第十三話 強制クエスト発生 その5
「本気ではないのですよ」
源三位頼政は言った。
(本気ではない? ますますわからない)
以仁王は混乱した。
その以仁王を見て源三位頼政は微笑んだ。
「ただ愚痴をいっているだけなんですよ。酒の肴に不平不満を言っているだけ。本気ではないのです。いや、愚痴を本気だと思われては困るというところでしょうか」
源三位頼政の言葉に以仁王は言葉を失った。
法皇が幽閉されたというのに、ただ愚痴を言いあうだけで誰も救おうとしない。
所領が没収されるかもしれないのに誰も立ち上がろうとしない。
ただ、無為に心の中の鬱憤を晴らしているだけ。
(なんという。なんということだ)
「ああ、あまり、その不平不満を言っている人たちを責めないほうがよいですよ。覚えておいていただきたいのは人とはそういうものだということです。他人の土地が没収されても他人のことなのです。自分がそうなるとは考えていない。それどころか変に動くと禍が降りかかってくると考えている。だから何もしない。しかし、それだと鬱憤がたまるから愚痴を言いあっている。そういうものなのです」
以仁王の耳に源三位頼政の言葉は届いていた。
しかし、その言葉は理解できなかった。
いや、若い以仁王はその真実を理解したくなかった。
(もし、それが真実なら。誰も立ち上がらない。覇王の専横を見ながら、何もせず、何にもならない愚痴を言い。自分に咎が来ないように身を潜めているだけ)
以仁王は体から力が抜けた。
「おっと。ははは。王には少し刺激が強すぎましたかな」
源三位頼政は以仁王の体を支えた。
70を超える老体にしては力強かった。
「しかし、王は私のところにきた」
源三位頼政は以仁王の体を抱きしめる。
「つまり、本気ですな」
この源三位頼政の言葉に
「はい」
とだけ以仁王は答えた。
「さらに、王は嬉しいことに覇王を倒せるのは私だけとおっしゃってくれた」
「はい」
以仁王は頷く。
「ありがたい。その言葉こそ戦士にとって最上級の評価です」
源三位頼政は以仁王を頭を撫でた。
「この頼政。本気の手を払いのけることはできませぬ。微力ながらお力になりましょう」
源三位頼政は優しく、それでいて力強く言った。
以仁王の両目から涙がこぼれた。
「しかし、よろしいのですか?」
少し落ち着いてから以仁王は源三位頼政に尋ねた。
「何がです?」
「私の味方をしてくださるという事です。先ほどの、変に動いてしまうと禍がくるとおっしゃっていました」
「ははは。お優しいですね。私に禍が降ってくることを気にしているのですね」
「はい」
以仁王は小さくなって頷いた。
「心配は無用です、王よ。すでに禍が降ってきていますので」
源三位頼政が何でもないかのようにお茶をすすった。
「え?」
「覇王も驕ってきましたな。私の愛馬を強請ってきましたよ」
「え?」
「我が息子がそれで覇王の子達と揉めたようです」
以仁王は言葉を失う。
他人の愛馬を強請るなど…………これでは野盗とかわらない。
現代でいえば自動車を強請っているようなものだ。
「王は所領を、私は愛馬を奪われようとしています。このまま座してはどうなるかは明らかです。ここは覇王にきついお灸をすえなければなりません」
そう言った源三位頼政は凄みのある笑みを浮かべた。
以仁王がその気迫に呑まれ、喉を鳴らした。
「ですから遠慮しないでください」
源三位頼政はそう言って茶を飲んだ。
以仁王もお茶を手に取った。やけに喉が渇いた。
「王よ。これからのことで提案があります。よろしいか?」
「はい」
以仁王は頷く。
元々、味方してくれるのであれば今後について打ち合わせは必要だと考えていた。
老将が先に提案してくれるなら、ありがたいことだ。
「このまま正面から戦うことはお勧めしません。あまりにも賭けの要素が強い。一か八かは避けるべきでしょう」
以仁王は素直に頷く。
以仁王は感情に任せた特攻をしたいわけではない。
覇王を倒したいのだ。
「そのため王には2つのことをやっていただきたい」
「はい」
「まずは、私と共に南都に行ってもらいたい。興福寺 東大寺の僧兵を戦力に加えます」
「行くのは問題ないですが、そう簡単にいくでしょうか?」
「彼らは比叡山延暦寺と対立しています。覇王は政治的に比叡山との関係を重視しています。そのため覇王に軽視されたと不満をもっています。味方してくれるでしょう」
「彼らの力を結集できたら互角以上に戦えますね」
以仁王がようやく勝機を見出し、安堵の声をあげた。
「いや、これでは足りません。僧兵を味方にするのは私たちの戦力増強の戦術です。しかし戦術だけでは足りない。覇王を包囲する戦略が必要です」
「覇王を包囲ですか」
壮大な戦略に以仁王は驚く。
「そうです。包囲網がつくられると覇王は一か所に戦力を集中できません。各地の手当てに忙殺されることになります。当然、手薄になる。そこを戦力を増強した我らの軍で突く」
源三位頼政は槍を突く仕草をした。
以仁王の目には敵軍を突き破る情景が浮かんだ。
「その覇王包囲網をつくるため、もう一つ、王にお願いしたい」
「なんでしょう?」
「令旨を出していただきたい。それで全国の国王や戦士に打倒覇王を呼び掛けるのです」
令旨は皇族が発する勅命だ。
この令旨を出すことで覇王は朝敵になる。そして朝敵を滅ぼすため全国の戦士が立ち上がることになる。
以仁王は源三位頼政の策にのっとり全国の戦士にむけて令旨を作成した。
源三位頼政は部下の神宮十郎を呼び、全国の戦士に令旨を届けるよう命じた。
『覇王は天下をほしいままにし、帝継承の道理を乱した。全国の戦士は先祖の忠節を思い起こし、国のために立ち上がれ!』
この以仁王が作成した檄文が全国の戦士に届けられることになった。
その戦士には坂東平野の源頼朝も奥州大陸のクロウも入っている。
驕れる平家も久しからず
覇王の驕りが以仁王を動かし、源三位頼政を動かした。そして、全国の戦士に檄が飛ぶ
「覇王包囲網」を目指す以仁王。
古代中国では蘇秦が実行した「秦包囲網」“合従策”は敗れ。
未来では足利義昭が立てた「信長包囲網」もまた敗れている。
果たして「覇王包囲網」の策は成功するのか?
打倒覇王の強制クエストが発生した。
【モデル紹介】
■蘇秦
古代中国の戦国時代に活躍した人
一強の秦国に対抗するため燕・趙・韓・魏・斉・楚の六国の同盟を成功させた。
■足利義昭
日本の戦国時代の人。
室町幕府最後の将軍 織田信長の力を借りて上洛し将軍となった。
その後、将軍以上の勢力を持つ信長の力を削ぐため武田・浅井・朝倉・六角など有力大名にに手紙を送って包囲網を形成した。
【お知らせ】
こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです
■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
第二章 オープニング終了です。
それにしても、歴史によるある「○○包囲網」の勝率が低いような気がするのですがなぜでしょう?
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