第三話 選択イベント:暴走をとめろ その2
「これが都か」
クロウは無表情でつぶやいた。
静はクロウがこの表情をしている意味を知っている。
(怒っている)
そう、怒っているときの表情だ。
だが、静でもクロウが何で怒っているかがわからない。
ちょっと前までは陵介と悪ふざけしながらはしゃいでいた。
皆鶴姫をクロウのパーティに加入させる条件として皆鶴姫の都の屋敷を自由につかってよいと言われた。
クロウ一行は皆鶴姫の住まう場所を確認しに行くと称して都見物に向かった。
花の都見学だ。
気分は遠足・修学旅行だ。
クロウも陵介もはしゃぐのは無理もない。
静も平静を装いつつ内心ははしゃいでいた。
何せ、彼ら彼女らの生活圏が魔境であった。
森とモンスターしかいない。ご近所さんは魔王城だ。
人が集まる場所に対するあこがれは人一倍強い。
楽しみにしていた。
期待していた。
ところがだクロウの機嫌が都に入ってしばらく経った後、変わった。
不機嫌を通り越して憤怒につつまれていた。
永年の腐れ縁の静や幼馴染の陵介にはそれがわかった。
皆鶴姫はクロウとの付き合いが短い。
クロウが怒っているとまではわからない。
傍目には無表情になっているだけだからだ。
しかし、何か感情の変化があったことは察せられた。
「何があったのでしょう?」
皆鶴姫はそっと静に尋ねた。
(知るわけないじゃん)
という本音はいわない。言っても仕方ない。
その代わりにクロウの横に立った。
彼の不機嫌の理由を聞きださなければならない。陵介は怯んでる。皆鶴姫は異変を感じている。あまり良い状態ではない。
「どした?」
静は端的にクロウに尋ねた。
多くは言わない。
腐れ縁のクロウはこれだけで静が聞きたいことを察するだろうという信頼はある。
「覇王は何をやってるんだ」
クロウは胸の内を吐き出した。
(何でここで覇王の名前が出てくる?)
これだけでは何を怒っているかわからない。
静は辛抱強く次のクロウの言葉を待った。
「餓鬼どもが目に入らんのか」
(ああ)
静はこれでクロウが何で怒っているかを察した。
この都。
首都なだけあって何度も騒乱の舞台となった。
あの魔王、崇徳天も人であった頃は都で争った。
花の都は血の都でもあった。
都市に騒乱が続けばどうなるか?
家や家族を失う人が増えるのだ。
そして、スラムを形成する。
その点在するスラムを都巡りの中でいつくか目撃した。
その中で栄養失調なのか腹がぼんと出た子供たちが物乞いをしているシーンに何度か遭遇した。
クロウはぶっきらぼうに、その子供たちに手持ちの食料を与えた。
静はそのシーンとクロウの言動を繋ぎあわせた。
クロウの生い立ちもあわせた。
そうすることでクロウの心情が静には理解できた。
クロウはまともに両親の愛情を受けて育っていない。
父は死んでいる。母はクロウを父の仇を討つための道具としか考えていない。
そのためクロウは愛情に飢えていた。
その自分と両親を失い物乞いをしている栄養失調の子供達を重ね合わせてみた。
可哀そうを通り越し、怒りの感情となった。
そして、その怒りの矛先が現在、実質的に都を支配している覇王 平清盛にむかったのだ。
覇王となったのに何をしているのか?
こんな家も親も食べ物もない子供達がいるのに放置しているのかと。
「なんのための覇王だ」
クロウは言い捨てた。
クロウの目標は覇王だ。
覇王に対する憧憬は強い。
強いだけに何もしない現覇王に怒りを覚えた。
静はそう察した。
「あんたが覇王になったらいい。こんな子達を生み出さないように。あんたならこんな子をつくらないだろう?」
静は言葉を選び、クロウの怒りを鎮めるための言葉を紡いだ。内容は適当だ。
「当然だ」
クロウは頷いた。
無表情は消えていた。
怒りが収まってきたらしい。
「そろそろ俺が得た力を試したいと思う」
クロウは皆鶴姫の屋敷に到着後、静、陵介、皆鶴姫の前で言った。
「おお!いいじゃねぇか。やろうぜ」
と賛成したのは陵介だ。
陵介は火魔法を得てから、ガンガン使用し研鑽している。
新たなおもちゃを得た子供のように。
むしろ、今まで新たな力を使用しないクロウや静を不思議に思っていた。
「おお。我が養父のような護法童子を呼び出すのだな。クロウ殿であれば強力な護法童子が現れるだろう。楽しみだ」
とは皆鶴姫の言葉だ。
この姫武者はニコニコ笑いながら賛同した。
多少、脳筋気味のこの姫武者はクロウの呼び出す護法童子とバトルしたいと考えていた。
クロウとの模擬戦は面白いが、それでも常に同じ相手だと飽きるからだ。
鍛錬にも新鮮味が欲しいと考えていた。
「試してみるのは必要ね」
静も賛成した。
クロウが授かった力だ。使うも使わないも本人が好きにしたらいいと考えている。
「お前は試してみないのか?」
クロウは静に質問した。
陵介はガンガン新たな力を試しているが、静が試したところをクロウは見たことがない。
「神を試しで現世に降ろすことなんて危ないことはできないかな。クロウも知ってるでしょ? 神を降ろすという御業は良いことだけじゃないってことは」
「ああ」
クロウは遠い目をした。
静の切り札。天神様を降ろした後、必ずスパルタ学習教室が始まるのだ。
なにしろ天神様は勉学が趣味だ。クロウと静はそれに付き合わされるのだ。
あとあと頭痛に悩まされるレベルでだ。
クロウと静は神を降ろす魔法がメリットだけではないと実体験から理解していた。
「ちょっと待てよ。確か護法童子も神様だよな。じゃあ護法童子を呼び出すのも危険じゃないのか?」
陵介が慌てた。
クロウが死んだ魚の目をしていたからだ。
不遜を絵にかいたようなクロウがそんな目をするというのはよほどのことだと察したのだ。
「その時はその時だな」
クロウは複雑な顔をした。
デメリットはあるだろうが、それを気にしていたらせっかく手に入れた力も宝の持ち腐れだ。
ということは理性ではわかってはいるが、なにせ、勉強教育魔の天神様の学習教育というデメリットを受けた身だ。避けたいと本能が訴えていた。
クロウの中で理性と本能が争い、それが複雑な表情となっていた。
クロウは自分の中の葛藤を鎮めるため目を瞑る。
自分が何を為したいのかを思考の中心に据える。
クロウは野心家だ。覇王が目標だ。
目標が目標なだけにリスクがあるからやらないという考え方はない。
目標のためにある程度のリスクはやむを得ない。
「よしやる。みんなフォローを頼む」
クロウは静、陵介、皆鶴姫に頭を頭を下げる。
「任せな。もし呼び出した護法童子に何かあっても俺の火魔法をくれてやるよ」
「剣のいい練習相手になりそうです」
陵介、皆鶴姫の言葉はうれしい反面、呆れに似た感情が湧いた。
「おい、俺が護法童子の制御に失敗する前提で話しているだろう」
クロウはぽかりと陵介を叩いた。
「お前が心配そうにしてるから不安を取り除いてやってるんだぜ。感謝しろよ」
「余計に不安だ。陵介に護法童子がどうにかできるわけないだろ」
「あ゙? 喧嘩売ってんのか?」
「事実を言ったまでだが?」
クロウと陵介が喧嘩モードに入る。
そこに電撃が落ちた。
「安心してね。護法童子の呼び出しに失敗して何かあっても、まとめて雷落とすから」
静はそう言って澄ました。
「「お前が一番安心できねぇよ」」
クロウと陵介は同時に抗議した。
さて、仕切り直しだ。
クロウはクマラからもらった虎の巻に書いていた護法招請の魔法を唱える。
同時に魔法陣が展開される
地面だけでなく空間にも
三次元に展開される魔法陣は少し幻想的だ。
魔法陣の中から一人の巨漢が現れる。
その巨漢は僧衣をまとっていた。が、修行僧というよりは鬼神に近い。
肩幅広く、腕は丸太のよう。
法衣の下からでもわかるほどの筋骨隆々。
一歩踏み出すたび、大地が軋むかと思わせる風貌であった
特徴的なのはそれだけではない。
背負っている武具が七つあった。
薙刀・大太刀・金棒・熊手・刺股・鉞・大楯
見た目、武具からも戦闘特化の護法童子であることは間違いない。
「おおーすげー」
陵介は驚きながらも臆してクロウの陰に隠れた。
「おい」
クロウは陵介に呆れた。
さっき「任せな。もし呼び出した護法童子が暴れても俺の火魔法をくれてやるよ」と啖呵をきったばかりだ。
クロウは自らが呼び出した護法童子を改めてみる。
護法童子というよりは鬼神だ。
陵介が怯むのも無理はないとクロウは思った。
この鬼神を制御しなければならない。
クロウは一歩前に出る。
「おい。名前はなんという?」
クロウは自らが呼び出した護法童子に問いかけた。
「・・・華奢だな。我を呼び出した者がこれほど貧弱とは……」
僧衣の鬼神はクロウを一瞥し明白に落胆した。
「あ?」
「弱き者に名乗る名はない」
そう言って、僧衣の鬼神は家を飛び出した。
「え?」
「あっ」
「おっ?」
一同は呆気にとられた。
護法童子の召喚に成功したと思ったとたんに、その護法童子に逃げられた。
貧弱という理由で。
「フラれた?」
静がボソッと呟く。
そのセリフに陵介が噴き出す。
「マジか。呼び出した護法童子にフラれるとかあるのか!」
ゲラゲラ笑う陵介にクロウのゲンコツが落ちた。
「俺を貧弱だと、許さん」
クロウの負けん気に火が付いた。
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