第九話 よいちのゆみ その21
玉藻御前の言葉にクロウは内心、「なんで?」と思った。
しかし彼は口下手だ。
言葉に詰まった。
与一も「なんで?」と思った。目が大きく見開かれている。
こちらは世間知らずだ。
こういう時に疑問を言葉にするということを知らない。
与一も言葉に詰まった。
こういうところは似ている二人だ。
沈黙していては何も進まない。
そう思った静がフォローに入った。
「理由を聞いても?」
「この子に経験を積ませたいのさ。さっきの4っの魔法同時行使を見ただろう。才能はある。親馬鹿と笑われるかも知れないが天才だ。だけどね。さっき負けたろう。経験を積ませたいのさ。それにはお前たちと一緒に行くのがちょうどいいと思った」
そう言って玉藻御前はクロウ一行にいる喜三太・熊井達6名の少年少女を見た。
「彼らを連れて旅しているんだろう」
玉藻御前が尋ねる。
「ええ、そうね。成り行きだけどね」
静は言った。
「彼らの表情がいい。生きている顔をしている。親としてはそれだけで安心さ」
「俺が誰で。俺が何のために旅しているのか知って言っているのか?」
クロウが口を挟む。
「ふふふ。私は魔王に堕ちた者だよ。魔王の権能をもってすれば、少なくとも周辺の出来事はすべて把握できるのさ」
玉藻御前の言葉にクロウは疑いの眼差しを向ける。
その表情に気づいた玉藻御前はクスリと笑った。
傾国の美女の名は伊達ではない。
微笑だけで妖艶な雰囲気が溢れた。
その姿を見て片岡八郎は顔を真っ赤にしてどぎまぎしている。
その兄の足を片岡春が踏んだ。
玉藻御前は微笑み攻撃でも変わらないクロウの疑いの眼差しを受けて、そっとため息をついた。そして、その疑いを晴らすために言葉を綴る。
「覇王に敗れた源氏の棟梁の御曹司。源頼朝の弟。打倒覇王の勢力を得るため東北大陸にむかっている。どう? 合ってる?」
「ああ。それをわかって、俺達の旅に同行させるのか?」
「ええ、何か不都合があるのかしら?」
「お前にとって……与一は大切なんだろう?」
このクロウの質問に静・皆鶴姫・資さん・千本・与一……そして玉藻御前に対してどぎまぎしている片岡八郎以外の面々は恐れおののいた。
玉藻御前はいくら美しくとも魔王だ。
その圧はそこらのモンスターの比ではない。
精神的な圧力を感じるというレベルではなく、その圧力だけで嘔吐・眩暈といった肉体的な症状が出るレベルだ。
ちなみにクロウ・静・皆鶴姫は平気だ。
彼らは怨念の魔王 崇徳天・外来の魔王クマラと魔王に慣れていた。
その人外の圧力を感じさせる魔王に対してクロウは「お前」と言い放った。
クロウのその一言で魔王が気分を害し、襲ってくることを恐怖した。
もっとも……。
その恐怖は杞憂だった。
クロウの言葉に玉藻御前は優しく与一の髪を撫でた。
「そうさ。大切な家族さ」
と言った。
それを見たクロウは内心、複雑だった。
彼は家族を知らない。
家族の愛を受けたことがない。
父はすでに死んでいた。
母は父の仇だけをクロウに望んだ。
それも普通の望み方ではない、復讐のため神仏魔王に縋ろうとした。
魔王 崇徳天の力を借りようとした。
それがクロウの母親だ。
つまりクロウは家族を知らない。
そして、知らないからこそ憧れていた。
だからこそ、玉藻御前の言っていることが理解できない。
与一は家族に愛されていた。
義母の玉藻御前、義父の資さん、義兄の千本。
皆、与一を気にしているのがわかる。
クロウが手に入れることが出来なかった家族の愛を与一は手に入れていたのだ。
ところが、玉藻御前は与一をクロウの旅に連れていけと望んだ。
クロウにとって家族は手に入れることができない宝物だ。
せっかく家族そろっているのに離れ離れを望む。
クロウには理解できなかった。
だから―
「一緒にいればいいじゃん」
という言葉が口から零れ出た。
「せっかく、家族がいるんだ。離れ離れになることはない」
クロウは言葉を続ける。
「俺達の旅は打倒覇王だ。当然、その先に戦もあるだろう。つまり危険を伴う旅だ。わざわざ、大切な家族を危険な目に合わせる必要はない」
クロウはそう告げた。
クロウではもう手に入ることが無い家族と言う宝物。
それを自ら手放そうとするのはクロウにとって宝石を石ころのように捨てるような理解しがたい行為だった。
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