第九話 よいちのゆみ その17
与一は母のいる山から麓にある温泉郷におりてきた。
ちょうどいい対戦相手がいるらしい。
(どんな奴だろう?)
与一はワクワクしている。
与一は今まで母の元で、母が生み出す妖魔を打ち取るゲームをプレイしていた。
まさにゲームだ。
与一がゲームをしている場所の周囲は母が張った猛毒の結界があるため、野生動物やモンスターどころか、資さんのような母が許可した人でなければ入ってこれない。
好奇心をもって結界に入った人は後悔するだろう。
猛毒で意識を失う、最悪死ぬ。
魔王 玉藻御前がつくった安全なゆりかごの中で与一は集中して、妖魔を撃つリアルFPSをプレイできる環境にあった。
一つ不満があったとすれば、実力があがるにつれ、成長するにつれ物足りなくなってきたことだ。
人は一生懸命努力した成果を試したくなる。
自分の実力を測りたくなる。
しかし、玉藻御前が作った安全なゆりかごの中では、それは叶わない。
母は与一の戦闘力をあげることに一生懸命な教育ママであり、超過保護な親だった。
その超過保護な母が「ちょうどいい対戦相手がいる」という。
与一は喜んだ。
その相手を対戦でコテンパンにやっつけて勝利の余韻に浸る自分を夢想した。
与一はクロウの居る場所へ急いで駆け付けた。
「勝負だ!」
与一はその母が認めた対戦相手“クロウ”のいる部屋の扉をあけた。
※※※※※※※※
「なっ なっ、なんだお前はっ」
クロウは珍しく驚いた声を上げた。
クロウは都から奥州大陸への旅の中で考えさせられる出来事が多かった。
覇王が治める都でスラムで生活をせざるを得ない子供達。
権力で女をモノ扱いし所有物にしようとした覇王の一族
理念目標もなく野盗を集め、ただ野心だけで覇王を目指すと言った。熊坂長範
皆鶴姫の自由のため己の信念に沿って動いた陵介
源頼朝に家を追われ、憎しみで魔王に囚われた片岡兄妹
最初、男と生まれたからにはテッペン目指さなくてどうする。
と目指した覇王の背中。
しかし、この旅で世の中の不条理を見せつけられた。
そのクロウの内面に“この不条理をどうにかできないか”という思考が目覚め始めていた。
実はこの内面の変化は魔王 クマラのお陰だ。
クマラが崇徳天の呪縛からクロウを解放した。そのため自由に運命を選択できるようになった。
別な思考ができるようになった。
もっともクロウはそのことを知らない。
それはともかく、クロウの内面が変化するとともに年齢相応なヤンチャぶりはなりを潜め、常に沈思しているような雰囲気を出していた。
そのクロウだが、与一の突撃で、久しぶりに年相応の少年のような声をあげた。
クロウがいるのは湯治場だ。
彼が那須温泉郷に寄った目的は、崇徳天との戦いでの傷の療養だ。
つまり、平たく言えば、今、クロウは素っ裸で湯に浸かっていた。
その湯治場に突然、ドアを開け「勝負だ!」と言ってくる奴がいたら誰でも慌てるだろう。
クロウも例外ではなかった。
「なっ! 何だ。誰だ、お前はっ!」
「与一だ!」
クロウの当然の問いに名乗る与一。
与一は「誰だ」と聞いたので名乗った。
間違いではない。間違いではないが、この事態を、名乗ったからといって解決はできない。
与一という天才は、母、玉藻御前がある意味、スパルタで、ある意味、過保護に育てられた。
玉藻御前は魔王に堕ちる前、自らの才を利用されてから妬まれポイ捨てされた。
その原因を実力不足と思っていた。
妬みから攻められようとも、どのような理不尽な苦難を受けようとも、それを跳ね返せる強さがあれば問題ないと考えた。
ただ、ただ、自分にはその苦難を跳ね返すだけの才が無かったと考えた。
そのため、与一には自分のようになって欲しくないという願いから、苦難を跳ね返す実力を身に着けさせようとした。そのため修業三昧の生き方を与一に課した。
同時に甘やかした。
修業が苦難にならないようにゲーム形式にした。
命の危険が無いように魔物もモンスターも人も寄せ付けない猛毒の結界を張り、その中で与一を育てた。
そのため与一はあまり他人とはコミュニケーションをとる機会に恵まれなかった。
コミュニケーションをとる必要がある場面があったとしても、それは資さんや資さんの子であり、与一が兄と慕う千本が代わりにやってくれた。
つまり与一という天才は世間知らずだった。
だから、クロウの事情も一切考慮せずに、他の家に勝手に上がり込むし
勝手に湯治場の扉をあけた。
質問を受けても、その質問を表面の意味でとらえ返答した。
与一はそういう人間だった。
クロウはしばらく呆気にとられたが、なんとか我に返った。
そして警戒した。
クロウが湯治場にいる間、皆鶴姫が警護をかってでたはずだった。また、クロウの怪我の原因が自分にあると自責の念にかられていた片岡春も警護を志願していたはずだった。
少なくとも二人の警護がいたはずだ。
それなのに与一はクロウのところまでたどり着いた。
警戒する必要のある相手だ。
睨みあうクロウと与一。
やがて、駆けつける足音が聞こえてきた。
異変を感じ誰かが来たのであろう。
駆けつけたのは警護を買って出た皆鶴姫と片岡春であった。
二人は到着すると同時に……黄色い悲鳴をあげた。
クロウは湯治中。
即ち素っ裸だったからだ。
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【あとがき】
せっかくの那須温泉ですがヒロインたちの入浴シーンはありません。
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