第三話 選択イベント:暴走をとめろ その3
その後、クロウ達は逃げた護法童子を追った。
護法童子は神だ。
人とは違う倫理・価値観を持つ
そしてその権能は只人ではどうしようもないほど強大だ。
放置は危険だ。
クロウ達にとって幸か不幸か。
護法童子は奇妙な形跡を残して移動していた。
この時の都は荒れていた。
大きな戦が2回立て続けにあったのだ。
その結果の一つがクロウが見たスラムだ。
もう一つが浪人だ。
戦闘能力で身を立てたい浮浪の徒が都に集まっていた。
その浪人を護法童子は手当たり次第、倒して移動しているようだった。
そして奇妙なことに武器を奪っていった。
クロウ達が追う先々に倒された浪人がいた。
皆、声をそろえて「僧衣の巨人に倒された」といっているから、クロウが呼び出した護法童子に倒されたということでまず間違いないだろう。
「ひょー。こら、すげーな」
陵介は軽口をたたく。
倒された浪人達はみな屈強の戦士だった。
それが簡単に倒されていた。
時間を考慮すると、ほぼ一瞬で勝負がついたとしか考えられなかった。
屈強の戦士を苦もなく倒す神。
軽口でも叩いていないと恐怖が沸き起こってくるのだ。
「確かにすごい。手合わせしたいですね」
とは皆鶴姫だ。
黒髪の姫武者の戦闘意欲に火が付いたらしい。
脳筋思考を隠そうともしていない。
護法童子に追いついたのは夜の帳が落ちた後だ。
男の悲鳴が聞こえたほうに向かうと橋の上に僧衣の護法童子がいた。
護法童子の目の前には戦士が倒れていた。
状況からこの戦士は護法童子に倒されたのであろうと見て取れた。
護法童子は戦士から武具を奪い放り投げる。
そこに一人の男の子が駆け寄った。
「お父ちゃん」と叫んでいるところを見るに護法童子に敗れた戦士は、この男の子の父親らしい。
「大丈夫?」
静が子供達の前にかがみ尋ねた。
「お父ちゃんが……お父ちゃんが……」
静は泣いている子供をあやしながら、辛抱強く話を聞いた。
子どもの要領を得ない話を辛抱強く聞き続けるうちに、状況が少しずつ明らかになった。
妹が急病となり、父親と共に薬を受け取りに行った帰り道、橋で護法童子に行く手を阻まれたという。
「通りたければ倒せ」と挑発され、腕に覚えのある父親が応戦したが、結果は敗北だった。
これを聞いたクロウの表情が消える。
「おい」
クロウは護法童子に向き合う。
「お前は何してるんだ」
「ん? 何だ。我を呼び出した小僧か? 今、我は忙しい失せろ」
「何してるのかって聞いてるんだ」
「ふん。我はお主の様な貧弱な奴など相手にしない。弱いものいじめになってしまうからな。だが、我を呼び出した恩義もある。煩わしいが答えよう。願掛けよ
「願掛けぇ?」
陵介が素っ頓狂な声をあげる。
「うむ。我は神に堕ちたが元は人であった。人に成るため武器を1000本集めたら人に成るという願掛けを行っておる」
「で?」
クロウが冷めた声で尋ねる。
「神に堕ちた我がその願掛けを達成させるには一つ問題があった。人の世に呼び出されたときにしか好機がないということだ。そのため人の世に呼び出される都度、我は武器を狩った。時には武器を狩るため我を召喚した者も倒した」
「狂ってやがる」
陵介はひるんだ。
「さあ、問いには答えたぞ。我は本願成就のため武器を狩るが、あくまでもそれは強者からのみ。お主の様な虚弱な小僧の武器を狩っても我が願掛けに無意味。疾く去れ」
「そんなことを聞いているんじゃねぇ」
クロウが前に出る。
「子供を泣かせるようなことをして、何してるんだと聞いてるんだ」
クロウはそういうと魔法剣「薄緑」を発動し、横薙ぎ一閃。
周囲に切り裂き音が笛のように甲高く鳴る。
護法童子は慌てて薙刀で防ぐが、反応が遅れた代償は大きかった。
横腹にダメージを受けた。
「おおおおおおっ!」
クロウはそのまま護法童子を押す。
気迫が勝ったか護法童子の巨体が橋の欄干まで追い込まれる。
「陵介! お前は子供と薬をもって、その子の家にいけ。薬を届けろ」
クロウは陵介に指示を出す。
「え、あ。おう!」
陵介は戸惑いつつも状況を飲み込み魔法を唱える。
彼の新しく得た魔法は火魔法だが、それだけではない。体に纏うことで身体能力・特に脚力をあげる。
「ほら、薬を届けるぞ」
陵介が男の子に声をかける。
「でも、父ちゃんが」
「大丈夫だって。クロウに任せておけばな」
陵介はそういうと男の子を背負って駆けた。
先ほどまで護法童子が通せんぼしていた橋の上はクロウが制圧していた。
そのため問題なく通過できた。
「静。その子の父親の治療だ」
クロウは静に指示を出す。
「治療魔法は得意じゃないんだけどね」
そういいつつも静は降神魔法を発動させる。
今回、降臨していただいた神名は……
天神様。
静の切り札だ。
さっそく静は天神様にお願いした。
『治療魔法は得意ではないのですがね』
天神様は苦言を呈する。
「そこを何とか。私の降ろせる神々は雷神系で攻撃は得意だけどこういうのは出来ないの。唯一可能性があるのが古今東西の知識をもつあなたしかいないのよ」
『……まあ、いいでしょう。目の前の方に斃れられるのも目覚めが悪いですしね。その代わり補習ですよ』
「あい」
静はこの一連の騒動の後に発生する天神様による勉強大会のことを想像し遠い目をした。
「皆鶴姫! 治療中の静の護衛を頼む」
「承知した。その護法童子がこちらにきたら……斬る」
そういうと皆鶴姫はスラリと剣を抜いた。
一通りパーティに指示を終えたクロウは護法童子を睨みつけると。
「さあ、躾の時間だ」
と言い放った。
「ぬう。その貧弱な体で、我を抑え込むとは。だが、我の力。この程度と思うな小僧!」
護法童子は力でクロウを押し飛ばす。
クロウは逆にその力を利用しふわりと宙に舞った。
その間に抜け目なく剣を振るうのは忘れない。
クロウは護法童子の右手を切りつけた。
本当は指を狙ったが、護法童子もそれを許すほど甘くはない。
しかしながら右手を切りつけられた護法童子は明らかに武器を両手で握れなくなった。
「ぬう。小癪な。ならばこれはどうだ!」
護法童子は左手で武器を投擲した。
不穏な風切り音が飛ぶ。
クロウはこれも難なく躱し護法童子に肉薄。
護法童子が蹴り上げようとすると、その蹴り上げた足に一撃を与え離脱した。
遠くで護法童子が投げた武器が川に衝撃を与え爆音とともに水柱が発生した。
「当たらんよ。その程度では」
クロウはそう言い放つとヒット&ウェイを繰り返す。
まるで橋の上を舞台として舞う演者のように
その都度、護法童子に刀傷が増えていった。
なます切り状態だ。
「ぬおおおおっ」
血だるまの護法童子が気合を入れる。
「我が目が節穴であったか。まさか我を呼び出したものがこれほどであったとは」
「ど阿呆。今気づいたか」
クロウは冷めた目で応じる。
「一つ問う」
「なんだ」
「何度か我の体を両断する機会はあった。なぜ手加減する?」
「決まってんだろ。今は躾の時間だ。倒しちまったら躾にならんだろ?」
「我を嬲るか」
「躾だよ。それに俺のケジメでもある」
「ケジメとな?」
「神を試みにに呼ぶ。これに何らかの危険が伴うことは承知していたが、まさか俺自身にではなく、無関係な子供を泣かせることになるとまでは考えが及ばなかった」
そう言ってクロウは治療中の戦士を見た。
「我のせいであの戦士の子を泣かせたことを言っているのか」
「ああ、俺は今、めちゃくちゃ後悔している。お前を呼び出したことをな」
「…………」
「だから、これはお前に対する躾と同時に、お前を呼び出した俺自身のケジメだ」
クロウは魔法剣「薄緑」の切っ先を護法童子に向けた。
「…………小僧。我はお主を見誤っていたか。ただの貧弱小僧だと思っていたが違うようだ」
「ど阿呆。今、気づいても遅い」
「・・・小僧、我が名を問うたな?」
「あ? 呼び出したときのことか? 確かに聞いた」
「我が名は武蔵坊弁慶。 神に堕ちる前、比叡山の悪僧をしていたもの也」
「俺はクロウ。源氏の棟梁の子よ」
「うむ。クロウよ。これから我が技の中で最高の攻撃を放つ。防げるか?」
「ふん。やってみろ。俺の呼び出した護法童子だ。つまらぬ攻撃をしたら許さぬぞ」
「ふん。つまらぬ攻撃かどうかは、その身をもって確かめよ」
そう言うと護法童子―弁慶-は背中に背負っていた葛籠を肩に乗せ葛籠の口をクロウに向けた。
「食らえ! 千本太刀!」
弁慶の合図とともに無数の太刀が葛籠から射出されクロウを襲う。
「クロウ!」
叫び、駆けつけようとする皆鶴姫。
クロウは動じず魔法を唱える。
「南無八幡大菩薩 ―霧-」
クロウの手から緑に光る短いレーザーが無数に発射された。
シャワーのようなレーザーが弁慶の放った無数の太刀を粉砕する。
そして弁慶さえも貫通した。
「ぐああああっ
遂に倒れる弁慶。
「み……見事なり。我が最高の技を正面から破るとは。人の身で神である護法童子を破るとは。」
「あ? この程度で驚いていては俺の護法童子は務まらぬぞ。護法童子を破るのはこれで2度目だ」
「何?」
目を剥く弁慶
「嘘ではない。我が養父 鬼一方眼もクロウ殿は倒している
皆鶴姫がクロウの言葉を補足する。
「なっ……」
弁慶はしばらくフリーズした後、自嘲気味に笑った。
「ふむ。今回の召喚者は我が想像を超える主であったか。我が不明を恥じるばかりだ。クロウ殿。我を破った者よ。あらためて護法童子として仕えよう」
「ふん。初めから素直にそうしろ。不要な手間をかけるな。それよりも弁慶。俺の護法童子になったのは幸運だったな。お前の願掛けは叶うぞ」
「何?」
「俺はこの国の覇王になる。合戦もあるだろう。武器なんざ1000本どころか2000本でも3000本でも集まる」
「それはありがたし。神に堕ちて幾星霜。ようやく我に運は向いてきたか」
「その前にだ。お前にはケジメをつけてもらう」
「ぬ?」
その後、クロウの命を受け弁慶は静の治療を受け一命をとりとめた戦士に謝罪し、その後、その戦士の息子に謝罪した。
戦士の息子は弁慶の姿を見ると怖気づいてしまってい、謝罪にいったのか、恐喝しにいったのか傍から見るとわからない状態ではあったが。
弁慶のケジメはこれで終わらない。
戦士の治療のため天神様に降臨していただいたが、その代償として、「天神様の授業を聞く」という条件がある。
この授業にクロウの身代わりとして強制参加させられた。
「なんと、世の中にこれほどの苦行があるとは!」
弁慶は二度とクロウに逆らわぬと誓った。
ちなみに「天神様の授業」を弁慶に押し付けてボイコットしたクロウに静は怒り爆発。
なぜなら静は降神魔法を直接使ったので「天神様の授業」をクロウのようにボイコットできないのだ。
弁慶と一緒に勉強することになった。
「あいつ逃げやがって」
怒る静と宥める弁慶の間に奇妙な仲間意識が生まれた。
【モデル紹介】
■武蔵坊弁慶
源義経の忠臣と言えばこの人ではないでしょうか
五条大橋での源義経との一騎打ち(実際の場所は違うらしいけど)
安宅の関を通るためわざと源義経を打ちすえる話が有名
衣川で主君 義経とともに戦い弁慶の立ち往生という有名な言葉を遺した。
他に有名な言葉と言えば・・・弁慶の泣き所?
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