第九話 よいちのゆみ その18
「ええっと。与一君はこの那須温泉郷の領主の子なのね」
静が確認する。
「そうだ!」
与一は元気に答えた。
静はため息をついた。
与一がクロウの湯治中に突撃してきたことで、騒ぎになった。
今でいう住居侵入罪&迷惑行為禁止条例違反案件だ。
初め、与一を捕まえようとした皆鶴姫と片岡春だったが、騒ぎを聞きつけた、この湯治場の主が現れて与一のことを領主の子と説明した。
さすがに立場的にただの旅人であるクロウ一行が領主の子を捕まえることはできない。
そこで別室で話を聞くことになり、今に至る。
与一から事情をヒアリングしているのは静だ。
本来であればこの一党のリーダーであり、突撃を受けた被害者でもあるクロウが話を聞くのが自然であったが、クロウは性格上、向いてない。そのため静が話を聞くことになった。
「えーっと。それで用件は、コイツと闘いにきたと」
静はクロウを指さして言った。
「そうだ。母様が強いといった。戦ってみたい!」
与一が肯定する。
そこには何の邪気もない。純粋に自分の力を試していたい競技者としての闘志だけがあった。
「あのな。与一君。気持ちは分からなくもない。だがな、人の入浴中に無断で入ってくるのはどうかと思うぞ」
皆鶴姫が与一を嗜める。
(あんたも天下の往来で勇者パーティ一行と大立ち回りしてたよね。同じじゃね?)
と静は思ったが、それを言うと場がややこしくなるので黙っていた。
注意を受けた与一はピンと来ていない顔だ。
「まあ、なんだ。俺と闘いにきたっていってたな。いいぜ、相手になってやる」
クロウはまどろっこしいのが苦手だ。
与一に常識を教えているよりも、与一の希望に沿ったほうが早いと思ったのだ。
それに皆鶴姫達の警護をすり抜けた腕前も気になった。
要はクロウ自身も与一と闘いたいと思った。
「おう!」
与一は喜色満面だ。
戦いの場は与一の希望で、与一が普段、ゲームプレイしている場所となった。
静が「どこで闘うの?」と確認したところ、与一が「母様に見てもらいたい」と言ったことから決まった。
静の質問の意図は”この前みたいに温泉郷の入口でバトルするのはやめてよね。場所をちゃんと選んでよね」ということだ。
前回、クロウと皆鶴姫は腕試しをしたいという気持ちでかつての勇者一行に温泉郷の入り口でバトルをした。
そういう点で考えるとクロウも皆鶴姫も与一も「同類」だと静は冷めた眼で思っている。
与一につれられて、クロウ一行が向かった先には毒煙があった。
その毒煙は、まるですべてを拒絶するように天高くのぼっている。まるで壁だ。
誰が見ても立ち入り禁止という状況だ。
臭いもきつい。強烈な硫黄臭だ。
片岡春などは露骨に顔をしかめた。
「ここで闘うのかな?」
伊勢三郎が驚いた声をあげる。
毒煙の中で闘うなど正気ではない。
伊勢三郎は与一に「毒無効」の何か特殊な能力をもっているのかと疑った。
それで優位なフィールドで闘おうとしたのかと思ったのだ。
「応。」
与一がそれがどうしたと言わんばかりに朗らかに答えた。
クロウ一行は当惑する。
クロウがいかに一騎当千といえど、毒の中で闘うことはできない。
「与一。それでは伝わらんよ」
そこに3人の人物が現れた。
若い戦士。老いた戦士。絶世の美女だ。
皆、只者ではない。
若い戦士は筋肉隆々。一目で戦うことを職業にしているとわかる。
老いた戦士は三勇者と同様の雰囲気をもっていた。
そして絶世の美女。隠しても隠せない魔力量だ。
それこそ怨念の魔王 崇徳天。 外来の魔王 クマラに匹敵するような魔力だ。
「失礼ですがどなた様でございましょうか?」
吉次が腰を低く尋ねる。
老いた戦士が前に出た。
「そこの与一の|義父≪ちち≫よ」
と言った。
「それでは領主様でありますか」
吉次が慌てて平伏しようとする。
老いた戦士、即ち資さんが慌てて吉次の平伏をとどめた。
「そのままに、そのままに。逆に与一が迷惑をかけた。何というか風呂場に突撃とはすまぬ」
資さんは逆に吉次。いや、クロウ一行に土下座した。
互いに土下座しあう、資さんと吉次。
苦笑して若い戦士が前に出た。
「父上、やめましょう。そちらの黄金の仮面の方もおやめください。私は与一の|義兄≪あに≫、千本といいます。この度は与一の希望に付き合っていただきありがとうございます」
そう言って、資さんと吉次を立たせ、クロウ一行に会釈をした。
クロウ一行も会釈を返す。
千本の礼儀正しさに、ちょっと当惑している。
「少し説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
千本は人の好い笑顔を見せた。
クロウ一行は頷く。
千本の爽やかオーラに毒気を抜かれている。
「この毒煙は結界なのです。その向こうには毒はありません。その毒の無い場所で与一と対戦していただければありがたいです。…………という意味だよな? 与一」
千本は与一に優しく語りかけた。
「応!」
与一は元気に返事をした。
なぜ、千本がクロウ一行にこのような説明をしたか。説明の必要性すら理解していない顔だ。
「それでは母上、結界の解除をお願いします」
千本が背後の美女にお願いする。
「……」
背後の美女。玉藻御前は無言で手を振る。
と、同時に一瞬で毒煙の壁が消えた。
これを見て、クロウ、静、皆鶴姫、伊勢三郎が警戒した。
この毒煙は天然のものではなく、彼女の魔法で作り出したモノだと理解したからだ。
つまり、彼女は毒煙を好きなところに出せることを意味している。
例えば、自分たちが立っている場所に毒煙を出されたなら一瞬で全滅するだろう。
更には千を超える軍勢相手でもその毒煙だけで全滅させることができるだろう。
クロウ、静、皆鶴姫、伊勢三郎は戦慄した。
「どっちを見てるんだ」
与一が玉藻御前に気を取られたクロウに声をかける。
「試合するのは俺だ」
与一がクロウにむかって指をさした。
与一はちょっとムッとしていた。
対戦相手であるクロウの意識が自分ではなく母様にむかっていたのが気に入らない。
クロウは与一を見た。
暫くの間の後、
「ああ」
とだけ言って、与一に向き合う。
「じゃあ、僭越だけど私が審判をやらせてもらうよ」
千本が名乗り出る。
「いい? これは試合だからね」
千本はクロウ、与一に注意を与えた。
何かしらエスカレートしかねない雰囲気を察したのだ。
「ああ」
「もちろん」
両者とも頷く。
これは両者とも素直に頷いたのではない。
両者とも余裕をもって相手を倒せると思ったのだ。
要するに舐めていた。
舐めている相手に死闘なんてありえないと傲慢に思っていた。
【お知らせ】
こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです
■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/
【あとがき】
やっと書きたかったクロウ VS 与一にたどり着きました。
何でこうなった?
こんな作品でよろしければ「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




