第十一話 黄金の都 その3
母太郎は不満であった。
奥州大陸の騎士達は強い。
そのことを母太郎は知っている。
なにもクロウとかいう外部の人材を取る必要はない。
と母太郎は考えていた。
「あれでは、うちの騎士達がクロウに劣ると言っているようなものではないか!」
母太郎は傍らの佐藤継信に愚痴った。
佐藤は肩を竦めて
「いやあ、でも俺達じゃ魔王に敵いませんよ」
と言った。
その態度がますます母太郎の心に火をつけた。
「悔しくないのか!」
「いやあ。なんで若がそんなに怒っているのかがわからないですよ」
「なにっ!」
「だって、クロウさんが俺達の代わりに敵の相手してくれるんですよね。これほど楽な話はないじゃないですか?」
「なにっ。お前には誇りはないのかっ!」
「誇りで命失ったら後悔してもしきれませんって。命の危険があるところはクロウさんがやってくれるって言うんですからそれでいいじゃないですか」
飄々とする佐藤に母太郎は苛立ちを募らせる。
母太郎の苛立ちは自らの血筋への強い自負心から生じていた。
母太郎の先祖は竜戦士と呼ばれていた大英雄だ。
竜神に頼まれ神をも喰らう大妖魔 大百足を倒し、竜神の加護を得た。
仙人に頼まれ鬼神 百目鬼を倒し、帝に反逆した魔王 平将門をも倒した。
その竜戦士を祖先に持つ自分たちが他に劣るわけがないという強烈な自負心だ。
(クロウごときに負けるわけがない。皆の目を覚ましてやる)
母太郎はクロウに対抗心を燃やした。
さて、クロウと母太郎のバトルだが、さすがに政庁で行うわけにはいかない。
近くを流れる北上川の河川敷にちょうどよい場所があり、そこで行うことになった。
腕白坊主達のタイマン勝負は古今、河川敷が多い。
立会人は奥州王とクロウのパーティだ。
王子である母太郎が戦うとあって多くのギャラリーが詰めかけていた。
審判は佐藤継信だ。
審判がいるといっても特段ルールがあるわけではない。
佐藤継信の役目は、これ以上戦うと生死にかかわる場合。止める役目だ。
「ええーっ。俺が戦いたかった」
「私もです」
与一と皆鶴姫がブーイングしていた。
その二人にクロウは指で挑発していた。
「おい」
母太郎がクロウに向って言葉を投げた。
クロウが母太郎の方へ視線を移す。
「お前の相手は俺だろう。よそ見してるんじゃねぇ。 オン アルフ アルフ サラサラ ソワカ!」
母太郎が魔法を唱えた。
地面から九本の巨大な岩の槍が出現する。
岩の槍をよく見るとそれは岩でできた巨大な蛇の頭だった。
胴体も出現する。
巨大な岩でできたヒドラが現れた。
その巨大ヒドラを乗騎として乗り込む母太郎。
「はははっ。今までどんな相手と戦ってきたかは知らないが、この竜神 深沙大将
の敵じゃあねえ」
母太郎は勝ち誇り巨大ヒドラを操る。
九本の蛇頭が巨大な杭のようにクロウの頭上から一斉に落ちてきた。
まるで落盤事故だ。
逃げ場がない。
「クロウっ」
静が短い悲鳴をあげる。
「クロウ様っ」
片岡春がクロウの危機に飛び込もうとして兄の片岡八郎にとめられた。
「まずいっ」
審判役の佐藤継信が焦って駆ける。
「がはっ」
大きな音とともに吹き飛んだ。
母太郎が。
そして母太郎は乗騎から落下した。
審判役の佐藤継信が素早く落下する母太郎をキャッチした。
そして状況を確認するためにクロウと岩のヒドラのいた場所を確認する。
佐藤継信は見た。
クロウが持つ薄緑色に輝く魔法剣が、岩のヒドラを貫いているのを。
その魔法剣は長さを変えられるらしい。
巨大な岩のヒドラを貫き、その背中から突き出てきた。
(あの伸びる魔法剣に突き飛ばされたのか)
佐藤継信は理解した。
母太郎からすると座っていた場所から、突如、剣が出たようなものだ。
躱し様もなく、なぜ吹き飛ばされたのかも理解できなかったに違いない。
(それにしても……恐ろしい威力だ)
佐藤継信は戦慄した。
あの巨大な岩の塊を一瞬で貫くなど普通はできない。
更にクロウは手加減している。
岩をも一瞬で貫くのだ、クロウが本気なら母太郎も貫かれていた。
母太郎が吹き飛ぶ程度で済んだのは手加減の結果にすぎない。
まるで竜退治の神話のような光景を見せつけられ周囲の人々もまた沈黙し、歓声がわいた。
大衆は分かりやすい英雄を好む。
まさにクロウのその姿は英雄だ。
その後、召喚者が気絶したことで岩のヒドラがただの岩に戻り。
その岩による崩落事故にクロウが巻き込まれ、その場にいた全員が焦ったとしてもだ。
当然、クロウも焦った。
後日、「いや、あの岩が崩れてくるとは思わないじゃないか」と言い訳していたが。
ちなみにクロウは助かった。
静が雷の魔法で岩を砕き。
片岡兄妹が水の魔法でシールドを展開
伊勢三郎が鬼神の魔法で脚力を強化し、クロウの元に急ぎ駆け付け救助した。
これらの救出劇もクロウ一行の戦力をギャラリーに見せつけることになった。
”彼らが味方ならどんな敵がきても安心”
その事実をクロウ一行は平泉の大衆に見せつけることに成功した。
結果として、全ては奥州王の思惑通りに事は進んだ。
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【あとがき】
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