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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第一章 英雄集結
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第十ニ話 稲荷神 その4

宇迦之御魂大神に会う日がきた。

身を清める必要があるため日時を別に設けたのだ。


宇迦之御魂大神のいる神域に向かうのは案内役の佐藤継信とクロウの2名だけだ。

那須与一が義母の師匠に会ってみたいと強硬に主張したが、千本に取り押さえられたのは余談。


「はい、これ」

静がクロウにお守りを渡した。

「どうした?」

クロウが首をかしげる。

「神域にいくからね。万が一粗相して神様怒らせたときためのお守り」

静がそう言ってニカっと笑った。

「ああ、それは必要ですねぇ」

クロウの予想外の行動にいつも悩まされている吉次が頷く。

「ししし、神様相手に大暴れしないでくださいよ」

と言ったのは喜三太だ。奴隷だった少年少女も大分、クロウに打ち解けてきた。

「大丈夫。クロウ殿であれば万が一のことがあっても神すら斬り伏せる」

皆鶴姫が変な信頼を寄せる。

「いや、それって大丈夫とは言わないでしょ」

と言ったのは赤井藤だ。


「おい。お前ら、俺が何かやらかす前提か?」

クロウが半眼で彼らを睨みつけた。


その程度の威圧で怯むような連中ではない。

「応っ!」

と元気よい返事が返ってきた。


「お前ら」

クロウがこめかみに怒りマークを作ったとき、後ろから声がした。

「いいお仲間ですね」

振り向くとそこに佐藤継信がいた。

クロウはいったん怒りを収めると

「おう、サイコーの仲間だ」

と佐藤の言葉に応じた。

「うらやましいね」

佐藤が複雑な顔を見せた。

「?」

クロウはその表情に少し疑問を持ったが、すぐに意識から消した。

常に目的に向かって最短距離を進むことを望むクロウにとって今大事なことは宇迦之御魂大神に会うことだ。


玉藻御前は新たな力を得ることが出来ると言っていた。


クロウは崇徳天から受けた怪我が原因で、今まで仕えていたフェイバリットマジックが使えなくなっていた。それに代わる力を得ることが出来るのであれば、それこそ神仏に縋りたい気持ちはある。


特にクロウが得意の魔法を使用できないことを静、皆鶴姫、片岡春が本人以上に気にしていた。そのことを思うと新たな技を得て安心させたいという気持ちがおきる。


そのためにクロウはいつも通り最短で目的に進むつもりだ。

他は余事だ。


見送りの連中と別れたクロウと佐藤は森を進む。

途中、大きいアケビの身がなっていて美味そうだったが我慢した。佐藤は神域に向かうにあたって”身を清めてください”と注文した。歩き食べは”身を清める行為”とは真逆だろう。さすがのクロウもその程度の分別はある。


獣道すらない道なき道を進んでいるようにクロウは思えたが、佐藤が迷わず進んでいるところを見ると問題ないらしい。


「よく道がわかるな?」

クロウは尋ねてみた。それほど言葉の無いように意味はない。ただ無言で男二人が藪の中を進んでいくのもどうかと思っただけだ。

「わかりませんか?」

佐藤はどんどん進んでいく。

「ああ、俺には藪の中を突っ切っているだけに見える」

「おっしゃるとおりです」

佐藤はそれだけを言った。

「ん? それで到着するのか?」

クロウは疑問を口にした。実は迷ってるんじゃないかという疑いが出てきたからだ。

「ああ。失礼ながらクロウ殿は神域が何かを理解されていないご様子」

「そりゃ、知らないぜ。神様の住処なんぞ行ったこともない」

かといって神様を全く知らないわけではない。


天神様は意外と頻繁に会っている。

(よく考えるとすごいことだよな。神様に常に来てもらっているっていうのは)

普通は今回みたいにお願いする側から出向くのが筋だろう。


「神様の住処というのはどこにでもあるのです。ただし、誰でも行けるわけではない」

佐藤の問いにクロウは黙った。

この男は疑問に思うと「なんで?」と質問せずに黙り込む。

「神域の主 つまり神様に認められた者でなければたどり着けないのです」

佐藤は言葉をつづけた。


家主が認めた者しか入れない家。

万全のセキュリティだ。


「じゃあ。神様に認められないとどうなる?」

「永遠にたどりつけないでしょうね」

佐藤は当たり前のことのように言った。

クロウは眉を顰める。

それでは目的を達成できない。

「そのために清潔な恰好をお願いしたのです。格好で門前払いを受けたらどうしようもありませんからね」

神様にあうにもTPOが必要なのだ。

クロウはさきほどアケビを食べて服を汚さなくてよかったと思った。

「まあ、大丈夫でしょう。(アネ)さんの紹介状ありますからね」

そう言って佐藤はクロウの腕を見た。

そこには玉藻御前からプレゼントされたブレスレットがあった。


やがて、景色が変わった。

藪だらけの森が静謐な雰囲気に代わり、気が付いたら白一色の世界となっていた。


本当の白い空間 天は際限なく白。道行く先も際限のない白。立っている場所も白。

異世界転生物語に慣れている人であれば、異世界転生だと喜んだろう。


「これは?」

クロウは周囲を見渡す。


佐藤はそれには答えず

「大神。 客人をお連れしました」

と告げた。


「玉藻の紹介だね。どうも初めまして、私は宇迦之御魂神。お稲荷さんと呼んでくれたらいいよ。」


白い空間から声がした。

しかし、クロウにはその姿が見えない。


「何をキョロキョロされているのです? 大神の御前ですよ?」

やや呆れをともなった声で佐藤がクロウに軽く注意した。


「ワリィ。俺にはその神様が見えねぇ」

クロウは正直に伝える。

「なんと、これだけ神々しいお姿を見られぬとは不憫な」

佐藤がわざとらしいウソ泣きをした。


ため息が聞こえた。

「佐藤。人が悪いよ」

宇迦之御魂神があきれた声をだす。


「私の姿が見えないのは良いことだ。まだ人を辞めていないということだからね」

宇迦之御魂神が喜びの声をあげた。


周囲の白い空間が華やいだ雰囲気をつくりだした。

この白い空間は主、宇迦之御魂神の気持ちとリンクしているらしい。


「ん?人はあなたの姿を見れないのか?」

「そうさ。私の姿が見えるのは幽霊や仙人、魔王といった人ではなくなったモノだよ。クロウ。君はまだ人だ。」


ふわりとなにかがクロウの頭を過ぎさった。

頭を撫でられたらしい。


「おや? これは??」

宇迦之御魂神が声をあげた。

何かの注意をひいたらしい。


クロウの首筋に何かが触れた。


「……」

今までどちらかと言えば燥ぐような声をあげていた宇迦之御魂神が沈黙した。

周囲の空間も心なしかどんよりしはじめた。


「大神。彼は(アネ)さんの紹介で来られたようです」

佐藤が告げる。


しばらくの沈黙。


「彼女には悪いことをした。魔法を知ったがために不幸になった。魔法を知らなければ人として生きられたものを」

宇迦之御魂大神が後悔の声をあげる。


周囲が明らかに暗くなった。


「大神。(アネ)さんは彼に力を与えることを望んでおります」

佐藤が告げる。


「力? 力? 力? 玉藻はあのような運命に陥ったのにまだ、力で運命を超えることを夢見ているのか」

「そのようですね」


周囲が黒一色になった。

クロウの目に宇迦之御魂大神の姿どころか佐藤の姿すら見えなくなった。


クロウは内心、焦った。

同時にこの場で焦ってもしょうがないと腹をくくってもいた。


ただ、周囲の観察は怠らない。

焦ってジタバタする代わりに五感全てをもちいて状況を把握しようとした。

クロウもこの旅で成長しているのだ。


「力は与えよう。玉藻を嘘つきにするわけにはいかない」

宇迦之御魂大神はいままでの燥いでいる声とは違って、重厚で厳かな声で言った。


同時にクロウのブレスレットが光り輝く。

その光が徐々に収束した。

力をくれたのだろう。


ただ、何の説明もない。

まるで昭和の不親切なゲームだ。

使って覚えろということなのだろうか?


「力を得てどうする?」

宇迦之御魂大神は厳かに尋ねた。

こういう質問に対するクロウの回答は決まっている。 


「は? 何言ってるんだ? 男として生まれたならテッペン目指さなくてどうする?」

クロウはにかっと笑って吠えた


「テッペン。 テッペン。 テッペン?」

宇迦之御魂神は厳かに尋ねた。


「おう、覇王を目指す」

クロウはわらう。


「破滅が待っていても?」


「その破滅の運命ごとぶっ潰す!」


「ほほほほほほ。はははははは。ふふふふふふふ」

暗黒の空間に笑い声が聞こえた。

人の笑い声ではない、人以外の”何か”の笑い声が四方から聞こえた。


「何がおかしい」


「破滅の運命を潰せてないよ。ないよね。ないだろう。これを笑わずにいれようか」

暗闇からすぅーっと腕が現れた。


細い細い腕だ。


五本の指はしっかりとあるが金色の体毛に覆われている。

明らかにヒトの腕ではない。


その腕はクロウの首を一点を指さした。

その指をさした場所は……崇徳天に嚙まれた場所だ。

その傷跡から黒い靄のようなものが噴き出る。


「破滅の運命から逃れられていない。いないではないか。この瘴気がその証拠。これは怨念の魔王に植え付けられた縁。因果の糸。この因果をもつ者は戦乱を呼び、その果てに破滅するだろう。啖呵を切るのは御勝手。しかし実現できていない。滑稽よ」

宇迦之御魂神がそう告げると、再び暗黒の空間から笑い声がした。

それも多数の笑い声だ。


「私は戦乱を望まない。クロウ。そなたの破滅も望まない」

宇迦之御魂神が厳かに告げる。


「!」

黒い空間がクロウを飲み込む。

どのように藻掻いても周囲の”黒”がクロウを包み込む。


「ここにいたらいい。ここは神域。戦乱も破滅も縁遠い場所」

宇迦之御魂神の声が聞こえた。



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