意にならない領主や王の土地は奪われてしまうでしょう。そして、真っ先に槍玉にあがるのが……あなたです」
神宮十郎は源頼朝を立ち上がらせるためこのように言った。
しかし、源頼朝の心に響いてはいない。
繰り返すが源頼朝は幽閉中だ。領地がないのだ。
「情報ありがとうございます。この令旨をあらためて確認し判断したいと思います」
源頼朝は挙兵するとも、しないとも言わない。
神宮十郎もそれ以上強く言わない。
彼は源頼朝だけに関わっているわけにはいかない。
他にも以仁王の令旨を届けに行き、強制イベントに参加させなければいけない。
それに源頼朝が内心、どう思っていても神宮十郎には関係なかった。
これは強制イベントなのだ。
遅かれ早かれ挙兵する。
神宮十郎はそう考えていた。
だから、この場であえて説得はしなかった。
「ああ、よく考えるといい。では、私は他にもいかないといけなくてね。ここで失礼しますよ」
神宮十郎は立ち上がった。
「あの、この後はどちらに行かれる予定ですか?」
源頼朝は聞いた。
「ああ、信州の朝日将軍のところには行こうと思っている。あとは武田殿、甲斐入道殿。他には場所も考え尾張国にでも行く予定だ」
情報魔の源頼朝はこの神宮十郎の言葉に内心ガッツポーズをした。
源頼朝が知りたかったのは、この情報だ。
誰が以仁王の令旨受け取るのか?
この情報が欲しかった。
このためだけに神宮十郎とあった。
この情報だけは都の官僚経由では得られない。
神宮十郎しかもっていない情報だからだ。
「道中、気を付けて!」
源頼朝は笑顔で送った。
この時だけは心と顔が一致していた。
【モデル紹介】
■三善康信
本作の”都の官僚”のモデル
以仁王の令旨事件の時に源頼朝に”逃げろ”とアラートを送った人。のちの鎌倉幕府重鎮の一人
本作での出番は多分、これだけです。
【お知らせ】
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【あとがき】
源頼朝と神宮十郎のモデル紹介は第五話 その2に記載済みなのでそちらを参照していただければと思います。
こんな作品ですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




