第十ニ話 稲荷神 その1
「くやしい。くやしいぞ!」
母太郎は地団太を踏んでいる。
側にいた佐藤継信は驚いていた。
(本当に”くやしい時にくやしい”と口に出す人いたんだ。創作の世界だけかと思ったよ)
母太郎が何に悔しがっているかといえば、クロウとの戦いで敗れたことだ。
母太郎は奥州大陸を統べる奥州王の子だ。
つまり王子だ。
数多いる小国の王子ではない。他に類を見ない大国の王子だ。
先日、父である奥州王がクロウという敗戦の将の子を受け入れることを決めた。
理由は戦に強いクロウを引き入れることで抑止力とし、戦乱を避けるためだという。
父はクロウに大将軍をポストを用意するつもりだ。
母太郎は気に入らない。
何も外部に戦力を求めなくてもいいじゃないか。
自前の戦力で十分抑止力になる。
そう考えていた。
それを証明するのは簡単だ。
クロウを倒して、抑止力にならないということを理解してもらうのだ。
そう考えクロウを挑発し、タイマン勝負を挑んだが惨敗。
一瞬で勝負がついた。
母太郎にとって最悪なのは、国民がその敗北シーンを見ていたことだ。
国民は岩の巨大な竜神を魔法剣で倒すクロウの姿をみている。
まるで古の叙事詩の1シーン。
あのシーンを見た人々はクロウがいれば安心だと思ったことだろう。
クロウ不要を目論んだはずが、クロウの強さを大衆に印象づける結果となった。
それも母太郎としては悔しかった。
「おい、佐藤」
母太郎は不意に傍らの佐藤継信に声をかける。
「なんですか? 坊ちゃん」
佐藤が答える。
「坊ちゃんはよせ」
母太郎は注意した。
子ども扱いされているようで嫌なのだ。
佐藤はその注意もどこ吹く風だ。
そのことも母太郎の勘気にふれた。が、ここは抑えた。
「お前が行け」
「何をです?」
「お前がクロウを倒すんだ」
「は? 何を言ってるんです?」
「お前は強いだろう。奥州大陸でも十指に入る実力者だ。お前ならクロウを倒せる」
「そもそも戦う理由がありませんが」
「主の命令だ」
「私の主は奥州王様ですが?」
母太郎がどのように言っても飄々と躱す佐藤。
母太郎は勘気が膨れ上がってきた。
爆発する直前に佐藤が立った。
「そうそう、今日はクロウ様達を案内する日でした。失礼しますね」
佐藤はそう言うとさっさと行ってしまう。
残された母太郎は怒りのぶつけ先が消滅し思いっきり叫んだ。
あとで奥州王からウルサイ。と拳骨を受けたのは別な話だ。
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【あとがき】
第一章最終話、第十二話の始まりです。お楽しみいただけるとうれしいです。
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