表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法の義経記  作者: 久手史郎
第一章 英雄集結
59/110

第九話 よいちのゆみ その16

玉藻御前と資さんは幼いころからの友人だ。

気が付けば隣にいたような関係だ。


お互いに魔法使いということもあって幼いころはライバル関係だった。

資さんは、武器性能をあげる八幡神の魔法を使い。

玉藻御前は妖精・妖魔を使役する稲荷神の魔法を使った。


彼らの関係は今のクロウと静の関係に近い。


魔法のライバルとしてお互いに意識しあっていた。

男女のことだ。

その意識が長じるにつれ恋に発展するのは珍しくない。


資さんも玉藻も自然と将来は一緒になるんだろうな。

互い思っており。そして互いを想っていた。


しかし―


運命はそれを許さなかった。


原因は玉藻の器量だ。

美人であり機転もきき魔法も使えた。


要は才能に溢れ目立つ存在だった。

そのため時の権力者、それも最高権力者である帝に見初められた。


「しかたないねぇ。そんじゃぁ女性の頂点目指してみますか」

資さんに対して玉藻は少し困った顔でそう言った。

玉藻は聡明な女性だ。

断ると玉藻も関わった資さんも、育った村も不幸になる。

”帝の意向を無下にするとは何事”という理論で帝を擁する朝廷という勢力が、野盗以上の暴虐を実行することが目に見えていた。


帝に見初められた時点で”NO”という選択肢は存在しない。

彼女はそれを知っていた。


そして資さんは……

玉藻という女性がその現実を熟知し、自分や育った村に咎が無いよう、自分の人生を帝に献じたということを理解していた。

そして、そのことに対し強がって見せていることも知っていた。


「玉藻……」

資さんは強く玉藻を抱きしめた。目からは雫が落ちていた。

「俺は……」

玉藻は資さんの口に人差し指をあてた。

「それ以上は言ってはいけないよ」

玉藻は揺れた目で、しかし口元ははっきりとそう言った。


玉藻が帝のいる都に行き年月が経った。


資さんの元に驚くべき報せが入った。


玉藻が傾国の魔王 玉藻御前と化し討伐を受けたとという報せだ。

そして魔王 玉藻御前は資さんのいる那須に逃げてきているという。


(何の冗談だ?)

資さんは信じられなかった。

しかし、実際に都から派遣された陰陽師というゴーストバスターに率いられた討伐軍を見て資さんは現実のことだと理解した。


(何があったんだ)

資さんは玉藻が都に行ってから何があったのか知りたかった。


なぜ、玉藻が魔王と呼ばれたのか。

なぜ、玉藻が討伐軍を差し向けなけられなければならないのか。


調べに調べまくった。

なぜ、玉藻がそうなったのか?

これを知らなければ資さんは一歩も進めない。


幸い、資さんには協力者がいた。三浦、上総、千葉だ。

特に三浦が表の情報を、そして千葉が裏の情報を集めてくれた。


その集まった情報を見た資さんは思った。

(やりすぎだ。有能すぎたんだ)

資さんはため息をついた。


彼女は稲荷神の魔法の術者だ。

その魔法は妖精や妖魔を使役する。

使役する妖精次第では天候も予見でき、多少は操るまではいかなくとも影響を与えることはできた。


この時代、天候は収入に直結した。

何故なら土地から取れる米などの収穫=年貢が収入の収入の基礎になる。

その米の生育に天候は左右された。


つまり、玉藻は魔法で豊作を人工的につくり、その天候操作の影響力が及ぶ貴族・庶民の収入の底上げをした。

三浦の情報によれば帝は大いに喜んだらしい。帝の近臣も「有能」と褒めたたえた。

一方、千葉の情報によれば宮廷魔術師である陰陽師一派や他の貴族に妬まれたらしい。


魔法は戦闘力だ。

武器を強化し、マジックミサイルを飛ばし、火や雷で敵を焼き、人を超えた神霊・妖魔を操り人を超えた敵を滅ぼす。

だからこそ魔法が使える武士や陰陽師は人々の守り手として尊敬を集める。


その戦闘に使うはずの魔法を玉藻は人々の収入が増え豊かにすることに使用した。

陰陽師一派からすると邪道な魔法使用法だ。

「魔法の正道を知らぬ小娘が」

という訳だ。


貴族からの嫉妬はもっと単純だ。

帝が褒めたから面白くないというものだ。


玉藻はその嫉妬を受けても動じなかった。

「アホか」

と思っていた様だ。

全員が豊かになるのであればそれでいいではないかと玉藻は思っていた。


ついで帝にも褒められたこと、帝の近臣から「この問題も解決お願いできるでしょうか?」と依頼されたこと、そして……旧弊にとらわれる陰陽師一派や貴族たちへの反発もあり玉藻は次々と合理的な手を打った。


経済面では先ほどの天候操作による全体収入UP

また、帳簿がおかしいことに目を付けた玉藻は帳簿付けを帝の命令という事で定めるとともに精霊たちをつかって役人を監視。帳簿にて誰が何を使ったか明確にし、監視することであいまいな部分がなくなり、結果として不要な支出が減った。


それにより、国庫は増えた。帝は喜んだが、逆に曖昧さで得をしていた者が困り、「出しゃばり」「女のくせに詮索するな」と妬みを買った。


文化面でもいろいろ、玉藻からすると合理的な、そして保守的な貴族たちからすると奇想天外なことを行った。


様々な儀式を「無駄が多い」と整理して短縮しようとした。彼女にとって時は金なりだ。

しかし、これも貴族たちが「雅を理解していない」「神事を軽んじた」と怒った。 


贈り物も実用品中心にしようとした。彼女からすれば食べも出来ない、役にも立たないものは無駄の極みだ。しかし貴族たちから見ると「風情がない」「貴族の心を知らぬ」となる。


このように玉藻は帝の寵愛を受けたが、一方で貴族や陰陽師といった保守勢力と対立していった。


この時期、玉藻は相当、反対勢力に対して意地になっていたらしい。

和歌をSNS代わりの連絡手段として使用していた。さすがにこれはやりすぎだった。


帝は才気あふれる玉藻を愛した。

結果、子が生まれた。

同じころ親戚の子で母を失った子を憐れんで養子として育てた。

彼女にも家庭ができた。


幸せの絶頂だった。


ここで世界が反転した。


玉藻の子が死んだ。

そして帝も死んだ。


普通の死ではない。

呪い殺された。


驚いたことに呪い殺したのが玉藻の仕業とされた。

玉藻の精神攻撃(テンプテーション)による精神汚染を受けて呪い殺されたのだとされた。


玉藻は衝撃を受けた。

彼女も魔法に長けている。彼女の使役する妖魔に精神攻撃ができるものもいた。それが状況証拠とされた。


驚いたことに「有能」と褒め、大小さまざまなお願いをしてきた帝の近臣が手のひらを返し、帝を弑した大悪人として玉藻を責めたのだ。

玉藻が行った施策の甘い果実を受け取っておきながら


玉藻は当然ならが帝や我が子に呪いをかけていない。

する必要が無い。夫である帝は玉藻を愛していたし、自ら生んだ子を呪う理由がない。


帝が玉藻を愛したのは精神攻撃(テンプテーション)のせいではない。

玉藻の素の姿が、行動が帝にとって好ましかった。それだけだったのに……


愛する夫を失い。

愛する子を失い。

周囲が全て敵となった。


最初から反発していたものだけではない

玉藻の力で収益を増やした、利益を得たものも手のひらを返し敵となった。


更にはこれを好機と玉藻に良い感情をもっていない陰陽師が「帝を弑した魔王を討伐する」と勇者気取りで玉藻を捕えようとした。


魔王討伐の実績は陰陽師として比類が無いものになる。さらには玉藻は美人だ。その美人を公に捕らえることができ、捕らえた後、罪人として好きに出来るのだ。


これを見て玉藻は…………

嗤った。狂ったように。


「それほど私に魔王になって欲しいか!」

取り囲んだ陰陽師の軍勢の前に玉藻はそう叫び―


その時


玉藻の


魔力が


反転した。


玉藻からあふれる魔力の奔流。

それは悲しい叫びとともに荒れ狂い周囲を蹂躙した。


その奔流が収まると同時に、陰陽師の軍勢は一人残らず倒れた。

そしてその中心には、暴走した魔力をまとった強大な魔がいた。


傾国の魔王 玉藻御前 


彼女が誕生した。


玉藻御前は魔法の天才だ。

そして魔王と堕ちた今、魔力の残滓を辿るのは容易い作業だ。

その能力で愛する夫と子を呪い殺した相手が誰かを知った。


怨念の魔王 崇徳天だ。

崇徳天はもともと帝だった。

しかし玉藻御前の夫によって帝位を追われた。


補足するならば、少し前に玉藻の夫である帝は崇徳天に帝の位を譲り、上皇となった。

しかし、上皇は玉藻を愛するが故、崇徳天を帝位から追い、玉藻の子を新たな帝にしようと画策した。


そのことを恨み、崇徳天は帝と玉藻御前の子を呪った。


そして―


玉藻御前の精神魔法(テンプテーション)に魂を喰われ崩御したと事実を歪曲し、全ての罪を玉藻にかぶせた。




玉藻御前は陰陽師の軍勢を退けた後、負の感情の赴くまま崇徳天に挑む……ことはしなかった。

彼女は魔王に堕ちたが、どこまでも合理的だった。


彼女にはまだ、家族が残されていた。

養子が一人。


このままではその養子の子も崇徳天に呪い殺されるかもしれなかった。

彼女は崇徳天への恨みを晴らすよりも、最後の我が子を生かすことを選んだ。


となると都に居続けることは出来ない。

そこで玉藻は資さんを思い出す。


かつて思い、想った相手のことを。


玉藻御前は残った我が子を伴い、資さんのいる坂東へ向かった。


(……馬鹿な。権力者に使われるだけ使われて、反感を一身に受け、用済みとなれば消耗品のように捨てられたか。別な生き方もあったろうに)


ここまでの情報を集めた資さんはただ、ただ涙した。

三浦、上総、千葉も資さんの心情を察し、その分、都を そして朝廷に怒りを示した。


資さんは玉藻に会うことにした。

三浦達も心配し、ついていくことにした。


玉藻はすでに魔王に堕ちた。どのようになるかわからない。


玉藻御前の居場所はすぐにわかった。

玉藻御前を退治しようと都から陰陽師の一派が軍勢を率い、玉藻御前と戦ったからだ。


資さん達は玉藻の身を案じ急行しようとしたが、その心配は杞憂に終わった。


玉藻はもともと、天候を操るほど高い能力をもつ魔法使いだ。

その高い能力をもった人物が魔王に堕ちたらどうなるか?

それを知らしめるような戦いになった。


つまり魔王 玉藻御前は一人で陰陽師率いる軍勢を壊滅させた。


資さん達が玉藻御前の元にたどり着いたのは、その戦いのあとだ。


「玉藻……」

資さんが再開した魔王と化したかつての友人は……変わっていなかった。

違いは一つ。懐に子を抱いていた。


「資さん……」

玉藻は資さんに抱き着いた。

「どうしよう。やらかしちゃったよ」

「馬鹿。やらかしすぎだ」

最早、テヘペロで済むような事件ではない。


「私はいいの。だけど、だけど、このままでは、この子が危ないんだよねー。今のままじゃ私、死ぬに死ねない」

そこには才女も魔王もなく、ただ、ただ、子を思う母親がいた。


「事情は聞いた。彼らに調べてもらった」

そう言って資さんは玉藻に三浦達を紹介した。

その後、玉藻を見て

「俺の子として育てよう」

と言った。

それは三浦達から情報を得てからずっと考えていたことだった。

玉藻の子でなければ狙われることはない。


「あら、じゃあ、この子の父親は資さんになるの? あら、もしかしてそれは間接的に私にあなたの妻になれってことかしら?」

久しぶりに会った玉藻。

軽口をたたく玉藻の頬に緊張から解放された安堵の涙が伝った。


それから玉藻、資さん、三浦、上総、千葉の5人で作戦を考えた。

玉藻の子を資さんの子として育てるのは良い。

問題はその後だ。


今回、玉藻御前は都の追っ手を蹴散らした。

しかし、それで諦めるとは思えない。


都。そして朝廷は幾度となく追手の軍勢を差し向けるだろう。

それは面子というよりも恐怖からだ。軍勢を容易に蹴散らす存在が敵対勢力として存在するのは恐怖以外の何物でもない。その恐怖を取り除くために戦を仕掛けてくるのだ。


魔王の力をもってすれば蹴散らすのは容易だが際限なく軍勢を送られるのは困る。

「面倒だね、倒されたことにするかねぇ」

玉藻はそう言った。

彼女はもともと、頭は良い。それは魔王になっても変わらない。


都は恐怖に駆られて玉藻の存在を消そうとしている。

今のままでは魔王 玉藻御前が生き残るか? 朝廷が生き残るか? のどちらかになる。

かといって彼女は夫が愛した都を火の海にする気は無かった。


であれば玉藻が消えるしかない。


「資さん。私を封印しておくれよ」

「馬鹿言っちゃいけない。俺に魔王を封印するなんてできるわけないだろう」

「封印される側が協力すればいいじゃないか」

玉藻のあっけらかんとした言い方に資さんは眉をハの字にした。


「資さん、何も本当に封印する必要はないんだ。封印したように見えたらいいわけだよね」

ここで三浦が助け船を出す。

「要は演出。茶番。見せかけの封印」

千葉もフォローを入れる。

「戦うフリも必要か」

上総が剣を構える。


玉藻御前はニカリと笑った。

「資さん、いい仲間がいるじゃないか。それでいこう」


こうして魔王と勇者パーティの茶番の戦いが演出された。


再度、都から派遣された陰陽師率いる軍勢が魔王 玉藻御前を襲った。

結果は前回と変わらない。

軍勢は簡単に倒された。


その直後、三浦、上総、千葉……そして資さんが飛び出した。

三浦達は玉藻御前と戦い、弱った(ようにみえた)ところで資さんが封印の魔法っぽいものを唱えた。


玉藻御前は悲鳴と共に石に変化した。


生き残った軍勢の兵士達は三浦達が玉藻御前を倒し、石に封印したところを見た。

ここで世間的には魔王 玉藻御前は封印された。

【モデル紹介】

■安倍泰親

本作の陰陽師のモデル。

安倍晴明の子孫。彼の予言は的中率80%と高く「指神子」という異名をもつ

以仁王の敗死を予言した。


【お知らせ】

こちらも連載中です。よろしければ見ていただけると嬉しいです

■機動小隊レンジャーワン https://ncode.syosetu.com/n8156lf/


【あとがき】

「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ