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剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第一章 英雄集結
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第十一話 黄金の都 その2

吉次の屋敷で休憩した翌々日。

クロウは奥州王に会うため平泉の政庁にむかった。


クロウの同行者は静と吉次のみだ。

大人数で王に会うのも失礼だという判断だ。


途中、案内の役人が先導してくれた。

クロウ達が旅の疲れをいやしている中、吉次が様々な段取りをつけたのだ。


役人は佐藤継信と名乗った。

馬にも乗れる立派な騎士だ。

佐藤はまっすぐ政庁を目指さなかった観光ガイドさながら平泉を案内してまわった。


クロウ達が驚いたのはある寺だった。

静謐な森の中に佇む神聖なる寺院。その中にはいると黄金だった。


壁・天井・すべてが黄金だ。


外が自然を活かした神聖さを作り出していたのに対して、内部は黄金の光に包まれていた。このギャップに驚いた。

仮に異世界転生というものがあったとして、その転生先にダンジョンがあったとしても

壁天井すべて黄金のダンジョンというのはないだろう。

そこまで異質な空間だった。


その驚きの余韻をもってクロウ達は政庁に案内された


さすがに政庁には黄金のクロスもフローリングも天井板も無い。

政務を取り扱い場所で黄金の光は目の毒なのだろう。

その代わり、自然を活かした浄土庭園が部屋の横にあった。


クロウ達が待っていると、巨大な頭を丸めた僧形の男が護衛とクロウと同じくらいの年齢の人物を伴って現れた。

案内役の佐藤が「奥州王様です」と小声をかける。

クロウ、静、吉次は儀礼のため平伏した。


奥州王も儀礼のため会釈する。


「遠いところからよく来られました。道中大変だったでしょう? ああ、儀礼はここまでにしましょう。礼儀は必要ですが、過ぎると本音が話せない。そうそう、いかがでした平泉は?」

奥州王はクロウに声をかけた。


奥州王は事前に吉次からクロウ達の目的を聞いていた。人となりも聞いていた。道中の活躍も聞いていた。

その結果、奥州王はクロウに対して“強さは本物”という評価をしていた。


野盗・モンスター・魔王と戦いこの奥州大陸までたどり着いた。並の実力では難しいだろう。

一方、性格は好戦的とあたりをつけていた。

那須温泉で老いたとはいえ勇者一行と模擬戦を行っている。普通の人であれば勇者が相手だと尻込みするだろう。クロウはそうではない。

ここから奥州王は好戦的と判断した。


奥州王がクロウに気軽に会えたのは吉次から頼まれたということもある。


中央の情報が中々入ってこない奥州王にとって旅商人として全国をまわり情報を集めてくる吉次は重要な人材だ。


その吉次から頼まれたらNOとは言いにくい。


その吉次から頼まれたという事情もあったが、もう一つ、戦力を欲していたということもあった。


彼は吉次からの情報を元に大きな戦乱が起きると予測した。

それこそ、この奥州大陸はおろか九州四国も含めた全国を巻き込んだ戦乱だ。


今まで戦乱はあった。

近いところで言えば崇徳天が帝と戦った。

過去には平将門が新帝と名乗り反乱を起こすなどの事件もあった。


しかし、どちらも都周辺や坂東平野など限定的なエリアでの戦乱だった。


各情報を集めた結果、過去の騒乱とは比べ物にならない全国規模の騒乱が発生する。そう奥州王は判断した。


当然、奥州大陸も戦乱に巻き込まれる。

そのダメージを最小限に抑えようと考えた。


戦乱に巻き込まれにくくするためには

「こいつに手を出したらヤバイ」と思わせることだ。

つまり軍事力による抑止効果だ。


そのため、「こいつに手を出したらヤバイ」と思わせる戦力が必要だ。

そのためクロウに白羽の矢をたてた。

魔王を追い払うだけの力があるのだ。戦力としては申し分ない。


もちろん奥州王はクロウの野望を吉次からの情報で知っている。


(親の仇はとりたいだろうな)

というクロウの本心とは別な解釈をしていたが、彼らが覇王と戦いたがっていることは理解していた。


奥州王個人としてはその心情は理解できるし、人の親としての立場としては敵討ちなんぞやめなさいと言いたかった。


そして政治家としては……

デモンストレーション的な戦乱参加はいい。適当に強さを見せつけて「奥州に攻めるとヤバイ」と思わせるのはOKだ。

ただ、積極的に戦乱に参加するのはNOだ。


奥州王は天下を望んでなければ、領土も望んでいない。攻め込まれないための抑止力が欲しいのだ。


その考えに賛同してくれるか? 賛同してくれなくとも、こちらで上手に手綱を握ることができるか?


探りを入れる必要があった。

そのため、礼儀不要と言った。

クロウの本音を“聞く”必要がある。


クロウは奥州王の質問に即座に答えた。

「すごい」


「ほう」


「ここには乞食や流民がいない。飢えた子がいない」

とクロウは答えた。


クロウと静は昨日、街に出た。

彼等が向かったのは観光名所になりうるようなエリアではない。

大都市には暗部ともいえるスラムがある。

そこを目指した。


ところがだ。

そのような場所は無かった。

クロウは何よりもこのことに驚いた。


「覇王よりすごい」

クロウは正直に自分の意見を述べた。


「覇王よりすごい……ですか?」


「ああ、覇王の都は一見華やかだが、少し裏通りに行くと乞食や流民に溢れている。食えない子供。親のない子供。家族を知らない子供がいる。ところがここ平泉にはいない。これは覇王より凄いことだ。俺の理想だ」

クロウは本心から言った。


奥州王は面食らった。

度肝を抜かれた。


クロウ達が政庁にくるとき、佐藤継信という一流騎士のガイドをつけて各所を案内した。

そのことを言ってくると予測していた。


特に黄金の寺は彼らの意表をついただろう。


そのことを話題にすると予測していた。


ところがクロウはそのことは一切触れず、スラムがないこと。子供達が健やかに過ごせていることを評価した。


奥州王の量から雫が落ちた。


彼は僧形からもわかるとおり熱心な神の信徒だ。

乱世・貧困・疫病

現世はこれらの問題が現実としてあった。


信仰深い奥州王から見ると

修羅道・餓鬼道・地獄道がこの世に出現しているように見えた。


奥州王は懸命にその現実(地獄)に抵抗した。

「この世に極楽浄土をつくる!」

それか彼の(野望)だ。


そのため懸命に働いた。

飢えや疫病を無くすため水利の改善を図った。

心安らかな国とするため教育にも力を入れた。

街も整備した。


その結果、クロウの言うとおり

すくなくともスラムは消えた。


そのことをクロウは評価した。


為政者として優れている。

覇王よりも政治家として優れている。


クロウのその一言で

他人に「そんなこと出来るわけない」と非難されつつも頑張ってきた自分の政策が、努力が報われた。

奥州王はそう思った。


批難はすれど、誰もこの孤独な奥州王を褒めてくれた人などただの一人もいなかったのだから。


「どうしました」

クロウは突然涙した奥州王に驚いた。


ちなみに静と吉次は敬語を使ったクロウに驚いた。

クロウは目線で

(俺も敬語ぐらい言えるぜ)

と二人に抗議した。


「いや、失礼しました。今、最高の評価をいただきましたので、正直、驚いたのです」

「最高の評価? 確かにこの治世は俺の理想だが……俺は飢えた奴がいねぇって言っただけだぜ?」

「飢えた国民がいない。まさに最高の評価でしょう。この言葉だけで心安らかに阿弥陀様のところへ逝けます」

奥州王は護衛が止める間もなくクロウの近くに行き、

そしてクロウの両手をとって感謝の言葉を述べた。


余程、感激したのか。

ここから奥州王がめっちゃ語りだした。


自分が飢餓・戦乱・疫病が蔓延するこの世の地獄を憂いて、いかに今の治世を作ったか。

自分の夢を“理想”と断じた反対者がいて、彼らにどれだけ心を苦しめられたか。


それでも諦めきれなくて一つ一つ失敗しながらも実行していったか。


それをクロウに一つ一つ聞かせた。

他の人からすると自分語りで退屈な話かもしれないが、クロウにとっては共感できる話だった。


夢を追い求め奮闘した男。

この世の地獄という現実を諦めずに、理想郷を達成した男の話だ。


クロウもまた打倒覇王という夢を追っている。

共感できないわけはなかった。


その共感が嬉しかったのだろう。

奥州王はさらに熱く語った。


語りの内容は冗長すぎるので省くが

要は

この平泉という黄金の都は


奥州王の夢の結晶だ。


ということだ。


語りつくしたところで奥州王は我に返った。


「少し、話が過ぎましたなお恥ずかしい」

奥州王は照れながら言い訳をした。


(少し?)

奥州王とクロウ以外の全員がそう思ったが口には出せない。

仮にも相手は王なのだ。


「ところでクロウ殿は戦力をもとめてこちらにこられたとか」

「ああ、俺には俺の夢(野望)がある。覇王を超える。それが俺の夢(野望)だ」

「男らしい夢ですな」

奥州王はうなずく。

同時にこの夢を諦めさせるのは難しいと思った。

自分自身が夢を追い求めた人間だ。

こういう人間は周りが何を言おうとも諦めない。

それを知っていた。

自分がそういう人間だからだ。


クロウにシンパシーを感じた奥州王はクロウを破滅から守るため助力しようと考えた。

同時に為政者でもある彼はクロウと言う魔王をも撃退する戦力を奥州大陸にとどめ置く方策を考えた。つまり抑止力としてクロウという戦力は保有するがデモンストレーション以外では使わないという考えだ。


(クロウ殿にとってもその方がいいはずだ)

奥州王はそう考えた。


クロウが目標とする覇王は魔王、崇徳天すら倒したことがある。

戦闘力は魔王と言う存在すら超える可能性がある。

その覇王に挑むということは死地に身を置くのに等しい。

成功か死か。

Up or OutならぬUp or Deadだ。

夢に破れたときのデメリットがあまりにも大きすぎた。 


「クロウ殿。その夢及ばずながら力をお貸ししましょう。そのために老婆心ながら助言させていただくとすれば、まずは力を蓄えられてはいかがか? 覇王は魔王を倒したことがあります。並の相手ではない。己の力を蓄え、天の時を待つのです。夢(野望)は大きければ、大きいほど己の力だけでな成し遂げるのが難しい。天の時の力をも借りる必要があります。現に私がそうなのです」

苦難の末に夢(野望)を成し遂げた男がクロウの目を見て迫った。


クロウもまた、その目を見返した。


二人は視線を交差させる。


「わかった」

クロウが根負けして力を抜いた。

奥州王の言っていることに正当性があると思ったのだ。


奥州王はほっとした。


奥州王の言った言葉は誠心から出たものだ。

しかし、あの言葉に裏がある。


天の時がこなければ打倒覇王の夢を諦めようね。と言外に言ってるのだ。


そうなれば奥州王の望む、戦力を保持し抑止力を得るという状態となる。

クロウも不要に命を賭けなくてもよくなる。


全ては奥州王の理想とする方向に進んでいた。


「お待ちください父上」

ここで待ったをかけた者がいた。

奥州王と共にこの部屋に入ってきた少年だ。

彼は奥州王の子 母太郎。

時代の奥州王となるため父について日々、国政の勉強をしている。

今回もその一環で一緒にきていた。

「クロウ殿を引き受けるおつもりですか?」

母太郎は奥州王に尋ねた。

奥州王は内心、苦々しく思った。

クロウ殿を目の前にして話してよい話題ではない。

その程度もわからないのか。と自分の後継者にやや失望した。

しかし、これも後継者教育だと思いなおし母太郎の問いに答えることにした。


「そのつもりだ」

「理由を伺っても?」

「なぜ、そのようなことを聞く?」

「クロウ殿の夢(野望)は教えていただきました。羨ましいことです。男子とはこうあるべきでしょう。しかし、クロウ殿の希望は奥州大陸に利がありませぬ。利が無いことをやられるのですか?」


母太郎の問いに奥州王は頷いた。

(国に利が無いことを気にしたのだな)

この感覚は国を預かる者として必要かつ重要だ。

奥州王は母太郎の問いに満足した。

ならば教育を兼ねて丁寧に答えなければならないと思った。


「今後、今までにない戦乱が発生する可能性がある。それはこの奥州大陸も例外ではない。その戦乱の世が来たときに、奥州大陸に手を出すと危険だと周囲に思わせる必要がある。そのため抑止力としての戦力が必要だ。クロウ殿は魔王を撃退したという。ならば抑止力に期待できる」

「つまりクロウ殿がいることで中央の戦乱に巻き込まれずに済むということですね」

「そうだ。つまり奥州大陸の利に適う」

「父上のお考えは理解できました」

「そうか」


奥州王はほっとした。

この話題の着地点としては及第点だ。

クロウ殿も気を悪くしないだろうと思ったのだ。


「ここで一つ疑念があります。その政策はクロウ殿が抑止力になるほどの力をもっているというのが前提ですね」

「これ、母太郎!」

さすがに奥州王も我が子を叱咤した。

クロウの実力を疑っていると母太郎は言外に言っているのだ。

クロウに喧嘩を売っているに等しい。


奥州王はクロウの顔を見る。

好戦的な顔が見えた。

(まずいな)

奥州王は息子を怒鳴りつけたくなったが、辛うじて抑えた。


「クロウ殿、失礼な言葉をお許しいただきたい。しかし、これは奥州大陸の命運がかかっているのです。仮に……仮にですよ。クロウ殿が敵に組みやすいと思われてしまえばかえって敵を招くこともある」

親の心子知らずという。

母太郎は奥州王の危惧を無視して言葉をつづけた。


「何が希望だ?」

クロウはそれだけを言った。

「何、簡単なことですよ。クロウ殿が強いと証明できたらよいのです」

そう言って母太郎はスクっと立った。


「私も剣と魔法には自信があります。どうです? 一戦交えませんか? 奥州の騎士よりも優れているところを見せていただきたいのです」


「いいね。簡単でいい」

クロウは獰猛に笑った。

その後ろで静と吉次が頭を抱えていた。

【モデル紹介】

■佐藤継信

義経四天王の一人 藤原秀衡の命令で源義経に従って転戦

一の谷の戦い。または屋島の戦いで戦死(文献により戦死場所が違います)


■藤原秀衡

本作の奥州王のモデル

奥州平泉全盛期を築いた人。

源義経の庇護者で源平合戦前に奥州にきた義経を保護し、源平合戦後、源頼朝と不仲になった義経を匿った。


■藤原泰衡

本作の母太郎のモデル

藤原秀衡の子。衣川の戦いで源義経をやぶるが、奥州に攻めてきた源頼朝に敗れる。


【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

やっと平泉到着です。クロウの仲間を集める旅がテーマの一章もようやくゴールが見えてきました。

こんなんですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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