第十話 仙人があらわれた その1
この国にも仙人はいた。
坂東平野から北。奥州大陸から南
鬱蒼としたブナ林が日光どころか、外界を遮断している場所
そこに一匹の仙人が住んでいた。
名を残夢という。
“残っている夢”という現世への未練タラタラの名前を持つ仙人だ。
残夢は名利に興味が無い。
それなのに好奇心が強い。
名利に興味がない分、好奇心の赴くまま突き進む癖があった。
彼がまだ人であったころの話だ。
彼は役人だった。
その役人の仕事をしているとき、ふとお金の流れがおかしいことに気づいた。
好奇心から、その原因を探った。
断じて正義感からではない。
好奇心の赴くまま調べた結果、原因がわかった。
不正というセンセーショナルなことではない。
各担当者が「自分は自分の範囲の仕事をしていればいい」という考えのため、各担当者の数字がズレていたのだ。
つまり現在、お金がいくら保有していて、いくら支払われて、いくら入ってきているのか
誰も正確に把握していなかった。
簡単に言えば超、どんぶり勘定だった。
それを知った彼は動いた。
決して正義感からではない。
(正確なお金の流れがわかれば、どのくらい余力があるか正確なことがわかる。正確なお金の数が把握できれば、資金がなくてやれなかったと過去に言っていた企画も実はやれたということになる可能性がある。うまくいけば、皆のお給料も増えるぞ)
つまり「数字の整合性」を突き詰めようとした。
結果、左遷された。
数字合わせは面倒だ。それを嫌った各役人が面倒がり上司に訴えた。
上司は「数字の整合性」よりも「感情の整合性」を重視した。
簡単に言えば「みんながやる気をなくしてしまったら困る。数字ぐらいズレていてもいいじゃないか」という考え方だった。
彼は唖然とした。
余談だが、この上司と面倒がった役人は後々、更迭された。
不正が発覚したのだが、どんぶり勘定状態で永年、気づかなかった。
職務怠慢であり、不正が出来る環境をつくり、間接的に不正を後押ししたという理由だ。
こういうこともあった。
彼が使えていた貴族が妹に恋をした。
近親相姦は彼の時代でもタブーだ。
クソ真面目な貴族の弟がそれを非難した。
兄弟の喧嘩に発展した。
一般人の喧嘩なら当人同士で決着がつく。
しかし、貴族の場合は取り巻きが動く。
つまり戦となる。
(兄弟喧嘩で戦となり、兵たちが消耗され減るなんて馬鹿らしいぞ)
彼はそう思った。
決して、正義感からではない。
兵士という数字が無意味に減ることを不毛だ。と考えた。
また兄弟が争うのはどうかとも考えた。
そこで彼は動いた。
貴族に妹への恋を諦めるように言ったのだ。
彼の考えでは、それで弟も喧嘩する理由がなくなる。
円満になると考えた。
結果、貴族とその妹は心中した。
(なぜだ……?)
彼は虚無に襲われた。
彼は理屈にあわない人の感情というものを避けるようになった。
現代であればヒッキーになったかもしれない。
しかし、彼の生きる世界では引き籠ることができる空間は町の中にはない。
森などの自然の中にしかなかった。
彼は元いた町から遠く離れた森の中に引きこもり
自然と一体化し
いつのまにか仙人となった。
仙人となり悠久の時を生きてきた彼だが生来の好奇心は失われていない。
その彼が自らのテリトリーを通る奇妙な一団を見逃すことはない。
(いつもと違うぞ)
残夢は首をひねった。
残夢の居る森は坂東平野の北。奥州大陸の南。
坂東と奥州を交易する人馬が行き来する。
その行き来する人たちの中で残夢が注目している人物がいた。
黒装束に黄金の仮面を被る男。
堀吉次だ。
奇妙で目立つ格好なので、すぐに残夢の好奇心を擽った。
観察していると面白い動きをしていることがわかった。
人前に出るときは、あの目立つ格好をしているのだが、
隠密行動をするときに逆に普通の格好をしているのだ。
(あれでは、吉次とは気づけないぞ)
残夢は感心した。
実に合理的だと思った。
多数の野盗に襲われそうになったときなど、その変身で上手に難を逃れていた。
その残夢が注目する吉次がいつもと違う行動をしていた。
大人数で移動していたのだ。
ちょっとした小隊レベルだ。
(いつもなら、一人か荷駄をつれているくらいなのだが)
残夢は首をひねる。
他にも疑問がある。
残夢は長年の観察から吉次が金を取り扱う商人だということを知っている。
吉次の周辺にいるのはどう見ても商売とは関係なさそうな面々だ。
いかにも戦闘職という人物もいれば、子供までいた。
(もしかして、子供の奴隷を扱ってるんじゃないだろうな)
残夢は思案する。
人の感情に嫌気をさし、引き籠った残夢だ。
吉次のことを気にかけていたのも、ただのマンウォッチングだ。
現代で言えば引き籠ってゲームをやっているのとかわらない。
ところが、そのゲームのキャラクターがいつもとは違うアルゴリズムで動いた。
気になるのだ。
もっとも、それだけでは残夢は動く気はなかった。
ただ、のんべんだらりん。霞を口に入れながら眺めているつもりでいた。
しかし―
小さい子供を奴隷として売り買いしているなら……
(確認したい)
合理性を世に求めることの諦めと人の感情への恐怖で引き籠った仙人。残夢。
人間不信となっている彼は
「なぜ、奴隷という不合理な詐取が成り立っているのか?」
と興味を持った。
そのため……
また、人に絶望するかもしれないが……
確認だけでもしたいと思った。
【モデル紹介】
■常陸坊海尊
本作の残夢のモデル
武蔵坊弁慶と同じ僧兵。弁慶は衣川の戦いで討ち死にし名を残したが、海尊は衣川の戦を生き残り名を残した。のちに不老不死となり江戸時代まで生きたという伝承がある。
【お知らせ】
こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです
■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
古事記の軽太子の話を挿入してみました。不老不死の仙人と言う設定を盾に時系列度外視で自由に書いている作品です。
こんなんですが「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




